【ちいさな物語1】月下美人の涙

【ちいさな物語1】月下美人の涙

花言葉を元にした、絵本のようなお話。今回のお花は【月下美人】。



ある夜
小さな町の 小さな廃工場の片隅に 
ひとつのちいさな花の種が舞い降りました

花の種は 誰にも気づかれることなく ひっそりと育っていました

そんなある日、誰もいないはずの廃工場で
誰かの声がします

役者を目指すひとりの若者が たったひとりで稽古をしていたのです
その若者の声は 毎晩 廃工場の中に響き渡り
花の種は 耳を一心に傾け その声を毎晩聴いているのでした

そして いつしか 若者の声に 恋をしました

毎晩 愛しい人の声を聴いて 
花の種は やがて成長し・・・最期の瞬間(とき)を悟りました

『どうか 私に気づいて・・・』

ちいさなちいさな花の種は 一粒の涙を
最期の力に変え その夜 
この世のものとは思えないほどの 綺麗な花を咲かせました

『・・・綺麗だな こんなところに居たなんて 気づかなかった』

愛しい人の最後の声を 心に刻んで
ちいさなちいさな花の種は・・・その命を閉じました



その花言葉は・・・

   『儚い恋』 『ただ一度あなたに会いたくて・・・』

【ちいさな物語1】月下美人の涙

【ちいさな物語1】月下美人の涙

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-23

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