SS14 お悩み相談室

相談員は多くの悩みを抱える男性の相談を受けた。

「相続の問題、子供の言動は理解不能だし、夫婦生活もうまくいかない。とにかく悩み事があり過ぎて、満足に眠ることもできないんです」
 電話の向こうにいる男性は憔悴しきったように言葉を吐いた。
「まずは問題をひとつひとつ整理していきましょうよ。一度にすべてを解決するのは難しいですからね」
「それは分かっているんですが……」
「まあまあ、まずは基本的な事項をお聞かせ下さい」
 相談員は焦る相手を宥めて、落ち着かせようと少しだけ間を取った。
「あなたはお幾つですか?」
「え? 私?」
「あなた以外の誰に年齢を尋ねるというんです?」
「はあ……、五十一です」
「もちろん働いていらっしゃいますよね」
「ええ」
「ご家族の構成は?」
「妻と大学生になる息子、それに高校生の娘がいます。あと、家には私の両親が同居しています」
「うんうん、なるほど。夫婦仲は如何です?」
「ええと、これが自分で言うのも恥ずかしいんですが、近所でも評判のおしどり夫婦なんですよ」
「そうなんですか。それは何よりですね。子供さんとの関係はどうですか?」
「これがまた二人とも優しいいい子たちでね。しかもどうしてウチらみたいのから、こんな秀才が生まれたのかっていうほど勉強ができるんですよ」
「ほほう、ご自慢のお子さんなんですねぇ」
 相談員は、家族の中にどんな蟠(わだかま)りがあるのか見付け出そうと次の質問を考える。
「聞いてますと、ご家族皆仲良くされているように思えますが、それでも夫婦生活はうまくいってないんですか?」
「やだなぁ、この歳でそんなにがっつきませんよ」
「では、お子さんの言動に問題があるというのは?」
「うちの子にゃ問題なんてないですよ」
 電話線を無言の信号が行き交うこと約二分。それを破ったのは相談員の方だった。
「あなたはふざけてるんですか? ここは悩み事を相談する窓口なんですよ。あなたのように幸せに生活している方の自慢話しを聞く所じゃあない」
 さっきまで真剣に話しを訊いていた彼の口調は明らかにとんがっていた。
「いや、あなたの引き出し方がうまいから、つい乗せられちゃって……」
「褒めたって何も出ません」
「職業をちゃんと訊いて貰えれば、そこから話しを広げようと思ったんですよ」
 思わぬ反撃に、相談員はちょっとだけ反省する。
「ほう? で、何をされてるんです?」
「あの……、実はこことは別のお悩み相談室で電話相談を受けてるんです。
 けど転職したばかりで、相続問題とか、子供や夫婦生活の問題なんかのいいアドバイスができなくて困ってるんです……」
 なんだ、同業者かよ……。相談員は思わず受話器を見詰めて溜息をついた。

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相談員は多くの悩みを抱える男性の相談を受けた。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-21

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