コスモスの脈
世界で一番きれいなのは、姉さんだった。
「シュウ」という名前の響きや、秋の美しい紅葉も、姉さんのためにあるようなものだと、本気で思っていた。
どんどんと人が少なくなる侘しいその町と、姉さんの美しさはアンバランスだったけれど、その不安定な空気が私は好きだった。
長い黒髪と、すっとした鼻と、形の良い唇と。「ほんとうにきれいねえ」と、汚い大人たちの言葉が姉さんの肌を撫でても、美しさは衰えなかった。
姉さんはいつも、「さくら、こっちに来て」といって、私を抱きしめて、こう言う。
「さくらが一番私を知ってる、それで十分だよ」
そうだよ、姉さん。私がいちばん、姉さんのことを知っているよ。何でも分かるよ、姉さん。
私を隣に置く理由は、姉さんの美しさを際立たせるためだってこと。
私と手を繋ぐのは、誰かに見せつける優しさのためだってこと。
姉さんはいつも女の香りを纏ってること。知ってるんだよ、姉さん。
私はいつも姉さんを見ていたんだから。
なぜ私が遅く生まれたのか、それだけ悔やんでるの。
でも、大丈夫。それを取り戻すように、私は姉さんを解っていくの。
姉さん、体育館倉庫で、先輩としてたのも、知っているよ。
私ね、姉さんの手を離さないって決めたの。きっとそれが自然なんだと思う。
退屈な言葉を使ってしまえば、二人で一つなんだと思う。だからね、もう先輩とは、繋がなくていいからね。
繋がらなくて、いいからね。あの人、もう無いの。姉さんと絡める指も舌も茎だって、もう無いの。
だから大丈夫、要らないよ。
姉さん、私がいるからね。姉さんの全てを知ってる、私がいるからね。
コスモスの脈