REVOLUTION NINJA
○民家の前(昼)
フランス人のカロンの呆然とした顔。
呆れたような顔の爺さん。
爺さん「だから、いないよ、忍者なんて」
カロンの持つ漫画(NARUTO)。
カロン「ソ、ソンナ…イルデスヨ…」
爺さん「いねえって、この平和な日本に、どうして忍者が必要だよ、ったく」
カロン「サムライ、イナイノシッテマス。デモニンジャハ、イルデショ?」
爺さん「しつこいな!とうの昔に消えちまったよ!」
家の中に入っていく爺さん。
カロン「ウ…ウソデス…ニンジャ、イマス…」
突如大雨が降り始める。
○草原(夕)
大雨と雷。暗い中、悶えるカロン。
Mカロン「嘘だ!嘘だ!忍者がいないなんて!それなら、何故私は何カ月も働いて、この日本に来たのだ?おお、神よ!あまりにも残酷だ!忍者もまた、侍や騎士たちのように、歴史の流れには逆らえなかったのか!私の憧れた忍者は!忍者は!」
草原に突っ伏し、吠える。
近くに雷が落ちる。
Mカロン「いや…確かに、おかしいと思った…。この日本は西洋的過ぎると思った…。いまやこの国に住むのは、侍でもなく忍者でもない、西洋の真似をするだけの猿共しかいない…」
カロン、悠然と立ちあがる。
Mカロン「私はフランス人だ…。歴史を人間の力で切り開いてきた、フランス人だ…。ならば今一度ここに歴史を変えようではないか、先人達に恥じぬよう。忍者が居ないなら、私が忍者になればいい。そう、REVOLUTION NINJAだ!」
雷が鳴る。
○旅館(夜)
びしょびしょのまま部屋に通されるカロン。
女将「お客様、身体が冷えているようですので、当旅館自慢の温泉にどうぞ」
女将、出て行く。
Mカロン「温泉…、NARUTOにもでてきたな…」
カロン、漫画を見つめて、涙ぐむ。
歌いだす。
カロン「♪僕は夢を見ていたのだろうか、君のまく、まきびしの数々。僕は夢を見ていたのだろうか、君の放つ、くないのスピードに。人かと思えば、丸太。3人かと思えば1人。1人…。僕は夢を見ていたのだろうか、君のまく、まきびしの数々。(アヴェマリアのメロディ)ああ、忍者。ああ、忍者」
目を閉じる。
○旅館(朝)
女将「起きて下さい、朝食の準備ができましたよ」
ガバっと起きるカロン。
○街(昼)
人の多い通りを携帯を見ながら歩くカロン。
周りの日本人はぶつからぬようカロンをよけて歩く。
ぱっと顔をあげてブックオフの前で立ち止まる。
○ブックオフ(昼)
「忍者の極意」という本を読むカロン。
Mカロン「なるほど、忍者とはまず、第一に気配を悟られぬこと。多くの極意は、この為の道具だと言っていい…」
カロン足元に店員がいるが気付かない。
Mカロン「そして、その他の極意は、気配を消すのに失敗した場合の、保険の様なものだと言っていいだろう。クナイ、手裏剣、まきびしを多く使う者は、大した忍者ではない…か。目から鱗だ…」
店員「(足元から)失礼します」
カロン、驚き、びくっとする。
○洋服店
きょろきょろしながら洋服店に入るカロン。
Mカロン「この暑い季節に長袖は怪しまれるな…最も目立たぬ、流行のファッションを取り入れよう…それにしても、この店店員はいないのか…」
棚から服をとって眺めるカロン。
店員「(カロンの背後から)お似合いっすよ!試着してみますか!」
カロン、びくっとする。
店員「試着、しましょうよ!」
カロン「ハ、ハイ…」
○寿司屋
寿司を食べながら本を読むカロン。
Mカロン「分身の術、その実は、門の前で声を変えているだけ…?そうすることで門番に複数人だと錯覚させる…なるほど…」
板前「こちら、マグロになります!」
カロン「ア、アノ、タノンデナイデス…」
板前「日本語お上手ですね!外国の人が日本の文化愛してくれてるなんて、嬉しいなあ、だから、そのマグロ、サービスです!」
Mカロン「愛想のいい主人だ、惜しい、彼もまた忍者でないなんて…」
板前、裏に行く。奥から声が聞こえてくる。
板前「おい!てめぇ!ちゃんと包丁磨いとけって言ったじゃねえか!ああ?なんだいいわけかコラ!クビにすんぞ!おい!コラ!」
カロン、その声を聞きながら、気まずそうにお茶を飲む。
○お土産屋(夕)
お土産屋の前に立つカロン。息が上がっている。
× × ×
お土産屋の中で、声をあげながらカゴに買う物をいれていくカロン。マキビシ、手裏剣、くない、忍者のコスプレ服、短刀、等を買う。
× × ×
会計時。
店員「3万3500円です…」
カロン、少し上を向き涙を流している。
チーンというレジの音。
○城の近く(夜)
完全忍者武装をしたカロン、辺りをキョロキョロしながら、かぎ縄をバッグから取り出す。
Mカロン「誰もいないここなら、心おきなく修行ができる…よし」
後ろに地味な女の子がいるが気付かない。地味な女の子、カロンに気付き、携帯を取り出す。
カロン「(独り言)ワレハコノハノニンジャ、カロンデアル…フフフ、フフ」
カシャという携帯の音とフラッシュ。
すぐさま振り返るカロン。音もたてず物凄いスピードで早歩きしていく少女。
カロン「チョ、チョットマッテ!」
少女、見えなくなる。
Mカロン「それにしても今日、何人もの気配を感じ取れない人間に出逢った…おかしい、忍者はいなくなったはずじゃ…」
パトカーの音がして、警官が来る。
警官「動くな!なんだその格好は!」
カロン「チ、チガイマス!」
警官「こい!車に乗れ!」
パトカーに乗せられるカロン。
カロン「マ、マッテクダサイ!ノーーン!」
遠ざかっていくカロンを載せたパトカー。
○留置所(夜)
暗い部屋で体育座りをしたまま俯いているカロン。
Mカロン「なんて事だ…スパイ容疑で、打ち首獄門だろうか…。いや、それはない、もうこの日本には、独特の悪しき風習も良き風習もないのだから…」
オリが開き、警官にでるように命じられる。
警察「うん、あんまり怪しい事しないでね。もう、日本に忍者なんていないんだから」
カロン「(悲しそうに)ハイ…」
カロン、警察所を出る。
○旅館(夜中)
静かに部屋に入るカロン。買った忍者グッズを全てゴミ箱に捨てはじめる。
「忍者の極意」を手に取り、捨てる前にちらりと見る。
本には「忍者の最終形態は、誰にも忍者と気付かれず、静かに生き残っていく事である。何かに頓着し、何かを為そうと思う者は、忍者としてまだまだである」と書かれている。
カロン…本を閉じ、考える。
Mカロン「そうか…忍者は、生きているんだ。侍は、自らを死ぬ事を美徳とし、戦いの螺旋の中に死んだ。軍国主義は、人を殺し、そのために殺され、西洋化によって死んだ。しかし忍者は、生きる事を選んだ。時代から消え、忍び、彼らはいつしか思想に変化し、この国に溶け込んだのだ…穏便こそがこの国の美徳なのかも知れない…この国の人々は、皆、忍者なのだ…」
最後のページをめくるカロン。すると著者の住所が載っている。
顔をあげるカロン。
○民家の前(朝)
最初に忍者はいないと言われた家の前に立つカロン。
カロン「アナタダッタンデスネ…」
爺さん「ああ?なんだ、また来たのかよ外人さん。忍者はもういねーぞ」
カロン「エエ、モウニンジャハイマセン、デモイキテマス…」
忍者の極意を見せるカロン。
それを見て、ふんと笑う爺さん。
カロン「(頭を下げて)ソレデハ、シツレイシマス」
立ち去るカロン。すると、目の前の木に手裏剣が突き刺さる。
カロン、それを手に取り、振り返る。
爺さんが後ろを向きながら、それじゃあな、と手をあげ、家の中に入っていく。
カロン、嬉しそうな顔。
木に突き刺さった手裏剣を取ろうと、一度手を伸ばすが、取るのを止め、そのまま意気揚々と立ち去る。
終わり
REVOLUTION NINJA