透明なガラス玉のようで。
日記
ー〇月×日
もう3年も経ちます。
私はまだ、忘れることはできません。
河原、林、神社。
すべてが、透き通っていて、キラキラしていて、眩しいものばかりでした。
あの夏、きみとあるいたあの道に今日も立っています。
ー〇月×日
もう3年も経つね。
まだ、泣いてたりするのかな?
それだけが気がかりです。
すごく都会の子だから、毎日物珍しそうに目を輝かせてたね。
あの夏、君がいた場所にまだいるんだ。
帰省
お父さんに連れてこられた、自然の町。というか、村……?
おじいちゃんの容態が悪いと聞いて、様子を見るために来た。
辺りを見渡せば、緑ばっかり。本当に、なんにもない。
こんな場所べつに来なくても、いい筈なのに。早く帰りたい。
そう思いながらおじいちゃん家の玄関を開けると、
「沙葉ー!!」
廊下の向こうから聞き覚えのある大きな声がする。
………………?
「沙葉ー!!大きくなったな〜、何年ぶりだっけ?」
ガシガシと私の頭を撫でる大きな皺だらけの手。それは、紛れもなくおじいちゃんのものだ。
……おかしい。何かがおかしい。
私とお父さんは、おじいちゃんの容態が悪いと聞いて来たはずだ。でも、肝心のおじいちゃんは大きな声をあげて私の頭に触れている。
そこまで考えて、一瞬思考が止まった。
「……ぃ」
「ん?」
「おかしいでしょっ!?私達おじいちゃんが体悪いってきいたから、来たんだよっ?」]
「え、そんなん俺言ったかねぇ?」
とぼけながらあさっての方向を見るおじいちゃん。
再び私に向き直り、
「細かいことはええから、はよぉ上がり。ここも案内したるわ。久々過ぎて覚え取らんやろ」
と、また豪快に笑って廊下の向こうの部屋に消えた。
「……お父さん」
今の今まで話しかけられなかった父にいう。
「おじいちゃんに初めて殴りたいって思ったよ」
「………、さーちゃん。ごめん、ああいう人なんだ」
お父さんと二人で廊下の向こうを見る。
もう、この夏がいやになってきたと思う。
透明なガラス玉のようで。