【ちいさな物語4】相思薔薇
花言葉を元にした、絵本のようなお話。今回のお花は【薔薇】。
誰も訪れないという ちいさな森がありました。
その森には、ちいさな妖精がひっそり暮らしていたのです。
深い霧が立ち込めた朝のこと。
ちいさな森に迷い込んだ旅人が、
道を探し、ふらふらとさまよっています。
どれだけ歩いたのでしょう。
旅人はすっかり疲れ果て、近くの大きな樹の根元に座り、
いつしか眠ってしまいました。
「いけない。霧の中で眠ってしまったら、魔女につれていかれちゃう」
ちいさな妖精は、必死で旅人を起こそうとします。
でも、旅人には届きません。
迷った末、ちいさな妖精は意を決して森の奥にあるほこらへ向かいました。
この森では【ほこらの奥にある泉には不思議な力がある】
そう言い伝えられてきたのです。
泉に辿り着くまでには、狭い道、大蜘蛛の巣、コウモリのねぐら・・・
そして最後に 渦巻く茨のトンネル。
ちいさな妖精の身体は傷つきもうボロボロでした。
泉に辿り着いた妖精は、泉の水をひとすくい飲みました。
するとどうでしょう。
小さかった妖精の身体は、みるみる大きくなり、人間の娘になったのです。
急いで旅人の元へ戻ると、そっと揺すって起こします。
旅人が目を開けると、そこには美しい娘がおりました。
「旅のお方。ここで眠ってはだめです。私が案内します。
さぁ、魔女に気づかれぬうちに、早くこの森を抜けてください。」
びっくりした旅人は、娘の言うまま、森を抜けようとします。
「あなたもいっしょに森をでましょう」 旅人は言います。
「・・・私は森からは・・・出られないのです」 娘は悲しげに答えます。
そう、ふたりは恋に落ちました。
共に居たいと思ったのです。
「さぁ・・・早く行って」 娘が背中を押したそのときです。
『人間のニオイがするねぇ。わしの獲物だ・・・』
魔女が旅人に気づいてしまいました。
娘は旅人をかばうように魔女の前に立ちふさがると、
すべての力をふりしぼり、我が身をバラの葉に変えました。
葉で魔女を覆いつくし、棘(トゲ)を刺したのです。
『・・・その力・・・お前は妖精だな?おのれ!許さんぞ!』
魔女は怒り、杖をふりかざしました。
「やめろっ」 旅人は魔女の杖にしがみつきました。
すると・・・旅人の姿は、赤いバラの花に変わったのです。
『ふんっ!わしに逆らった罰じゃ。永遠にその姿でいるがよいわ』
そう言い残し、魔女は霧の奥へと消えていきました。
バラの葉に姿を変えた娘は、バラの花になってしまった旅人を優しく包み、
そっと寄り添うのでした。
葉は花を想い、 花は葉を想い
そうしてふたりはひとつの真っ赤なバラになりました。
バラの葉の花言葉は 【あなたの幸福を祈ります】
赤いバラの花言葉は 【あなたを愛します】
誰も訪れないという ちいさな森の奥に
その赤いバラは、幸せそうに 今も咲き続けているのです。
【ちいさな物語4】相思薔薇