practice(98)



九十八





 アヒルの寝顔に想像がつく。部屋より小さな扇風機が回って。
 からんころんと行く三人は,同じ背丈で伸びていく。同じ行き道の,同じ帰り道。塀に囲まれて,それぞれのお家の,二階に着くまで。誰かが来たら,譲らなきゃいけない。塀に沿って並ぶ,それは縦に長い列になったり,横から固まる団子になったり。時々,排気ガスが下手くそな煙として漂うのを,それぞれで嫌がったり,鼻をつまみあったり。それ以外に,特に問題がないのなら,三人は元のように広がって,元のように向かった。西日はどうしても大きくなり,反対側で星が準備を始めていながら,白い月が昼間の衣装を脱ぎ忘れていても,その地域では珍しく,飛行機が高くをもっと重ねて,その姿を魅せつけるみたいにゆっくりと去ろうとしていても,三人は向かった。溶けるよう,と思うにはまだ暑さが十分にない。涼しさを感じ始めるのはまだ早くて,三人が同じ背丈で,立ち止まってぼおっと眺めるのも一緒。それは飛行機ではないのに,三人は夢中になってそれを追いかけていた。
 七といえる月。
 繋げば,それで一つのクッキーのような三人でもある。右端の子のお家で食べた,あの味。無事に割って分けるには容易いのだけれど,ただ,上手に割れるかが心配。不器用に思える真ん中の一人が器用な一人の傍にあって,手元をじっと見つめていた。上手に出来るか,出来ないかの問題である。未だ同じくらいに並べる肩に力が入って,ひびを入れることも大変そうなんだなと真ん中の子が息を飲んで,思い始めた頃合いにもう一人が左端から貸してみろよ,と男の子みたいなことを言い始めるものだから,二人は驚いて,一人はムキになった。出来るよ,出来ないよ,の言い合いが始まって,出来ないねと出來るもんの意地の張り合いがおでこをくっつけ出して,続けられた。その真ん中に立っていた一人は,どうしようかと思い始めて,「いいよいいよ。」という言葉が二つ続けて,口の中から出てこなかった。言うには一つしかない。でも,この場合,その一つをどうすればいいか。「どっち」か,なんて決めてなかった。もしかすると初めてかもしれない,考えることは楽じゃなくて,チクチクとする。お家に帰ったあとの,真冬のマフラーなのだった。熱くなって,考えて,考えが煮詰まって来たときに,ピューっと鳴った,橙色の可愛いポッド。さっきよりも,それに驚いた真ん中の一人の,真ん中が割れた。口の端に付いた細かい屑みたいに,ぽろぽろと落ちる。ココアは湯気を立てたままになった。
 八になれる月。
 背丈が異なる二人の影には,それでも違いはなく,電灯の陰に隠れては,また次の影を斜めに伸ばす。会話はくるくると変わるのだった。見たことがない,昔ながらのコマ送りで走る動物は,四本足で,駆け抜けて。字幕で入り込む台詞の数々は,素知らぬ顔の庭木みたいに風に吹かれて黙っている。塀に腰掛けて,口笛に,似たものなんか吹かなくても。排気ガスは月明かりに消えて,大きい本は栞に挟まれて,約束事はカバンかどこか。鉛筆はカタカタいうことに気を付けた。もう少しの帰り道,まだ少しの行き道。照明係の天候が急いだ。大きい雲の背後から,好奇心旺盛の小さい形が顔を覗かせて,二人は歩く。聞くところによると,もう一人のことを話して過ごしたよう。二人が,なのかは分からない。二人だと思うというのは,容易いのか,それとも難しいのかも。台詞が途切れた,頁の切れ端には何もない。
 九を思い,十を数える月。
 ひとりのとき。ペリカンみたいな配達員の方,もう一人の話し方は。
 一つの月。
 からんころんと行く三人は,違う背丈で伸びていく。同じ行き道の,同じ帰り道。塀に囲まれて,それぞれのお家の,二階に着くまで。誰かが来たら,譲らなきゃいけない。塀に沿って並ぶ,それは縦に長い列になったり,横から固まる団子になったり。時々,排気ガスが前よりも煙として漂うのを,それぞれで嫌がったり,鼻をつまみあったり。それ以外に,特に問題がないのなら,三人は元のように広がって,元のように向かった。西日はどうしても大きくなり,反対側で星が準備を始めていながら,白い月が昼間の衣装を脱ぎ忘れていても,珍しく,飛行機が高くをもっと重ねて,その姿を魅せつけるみたいにゆっくりと去ろうとしていても,三人は向かった。溶けるように,と思う一人は向かった。穏やかに,と思う真ん中の子は密かに願った。けれど,と三人が同じ背丈になることはない。でも,と思う一人は立ち止まって,ぼおっと明かりを眺めた。それは飛行機ではないのに,三人は夢中になってそれを追いかけていた。
 ひらひらは,と,待ちながら。頭越しの,もう少しと。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-19

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