ハートビート

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ピッ、ピッ、ピッ、監視モニターの音に混じって看護師さんの声が聞こえる。

「内田さん検温の時間ですよ。お熱測りますね」
看護師さんは手慣れた動作で私の体温を測る。
今日の担当看護師さんはまだ若い。だからこうやって優しく声を掛けてくれるが、オバサンの看護師さんはただ黙って私の体温を測る。それが当たり前なのかもしれない。
私は植物状態で意識が無いからだ。

三ヶ月程前に交通事故に遭った私は、それから植物状態に陥った。自分では何も出来ない。ただ眠っているだけだ。でも感じる事は出来る。

お昼近くになると毎日と言っていい位に、母がやって来る。
亜美、今日は良い天気よ、とかお父さんがまた昨日酔って帰って来た、とか隣りの山中さん家の犬がうるさい、とかどうでも良い様な話を飽きずに毎日一人で喋っている。

思えば事故に遭う前は、母とこんなに話をしていただろうか?
25歳の私は仕事に忙しく、恋も…は、忙しくなかったけれど、母の話に耳を傾ける暇など無かった。と言うよりは、聞くつもりも無かったのだけれど…

なんだ、私親孝行してるんだ、なんてそんな訳は無い。
植物状態の娘が親孝行してるだなんて笑っちゃう。迷惑ばかりかけているのに。


母は時々私の身体を蒸しタオルで優しく拭いてくれる。最初は恥ずかしくて止めてよって思ったけれど、赤ちゃんを触るように優しく触ってくれる母の手になんだか最近は涙が出そう。母がおばあちゃんになった時に私は優しく身体を拭いてあげる事が出来るかな?

今日はお兄ちゃんのお嫁さんの美咲さんも来てくれた。
「亜美ちゃん今日は顔色がすごく良いですね」
「本当。今日は気分が良さそうね。美咲さん体調は大丈夫?」
母とあまり仲が良くなかった美咲さんも、こうやって私には会いに来てくれる。なんだかんだで母も楽しそう。あれ?私のお陰なんじゃないの?なんて…

美咲さんは今妊娠中だ。もうすぐ赤ちゃんが産まれる。男の子が女の子かは産まれるまでのお楽しみ。本当に楽しみだ。私も叔母さんになるんだな…嫌だけどかなり嬉しい。


母と美咲さんが帰って夕方の検温に来た若い看護師さんが私に話し掛ける。
「内田さん今日は何だが嬉しそうですね」

自分では何も出来ないただ眠っているだけの私。
でも心臓は鼓動を刻んでいる。私はまだ、生きています。

ハートビート

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-24

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