妲櫻桜~たちおうざくら~
私は思い切って聞いてみた。
「先生、貴方は熱血教師なんですか?」
煙草を口に銜え、ライターを近づけようとしている先生は驚いたように動きを止めこちらを見た。
大きな目を瞬かせ、何を言っているのか分からないという風にコチラを見る。
だけど、私は知りたい。
貴方の事が。
「先生は熱血教師なんですか?
それとも放棄教師?
私・・・達の事をどう思っているんですか?」
私、と言いかけて複数形にした。
恥ずかしくなって、下を向く。
あ、あれだから。
別に、私の事をどう思っていますか?って聞いてもいいけど、そう聞くと「成績が悪い子ですねー」とか言いそうだからってだけで。
別に、深い意味が有るわけではなく・・・。
どんどんと体温が上がり、自分が赤面しているのだと気づく。
先生からは夕日の逆光で見えない・・・はず。
ふと息を吐く音がして顔を上げた。
先生が煙草に火をつけ、ゆっくりと吐く。
先生のはいた煙は色を消しながら立ち上り、他の景色と同化した。
「『熱血教師』ですか・・・。」
呟く様に言う先生。
いつの間にか私から視線をずらしていた先生はこちらに視線を定める。
夕日を背中に浴びる先生から目を逸らしたのは、夕日が眩しかったから。
絶対、先生の事が見られなかったトカじゃないっ!!
そんな恋な展開は無しっ!!
おそるおそる顔を上げると、先生は私を見ていた。
黒神君の時の様な突き刺さる視線じゃなくって、こう・・・何というか・・・。
私に向かって注がれる、好意と感謝の視線。
・・・だーかーら、変な妄想はやめてっ!!
さっきの事を、ありがとう。だから。
生徒としての好意だと思うしっ!!
煙草から出る細い煙が癖っ毛なのかただの寝癖なのかは分からないが、撥ねている前髪にあたる。
「俺は、熱血教師なんかじゃありませんよ。勿論、放棄教師でもありません。」
のんびりと先生がそう言った。
いつもと変わらない、のんびりとしていて丁寧な口調。
そして私に向かって綺麗ににっこりと笑い、
「俺は『エセ教師』です。」
えぇっと・・・それは・・・。
皮肉というか、嫌味が籠っている様な・・・。
・・・何気に気にしてますか?私が「エセ教師っ!!あんたみたいなのが教師なんて信じられない!!」って言ったの・・・。
そんな私の問いには答えず、あはははと先生が笑う。
ペタペタと来校者用のスリッパを鳴らし、近づいてくる。
そして手を上げ・・・。
思わず目を瞑り奥歯を噛みしめて下を向く。
が、頭に来た感触は「痛み」では無かった。
ポンポンと軽く頭を叩くようにして撫でられた。
えぇっと・・・?
状況が読めずに上を向くと、先生と目が合った。
ニッコリという風に笑っている先生。
抵抗していい物かと悩み、面倒くさいのでそのままにしておいた。
すると頭から先生の体温が消え、妙に涼しく風を感じる。
そして先生はゆっくりと口を開いた。
「ついでに二つ目の質問の、貴方の事ですが、」
何故、私の事?!
私は、クラスの事をですね、
「成績が悪い子ですね~。」
と率直な事実。
グサり
と音を立てて、私のハートを打ち抜く。
ボロボロと崩れゆくハートとプライド・・・。
・・・知ってますよ・・・。先生・・・。
急に涙目になりそうだったので下を向く。
あ、正直に言われた事が、だから。
別に、先生に良い印象を与えてないなーとかじゃなく。
全く、そういう気は無い。
皆無。
0。
「でも、」
先生の声が降ってきて顔を上げる。
さっきの様にのんびりと笑っている・・・ではなく、何というか・・・えっと・・・。
優しい笑みを浮かべていた。
「可愛いですね~。」
「なっ・・・。」
思わず半歩下がり、赤面した顔を手で隠す。
視線を逸らしたいけど、そらせない。
じっとこちらを見ている先生と・・・。
「:・・・っ・・・。」
変な声が漏れて、先生が噴き出した。
すぐにあはははという笑い声に変わる。
そして、今のが冗談という事に気づく。
か・・・からかわないでくださいっ!!
女の子にむかって冗談で「可愛いですね」はないだろっ!!
しかも、そんな優しい笑みを浮かべた後で真面目顔になって言うなっ!!
本気にする・・・・のはしないよっ。
絶対。
別に。
あはははと笑いながら、ポンポンと私の頭を叩く先生。
わなわなと震える私の拳。
この・・・。
大きく息を吸い込み、一気に叫んだ。
「この、エセ教師っっっ!!」
九十九先生。
都立 桜明高校。
その2-Bは文武科学省も認める、真の不良学級、学級崩壊している学級である。
そして、そこの学級の学級委員長兼理事長を祖父に持つのが私、卯月ゆいである。
妙に暑い夏休み明けの日。
風が全く吹いていない為、全開に開けた窓は窓側に座っている私ですら涼しさを全く感じさせなかった。
夏休み明けというので、賑わった教室の中、先生はやって来た。
黒猫を思い出すかのような真黒く、寝癖か地毛なのかは分からないが撥ねまくっている髪。
黄色っぽくなっている白衣に突っ込んでいる手に、銜え煙草。
黒いフレームのズレ落ちかけている眼鏡。
壊れかけの来客者用スリッパをペタペタと鳴らす。
やる気の無い先生の代表になれそうな外見だった。
まぁ、見た目通りやる気のない先生、それが九十九 成(つくも なる)先生だった。
妲櫻桜~たちおうざくら~