Paint It, Black!!
第1章RJの世界①・・・「マークとRJ」
「RJ、いつまでサボってんだ」
初老のマークの声が綿花畑に響いた
「どんなに練習してもお前にはギターは弾けないよ、諦めな才能がないんだ」
RJ21歳・・・後に「悪魔と契約してブルースを手に入れた男」と呼ばれる男はまだ
アメリカ南部の綿花畑に居た・・・
1930年当時は人種差別が根強く残っており、奴隷の子孫であるRJ達は限られた労働にしか
就く事が出来なかった
労働の合間に皆で歌い合った歌・・・それが「ブルース」の最初だった・・・
マークは面倒見の良い男だった、自身もギターを弾きRJに教えた事もある
サロン「クロスロード」猥雑で下品な酒場では今日も笑い声とギターの歌声に溢れていた
「まったくRJは「フーチークーチーマン」だな」
マークはこの店にRJを毎晩の様に連れて来ては自身は仲間と音楽を奏で
女の尻を追いかけるRJを呆れ顔で見ていた
妻を早くに失い子供の居なかったマークにとってRJは子供の様な存在だったのだろう
毎晩繰り返される喧騒が南部の全てだった・・・
RJの世界②・・・「ジュリアとピーターJ」
ピーターJのギターを例えるなら「大地」と言えた
威風堂々であり、変幻自在に色を変えるその演奏は
多くの女性を虜にしていた
「相変わらずモテモテだなピーター」
RJは取り巻きから離れカウンターの隣に立ったピーターJにウィスキーグラスを渡した
「女にモテたくてギター弾いてるわけじゃねぇよ、楽しいから弾いてるんだ」
ピーターJはそう言って笑うとウィスキーを飲んだ
「俺がギター弾けたらさぞモテるんだろうけどな」
RJは苦笑いをした
ジュリアが現れたのはその夏の事だった・・・
ジュリアの父は当時珍しいブルースギタリストで「クロスロード」の主人が改装後の目玉として
呼んだミュージシャンの一人だった
ジュリア本人は音楽には興味を示さず、ウェイトレスとして働いていた
最初ピーターJはジュリアの父にしか興味が無かった
綿花畑を辞めギターだけで生活を立てたかったピーターJは貪欲に父親から技術を吸収した
「本当に嫉妬しちゃうわ、父も息子を欲しがっていたから・・・」
父親にギターを習うピーターJを見ながらジュリアは笑った
「俺はジュリアの方に興味があるけどな」
カウンターの上に置かれたジュリアの手にRJは手を伸ばした
「私を抱きたいなら誰より素晴らしいブルースを歌う事ね、そうしたら考えてあげる」
手を払いのけて言ったジュリアのこの言葉は体の良い断り文句だった
それ位にピーターJのブルースの才能は抜きん出ていた
「それはピーターより上手く歌ったら俺の女になるって意味かい?」
「出来るの?「フーチークーチーマン」の貴方に」
ジュリアは笑った
「約束だ、俺は誰より上手いブルースマンになる、だから俺の女になれ」
「いいわよ、私も南部の女、二言はないわ」
こうしてRJの世界は始まった・・・
RJの世界③・・・サムとデビル
「やめとけRJ・・・あいつは天才だ、努力でなんとかなる相手じゃねぇよ」
綿花畑を去るRJの背中にマークはそう声をかけるだけで精一杯だった
RJは弟子入りする先を決めていた、ライバルであるピーターJがジュリアの父親に師事するなら
自分はもう一人のレギュラーアーティスト、ウィリアムに師事しようと・・・
「悪いが俺は誰かにブルースを教えられる時間がないんだよ」
ウィリアムはそう言ってやんわりと断った
確かにウィリアムはもう老人の域に達していた、ここから弟子入りというのも難しいだろう
「ブルースとは旅、旅をすればおのずとブルースは生まれる」
ウィリアムはそう言うと静かにギターを置いた
言われるまでもなく「天才ピーターJ」の居るこの町でRJにブルースを教えてくれる人なぞ居ない
マークには悪いが他の町に行くしか方法がなかった
Paint It, Black!!