オジン&オヴァン物語
とあるゲームで作っていた物語を小説にしてみました。何故かこいつらを主人公とする物語はホイホイ進むので、小説でも進むのかをやってみることにしました。
後、登場人物は色々と方言をいいますが方言を言っているところはさほど大切な事を言っていないので読み飛ばしてください。
※特にオジンの言っていることとやっている事は一から十まで殆ど関係ありませぬ。
物語の基幹情報
※注意
・色々とブラックな内容です。
・この物語は時系列もバラバラであり、下手すればパラレルワールド的なのも書きます。
・彼らの日常会話と出来事と身の回りがブラックジョークで溢れてます。
・その他もろもろいろいろとあります。
ここはとある宮殿。その国の王様は国の統治や国外とのやりくりを。王妃はその裏方に回って仕事をしています。王子はサガラという賢明な子がいて、熱心に勉強をしているようです。
王妃は実力派で、貧しい層から今に至りますが彼女はロボットを作るのが得意だったので家来に自分の作ったロボットを使用しています。前は若いロボットを量産したのですが、どういう事か反抗してきたり言う事を聞かなかったりとありました。(王妃は進んだ人工知能と若さが原因だと考えています)
そこで、部隊も編成した上で新しく作られた存在。それがオジチャン部隊、オバチャン部隊でした。(見た目年齢は明らかにご老人)
部隊はブルー、レッド、パープル、イエロー。主要はこれだけで、他にもあるかもしれません。
特務だとか突撃だとか、様々な任務を持つ部隊。本作の主人公は、イエロー部隊です。
イエロー部隊は、他の部隊の不足時に仕方なく補完する部隊であり、普段はただの雑用などをしている部隊です。
また、彼らの名前は普段は製造番号でよばれています。ですが、今回の物語では主人公の二人はオジンとオヴァンと呼ばれます。(仕様です)
そんな彼らは楽そうな仕事をしているように見えますが…
出発ばいた
オヴァンは、掃除を終えて休憩を取ろうとしていた。
今回もゴミが沢山落ちていたので、疲れるったら疲れるったらありはしない。
今からの休憩時間に胸を躍らせたオヴァンは歌を歌い始めた。
「ある~日、森の中、クマさんに~」
「オヴァン。こっちにきなさい」
凛とした声が聞こえた。あの長くブロンドな髪の毛。青い眼、端整な顔立ち。間違いなく王妃だ。
「くまさんだぁぁぁぁぁああああああああああああ!」
オヴァンは悲鳴を上げた。王妃から呼ばれたからには用件とくれば任務か頼まれごとか仕事かおつかいか何かに違いないのだ!!
「とっとと来いっつってんだろうが!」
王妃は叫んだ。城内に雷鳴が轟いた。彼女の放つ雷電の魔法に触れれば100パーセント中300パーセントの確立で死んでしまうだろう。
オヴァンは超高速小走りで王妃のもとに向かった。周りのオヴァチャン達は死人名簿を一斉に取り出した所だったが、どうやら王妃の機嫌を損なうのを回避できたらしい。
逆立った彼女の髪の毛がゆっくりと元の形に戻ると、声をいつものおしとやかな声にして言った。
「今日から3日間の休みを出すわ。疲れた体と心を癒してきなさい。給料は0号機が持ってるわ」
どうせならもっと早く言ってほしいものだ。前日とか前日とか前日とか前日。オヴァンは顔のしわで分かりにくい表情ながらそんな事を思っていた。
ちなみに0号機は王妃の次に位を持つ、オヴァンたちのリーダー格である。王妃様が作った最初のアンドロイドだ。王妃の技術者としての腕が上がる度にグレードアップしている最強の総括者である。
城内以外で知る者は極端に少なく裏方に回る。そのため1号機ではない。城外では主に1号機と2号機が特に偉いモノだと信じられている。
だが実際は1号機は0号機の頭脳。2号機は0号機のパワーが備えられている。
「あらオヴァン。あまり嬉しくなさそうじゃない」
「いぃゃっふぉっふぉふぉおぉぉおぉおおおおおぅうう!明日から仕事だぜいぇいぇっいぇええええええ!」
オヴァンはその場でブレイクダンスを踊りながら喜びを表現した。
「あ、ただしオジンと同行して頂戴」
「わかったです」
そう短く言って王妃の前から離れると、オヴァンは聞こえない程度に舌打ちした。何せあのオジンと一緒に休みを取らねばならないのだ。冗談じゃない。
オヴァンは急ぎ足で外に向かった。
後10m。そこを超えればあのクソジジイと顔を合わせずに休みが過ごせるのだっ!
…ドドドドドドドド
重圧ある太鼓の音が頭の中でエコーした。玄関のところにその男はいた。赤と茶色の上着、青色のジーンズ。あの生気を感じない死んだ眼…
間違いなくオジンだ。
彼は、オヴァンに話し掛けてもらうのを待っている。
キレあるポップミュージックのリズムに合わせながら、スタイリッシュにダンスを決めて待っている…!!
ヒュッ、ズダダダッダァン!
何か無駄に洗練されたステップを決めた。
そしてオヴァンと目を合わせた。
今なら、今ならまだ間に合う!
気のせいにしてあいつを置いていけば、まだ私の平和な休みは保障されているっ!
オヴァンは出口に向かって飛翔した。先ほどの王妃の前で見せた高速小走りよりも早く、出口から外へと抜けた!今度こそあのシワで分かりにくいほどの表情も、誰から見ても分かるくらいの笑顔に変わった!
…の、筈が何故か城内に着地した。
たった今、城外に向かって跳んだのに城内に着地した。
オジンは、リズムに合わせてラジオ体操をしている。
オヴァンは2階に駆け、窓から飛び降りた。
…ズダダンッ
またもや着地した先は城内の玄関だった。
オジンは隣で円周率の511番目あたりをぶつぶつと呟いている。
「…やっぱ話しかけなきゃ駄目か。ようオジン。まだお迎えは来ないか」
「毎日欠かさず神様に祈ってるけど無理みたいばい」
遅くなったが自己紹介だ。
私はオヴァン。そこ数年前に製造された。お金をためたり、この国に大きな利益を上げれば晴れて自由の身になれるという情報を聞いてから1日も早くここから出るために努力している。
こいつはオジン。かなり前に製造されたようで、1号機や2号機の過去をある程度知っているくらいの古参メンバー。
昔は様々な戦場を乗り越えてきた経歴を持つが、日に日に減る自分の知り合いに、耐え切れない孤独を抱えるが故に日々に死に場所を探している。
死んだ戦友に貰った指貫グローブを愛用している。悲観的だがこれだけは離そうとしない。
で、何だかんだで二人で休暇を取ることになった二人はとりあえず城下町で0号機を探すことになった。
ところが城下町に下りて、ちょっとした家の裏側で女性が魔物に襲われているのを発見した。あの鉤爪でひっかかれればひとたまりも無いだろう。
「どうする?見てしまったばってん」
オジンはオヴァンに聞いた。休みとは言っても町民なのだから、無論助けるべきだろう。
「助けるばい」
オヴァンは呪文を詠唱した。魔物の眼前で小さい炎を出現させ、女性から魔物を引き剥がした。続いてオジンが敵のもとに駆けていく。
オジンが魔物の前に到着すると、高速のパンチが飛び出して頭蓋骨から脳まで粉砕した。
襲われていた女性は、自分の身がどうなってしまったのか分からずに目を瞑ったままだった。…しばらくしても何も起きないので静かに目を開けた。
視界には蒸発していく魔物と、反復横とびをしているオジンがあった。何が起きたんだろう。
「大丈夫?魔物は退治しといたよ」
オヴァンが女性の後ろから言った。自分がこの人達に助けられたのが分かると、二人に頭を下げてお礼を言った。
「有難う御座います!」
「気にしなくていいよ。さ、行くよオジン」
オジンは反復横とびの残像で3人に増えたところでピタリと止まり、オヴァンの後を追った。
アノ村到着
城下町の、売り家と書いてある家の2階。そこに0号機はいた。相変わらずこんな所にいる。どうせり理由は分からないが。
「お、オジンにオヴァンか。用件は分かってるよ。ホイ」
テッテッテッテッテー
“三千円を貰った(相場的な価値で。単位についてもこのまま標記する)”
「…三千円ってお前…」
オヴァンは世紀末を迎えた老婆が聖女の前で祈りをささげるってな雰囲気の顔になった。隣でオジンは毛糸で首吊り紐を作っている。
「おだまり!俺だって金をもってないのっ!!」
0号機の悲痛な叫び声がこだました。二人はしばらく黙って、金の無い総括者を眺めた。金に飢えたこの一人のアンドロイドの、悔し涙を一体誰が責めることができようか…
否、それは誰もいうまい。
という事で二人はそのお金を握り、敬礼ポーズを取る0号機を背に城下町を出て行った。
この金額で行けるちょっとした旅行先といえば、この町を抜けた先の小さなソノ村の港から出航した先にある景観が美しいアノ村くらいである。
彼らは仕方が無く、ソノ村に向かった。相変わらず漁をして暮らす村なだけに建物の風景から何までがそれらしい物と者で溢れかえっていた。
オヴァンたちの住む町から来た商人たちがいる。母国で生産した野菜などを売っているのだろう。
そして、貨物船長であるテッド船長の元にやって来た。彼に頼むと格安だが質の悪い客室(倉庫である)に乗せてもらえる。
でも休みの日に行ける所といえばそのくらいだ。
1500円を渡すと、早速と隣村の近くに寄ってもらい、そこで降りた。それからはアノ村まで向かうだけだ。魔物もあちこちにいたが、遊ぶ気満々のオジンの相手ではなかったようだ。
そうして、ようやくとついたアノ村。
そこは前に来た時よりとても静かだった。というか、静寂そのものだった。…何ゆえ?
村の入り口付近にいた男性にオジンは近寄った。
「よう、ここはアノ村ばい」
「それ、村人Aが言う言葉やろ」
…村人は無反応である。
オヴァンはその村人に近寄った。
よく耳を澄ますと寝息が聞こえる。どうやら立ちながら寝ているようだ。器用な奴だと感心した。
それから、家に入ってみた。
「おやっさん、今夜空いてるう~?」
オジンはのれんをくぐるようにして見知らぬ人の家に入って行った。オヴァンは引き取る間も無かったので諦めてため息をついた。
しかし、そこにはベッドに寝たおばあさんしかいなかった。
「…このばあさんも寝てるみたいだね」
「いや…」
オジンは途中で言いかけて止めた。二人は黙ってそのおばあさんを見ていた。まるで安らかに眠る赤子を見守る母親のような顔で。
「んごご、あたしゃまだ生きとるよ。zzz」
おばあさんは寝言を言ったようだ。
それを聞いたオヴァンとオジンは何も言わずにこの家を去って行った。
それからもこの村を調べてみたが、どうやら全員寝ているようだ。…それからしばらく探索すると、村の奥にふよふよと浮かぶ火の玉があった。
「…おや、君たちは?」
オヴァンを見た火の玉が話し掛けてきた。オヴァンは少し驚いたようだったが、オジンがすぐに前に歩み出た。
「オジャジャーン・ゴルゴーン3世だ」
「気にしないでください。気が触れてるんです」
それから、オヴァンはこの村に来るまでの顛末を語った。
火の玉はしばらく考え込んだ。見ての通り何か問題があるようだ。
「この村は、ここから東の塔にいるバケモノに襲われたんだ。…それを何とかする唯一の頼み綱の「竜の玉」もそいつに奪われてね。見ての通り観光どころじゃなくなったんだ」
火の玉は申し訳なさそうに言った。彼の責任ではないし、何だかかわいそうになってきた。ここの村を助ければ良い休暇も取れるわけだし…と
「すまないが、どうかあのバケモノを倒して「竜の玉」を取り戻してはくれないか?」
オヴァンは頷いた。こうればどうせ引き返せない。とりあえずどうにかしてみる事にした。勿論オジンにも同行してもらおうと後ろを向くと…
「バ バ バ バ バ バ~カンス バ バ バ バ バ~カンス」
滝のような涙を流しながら、オペラ風の声色で妙な自作の歌を歌っていた。
「ここで村を救ったらタダで焼肉が食べられるよ」
「よし、行くぞう」
どうやらオジンも納得してくれたらしい。単純な一面が助かるところである。他の面は迷惑なものばかりだが。
そうしてついた塔は、4階建てだった。塔なのかそれ?と思うオヴァンを背に、オジンはズンズンと進んで行った。
遅れてオヴァンも付いていった。
階層そのものはないものの、中は迷路の様になっていた。
上に上がるのも割と時間がかかる。魔物がいない安全なところを確保して一泊した後、4階まで一気に目指した。
大きなツタがあって通れないところはオヴァンが燃やし、魔物が現れてはオヴァンが燃やした。他にも、危ない罠の数々があったが、オヴァンが次々と燃やして行ったので難なく進んで行った。
それから、最上階で鍵がかかっている部屋があった。どうやら鍵を取りに返らなければならないらしいので、オヴァンは扉を燃やした。
その部屋に羽の生えた黒い悪魔がいた。
「何か良く分からんが、色々なギミックを強行突破して来なかったか?」
悪魔は言った。
「耳が遠くて聞こえない」
オヴァンは言った。隣でオジンはスクワットをしている。
イマイチ乗り気のないまま、戦闘が開始された。悪魔は紫色の斬撃を飛ばして来た。
オヴァンは飛翔する斬撃を燃やした。
オジンが駆けて行った。彼の涙が頬を濡らした。
「よくも、俺のバカンスを…!!」
終結(涙)
オジンの素手から発する炎がグローブを包んだ。
彼の左手にはKの文字が。右手にはOの文字が浮かんだ。
その右手が悪魔の右頬を捉えた。顎の骨の間接部位が外れる音がした。
その音を合図として、オジンの拳の暴風雨が悪魔の体の細胞という細胞を殴殺させた。オヴァンからの視点だと、小さい花火が悪魔体から連続で打ち上げられている様に見える。
この技が、1号機や2号機が関心の寄せる理由の一つだ。
普通は十数体を相手する時に使っている技だが、それを今回は一体の敵に行ったのだから、原型は勿論、後かともなくなった。
…こうして、塔を後にしたわけだが。
村では、オジンが灰になっていた。
「そうね。その「竜の玉」を使うためにはそのライラという女の子が必要ってことね?」
「…すまない。騙すつもりはなかったのだが、それを思い出したのが君たちが行った少し後だったんだ」
それから、このあたりの村で情報収集をしてライラを探す事にした。オジンは背後霊になっていたが、気にしない。
よくよく探すと、彼女はオジン達のいた城下町の宿屋にいた。「竜の玉」を奪われ、すっかりどうしていいか分からずに途方にくれていた。
そんな彼女に事情を話すと、彼女はよろこんでホイホイついてきた。
そしてアノ村。
「連れてきたよ。これでいいのかい?」
火の玉にオヴァンは言った。
「ええ。後は村の呪いが解けるように彼女に竜の玉を持たせて呪文を詠唱させるだけです」
ライラは「任せてください!」と張り切って竜の玉を振り上げ、呪文を詠唱しだした。竜の玉は呼応して光輝いていく。
詠唱の終盤、玉の光は目を開けられないくらいにまばゆく光っていた。
隣でオジンの頭も光っていた。
「さて、後は願い事を言うだけですね」
ライラは詠唱を終えて一息ついた。
その瞬間、火の玉は塔で見た魔物と酷似した姿に変わり、ライラの手から竜の玉を奪った。
そして、火の玉は叫んだ。
「さあ、竜の玉よ!封印された俺様の力を復活させやがれ!!」
流の玉は邪悪な光を放ち、火の玉だった魔物の魔力を開放する…
「ひゃっははは、うざかった弟を倒してくれた挙句、村の呪いの原因である俺様の復活を手伝ってくれるとはな!感謝してるぜ!」
オヴァンとライラは唖然とした。何か取り返しの付かない事になっているような、そんな気がした。というよりなってしまった。
オジンは、すでに邪悪な魔物の元に駆け寄っていっていた。
「最初からいかにも怪しい奴はRPGじゃ大体悪役だって近所のクソガキが言ってた!」
オジンはそういいながら、高速パンチを繰り出した。
「おっと、弟を倒したそのヴァリアントKOとかは遠くから見ていたよ。軌道さえ分かればこんなものー」
今度、オジンは拳と拳をぶつけた。ヴァリアントKOのときのようにまた文字が浮かぶ。CRYSISの文字だ。
「オジン!その技はやめ―」
「クライシスKO!!!」
オジンが言放つと、パンチが繰り出された。
それのパンチが魔物に触れた瞬間、巨大な爆発が小さな村を飲み込んだ。
魔物は消し飛び、オヴァンは上手に焼け、ライラの頭はアフロになっていた。
「村がKONAGONAや。どないしよ」
オヴァンは哀愁にあふれた無表情で言った。
「大丈夫ですよ。この竜の玉は10年に2回までなら願い事を叶える事ができますから!」
そう言って、再び詠唱を始めた。後ろでオジンはスクワットをしていた。
―そして、アノ村は元通りになった。
そうして、村の全員は華麗なファンキーダンスを…コラ、オジン。勝手なことを書くんじゃない。返しなさい。ホーイ。
そうして、村は元通りに戻った。
「ヴァヴァッヴァヴァッヴァヴァヴァヴァヴァヴァーカアアアンス!」
オジンは叫んだ。
「さ、帰るぞ」
オジンとオヴァンの後ろで声が聞こえた。ゼロ号機だ。
そういえば、船で城下町まで帰ったりしている間に3日は経っていたのだ。
連れて行かれるオジンとオヴァンを見て、自分はどうすればいいのか分からずにあたふたするライラ。二人の表情と言ったら、売られていく何かの曲がながれそうなモノだった。
…前に作ったRPGゲームを無理やり小説にしたので、かなり適当になってしまいました。次回からは普通の物語にするので粗さが減ると思います…
吸血鬼の爪を求めて
スイカが美味しい夏がやってきた。オジンとオヴァンは相変わらす働いている。今日は屋内プールをモップで掃除をする日だ。
「暑い~」
オヴァンは額に浮かぶ玉汗を拭いながらも右手をせっせと動かす。どうにかして涼みたかったが、このプールは周りから良く見えるのでサボればすぐに分かるのだ。
オジンは床にこびりついたものをデッキブラシで洗い落とし、ホースで排水口まで運んでいた。
「ちょっと、二人とも。来なさい」
王妃だ。一体何の用だろう。
「最近の研究で、どうしても吸血鬼の爪がほしいの。まあ、歯があれば更に上出来だけどね。そこまでは言わないわ」
どちらも難易度は高い。オヴァンはそう思った。
何だかんだ話は勝手に進められ、1号機が運転する飛行機に乗せられて吸血鬼が住む城の近くにある町に降ろされた。不平不満はあったものの、王妃の命令とあっては仕方がない。
1号機がすでに予約していた宿屋で荷物を降ろし、そこで1号機と別れた。目標を達成時に連絡する事で帰還し、それまでの期間は1ヶ月の猶予を与えられている。
具体的な命令はない。そういうものなのだ。
仕方なくオジンとオヴァンはあの城の吸血鬼の情報を集め、爪を得る方法を探す事にした。
そして今、吸血鬼は飛べるわ力は強いわ魔法は使えるわなど散々だったので二人はこれ以上知るのをやめた。
…その頃、吸血鬼の住む城はというと。
「ううぅ、血は吸いたいけど出来れば関わりたくないのよね。何とかならないのかしら」
メイスは面倒事が嫌いだった。今も血を吸わずに生きながらえているが、その体は大分衰弱している。…昔、小さい頃に無茶やって村の子の血を吸いまくっていた時、村に泊まっていた人物に退治され、大怪我したのがトラウマでそれからあまり血は吸ってない。
先代の当主より、自分から血を吸いに行かない場合は一週間に一度だけどこからか食料を調達してメイスに渡すように言われている。城内の執事は衰弱するメイスを見るのも辛かったが、先代の当主の命令に逆らう事もできない。
今日も、ある程度の身の回りの世話をすると、他の仕事に早速ととりかかった。メイスは今日も1人だ。彼女はどうしようもない現状にただ自嘲気味の笑いを浮かべた。
彼女は窓を見た。月だけが彼女の癒しの様に思えた。
「いっそ、あの月が私をどこかへ連れ去ってくれればいいのに」
窓の向こうに理想の相手を思い浮かべた。
その時、丁度その位置にオジンの顔が現れた。
「ぎゃあああああ、理想と何か変なのが被った!」
窓をわり、オジンがずいずいと入ってくる。他に見張りがやられた様子もない。しかも単騎直入で来たらしい。どうやったんだか。
それも、何やら物凄く大きい鋏を持ってきている。人の首なんてジョキリッって切れるんじゃないかってくらいの。
「おじょーさん、お爪が伸びすぎでしてよ!」
裏声のオジンは巨大な鋏を開き、走ってきた。どう見ても爪きりに来たようには見えない。というか、伸縮自在の爪を切る意味もない。
メイスはオジンの素早い猛攻を避ける。
仕方なく、とりあえずこのオジンを倒すことにした。鋭い爪を生やし、オジンの懐まで距離を詰めた。意外に容易いもんだ。
しかし、懐まで飛び込んだ彼女の視界に映ったのは彼の顔でも胸でも腕でもなく拳だった。
「どっこいしょー!」
殴られた瞬間、時の流れが遅くなったように感じた。メキ、ミシミシミシメキッ。うげげぇえっ。何の漫画だよコレ…
私は殴り飛ばされて壁まで吹き飛んだ。
「お嬢様!」
と、ようやく到着した執事。騒ぎに駆けつけてきた城内の魔物も遅れてやってきた。
彼らは一斉にオジンに攻撃を仕掛けた。
だが、オジンは華麗にバックステップを決めて窓から飛び降りて行った。
「ば、馬鹿な!ここは5階だぞ!!」
執事は窓から覗き込んだが、オジンの姿はどこにも見あたらなかった…
朝、6時。オヴァンはむっくりと起きた。アンドロイドなんだし、眠気だとかまどろみはない。…という訳でもないが、二度寝も気が乗らないので起きる事にした。
隣のベッドにオジンがいない。あいつは寝相がわるいからな。そんな事を気にしてもしょうがないので、オヴァンはバッグから本を取り出して読書でもすることにした。
この宿では朝食は7時からなのだ。
すると、下の階からラジオ体操の音楽が流れた。日課だし、おそらくオジンだろう。彼は一日に最低1度はしている。多い時は、30分に1回はしている。
「オジン。今日もまたえらい寝相だったみたいね。どこまで何しに行ってたか覚えてる?」
「んにゃ、覚えとらんよ。気が付いたらパン屋にいたから、匂いだけ嗅ぎながら帰って来たよ」
そうして、オヴァンもラジオ体操に加わった。
ラジオ体操が終わる頃、宿の食事も出来る時間になってきた頃だろう。私たちはそのまま宿の食堂に直進した。時間が時間のためか客入りも少ない。
私たちは食堂でパンとサラダとスープの朝食を済ませてから宿を後にした。
「さて、さっそく乗り込むかな?夜行くより昼のほうが幾分かマシかもしれないし」
オヴァンは言った。オジンは腕を組み、集中した。
オジンのコンピューターは活発に動いた。中の回路内を光の虫が高速に様々な所に出入りする。
そしてオジンの生涯の経験の統計と確立、状況から答えを導き出す。…オジンの中で小さな閃光が走った。
「よし、閃いたばい!突撃!」
彼らは近くで道具をそろえてお城に向かった。
定番のにんにくと聖水とかそんなのをカバンに詰めた。オジンは300円以内でオヤツを買い、オヴァンは使い捨てカメラを購入した。
それから乗り込んだので、大体10時くらいになった。
空気がどよめいている。不吉な雰囲気が館内から溢れ出ていて、普通では入り込めない。中にはどんな魔物が待ち伏せしている事か…
オヴァンが歩み出た。目の前の大きな柵の門の前に立つ。
門には魔法がかけられており、物理的な干渉では開かない様になっている。
なので、オヴァンは門を燃やすことにした。
激戦!吸血鬼の巣窟!!(笑)
目の前で鉄の柵が焼け落ち、どろどろに溶けた。二人はそのまま先へ進む。
中に入ってすぐのところには、悪趣味な意匠の噴水や像、園芸物がある庭があった。無論、中から魔物が現れた。凶暴そうな下級の吸血鬼だ。
オジンとオヴァンは便所のスリッパで応戦し、次々と庭の魔物をやっつけた。
後ろで庭を撮影するオヴァンを放っておいてオジンは先へずんずんと進んだ。今度は、首が二つある犬が前に立ちふさがった。
「へい、へいベイビー!」
オジンはホネを取り出すと、目の前でちらつかせて遠くに投げた。
二つ首の犬は、そのままオジンに噛み付いた。
「やだこの子ったらお利口さん!」
オジンは感動した。後ろで遅れてきたオヴァンがのんびりと呪文を詠唱する。空中に滑るように描かれる魔法陣が真っ赤に輝いた。
すると、その二つ首の犬の体を中心として炎が着火した。そのまましばらく暴れていたが、最後は灰になって空中に溶けて行った。
「オジン、こんな所で怪我なんてせんでよか」
オヴァンはそういいつつ、「リオル」と呟いた。オジンの腕についていた弧状の噛み傷は青い光に包まれ、あっという間に塞がる。
フロアを回り、2階へ登った。
階段を登った先に行くと、水に囲まれた奇妙な部屋に到着した。その部屋に入ると、入ってきた道と出口が陥没して水に浸かり、扉は閉まった。
「罠か」
オヴァンは細い目をさらに細めた。
「あっはっは!お嬢様の元へは行かせないよ!」
上から女の笑い声が聞こえた。どうやらこの城に勤める中級の吸血鬼のようだ。優雅に空中に止まり、コチラを見下ろしてくる。
女は好戦的な目で二人を見ている。妖気が増し、攻撃態勢が万全である事を二人に見せ付けている。
「見えたぁ、黒っ!」
オジンの目は皿の様に見開かれた。
「ちょ、どこ見てんのよ!」
女はスカートを抑えて言った。
「今週の俺のハッピーカラーは黒、オヴァンのハッピーカラーは赤色!」
どうやら、この時間帯にある番組の占いの結果のようだ。どうしてこんな遅めの時間に放送されるのかは分からないが。
「ホントだ。この城でも電波を受信できる」
オヴァンも天気予報を見ている。
「あ、あんたら…目の前に敵がいるって時に…」
女は歯を食いしばりながら、拳をわなわなと震わせた。
手先から桃色に光る爪を生えさせ、妖気をさら高めていく。
「私の名前はミシラン。あなた達をあの世に送る親切な吸血鬼。素敵な走馬灯、見れればいいわね」
ミシランは空中で大きく素振りをする。赤い爪がその軌道を通ると、その軌道に赤い線が描かれ、オジンとオヴァンの方へ飛んで行った。
二人は飛びのいて攻撃を避けた。
「思ったけど、アレを入手すれば今回の任務って完了じゃないの?」
オヴァンは言った。オジンも首を縦に振る。
「余所見はいけないわね!」
ミシランはそう言って、一度に沢山の軌跡を描いて飛翔する赤い線で猛攻をかけた。それは着地したオジンの方へ飛んでいく。
かろうじて避けられそうなところにミシランは移動した。これでまずオジンは撃破となる。
しかし、オジンは避けない。
そうしているうちにオヴァンがミシランのもとに駆け寄って来た。赤い爪に対してオヴァンは杖で応戦する。最も、木の杖では頼りない事この上ないが。
オジンは後ろで奇妙な動きを繰り返してその場で赤い線を避けている。さすがのミシランもこんな無茶苦茶な相手は初めてだったようで驚いている。オジンの動きといえば、例えて言うなら高速で空中をクネリ動くタコだ。
「な、何なのよこいつら!」
思わず叫んだ。
「余所見はいけないわね!」
オヴァンが、どこから出たか分からない若い女性の声でミシランに言った。その瞬間杖が真っ白に閃光を放つ。その杖で吸血鬼の体に撃ち込んだ。
たった一撃が、車にでも衝突したかのようにミシランをはじいた。だがオヴァンはその一撃を何度も叩きつける。
「喰らえ、布団たたきアタック!」
そう言って勢い良く弾き飛ばすと、ミシランは壁に叩きつけられた。
「ぎょええええええええええええ!」
ありえない、という言葉をあらわしたような表情のまま吹き飛ばされ、その表情のまあ壁に埋まり、その表情のまま気絶した。
「オヴァン、オヴァン、爪」
「あ」
かなり高いところに吹き飛ばしたため、もう取りにはいけない…
二人は、仕方なくその場を後にして先に進む事にした。
次のフロアに到着すると、そこには執事がいた。…格好に似合わず丁寧な立ち姿ではない。全力で敵を追い出す構えを取っている。
お互いに用件は言う必要はなさそうだ。
「お引取り願いましょうか。…という台詞も、ミシランが倒される前まででした。生きてこの城から帰れるとは思わないでくださいね」
オジンはでこに指をあてながら言った。
「それ、私の台詞ですなんですけど…」
先に言われてしまい、面を喰らった執事。オジンはドヤ顔を決めている。
オジンが歩み出た。手で合図を出し、オヴァンには今回の戦闘に参加しないように言った。オヴァンは雑誌を取り出しながら下がった。
「両方からかかってきても大丈夫ですよ。死ぬ順番が変わるだけですから」
「私の台詞とらないでくださいよぉぉおおおお!!」
怒号と共に執事は泣き顔でオジンに突進してきた。鋭利な蹴りがオジンの頭部を狙った。既にオジンの腕でガードされている。
その体勢時、執事の頭はがら空きだった。オジンに笑みがこぼれる。
オジンが執事の蹴りに吹き飛ばされるまでは。
登場 城主吸血鬼
「!!!」
オジンが壁に激突した。
今度は執事の方から笑みがこぼれた。それは、その格好には似合わないくらいに好戦的で醜悪な顔だった。
「申し送れました。狼男のジンです」
丁寧なお辞儀をする。オジンは体をゆっくり起こしながらジンを見据える。久しぶりに出来る相手のようだ。
オジンの拳が光だした。いつでも技が使える体勢にする時はいつもこうするのだ。ジンにもそれがどういう事なのかわかっているらしい。不適な笑みを浮かべている。
オジンは地面を蹴り、素早くジンの懐に飛び込んだ。浴びせるようなラッシュがジンの体に叩き込まれる。…はずだが、ジンの体には一向に当たらない。
そのラッシュに足技を組み込みつつ、更なる猛攻でジンを襲うオジン。
それから、数分。涼しげな顔で避け続けるジンに対して、オジンは何も出来ないでいた。オヴァンは驚いている。雑誌についてきたキャンペーンが先月で終わっていることに!
「どうしました?段々と動きが鈍くなって来てますよ?」
ジンに足払いをされ、転ぶオジン。体が地面に到達するより早くジンの第二撃目の蹴りを喰らい、もう一度壁に激突した。
「ヘヴシッ」
オジンが吐血(血ではないが)した。彼も、既に遊んではいない。一種の焦燥感にも似た感情が彼にも出てくる。…このまま長期戦に持ち越せば、手が読まれつくされて勝てなくなる。
そう踏んだオジンは次で決めるつもりでいた。
これまで以上の全力疾走で、人の目には映らない速度で移動してジンの後ろを取った。
「クライシスKO!」
オジンの手の光が最高に達した。一匹の狼男の体の細胞の一つも残らず殲滅せんとオジンの体から大砲のごときパンチが繰り出される。
「どんな攻撃も、当たらなければどうってことないですね」
その攻撃の軌道をいなされてずらされる。ジンの右腕が狼のように毛深くなったのが見えた。その攻撃がオジンの顔を捉え、体が三度壁に激突された。
投げ捨てられた空き缶のごとくオジンの体が床の上で何度か跳ねると、そのまま動かなくなった。
そして、ジンはオヴァンを指差した。
オヴァンは、ゆっくりとマッサージチェアから体を起こした。雑誌をバタムッと閉じ、隣の台に置いて立ち上がる。
その手にはリンゴがあった。
ゆっくりとそのリンゴを落とした。そのまま重力にしたがって、地面まで落下する。ゴトッという音がしたのと、ジンの腕がオヴァンの体を貫くとのは同時のことだった。
「あっけなかったな」
ジンは呟いた。…しかし、そこには、オヴァンの姿がない。
「なにっ!」
ジンが貫いたのは…「美肌効果!3ヶ月で20歳肌に!」というタイトルの雑誌だった。何故だかオヴァンの気配を後ろに感じ、ゾクリとする。
「今、ゾクリとしたね」
後ろから声がした。恐怖して、その場から動けない。
「今、恐怖したね」
あまりの恐怖に、声を上げて後ろ回し蹴りをした。
しかし、それはまるで紙飛行機でも掴むようにして受け止められた。
そのままオヴァンは杖を掲げた。それは銀色に光ると、狼男の顔を真っ青にさせた。
杖は、ジンの体に振り下ろされた。大きく振りかぶられた背丈分の鉄球にでもぶつけられたような痛覚が彼を襲った。
「うげぇえあぁ」
一度からだがバウンドすると、もう一度空中に体が浮かんだ。その隙に、オヴァンの杖が横から第二撃目を放った。殴られたあとが物凄く熱い。
第二撃目が右横腹に直撃した。今度は焼けている巨大な鎌で切られたような感触に襲われる。
「ぎゃああぁあ、あぁああ!」
あまりに痛みに、目を見開いた。全身からは汗が滲み出した。にも関わらず、外傷がない。別の意味で恐怖だった。
横に吹き飛ぶ前に、斜め左から杖が振り下ろされる。
どこにも吹き飛ばされるのも許されず、死に一度だけ経験するはずの激痛を十数回、叩き込まれる。それでも、意識が失うのも許されない。
最後の一撃は、建物そのものに潰されるような重い一撃だった。ジンは糸が切れた人形のように気を失い、倒れた。
オジンは目を覚ました。目の前には、1人で喚いているジンとオヴァンの姿があった。オヴァンはしゃがみ、ジンに向かって呪文を詠唱しつづけている。
ジンが一際大きい声を上げたかと思うと、動かなくなった。オヴァンはせんべいをかじりながら立ち上がった。
「そんな呪文覚えとったとね」
「魔法ではある程度したら覚えられる中位程度の呪文たい」
とは言え、オヴァンのソレは簡単ではないだろうが…。
気絶したジンを置いて、二人は先へ進んだ。途中、オヴァンはちゃんとオジンに回復の呪文をかけた。
それから、ようやくあの吸血鬼の部屋にたどり着いた。
二人は勢い良く部屋の扉を開けた。
そこには、この城の当主であるメイスがいた。
メイスは、部屋で花びらを一枚一枚千切っていた。その近くの空間だけが何やら少女的な絵になっている。
「うふふ、私のもとには面倒事は…来る、来ない、来る、来ない…来る、来ない、来る、…来ないっ!キャッ、私ったら幸運ね!」
1人でキャッキャと騒ぎながら、ベッドに飛び込んだ。柔らかい敷布団が彼女の体をふわりと受け止める。そして彼女はいつもの様に、妄想にふけこみ始めた…
「私の王子様はきっと、運命の天の川を、神様の怒りをおそれずにかき分けてきてくれるに違いないわ」
彼女は急にベッドから起き上がり、まるで男役の声優のような声で言った。
「お前に会いたかった。理由も根拠も必要ない。何故なら俺たちには運命の糸で結ばれているのだから…キャッ☆」
メイスは言い終えると、大きな枕を抱きながら恥ずかしそうにバタバタとしている。
…と、何故だか部屋の扉が開いている。
その奥から、これ以上ないくらいに哀みに溢れた顔をしたオジンとオヴァンが立っていた。オヴァンの顔には、イタい、この子イタい、という言葉を表情に表したような顔も足されている。
メイスの顔は、熟れたトマトのように真っ赤になった。
任務完遂
「いい、いいたたたの!?いつからっっっ!?」
「一部始終」
オヴァンが言った。
「うぉぉぉおおおおおぉぉおお、生きて帰れると思うなぁぁあーーーーーーっ」
彼女の怒号と共に、彼女の魔力が弾丸となり、部屋中に飛翔した。彼女を中心にありとあらゆるものが撃ち壊れていく…。
二人はぶつからないようにしながら死を描く流星の幕を見極めて避けていく。…というか、当たっているのに外傷がない。
「く、何であたらないのっ!?」
超高速の弾丸を放ち続けているのだ。防ぐ事はおろか、避けるなんてありえないはずなのだ。しかし、オジンは答える。
「当たり判定にあたってないからなんDA」
ちんぷんかんぷんな事を答える。
メイスは後二箇所に魔法陣を設置し、高速の弾丸を放たせつつ二人を直接攻撃する事にした。
魔力の形を棒状にし、オジンの体を滅多切りにする。
しかし、それも当たらない。
「キイィィイ、何で当たらないのよぉおお!」
「当たり判定に当たってないからなんDA」
この現象を分析したりするより、とりあえずその「当たり判定」とやらに攻撃を仕掛けることにした。テニスのラケットのような形に変形させ、オジンの体を縦横微塵に切りつける。
しかし、やはり当たらない。
「うぐぐぐぐ、全然あたらないじゃない…。こんなの、チートよ!!」
「俺の当たり判定は1pxだからね」
オジンはへそを指差し、親指を立てた。
「当たるかそんなもん!!!!」
叫んでバックステップするメイス。
何となく、その当たり判定とやらを無視して攻撃する方法を思いついたらしい。勝利を確信した笑みがメイスの顔に浮かんだ。
オジンとオヴァンも身構える。
「ブラッディー・ドリーマ!!」
彼女の放たれた魔力が一気に引き戻され、圧縮される。
飛翔した弾丸がそのまま戻ってくるわけなので、二人はそれに応じて回避し続けてメイスに与えられる攻撃手段はなかっただろう…。
それから、彼女の元に戻ってきた魔法陣が一つになり、邪悪な輝きを見せる。
「何か危ない予感がする」
オヴァンが口にした。
その瞬間、サファイアの輝きをした魔力の海が二人を飲み込まんとする。大河が彼女の手から放出されると、それはあっという間に部屋に満たされる。
崩壊していた室内から魔力が溢れ出て、様々なものを巻き込んでは消えて行った。
「ぜえぇええ、はぁああ、ぜえええ、はぁぁあ」
メイスは肩で息をしながら床の上に手をついた。
あまり血を飲まない上で、これだけの魔力を放出したのだから当然といえばとうぜんである。
やがて四つんばいに倒れた。微弱な力ももう出せない。
とは言え、奴らは倒せたはず…
…魔力が部屋から消え失せた。やつらがいた場所から、影も形も…
あった。魔力に巻き込まれる前のままの場所に、ただたたずんでいる。
「な、何ィィイッッ!??」
思わずどこかの劇画の漫画みたいな反応をしたメイス。
ついでに、オジンとオヴァンの画風も劇画になっている。
オジンがコツ、コツと近づいてくる。それも最初に出会った時に持っていたあの大きな鋏を持って。
く、来るな!…もう声にもならない声を頭の中で叫び続ける。無論、彼らには届いていない。届いたところでそうしてくれはしないだろうが…
目の前に鋏が突きつけられた。
メイスは、死ぬ前にした行動と、これまでを振り返る。それは後悔と羞恥にあふれたもので、あまりに…
…ザクリッ
しばらく、目を閉じていた。「メイス」が終わったのだと思い、全てを受け入れるつもりでいた。
しかし、いつまで経ってもお迎えが来ない。
目を開けて見るが、特に目立った外傷はない。死んではいないようだ。
ただ、爪が切られていた。伸びたとこだけ。
「…た、助かったの?」
部屋でポツリと呟いた。先ほどまでの喧騒から何までが嘘のようにひっそりと静まりかえる。それから、ゆっっっくりと身体を起こした。
「な、なんだったの今のは…」
その問いに答えられるのは、まだ生きている城内の部下を含めていなかった。
…それから、オジンとオヴァンはお城に帰還した。
王妃は「何だかちょっと硬さがたりないけど、まあいいか」と言っていた。
二人は、再び城内を清掃していた。
前のように愚痴は言っていない。いきなり意味不明な任務を言いつけられ、意味不明な場所に飛ばされることがない事に安心して毎日を過ごしている。
そんな一週間を過ごしていた。
…そう、あの一件があんな問題になっていたとは知らずに…
オジン&オヴァン物語