たわいもない



 姪が花を拾ってきた。
 それを私の掌に乗せて、彼女は風のような早さで外に出かけて行ってしまった。
 ぽつりと残された私の興味は、今しがた受け取った花に向く。
 花弁が四枚ある、白い花だ。
 茎の部分を摘んで、くるくると回して眺めていると、最近街路に植えられていたような記憶がふと浮ぶ。
 桜より低く、つつじよりは高い。そんな低木の名前は何だっただろうか。
 私は首を傾げた。
 初夏の陽に向かい、伸び伸びと花弁を広げて咲くのは、何というものだったか。
 拙い頭を動かして、記憶の中で咲くそれの名を思い出そうとするが、何故だか上手く行かない。
 失せ物をして探している時の、もどかしい思いが心の内に滲み出る。どうしても浮かんでこないので、他のことをして気を紛らわそうとしてみたが、かえって花のことばかりが頭に浮かんでしまう。
 そんな内に、気がつくと、窓の向こうでは陽が落ち始めていた。夕焼けの朱色の光に、影が見え、夜の近づきを感じさせる。

 そうして、出かけていた姪もひょっこりと帰ってきた。
 手や服は大分汚れて、所々に土の香りをさせている。
 私はすぐさま、姪に着替えと手洗いを勧めた。彼女は一瞬面倒くさいと言いたげな顔をしたが、こくりと頷くと軽やかな足音共に廊下の奥に引っ込んで、しばらくしてから鼻歌交じりに戻ってきた。
 濡れた手を擦りながら、今度は石鹸の香りを醸している。
 そんな彼女は、私の元に来たところで、ぬっと片手を差し出して、あれちょうだい、と微笑んだ。
 私はすぐに、あの花のことかと分かった。
 それから、窓辺に置いていたその花をそっと掌に乗せ、姪の手に受け継いだ。たわいもない動作だった。

 その時、私はようやく思い出した。
 先までのもやもやとした気持ちは、瞬時にからりと晴れ渡る。些細なことのはずなのに、なぜだか達成感が沸き起こり、とくとくと心臓が高鳴った。

 私は、みずき、と姪を呼んだ。
 振り返った彼女の掌の上で、花水木の花が小さく揺れた。

たわいもない

たわいもない

文章練習中です。 5月20日 修正。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-16

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