The sea
The sea
⇒書き下ろし
Shoreline
The sea
ー広い故郷の海で波に心あずけながら
静かなやさしい歌を口ずさむ君ー
「おい、そんな浜辺に寄ったら濡れるだろ。風邪拗らせるぞ」
「いいの!私そんなに体弱くないから。風邪だってもう治りかけてるもん」
絵里子はそう言って私のほうを見た。茶色く長い髪が風になびいている。
「この場所ってすごく懐かしいよね」
絵里子は波打ち際を見つめながら言う。僕は、彼女に近づいて、ずっとずっと見える水平線を見た。
「高校のときだっけ」
「うん。…私と、友くんが、初めて会った場所」
絵里子はその場にしゃがみこんだ。僕も隣にしゃがんだ。
「…いつ見てもいい眺めだね」
「……そうね…」
夕陽はだんだんと沈みはじめていた。真っ赤に染まる海が、その大海の迫力をさらに増していた。
「私最初、友くんすごく怖いイメージだった」
「なんでだよ。僕はそのとき君のことがよくわからなかったかな」
「当たり前でしょう。私が売店に行ったとき、私のことどう思った?」
「……普通に、かわいいなと思ったよ」
僕は彼女の顔を見つめた。夕焼けで顔の半分がオレンジ色になっている。
「……今も?」
彼女は無邪気な笑顔を浮かべて言った。
「うん、今もかわいいよ。大事な人だよ」
波は静かに音を立てて、僕たち二人の影は夕陽によって浜辺に映し出されていた。
High waves
The sea
ー君の乾いた素肌に涙こぼれている
重ね過ぎた悲しみ 少しずつ砂ににじませてくようにー
「あそこのカップルいい感じだね」
買ったばかりのアイスクリームにかぶりついた京香は、浜辺に座る二人の姿に目をやった。
「そうだね」
俺は何も考えないという風に、売店でコーラを受け取った。
「今日はサーフィン日和だね。波が結構高いよ。気温もいい感じだしね」
京香はアイスを舐めながら俺の顔をみてニッと笑った。俺はよし、じゃあ行くかぁと言うと、浜辺に向かって走り出した。
しかし、波打ち際を小走りしているときに足を止めた。先ほどのカップルは本当にいいムードに包まれていた。邪魔してはいけないと思い、その場で海に入り込んだ。
「一斗はやいよー、まだアイス、食べ終わってないよ」
「じゃあさっさと食えよ、早く入らねーと日が暮れるぜ」
「わかってるよー。あ、食べ終わった!今行くからそこで待ってて」
京香はボードを手に入水した。少し経って俺の側までやって来ると、またもニヤーッと笑う。
「ね、いい感じでしょ」
「俺らと大違いだな」
俺は冗談でそう言ったつもりだったが、京香は頬をぷくうと膨らませて、俺に向かって水をかけてきた。
「うわ、しょっぱ!お前なにすんだよ!!」
俺はそう言うと、京香に水をかけかえした。
「だって…だって、一斗ひどいこと言うんだもん、ひどいよっ」
京香はまた水をかけてきた。しかし次第に、俺たち二人は水の掛け合いになっていた。
「うわっ、もう!一斗!」
「おらっ、どうだよ」
サーフィンなど忘れてそんなことをしているうちに、ふいに浜辺に目をやった。先ほどのカップルが、俺たちのほうをみてクスクス笑っている。
「おい、京香……」
「なに急に?どうしたの?」
「…いや、なんでもない。…ほらっ、隙あり!」
俺はそうごまかして、京香に水をかけた。そしてその後は、波に乗ってサーフィンをした。
俺たちの姿は、夕陽によって黒い影に反映していたのかもしれない。
The sea
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by君とみた海