虚無



不安で心が砕けてしまいそうだ。
自分のことで頭がいっぱいなのに他人の心配なんか出来る訳が無い。
一人、ベッドの上で天井を眺めながら単調に響く秒針が煩い。
何処かで誰かも同じ悩みに打ちひしがれているのだろうか。
視界が濁って自分が泣いていることに初めて気付いたけど、もう、どうすることも出来なかった。


「将来の夢は何ですか?」

小学生の頃、大好きだった女の担任は卒業前に結婚して辞めた。
そんな俺の人生への問いを一方的にぶつけたまま。
あれは低学年のときに出された国語の作文テーマだったかな。
酷くその辺の記憶は曖昧なのに白紙で出したことだけは、はっきり覚えている。
今までその問いに答えられたことは、一度も無い。
自分の身の振り方くらい幼い人間にも決める権利はあったのだろうが壮大なテーマだったなと他人事のように思う。
事実、現在も他人事のようにしか感じていない。

何も無い。ずっと。

足並みを揃えて此処まで来た。
高校を出て、フリーターになって友人に誘われた劇団に入団して、演劇の世界に足を踏み入れた。
舞台は楽しい。
自分でない誰かを演じて、話も作って、自由を体現するのはこういう事なのかと自分なりに答えも出した。
だけど将来を語る同年代の人間には曖昧な笑顔しか返せなかった。
一度だけ劇団の先輩に相談したこともあったが

「お前が思うようにやっていいんだよ。
 ここは小さな劇団だし、必ず同じ方向向いて足並み揃えるだけが正解じゃない。」

兄貴分の先輩は小さく笑って呟いた後に田舎へと帰っていった。
自分は足並みを揃えていたつもりだったけどそれも思い違いなんだと知った。

本当にやりたいこと、進みたい道、好きなこと、向いてるか否か。
何も自分のことなんて分からなかった。
自分を分かれなかった。、

いつか分かるのかな。
時間だけが過ぎていって、将来を考えても夢なんて語れるものは無くて。
常に不安だけ覚えた。


きっと、これが。

虚無

虚無

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-24

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