嫌いな理由

○学校(昼)
   女二人が学食で昼ごはんを食べている。
   ミチは意気揚々と話し、サエはうんざりした顔で話を聞いている。
ミチ「それでねそれでね!その男が私に、めっちゃオシャレじゃんっていうんだよね、その日何となく着て行った服なのに、まじありえなくない?」
サエ「うん、そうだねー」
ミチ「なんか話聞いたら、そいつ読モやってるとか言っててー、まじありえないわー。そいつがウチのことオシャレとか言うー?」
   サエ、ミチの貧乏ゆすりをする足を見る。
サエ「うん、じゃあ私授業だから、行くね」
ミチ「あ、途中まで一緒にいこうー」
サエ「う、うん」
   サエ、下を向き、うんざりした顔。

○教室(昼)
   ノートを取るサエ。シャーペンで机を無駄にトントンと叩く。
Mサエ「私は、人を嫌いになったことがない。人から嫌われるような人でも、何故嫌われているのかがなんとなく解るから、そこまで腹が立たない、でも」
   シャーペンの芯、折れる。
Mサエ「さっきのミチは別」
   シャーペンをカチカチと連打する。
Mサエ「一見すれば、明るくていい子、嫌う要素なんてどこにもない。でも、どうしても、好きになれない。貧乏ゆすりも、ご飯の食べ方も、言動一個一個が、どうしても」
   溜息をつくサエ。
Mサエ「私はそんな自分に嫌気がさしている。どうしたら彼女の事、好きになれるだろうか」
教師「人には表の部分と裏の部分があります。表の部分はあなたの人格と言えるでしょう、そして、裏の部分は、シャドウと呼ばれ、貴方に抑圧された欲望なのです」
   サエ、教師のほうを見る。
教師「そして、その抑圧された欲望が顔を出すのは、他人が、あなたが抑圧した行動をしている時です、あなたは、あなたが抑圧した行動を他人がすると、不快感を覚えます。つまり、他人を嫌いになるのは一種の嫉妬からだと言えるでしょうね」
   サエ、ペンを止め、メモしたノートを見る。
サエ「(独り言)嫉妬…」
Mサエ「嫉妬なのか?わたしがミチを嫌いなのは、嫉妬?ミチは私のシャドウってこと?」
教師「もし、自分が嫌いだと思ってる人がいたら、もしかしてそれは、理想の自分なのかもしれませんよ、では次のページ」
Mサエ「理想の自分…?」

○学校(朝)
   隠れてミチを見張るサエ、メモ帳片手。
   ミチ、友達と笑いあっている。
Mサエ「私はさっそく行動に移すことにした。彼女が嫌いな理由は、私の理想だから。だとすれば、彼女を真似すれば、私は理想の自分になれるのよね。それにしても…」
   ミチ、大声で笑う。
Mサエ「あの笑い声、嫌いだ…うるさくて品性のかけらもない。本当に私、あんな風になりたいわけ?」
ミチ「そうそうそう、それでさ、実際勉強したら、結局5時間も勉強しちゃって、ウチきもい!みたいなさ、2時間しか寝てないし、ぎゃははは」
Mサエ「でた、自慢。あの、ビミョーな自慢、大っきらい。するならする、しないならしない、はっきりしてほしい」
   メモをとるサチ。

○学食(夕)
   スパゲティを食べるミチ。それを遠くでみるサエ。スパゲティをズルズルと音を立てて豪快に食べるミチ。
Mサエ「なにあの汚い食べ方…私は小さい時に矯正されたっていうのに…なんで誰も気にならないのかな…腹立つ」

○学食・レジ(夕)
   サングラスをかけてミチの近くでお金を払うのをみるサエ。ミチ、501円の会計に1000円札をボンとだす。
Mサエ「ちょっと待って、1円くらい持ってるでしょ。何で出さないの?499円と500円じゃ、小銭の枚数が…」
   指折り数えるサエ。
Mサエ「13枚も違うじゃない!考えられない…人格破綻者!」
   メモを取るサエ。

○帰り道(夕)
   公園でブランコに乗って靴飛ばしをするミチ。茂みに隠れているサエ。
Mサエ「く、靴飛ばし?ガキじゃないの?女子大生にもなって何やってるわけ?ちょっと茶目っけ出して不思議ちゃん気どり?嫌だわー、嫌だわー!」
   靴がサエの頭に当たる。
Mサエ「あのやろー…」

○サエの家・サエの部屋(夜)
   ベッドの中でペラペラとノートをめくるサエ。溜息をつく。
Mサエ「こんなに私が憧れてる部分がミチわけ?信じたくないなぁ…。自分が抑圧してきた欲望、シャドウ…ホントにそんなのあるのかな?」
   ノートをめくる。
Mサエ「彼女は確かに私に無い部分を沢山持ってる…でも、あの子が近くにいるってだけで、嫌な気分になる…。そんな人が自分の理想の人間な訳ない…」
   ノートをパタンと閉じる。
Mサエ「これが、生理的に受け付けないってやつか…。心じゃなくて、身体が受け付けないのね、きっと。そうよ、きっとそう」
   大きなため息をついて電気を消すサエ。

○学食(昼)
   ミチ、サエ、二人で話している。サエ、うんざりした顔。
ミチ「それでさ、それでさ!めっちゃチャラい背の高い男がさ、ヘイ彼女って言って私に話掛けてきたわけ。ヘイ彼女だよ?ありえる?ありえねーよなぁ!」
Mサエ「生理的に受け付けない、って決めてから、ミチといるのが少し楽になった。だってミチが嫌いなのは私じゃなくて、私の体なんだって思うようにしたから」
ミチ「聞いてる?聞いてる?」
サエ「う、うん。ヘイ彼女はなぁー」
ミチ「だよな!だよなぁ!」
   ミチ、スパゲティをずるずる食べる。
   サエ、ミチの足を見ると貧乏ゆすりをしている。
Mサエ「そう、生理的に受け付けない。こんな下品で、貧乏ゆすりをする女が、私の理想な訳ないし」
   一人の男、二人の元へやって来る。
   サエ、男を見て少し見惚れ、目が合って恥ずかしそうに俯く。
男「おう、サエちゃん、元気?ミチ、行こうぜ、映画始まるからさ」
ミチ「おー、ダーリンじゃん。もうそんな時間?行こう行こう!サエちゃん、それじゃあね!」
   男とミチ、イチャイチャしながら離れていく。
   一人席に取り残されるサエ。うんざりした顔と、溜息。
サエ「憧れてるもんか、生理的に嫌いよ」
                おわり

嫌いな理由

嫌いな理由

どうしても好きになれない人っていますよね。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-25

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