君と見た桜

君と見た桜

あなたは誰と桜を見ますか・・・?



(回想)

もしも、時間を戻せるのだとしたら

俺は あの日に戻りたい



   妻「おかえりなさい」

   夫「ただいま。」

   妻「ごはんは?」

   夫「外で済ませてきた」

   妻「そう・・・あのね、今日ね」

   夫「あー・・・つかれた・・・」

   妻「・・・お風呂入って休んで」

   夫「あぁ そうさせてもらうよ。お先に」



あのとき あいつは言おうとしてたのに・・・(回想)


(夫モノローグ)

結婚して20年

仕事で毎日忙しい日々、俺たちはよくある【会話の少ない夫婦】だった

いや、あいつは話しかけていたんだ

俺はそれを聞いてやろうとはしなかった

そんな日常は当たり前で、もう何年もそうしてきた

過ごしてきた日々は、重ねてきた年月は そう簡単には変わらない

そんな俺に神様が罰を下したのは、

それから数ヶ月も経たない冬の終わりだった


(Prrr・・・ Prrr・・・)

   娘「お父さん!!お母さんがっ・・・救急車で運ばれたっ」

   夫「なんだって?!どこの病院だ 落ち着け!すぐに行くから」

気が動転している娘をなだめながら、俺は会社を飛び出した


医者の話を聞きながら俺はまるで悪い夢を見てるかのような気持ちだった

病室に入ると、そこには別人のようなあいつが横たわっていた

   夫(心の中の声)『こいつ・・・こんなに痩せてたっけ?』
  
   夫「なんでこんなになるまで・・・言わなかったんだ」

心の中で言ったつもりが、思わず声に出ていた

   娘「話聞かなかったのお父さんでしょ!
     お母さんずっと具合悪くしてたのに!」

娘が泣きながら、いや怒りながらそう言い捨て、病室から出て行った

   夫「そうか・・・俺か・・・

     なんでこいつがっ・・・くそっ」


(夫モノローグ)

病院の中庭にある大きな桜の木。

その横を通り過ぎて、入院病棟へ向かう。

病室に入ると、ベッドに起き上がって窓の外をみているあいつがいる

   夫「今日は起き上がってんのか。調子よさそうだな」

   妻「ええ。とても気分がいいの・・・あなた、こっちきて」

   夫「どうした?」

不思議に思いながら近づくと、
白く細い指先で服の上についていた花びらをそっと取った

   妻「中庭の桜の横通ってきたでしょ。もう散り始めてるのね
  
     ねぇ、先生に中庭に出てもいいか聞いてきてよ
  
     こんなに遠くからじゃよく見えないの。近くで見たい」

   夫「わかった、わかった。まるで子供だな。
     じゃあ先生に聞いてくるよ。ちょっと待ってろ」

   妻「ええ。お願いね」

先生から許可をもらって、車椅子にあいつを乗せ、ゆっくり桜の木の下へ

   夫「寒くないか?短い時間なら って先生ゆってたぞ」

   妻「大丈夫。寒くないわ・・・キレイね、こんなにキレイな桜、見たことない」

   夫「大袈裟だな。どこの桜もそんな変わんないだろ」

   妻「ううん。まるで空から花びらがはがれるみたい・・・」

   夫「詩人だな。そんなキャラじゃなかったろ」

   妻「あら、昔はよく詩を書いたりしてたのよ」

時折吹く風が、花びらを舞い上げ、幻想的な雰囲気を強くする

   夫「ほら、風が強くなってきた。もういいだろ 病室戻ろう」

   妻「もう少しだけ・・・あと5分だけ」

まるでもう見れないかのように、桜を見つめる。

   夫「来年は桜の名所に行ってみるか」

   妻「・・・そうね。きっとキレイでしょうね
 
     でも、あなたと見るから この桜はキレイなんだわ」

最後の声は風にかき消されるような小さな声だった



(夫モノローグ)

あれから1年、2年と時は過ぎて、何度も桜の時期が訪れた

俺は未だに桜を見れないでいる

あいつを思い出すからだ

入院してる間、いろんな話をした

今までの時間を取り戻すかのように

罪悪感を拭い去るように

俺たちは 本当にたくさん話をした

目に浮かぶのはうれしそうに桜を見る顔

ふいに病院の桜を見たいと、自然と足が向かっていた

桜の木は 数年前と変わらずそこにあって

満開の花が咲いていた

   夫「ほんとだな・・・全然違うな

     あの日お前と見た桜と・・・違う

     お前と見たから・・・キレイだったんだな」



   妻(回想)「あなたと見るから この桜はキレイなんだわ」


幸せそうに微笑む あいつの声が 風に乗って俺を包んだ気がした

君と見た桜

どんな景色も 愛する人が居るからこそ 美しいのだと・・・ そう思うのです(*´ー`*)

君と見た桜

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-05-23

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