黄色い浴槽

夜の満員電車。スーツを着た中年の男たち。彼らの目は疲弊している。どんよりと濁った、目。彼らはこれから人間牧場に連れてゆかれるのだ。窓の外は夜景が流れている。きらきら。電車はゆっくりと、しかし着実に進んでゆく。
トンネルに入った。轟音が響く。黒いガラスに彼らの疲れた顔が映る。男たちの爪は伸びていてそして黄色い。手もかさついて黄味がかっている。黄色い液体に浸かるせいだ。人間牧場は巨大な浴槽でできており、黄色い、ねばりのある液体の中に、彼らは朝まで浸からねばならない。その行為に、目的もなければ、意味もない。それは儀式なのだ。人間牧場に通う人間たちにとって黄色い液体に浸かるのは当然のことである。
人間牧場からはときどき、反逆者が出現する。黄色い液体にただ浸かるだけの毎日に、何の意味があるというのか、と高らかに声明をあげる。しかし、勇敢な戦士の言葉を聞いている者は誰もいない。監守につまみ出されるのがオチだ。そして勇敢な戦士は今後、人間牧場を出禁になる。
ここしばらく、牧場は事件もなく穏やかだ。優秀な人間が多いからだろう。誰もなにも言わない。
電車は終点の牧場前に着いた。扉が開き、スーツの男たちがぞろぞろと出てくる。浴槽にたどり着いた者から順に黄色い液体に浸かってゆく。夜は長いが、眠ってさえいれば、すぐににわとりが朝を知らせてくれる。

黄色い浴槽

黄色い浴槽

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-23

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