【中堅商社・島崎部長】
一話
【中堅商社・島崎部長】
【一話】
中堅商社に勤務する胸のある中年バーコードハゲ、小太りの部長は戸籍上は男性でありながら、会社への貢献と業績の鋭さが買われ特別に女性としての勤務が認められていた。
周囲もそれを認めつつも偏見のある中である時はスーツに背広、ある時はブラウスにスカート姿で勤務していた。
二十代半ばの二人の父親であり妻を持つ身でありながらも、幼少期より気が付いていたが隠し続けていた病気を医師の診断と言う目に見える形にし、性転換手術を受け女性ホルモン投与を受け乳房も発達。
課長から部長への昇進と同時に周囲に打ち明けた性同一障害者と言う病名に家族は勿論のこと周囲をも仰天させた。
そして同時に入社した同期である二代目社長のお墨付きもあって、現在彼は男性と言う戸籍のまま女性として、または中性として部長職を全うしている。
社内では強い女性の味方として評判を呼び、取れ引き先からは変態名物部長として名が売れ、会って見たいと新規の商談が次々入りそれでも島崎の人柄故か業績は鰻上りに跳ね上がった。
ボイ~ンと突き出たDカップの胸を隠すことなく背広姿で自宅を出る日もあれば、スカートにブラウス姿で出ることもある部長の名は「島崎」と言う。
小太りと言っても身長はヒールを履けば百六十センチほどあって、バーコードハゲの頭部を覗けば、姿は略女性であって、妻と一緒に買い物に出れば、女物のカツラの所為で後姿は姉妹か友人同士かと間違うほどの体型をしていた。
くびれたウエストに突き出た尻と突出したDカップの乳房はまさに女性そのものであったが、島崎はバーコードハゲを隠すことなく堂々と世間にその光り輝くハゲを晒し、近所では変態とあだ名されていることも本人の耳には当然のこと入っていたが、本人は気にすることなく今の状況を推移していた。
そして会社では一歩、部長室から出ると周囲に人ががいようと構わずぶっ放す放屁(へ)のウンコ臭さを尻を左右に振りスカートを仰いで嗅がせるのが趣味でもあった。
部下である課長は勿論のことそのまた部下の男達が部長を見るとき、ついつい見てしまう突き出したDカップの胸に視線が移動するも、そま首から上を見ればバーコードハゲから光沢が放たれ目をくらませていた。
そんな部長が専務に呼ばれ部屋を訪ねれば、専務の視線もまた否応なく歩くたびにプリンプリンと揺れる全身と、膝上十五センチのスカートからはみ出たムッチリした太ももにその視線を向けた。
頭部以外は全てが整ったダイナマイトボディーはそれを見る男達に複雑さを植え込んでいき、女性ホルモンで育った細い両側の髪の毛は風を浴びれば落ち武者のごとくだった。
【二話】
トイレは女子用又は男子の大用を兼用する島崎鉄男、五十三歳。
背広姿で女子トイレに、そして時にはプリーツスカートで男子トイレに足を踏み入れるが性転換のたる常に大便用を使う。
首下、ダイナマイトボディーの島崎鉄男は自宅から女姿で出勤する時はロングのカツラを着用し、会社の女子更衣室でカツラを外し汗をぬぐうものの、女子社員に動揺は無かったと言えばそれは嘘になるだろうか。
更衣室に島崎鉄男が入る否や女たちは慌てて更衣室を飛び出すが、島崎は落ち着き払った態度で着々と身支度を整える。 そしてそんな中、熟女フェチの平社員がトイレで朝方見かけた島崎鉄男の首下だけを想像し硬くなっモノを扱くことも度々あった。
首上は中年のオッサン。 首下はダイナミックボディーとムッチリした太ももの組み合わせは初めて見る者を恐怖へと導いた。
島崎鉄男と言う名前は逞しい男に育って欲しいと願って両親が付けたらしいことは島崎も承知の上だったが、自らの性に違和感を抱きながらの人生は同じ苦しみを持つ者以外には解かるはずはなかった。
二人の子たちも夫々に独立し残るは定年まで会社への忠義と守らなければならない妻の二人暮らしの中、島崎鉄男は周囲に内緒で性同一障害の診察を受診。 抱えていた性への違和感が事実だったことで、このまま死ぬまで隠して行くべきか否かに再び苦しみ始めた。
そんな妻と二人きりの家庭での島崎部長も帰宅すればただの女主(だんな)であったが、妻の佳代子にしてみれば人生を全うしてきた男女夫婦が一転して女同士の暮らしになったことで相応の苦しみと悩みにブッかってもいた。
病気なのだからと割り切ろうとしても単純に「はいそうですね」と、割り切れるモノでもなく淡々と洗濯機に二人分のパンティーやらスリップやらブラジャーやらを放り込み、パンティーストッキングの入ったネットを最後にポンッと放り込んだ。
そして全自動のスイッチをいれたところでフタの内側で回っているであろう下着を想像しつつ、その場から立ち去って乾いた二人分の女物の下着を並んでいる別々の箪笥に仕舞っては「はあぁ~」と、大きな溜息をついた。
二つ並んだ箪笥の中身はサイズ違いの女物。 妻の佳代子は自分のCカップより大きいDカップのブラジャーを見つめて再び「はあぁ~」と、大きな溜息を吐き出した。
「何でこんなことに…」
何千回考えたかわからないほどボソっと口に出してブラジャーを二つに折りたたみつつ、息子達の言葉を思い出す。
「親父の好きなようにさせてもいいんじゃないか?」
長男の二十八歳の秀樹の他人事のような言葉に正座した膝の上で右に拳を握る。
「よくわかんないけど首上は親父だから別にいいよ…」
次男の二十六歳の秀雄のそっけない言葉に正座した膝の上で左に拳を握る。
兄弟共に結婚して街を離れているが個々に父顔のことは妻達には内緒にしているようで、佳代子もまた住宅街の外れの一軒家。 出入りを他人に見られないことに安堵はしていた。
それでも出勤する時、化粧してロングのカツラをかぶる鉄男はパッと見は女性だったが故に通り道でも誰も鉄男だとは気付いていなかった。
会社で化粧を落としカツラを外して男顔で女装のまま部長職を全うする島崎鉄男は将来重役の椅子をも狙える位置にいて尚、出世欲は殆どなかった。
本来なら熟年夫婦の寝る寝室とは到底思えない、寝巻き姿の佳代子とネグリジェ姿の鉄男が離れたベッドで背中合わせに寝ている光景。
そしてそんな奇妙な夫婦の寝室の光景を想像してみる。
【三話】
白いパンティーで恥ずかしい部分を覆いスルリと慣れた手つきでライトブラウンのパナティーストッキングを履いた島崎鉄男は、その上半身に出っ張るDカップの乳房をブラで隠しスルスルッと白いスリップで膝上まで覆った。
リボン付きの白いブラウスの裾を黒いタイトスカートが覆い、座った鏡台の前で化粧しつつ二つ並べて置いたカツラをチラチラと見比べる島崎(だんな)を横目にベッドから起き上がる寝巻き姿の妻の佳代子は、終始無言で素足のままワンピースを身に纏う。
いつもの朝のいつもの光景。
先に寝室を出た妻の佳代子はそのままシャンプードレッサーへ移動すると淡々と歯磨きと洗顔をし、後から出て来たショートヘアの島崎(だんな)の気配を感じつつ歯ブラシを急がせる。
リビングのソファーにスカートを捲り上げて胡坐して座る島崎(だんな)は、スカートがシワになるのを知りつつ玄関から持ってきた新聞を膝の上に広げて読み始めると、洗顔を終えた妻の佳代子は台所に入り朝食の支度を始める。
島崎(だんな)が男だった頃は「おはよう」の一言もどちらからとも無くあったものの、島崎が女になってからは殆どこの家に朝の挨拶はなくなっていた。 熟女OLのような島崎(だんな)の気配だけを感じつつ、佳代子はチーズを乗せた食パンをオーブンに入れ冷蔵庫から取り出したミルクをコカップに注いだ。
「貴方。 そろそろ焼けるわ!」
一言、リビングに移動して言葉をかけた佳代子はゴミ袋を両手に持って玄関へ向かった。
「ああ。 すまんな。 先に頂くよ…」
読みかけの新聞をテーブルに置いた島崎(だんな)は、スカートのシワを伸ばしてダイニングへと移動し食事を始めたが、卵焼きがないことに気付いて慌てて熱したフライパンに卵を落とした。
家から歩いて数分の場所にあるゴミステーションに辿りつくと、背広姿の近所の人に頭をペコリと下げて立ち去った男らしい背中を少しの間、見とれた。
つい一年前までは、アレが島崎(だんな)の姿だったのにと心の中で俄かに悔しさを滲ませた。 そしてその島崎(だんな)は今やブラウス姿で食事をしているのだと情けない気持ちが声になって溢れそうにたった。
若い子が性転換したというならまだ許せるが五十歳を過ぎて突然、打ち明けられた病名と性転換願望の件を一年経過しても尚も引き摺っている佳代子だった。
そして家へと帰った佳代子と目を合わせずに逃げるようにハンドバックをもってローヒールを履いた島崎(だんな)が玄関から無言で出て行った。
一言でも口を聞けば口論になると島崎(だんな)は佳代子を振り向くことなくヒールの音を街中に響かせた。
夫婦関係はギクシャクしていた。
一方、早めの電車に乗った島崎鉄男は、空いている電車内で自分の脚をチラチラ見る嫌らしい男の目に苦痛を感じていた。
そして肉体労働者風の作業着を着た同世代と思われるヒゲ面に鉢巻をした男の視線を胸に感じ、逃げるように席を立ち男から離れて再び椅子に腰をかけた。
だが遠くから嫌らしい男の視線は離れたはずの島崎鉄男の全身を荒縄で縛るように緊博した。
そして次の駅辺りで化粧してサングラスをかけた島崎鉄男を男の視線から守るようにドヤドヤと男女の客達が車内に入り込んで島崎を安心させた。
性転換と女ホルで殆ど筋力の落ちた島崎では例え相手(おとこ)が一人でも太刀打ちできない身体になっていた。
三十分後。
「部長さんおはようございます♪」
偏見が有る無し不明の清掃のおばちゃんが出社した島崎に挨拶の声をかけた。
「ああ。 おはようさん♪ いつも早いねぇ~♪」
サングラスを外してエレベーター前で頭を下げた島崎は、通り過ぎたおばちゃんに自然な笑みを送った。
早めに出社した島崎が一番最初にすることは、女子用の手洗い場で洗顔し化粧を落とすことだった。
化粧したまま職務に就くのを嫌う島崎はカツラを脱いで化粧を落とすと、そのまま女子更衣室へと入った。
普通に来れば他の女子社員たちに迷惑になると思っていた島崎ならではの気遣いだったが、社内では女子社員たちの良き相談相手として人気のあった島崎でも、下着姿になる更衣室での女子社員たちへの配慮はしっかりしていた。
【四話】
島崎が会社にいる間、妻の佳代子はあるクリニックに来ていた。
「軽いうつ状態ですね。 しばらくの間、現状から離れた方が良いでしょう…」
心療内科の医師は佳代子から何も聞かされぬまま、状況などの問診で状態を見て判断した。
佳代子は自分の今の置かれている状況を誰にも話せないまま、一人悩みそして苦しみから脱しようとモガイテいたが、帰宅し箪笥の前に置いた旅行カバンを前に正座のまま独りになった島崎のことを案じてもいたが、メモを残して旅行カバンを持って自宅を出ると東北にある実家へと足を進めた。
何も知らない島崎は再び会社で化粧してカツラを被り電車から歩いて帰宅したが、いつもと違う真っ暗な我が家に慌てて入った。
「食事の用意はして置きました。 母の具合が悪いので暫く帰省します。 掃除洗濯や食事の用意も女性の貴女なら出来ると思いますから心配はしていません。 佳代子より」
家へ慌てて入った島崎はリビングのテーブルに置かれた佳代子からのメッセージに肩をガックリと降ろすと、そのまま倒れるようにソファーに座ってもたれた。
これから暫くの間、何もかもを独りでするのかと、佳代子からのメッセージを何度も読みハンドバックから取り出した携帯電話を握り締めたものの、身勝手にも性転換してからの夫婦の生活を振り返った。
もし自分の勘が当たっていればこのまま行けば離婚になるのではと携帯を持った手を小さく振るわせたが、離婚勧告されるのが怖くて敢えて妻の佳代子には電話はしなかった。
そしてこの夜から女としての独り暮らしが始まった。
会社と自宅を往復するだけの島崎鉄男にとって衣食住を一人でこなす困難さにまだ気付いては居なかったが、帰って来てくれとも言えない島崎は一人寂しくダイニングテーブルを前に手酌でビールを喉に流し込んだ。
女になると言う事は性器を取って乳房をつけることだけではないのだと改めて妻の存在の大きさに気付いた島崎だった。
そしてその夜から独り暮らしが始まったが、夕食を終えて尚も後片付けしない島崎はシンクの上、蛇口から出る水の冷たさに一気に酒の酔いを覚ました。
洗物などしたことのない島崎は水が冷たいことに気付いたことで、自らが不完全な女であることを知らしるめられた思いがしていた。
手から血の気が薄れていくのを感じながら後片付けに専念した島崎が時計は既に九時を越えていた。
風呂、夕食、そして寝るだけの毎日を送っていた島崎にとって、生まれて初めて女としてやり遂げた夕食の後片付けは脳裏にしっかりと焼きついた思いがしていた。
ウイスキーの用意をしてリビングに来て見れば、開いたままのカーテンに目が行き慌てて絞めるも、玄関の戸締りを思い出し玄関と裏口の鍵をチェック、大きな溜息をついてリビングに戻ればせっかくの氷が解けて丸みを帯びて再び大きな溜息をついた。
そしてリビングのソファーに腰を下ろした島崎は無意識にした両足を斜め座りから突然、胡坐に転じて転じようを見回してウイスキーの水割りを一口。
「あっ!! 風呂! まだだったぁー!!」
島崎は悔しまぎれに妻の佳代子のことを思い出しつつ風呂は諦めようと二口目のウイスキーを舌で転がし三度目の溜息をついた。
翌朝、目覚まし時計をかけわすれた島崎が仰天してベッドの上で起き上がると、島崎は化粧したまま下着すら替えてないことを思い出しつつもいつもより早く目覚めたことに感謝した。
そして浮腫んだ顔を鏡台に映し時計を見て慌てて朝シャンへと足を急がせ、女として基本的になってない自分に苛立ちを覚えた。
「形だけ女になっても駄目なんだ!」
シャンプーの後、熱い湯で顔の浮腫みをとりつつ化粧を落とし歯磨きして紙をドライヤーで乾かす。 男ならネクタイ締めてそのまま出勤なんていうことも出来るのにと、つい愚痴を零す。
アレもコレもしなければならない女の一人暮らしがこんなに大変だとは一度として思ったことのない島崎は、妻のありがたみが身に染みていた。
一方的に自分の病気を告白し妻の反対を押し切って性転換したことを後悔しつつも、現実に元の男に戻れない自分を悔やみ後悔の溜息を何度も重ねた。
それでも寝室の箪笥の前で女姿になった島崎は鏡台に向かって化粧をしてロングのカツラで頭をスッポリ包んだ。
泣き言なんて言ってられない。
とにかく妻が帰ってくるのをまつしかないと、実家の母親の病状悪化が偽りであることを知りつつハンドバックを左腕にかけて自宅を後にした。
そしてパンティーストッキングを履いてないことに気付いて、あわててコンビにで買い求めトイレで下半身を包む島崎はまたまた大きな溜息をついた。
【中堅商社・島崎部長】