蒼色の太陽 ~Y&R 2nd~

蒼色の太陽 ~Y&R 2nd~

蒼色の太陽 ~Y&R 2nd~

リノとユウタが沖縄に住み始め、籍を入れ1年が過ぎようとしていた。。。


ユウタは漁師に弟子入りして、毎日早朝から漁船で沖に出ていた。
少ない稼ぎではあるけど魚は食べられるし、質素なだけでそう苦しい生活では無かった。
でも、ちょっとやそっとの苦しみは南の島の優しい風が洗い流してくれる。
それに隣の家のBARのママ、アツミママが教えてくれた。
「なんくるないさ」
苦しみや悲しみを吹き飛ばす不思議な呪文なんだって。

あたしはそのアツミママのお店で週末だけ手伝わせてもらってた。
今はお腹にユウタとあたしの子がいるので、お休みしてる。

「リノ、いるけ?」
アツミママが庭先に皿を手に現れた。
「あー、ハイタイママ。どうしたんです?」
あたしはもう2年近くもいるので、すっかり現地人として馴染んでいた。
「あのよー、チャンプル作り過ぎたけ、持って来た。食べなよ」
アツミママはたまにこうして食べ物を持って来てくれるので助かる。

「んでさーよ、ユウちゃんさ今日オジサン上がってたらウチ用に一匹譲って欲しいって云っといてくれる?」
営業用に仕入れたいと頼まれた。
「あ、いいですよ。連絡入れてみますね」
あたしは携帯で、漁に出てるユウタに連絡した。
「あ、パパ?おつー、あのね今日ってオジサン良いの上がってる?うん、おぉー大きいの上がってるんだ。アツミママがそれ欲しいから押さえといてってさ」
あたしは携帯を切るとOKサイン出して
「上がってるって、結構大物だってw」

「いいねいいね、お代とりあえず戻ってきたら教えてね」
ママはほくほく笑顔で云った。

「お茶ってきます?まだ時間あるし」
あたしは前掛けを弄りながら云った。
「うん、そうだね。ちょっくら寄らして貰うわ」
アツミママは縁側に腰掛けた。

しばし話してると、ユウタから連絡が来た。
「おぅ、リノ。オジサンとりあえず船長が分けてくれるってたから。2でOKだって。
「2ね、了解ー。。。つかもう着いたん?早くね、今日。天気悪くなるのん?」
あたしは手で2とサインしながら口を動かした。
アツミママはOKサイン出して首を縦に振った。

アツミママは、あたし達二人の過去を唯一沖縄で知っている人だ。
理解もしてくれてる。
彼女も元は内地の人で20年ほど前に全てが厭になり、全て捨てて此処へ来たという。
あたしにもし母親がいたとしたらアツミママの年齢くらいだろう。
その割にはとても見た目は若くて、その年齢には見えない、美魔女だ。
とても良くしてくれる、優しくて綺麗な人だ。


ある日妊婦検診であたしは街に出た。
とりあえず何も異常も無く、来月の終わり頃には無事に出産出来そうだとの事。
終わって、軽く買い物してバス停へ向かって歩いていた。
前の方から歩いて来た見知らぬ女の人が突然声を掛けて来た。
「あの、矢室里乃さんですよね?」
こっちに来てからは念の為に苗字は通名の「島崎」姓を名乗ってたので、旧姓の本名を云われて
「えっ⁉︎」
と驚いた声で云うと、お腹に物凄い激痛が走った。
「死になさいよ!死になさいよ!ねぇ⁉︎」
女は包丁であたしのお腹を刺していた。
「死ねよ!早く死ねぇぇぇ‼︎‼︎‼︎‼︎」
と半狂乱で刺したあたしのお腹を膝でガシガシ蹴って来た。
あたしは抗う事も出来ずに膝から崩れ落ちた。
それでも尚、女は痛み大量の血を吹き出したお腹を爪先や踝で蹴り続けて、死ね死ねと喚き続けている。
やっとこの異常な状態に気付いた近くの人達が女を取り押さえた。
あたしの視界は砂嵐の様にぼやけて。。。力も入らず壁に崩れる様にもたれかかっていた。


気がつくと病院のベッドの上だった。
お腹を見ると。。。
膨れていたのがぺたんこになっていた。。。涙が一気に溢れ出した。

「お、気が付いたのか?」
ユウタが手を握っていた。

「ユウタ。。。赤ちゃんはダメだった?」
あたしは溢れ出して止まらない涙でぐしょぐしょになって訊いた。

「いや、まだ死んではいない。。。刺された包丁は肩の辺りを掠ったくらいだったから、ケガは大丈夫だったんだ。だけど刺されて破水して時間経ち過ぎてたのと、1ヶ月半くらい早いし蹴られてたのがヤバいらしい。。。今集中治療室に居る」
ユウタは祈る様に溜息をついた。

「。。。誰だったんだろ?刺した女の人。。。」
あたしは理不尽でならなかった。

「ミノル。。。お前があの時撃って死なせてしまった奴居たろ。あいつの女なんだと。。。どうして此処が分かったんだか。。」
ユウタは苦い顔で俯いた。

「ちょっとナースステーションに報告して、タバコ吸ってくるわ。。。」
ユウタは立ち上がって、部屋を出て行った。。。


喫煙所でユウタは一人タバコを吸っていると、一人の男が入って来た。

ユウタは気にも留めず俯いてタバコを吸い続けていると
「よぅ、松井。久しぶりだな」
ユウタはびっくりして顔を上げて、その男を見ると
「篠山!。。。てめぇがあの女差し向けたのか⁉︎」
ユウタは立ち上がると篠山を睨み付けた。

「俺は止めとけって一応止めたんだがな。。。ウチの方でももうお前は破門して所払いな形取ってんだし、ムダな揉め事したくなかったんだけどなぁ。でもよ若ぇ衆とはいえ嫁にせがまれたんではな、示しも付かんからな。面倒事は起こすつもりじゃなかったんだが」
篠山はタバコを燻らせながら云った。

「わざわざ調べたんだろがよ?あ?」
ユウタは篠山の胸倉を掴んだ。

「まさかあの女が刺すまで、やるたぁ思って無かったんだよ!とりあえず落ち着けや!」
篠山は胸倉からユウタの手を剥がすと胸ポケットから封筒を取り出した。

「これ取っとけ。治療費と慰謝料だ。。。」
というと篠山は分厚い封筒をユウタに押し付けて渡して、タバコを消すと喫煙所から去った。

「クソったりゃー!!!!」
ユウタは喫煙所のガラス戸にタバコを投げ付けて、蹲って悔し泣きした。


赤ちゃんは15日間頑張ったが、結局ダメージが酷く亡くなってしまった。。。

あたしは泣くことさえ出来ないくらいに堕ちて、無気力無表情で赤ちゃんの亡骸を抱いて火葬場へ行った。
出来るものならあたしも一緒に焼いてもらいたいとすら思った。

ユウタはあたしから引き剥がすように赤ちゃんを受け取って小さな柩に寝かせると
「ほら、リノ。花を敷き詰めてやろうぜ。。。15日でも俺たちの娘だったんだ。可愛く見送ってやろう。。。」
ユウタの声は震えていた。

お花をいっぱい敷き詰めて囲んであげたら、お人形のように可愛くなった。。。

柩の蓋を閉める時。。。ようやくあたしの頬に一筋の涙が零れた。

「。。。ごめんね、守ってあげられなかった。でも、ありがとう。。。短い間でもママで居させてくれて。」
あたしは泣き崩れた。

ユウタはしゃがみ込みあたしを抱いて支えた。。。

柩が焼き窯の中に入れられた。

扉が閉められた瞬間、あたしは声を上げて泣くことしか出来なかった。。。
ユウタも
「ちくしょぉぉぉ!!!!!」
と叫び、地面を手が壊れる位の勢いで殴り泣き崩れた。


焼いてしまうにはそう長くは掛からなかった。

ほんの僅か、骨は。

丁寧にあたし達は骨壷にお骨を収めた。

アツミママも来てくれた。。。ずっと泣きながら哀しみに暮れるあたし達を見てくれてた。


3人で帰って、家でずっとお酒を飲んでいた。。。
あたしは本当は手術して半月くらいしか経ってないのでダメなんだけど、どうでもよかった。。。


「ユウタ、居るか?」
庭から、ユウタの漁師の師匠の友吉さんが来た。

「あ、友兄。どもです。。。すみません、ずっと休んでて。。」
ユウタは酔っているがしっかりとこの半月休んでる事を詫びた。

「いやいや、大変だったな。。。嫁は身体大丈夫なのか?」
友吉さんは心配そうに気遣った。

「まだ、本調子じゃないんだけど、飲んでたいみたいで。。。今はやりたいようにやらしてやってます。。。」
ユウタはタバコに火を点けた。

「こういう時にちょっとなんだが。。。ハザマのオジィが引退したいらしいんだわ。オジィんとこは息子亡くして跡継ぐ者いねーからよ、ほんで誰か舟継ぐ奴いねーか?って云ってるんだけど、どうだよ?お前ももう2年だし、継いで一本立ちしてみねーか?」
友吉さんもタバコに火を点けて云った。

「あ、いいじゃんいいじゃん、継いじゃいなよ。ハザマのオジィんちの船ならまだ全然結構新しめだし、こういう事もあったんだし気持ち入れ替えるのに受けて見たら?」とアツミママが云った。

ユウタは複雑だった。。。篠山に居場所は探られて知られている。
だけども、何をしてくる訳でもなさそうだ。。。でも心配。。

「ちょっと考えさせて下さい。。。子供亡くしたばっかりだし、気持ちの整理がつかねーし。。」
ユウタは神妙な面持ちで云った。

「やればいいよ。。。あたしの事は大丈夫。一本立ちすれば稼ぎもよくなるし、チャンスじゃないの?居場所知られてるのかもしれないけど、あたしを刺した女は捕まったし、あたし達はもう十分罰を受けたよ。。。赤ちゃんにはすごく申し訳ない事しちゃったけど。。、」
あたしは泣いて掠れた声で云った。


「友兄。。。やってみようかな。。。こういう時に転機が来たのかもしれないしね。明日辺りハザマのオジィとこ連れてって下さい」
ユウタは頭を下げた。


赤ちゃんを失って、あたしも刺されたり蹴られたりしたせいでもう産めるかどうか分からない身体になったけど。。。二人いれば独りじゃない。

この次の日ユウタはハザマのオジィから船を譲り受けた。。。篠山から寄越されたお金を払って買い取る形にした。

ユウタが一本立ちデビューした日は、仲間達が盛大にお祝いしてくれた。

此処は本当に居心地がいい場所で、乱されはしたけど、それはやった事が自分に忘れた頃に返ってきたということ。。。とてもとても悲しく悔しいけれど、

「なんくるないさ」

と魔法の呪文で乗り越えていこう、そう強く、強く思った。。。

蒼色の太陽 ~Y&R 2nd~

蒼色の太陽 ~Y&R 2nd~

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-05-14

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