咲き乱れガーディアン
甘いのと、苦いの。
甘いものは、苦手じゃない。チョコレートは苦いのが割と好みだ。
性に合わない好物と、視界に立つうさんくさいあの人。
昔は俺だって、もう少し甘めの、普通のチョコだって食べていた。
あぁ、いつからこんな苦いチョコ食べ始めたんだっけ?
…そんなことはとうに忘れた。……何て言うとでも思ったか?
いいさ。少しだけ教えてやろうじゃないか。
―――…
「はーなーみーやー」
「うぉあっ!!?」
それは俺が中学生だった頃、先輩の今吉さんに声をかけられた時のこと。
「ちょ、いきなり現れないでください!」
「ええやんか別にー、ちょっと部活のことでな、聞きたいことあってん」
そう、昔はよくこうして屋上で甘いチョコを食べ、今吉さんによく懐かれていたものだ。
一口だけ。
「花宮ぁ、またそんなん食うとるー」
「いいじゃないですか、好きなんですし。」
俺はいつものように甘いミルクチョコをかじる。
「よぅ飽きひんなぁー…そんなんばっか食ってたら体力つかんで?
食事、ちゃんとバランス取れてるか?」
「うるさいですね、それくらい管理できてますよ。」
「…素直やないなぁ。」
ズレかけた眼鏡のフレームを指であげながら今吉さんは言った。
俺のことを心配してくれているのはなんとなく分かっているが、正直…
なんかめんどくさい。
「なぁ花宮、それ一口もらってもええ?」
「へ?あ…まぁ、一口くらいなら…いいですけど。」
ひとかけらチョコを割って今吉さんの前に差しだす。
今吉さんは嬉しそうに俺を見つめていた。
こんなことしたくないんだよ。
「なぁ、食べさしてや。」
「…はぁ?」
意外な一言に、俺は首をかしげた。
「だからさ、ほらあれ…あーんとかなんとかあるやろ!してや!」
「なっ…何言ってるんですか!?無理に決まってるでしょう?」
「へー…先輩の言うことも聞けんなんて、アカン後輩やなー…」
今吉さんがため息をついてわざとらしくそう言うもんだから、俺はムキになって
「はいはい分かりましたよ!…先輩、あーん(くっっっそ恥ずかしいわ!!!)」
無理やりチョコを口の中へ押し込んだ。
それでもなお今吉さんはゆっくりチョコを咀嚼する。
その動作があまりにも色気があったので…
高鳴る心臓をを抑え込んでいた。
「んじゃ、今度はワシが花宮に食べさす番な♪」
熱いのと、冷たいの。
「はぁあ?」
またまた俺は首をかしげる。…て言うか、そんなことできるわけねぇだろ!気付けよバァカ。
「ほら花宮、アーん」
……そんなことを言えるわけもなく、俺は仕方なく口を開ける。
今吉さんは、俺に食べさせるはずなのに自分でチョコを一口割った。
パキッ、と軽い音が耳元で響いた。
「えっ…!?」
いきなり体位が崩れて、あっけなく押し倒されてしまった。
顔が近い。
心臓が今にも飛び出しそうで、物凄く熱いのと真逆に、屋上のひんやりとした
コンクリートの床が背中を冷やし、わけのわからない状態に戸惑う。
「んっ。」
不意に今吉さんの咥えていたチョコの端が唇に触れた。
舌先でそれを確認すると、今吉さんはニヤッと笑みを浮かべ、顔を近づけた。
初めての××。
「ふぁ…っ!?////」
そのまま俺たちは、乱れ合うようにチョコを挟んで深い深いキスをする。
口の中でトロトロと蕩ける感覚と、体の熱さで頭がくらくらする。
「んっ…はぁ、ん……。」
「クチュッ…ふっ、ん。」
段々小さくなっていくチョコ、甘いはずなのになぜか苦みが舌を刺激する。
今吉さんの下が擦れる度、その苦味は気持ちよさに比例して涙が滲む。
今までにない苦みが、脳内に駆け巡った。
「…はぁ、っ……///」
チョコが完全に溶けてなくなって、お互い唇を離す。
「何して、くれてんですか…///」
「ははっ、まぁたまにはこういうのもええやろ?あ、もしかして初めてやった?」
「……っ!!////」
「かーわえ♪ワシ、花宮のそういうとこがたまらんくらい好きやねん。」
ポイズン?
「そう言うこと言うの、他ではやめてくださいよ?」
「わかっとるって。」
「…で、なんでさっきのチョコ、あんなに苦かったんですか?」
「あぁ、さっきブラックコーヒー飲んだんや。…甘ーいのんもええけどな、
たまにはこういう苦いチョコもええやろ?」
「…はぁ。」
「翔一特製カカオ100%チョコレート、…なんてなw」
―――…
それから俺は、毎日このカカオ100%のチョコレートを食べている。
それは、初めてのキスの味。
クセになる苦さ、毎日毎日毒みたいに体に取り込んで、
すっかり俺は依存症。
このチョコは、先輩と俺とをつなぐ、唯一の×××××。
―END―
咲き乱れガーディアン
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!!
今花、素敵なCPですよね(`・ω・´)大好きです。
次回は何にしようかな?高緑なんていかがでしょう?
楽しみにしててください♪