オトモダチ事情
短編ですが、3部作に分かれています。
(男視点・女視点・後日談)
「ヒロってさ、終わった後つめたくなるよね」
女の一言から始まる、二人の複雑で単純な恋心を
切なく描きました。
大人のような子供の恋、恋愛、関係。
男視点
「ヒロってさ、終わった後冷たくなるよね」
顔だけをこちらに向けナミは言った。うつぶせの状態でベッドに横たわっている。もちろん服はきていない。なぜなら『コトが終わったあと』だからだ。豆電球しかついていない、薄暗いオレンジの光では、ナミの表情をはっきりと見ることはできなかった。
「優しくしてほしいのか?」
おれはベッドに腰掛け、机に手を伸ばす。薄暗い部屋の明かりと、メガネをかけていないため、視界がはっきりしない。自分の煙草を探すのも一苦労だ。目を細めて探していると、目の前に一本の煙草。
「まさか、優しくする気もないくせに。」
フィルターを見る限り俺の煙草だった。そしてナミが加えているのも同じ煙草。ナミもいつの間にか起き上がって、俺のジッポを勝手に使っている。
俺は自分の数センチ先にある煙草の火を見つめていた。何を言い返せばいいかわからなかった。いや、言い返せるけど、言わないことにした。それが俺たちの暗黙の了解だから。
体は重ねる。でも優しさはない。
つまり、「オトモダチ」だ。
煙草の火がジジジと俺に近づいてくる。綺麗だ、なんてガラにもないことを思ってしまう。ついでに、なんでこんなことになったんだろうとも思った。考えてもしょうがないことを追求するのは嫌いだ。深みにはまって、沈んでいくだけだとわかっているから。考えてもしょうがない・・・いつのまにか、なんてよくあることだ。自分にそう言い聞かせて、それから早く帰れと、頭の中で警告音が鳴る。これ以上沈まないための予防線を、超えないために。俺は煙草を灰皿に押しつけ、上着を着た。
「優しさなら・・・彼氏にでもねだれ。」そう言って玄関に向かおうとしたら、手を握られた。ナミは末端の冷え性で、手は冷たい。それがなんだか心地よかった。少しだけ振り向くと、「おやすみ、またね。」と穏やかに笑ってやがる。
『またね』なんていうが、お前からは連絡してこないくせに・・・あー胸糞悪い。
俺は何も言わずに、足早と玄関を出た。いつもいつもマンションを出るときは、一生来るものかと思ってしまうのに、負けてしまう自分がいて、それを一番自覚するのがこの時だ。
負けてしまうのは、愛情にか、ナミにか、それとも・・・あの笑顔にか・・・。
どうせ負けることはわかっている、だったらどっかで割り切ればいいものを、独占欲の強い俺はそうすることが出来ない。だったら奪ってしまえばいいものを、傷つくのが怖いのか、それとも拒絶されるのが怖いのか・・・臆病な性格のせいで、踏み込めないでもいる。勝手な板挟み状態で、勝手に苦しんでる俺。車に乗り込み、サイドミラーにうつるナミの部屋を見た。電気が消えたことを確認し、また煙草に火をつけた。
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女視点
「ヒロってさ、終わった後冷たくなるよね。」
思いきって言った言葉。今まで言いたくても言えなかった言葉。鬱陶しがられるか、嫌な女だと思われるか、それとも・・・気にしないか。どれもが怖くて言えなかった言葉。でも言ってしまった言葉。もっと嫌だったのは・・・言ったのに、言えたのに、冗談交じりで言ってしまったこと、いまでも口元を必死にあげていること。薄暗い部屋では、ヒロの表情さえ見えない。
「優しくしてほしいのか?」
コトが終わってすぐのため、ヒロは下着しか穿いていない。華奢で、でも男らしい背中をむけて、冷たいこという。ヒロはそういうヤツじゃないし、そういう関係でもない。わかっていても悔しいのは事実で。悲しいというより、悔しい。悲しいと思う権利は私にはない。
「まさか、優しくする気もないくせに。」
目の悪いヒロのために、煙草を差し出す。
初めて会ったとき、ヒロはメガネをかけていて、私はメガネ男子が大好きで、だからかっこいいな・・・なんて思ったりもしたっけ。でもメガネを外した彼を見て、それで一目ぼれなんかしちゃって・・・。メガネ大好きな私が・・・くそ!なんて思う前に、本気で色々公開した。彼氏がいたこととか、彼氏がいることを知られてしまったことに。不謹慎な話だけど、惚れる前に彼氏がいることがばれてなかったら、告白してたかもしれない。でも諦めきれなかったもんだから、体だけの関係に持っていったわけで・・・でもそれも激しく後悔。
ヒロはそういう関係が心地よくて、私に会いに来ているんだろうし、きっと女にしつこくされるのは嫌いなタイプ。そうだとわかるから、さっきもなかなか言い出せなかったわけで。愛情を求めるのは、見当違いな話だ。だから私から連絡もできなし、私から求めることもできない。
「優しさなら・・・彼氏にでもねだれ。」聞きたくなかった言葉。彼の口から「彼氏」なんて一番聞きたくない言葉。それからわかってしまったのは、やっぱり彼に愛情を求めるのは見当違いだってこと。言葉が冷たい。泣きそうになるのを必死に抑えて、ヒロの手を握った。
「おやすみ、またね。」またね、なんて言わなくても、欲求がたまれば彼はまたやってくる。でも、これは小さいメッセージ。気づいてほしくない、でも気づいてほしいメッセージ。
ヒロは何も言わず部屋を出ていった。嫌われたかもしれないと、この時はいつも思う。上手に「軽い女」を気取ってるつもりでも、いつの間にか彼のカンに障ることをしてるんじゃないかってビクビクする。こんなに恋愛に臆病になるのは初めてだ。そもそもこんな板挟みな恋愛は初めてで・・・。だったら彼氏に別れを告げればいいのだけど、彼氏に愛情がないわけもなく、こんなことしといて、相手を傷つけてしまうことがいやで・・・いや、相手を傷つける自分が嫌で・・・。でもヒロのことも諦めきれなくて・・・。自分で蒔いた種で、勝手に苦しむ私。
少しだけ泣けてきて、でも泣くことは間違っているから・・・誰もいない部屋なのに電気を消した。
ベッドにもぐりこんで、頭まで布団をかぶる。片手に携帯を持って、メールの新規画面を出した。
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後日
「彼氏と別れたから、付き合って!」
「・・・はぁ?」
「す、好きだからっ!付き合ってっていってるの!」
「ふ、ふざけるなよ、お前!そもそも告るならもっとムードを考えろよ!!」
「・・・顔真っ赤・・・」
「う、うるせーよ!てめぇまじふざけるなよ!!」
「え・・・なにその顔・・・え?もしかして、ヒロも私のこ・・・・っ!!!!!」
「ちょっといきなりキスしないでよ!前歯痛いでしょっ・・・って今度はなに!?」
「うるせー黙ってろ!!」
「黙れって、なんで腕押さえつけられなきゃいけないのよ!!し、真剣に告白してるのにー!!」
「てめぇ真剣に告るなら、する前にいえよ!!」
「だ・・・だって!言う前にヒロがするからじゃん!!」
「―――っ!そりゃ告られるなんて思わねぇだろ!こっちは!!!」
「でも入ってきていきなりすることないじゃん!!」
「・・・す、すまん・・・」
「あ、うん・・・いやじゃなかったから・・・いいけど・・・」
「「・・・」」
「で、でさ・・・告白の返事、聞きたいんだけど・・・」
「「・・・」」
「俺も・・・だ。」
「え・・・聞こえなかった・・・」
「―――っ!!好きだ!!最初っから惚れたよ!!ずっと好きだったよ!!これでいいか!!!」
「・・・」
「な、なんだよ。その顔・・・」
「いや・・・だって、最初っから好きって・・・え、っていうか、私のこと好きだったの?」
「だああああああああああもういい!まじお前黙ってろ!!」
「ち、ちょ、ちょっ―――!!」
「今日は帰らねぇぞ!寝かせねぇからな!!」
「え、ちょ・・・ええええええ」
おしまい
オトモダチ事情
書きなぐりの作品ですがお気に入りの一つです。
こういう恋愛や関係があってもいいと思います。
近いから言えない、ちょっと大人バージョン(笑)