【ちいさな物語6】たんぽぽの風
花言葉を元にした、絵本のようなお話。今回のお花は【たんぽぽ】。
太陽が優しく照らし、風が爽やかに凪ぐ頃 ※凪ぐ・・・なぐ
あちらこちらで、春の息吹を感じます。
「母さん、いってきます」
「母さん、ありがとう」
口々にそう告げると、優しい風に抱えられて
小さな綿毛がふわりと空に舞い上がります。
たんぽぽの綿毛たちが、母さんたんぽぽから旅立つ時期です。
兄弟たちが次々と舞い上がる中、
母さんたんぽぽにしっかりしがみついて離れない綿毛の子がいます。
「あなたはどうして行かないの?」 母さんたんぽぽは尋ねました。
「だって、僕が行ってしまったら、母さんはひとりになっちゃう」
そういってますますしがみつく腕に力を込めます。
「ばかね。母さんはひとりになんかならないわ。
にいさんたちや、あなたがどこかで根付いて、花を咲かせる。
いっしょに居られなくても、さみしくなんかないのよ。」
手をそっと握って、母さんたんぽぽは優しく言いました。
ほっとした顔をすると綿毛の子は、旅立つ決心をします。
「しっかり風に乗るのよ。こわくなんてないからね。
さぁ、行きなさい。そして綺麗な花を咲かせてね」
祈るように最後に優しいキスをして、
母さんたんぽぽは子供たちを風に乗せます。
ふうわり、ふうわり 綿毛たちの姿が見えなくなるまで、見守ります。
「神さま、どうかあの子たちがどこかで咲くことができますように」
優しい母さんたんぽぽは、そうしてすべての綿毛を旅立たせたあと、
そっとひとり 目を閉じるのでした。
たんぽぽの花言葉は
「真心の愛」、「愛の信託」、「別離」
【ちいさな物語6】たんぽぽの風
偉大さは別離にこそ身に沁みて・・・