運命の相手

○歩道(夕)
   激しい雨が降っている。
   傘をさして歩くヒロ。スーツを着て、高身長。顔もカッコいい。
   少し離れたところに斜め横断をしようとする女性いる。ヒロ、その女性を眺めて、目が合う。少し下を向き考える。
   大きなクラクションが鳴る。
   音の方を見ると女性がトラックに轢かれそうになっている。
   ヒロ、走り出す。そのまま女性に飛びつき、助ける。
   抱き合ったまま見つめ合う二人。雷がなる。

○喫茶店(夕)
   びしょ濡れで喫茶店に入ってくる二人。店員が気を利かしてタオルをくれる。
× × ×
   席に着き、タオルで髪を拭く二人。
   女性、手をとめて頭を下げる。
女性「本当にありがとうございます!もう死んだと思いました…全然気がつかなくて…」
   俯く女性。
ヒロ「無事でなによりだよ。それにしても、僕達会ったことあります?」
女性「どうしてですか?」
ヒロ「いえ…」
   女性、ヒロの目をみて。
女性「実を言うと…私は会った事あるんです」
ヒロ「私は?」
女性「昨日、その、夢の中で…貴方とそっくりな男の人と…結婚している夢を…」
   ヒロ、驚く。
ヒロ「結婚…君と?」
女性「…はい、ごめんなさい、変な事言って」
ヒロ「いや、実を言うと、僕も同じ夢を見てて…それで斜め横断してる貴方を見た時、変だなと思ったんです」
女性「うそ…、話合わせていませんか?」
ヒロ「いや、それが違うんだ、ホントに…」
   ヒロ、携帯を女性に見せる。
ヒロ「ほら、友達に朝送ったメッセージ。ここ、夢の中で綺麗な女性と結婚していた、運命の女性かな?ほらね?」
   女性、ゆっくりと男性の目を見る。
女性「もしかして…これって、運命ってやつですか?」
ヒロ「いや、そんな大げさな…」
女性「大げさじゃないですよ、こんな外国の田舎で、同じ日本人同士が、同じ夢を見て、偶然命を助けられるなんて…運命です…」
   二人、見つめ合う。
   ガっと手を取り合う。
ヒロ「結婚して下さい…」
女性「(うつむいて)…はい」
   ウエイターが珈琲を置きに来る。
   慌てて離れる二人。
二人「あ、ブラジル」
   二人、見合い、笑い合う。
女性「ブラジル、美味しいですよね」
ヒロ「ええ」
   ヒロ、そういいながら砂糖とミルクを大量にいれる。
女性「甘党なんですね…」
ヒロ「ええ、このままだと苦くて…」
女性「そうですか…。そういえば、出身はどちらなんですか?」
ヒロ「北海道です」
女性「え、私もです!」
ヒロ「ホント?どこ?僕は札幌」
女性「私も札幌です…、札幌の北区」
ヒロ「僕もだよ!北区の北高校出身」
女性「…同じだ」
ヒロ「これも、運命かな」
女性「信じられないです…」
ヒロ「そんな事無いよ、何か見えない強い力が僕らを引き寄せたんだよ…」
女性「そうですね…」
ヒロ「いい学校だったね、唯一肥料のにおいが臭くて臭くて。あれだけはどうにかして欲しかったね。もっと遠くで農業やれってかんじ?ねえ、そう思ったでしょ?」
女性「…あの」
ヒロ「いやあ、しかもあそこの農家の夫婦がさ、ブルドッグみたいで、学校じゃブルドッグ兄弟って言われてたよね。あはは、あ、君の代まで続いてるかなあ?」
女性「…あの、その家…私の実家です」
   ヒロ、動揺してコーヒーカップをすこしガチャンと鳴らす。
ヒロ「…あの、いや、違う家だったかな?」
   女性、うつむく。
   ヒロの携帯が急になる。愉快な音楽。
ヒロ「あ、ご、ごめん…」
   ヒロ、電話を切る。女性、顔をあげる。
女性「私も着信音…おなじです…」
   女性、携帯を鳴らす。
ヒロ「あ、ほんとだ、この曲好きなの?」
女性「はい、この世で一番好きです!」
ヒロ「ホント?僕もなんだよ、最高だよね、このメロディーがなんとも切ない感じで」
女性「え、明るいメロディーじゃないですか?」
ヒロ「え、そうかな?切なくない?」
女性「いえ、明るいと思いますけど…」
ヒロ「あ、そう…」
   ヒロ、貧乏ゆすりをする。
女性「あの…貧乏ゆすり…」
ヒロ「あ、ああごめんごめん、癖なんだよね」
女性「…貧乏ゆすり、苦手で…」
ヒロ「うん、われわれの最大の不徳は、われわれの最も幼い時代の癖に始まる、だ。やめるよ」
女性「モンテーニュですか?」
ヒロ「お、よく知ってるね」
女性「大学では哲学を専攻してたんです…」
ヒロ「本当?僕もなんだよ…もしかして…大谷大学…?」
女性「…はい」
ヒロ「まじかよ…」
女性「運命って、恐いですね…ふふ」
ヒロ「ああ、そうだね、ははは」
   二人、笑い合う。
   スパゲッティが運ばれてくる。
ヒロ「お、やっと来たか、頂きます」
女性「頂きます」
   二人とも左手で食べる。
二人「(お互いの手を見ながら)あ、ははは」
   二人、食べ始める。ヒロ、食器をカチャカチャさせて食べる。
   女性、不愉快そうな顔でそれをみる。すると時計が自分と同じ事に気が付き、少し笑って食べ始める。
ヒロ「(独り言)うわ、ピーマンだ…」
   そういってピーマンをスパゲティの横によけ始める。
   女性、不愉快そうな顔。しかし、いやいやと首を横にふり、食べる。
   ヒロ、スパゲッティを音を立てて食べる。
   女性、男性を見る。
   ヒロ、肘をついている。鼻をすする。くちゃくちゃ音を食べる。口に物が入ったまま。
ヒロ「おいひいねぇ」
   女性、不愉快な顔。
ヒロ「どうしたの?一口もらっていい?」
   女性の皿から勝手にスパゲティを取る。
女性「ちょ、ちょっと」
ヒロ「あ、髪の毛入っているよ、君の」
   ヒロ、店員を呼ぶ。
ヒロ「(大声)あのねえ!飲食店としてなってないよ!シェフ呼んで来てくれないか!」
   ヒロ、貧乏ゆすりをしている。
   女性、その姿を見て、非常に不愉快な    
   顔。
   ガタン、と立ちあがり、荷物を持って店をでていく。

○道(夕)
   女性、斜め横断し、反対の歩道まで行く。店の中から、ヒロが出てきて、車道を隔てて女性を大きな声で呼ぶ。
ヒロ「おおーい!どうしたんだい!」
女性「ごめんなさい!あなた、運命の相手じゃ無かったわ!」
ヒロ「そんな、あんなに共通点があるのに、運命じゃないなんてことあるかな!」
女性「ええ!あったわ!」
ヒロ「じゃあ僕らはなんだったんだい!」
女性「偶然よ!ただの、気持ちの悪い偶然!」
   女性、立ち去る。
ヒロ「ちょ、ちょっと待ってよ、気持ちの悪いって…」
   ヒロ、斜め横断を始める。
ヒロ「ちょっと待ってってば」
   ヒロ、トラックに車に轢かれる。
   女性の立ち去る背中。
                終わり

運命の相手

運命の相手

運命の出会いでも続かないとなー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-12

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