5分の間

○礼の家 玄関(昼)
   時計を見て、頷き、靴を履こうとする  
   きっちりとした服装の礼。その時電話がかかってくる。
礼「もしもし、ああ、今から出るところ。正確にいうと今から1分後に」
友「ごめん、5分くらい遅れそうなんだよね」
礼「5分っていうと300秒ってことか?」
友「ん?ああそういう事かな、すまんな、それだけ、じゃ!」
   一瞬ふと考える礼。すぐさま壁にかけてある砂時計を反転させる。
M礼「…考えろ、私の人生に5分間も無の時間を作る訳にはいけない、どうしたら有効に使える…考えろ」
   さらさらと流れる砂時計を見る。
M礼「しかし、いつまでも考えている訳にもいかない…、行動をしなくては。行動を伴わない思考など、演奏される事の無い楽譜にしか過ぎない…そう、演奏される事のない、楽譜に過ぎない…」
   砂時計の砂が落ち切る。すぐさまその横にある5分間の砂時計をひっ繰り返し、足早にトイレに行く。
× × ×
   トイレの中で洗浄液を垂らす礼。
M礼「この洗浄液は5分間流さずに放置しておくことで効果を発揮する。いつか機会があったらやろうとしていたが、こんないいタイミングがあったとは…これは序曲であり、フィナーレだ、この洗浄液を流して、私の5分間は達成される…」
   洗浄液の蓋を閉め、トイレから出る。
× × ×
   廊下でちらっと砂時計を見て、台所に向かう。
× × ×
   台所でやかんに水を入れる礼。
M礼「時間が無くて諦めていたが、いいタイ
ミングだ、お茶を淹れていこう」
   やかんを火にかけ、緑茶のパックを用意する。その流れで犬の餌を取り出し、開ける。
M礼「犬におやつもやっておこう」
   犬のおやつを茶の間にある餌箱に入れ、それを廊下のほうへ蹴りだす礼。コン、と跳ね返り、玄関にいる犬の元へおやつがいく。食べる犬。空の缶を投げ捨てる。
   茶の間のギターを3回鳴らして、あーあーあーと音程をとる練習。
   家の電話がなり、番号を見て勧誘だと分かる。電話をとる。
礼「すいません、今揚げ物してるので」
   電話を切る。やかんが鳴る。
   電話がもう一度なる。
    礼、溜息。
礼「すいません、今、揚げ物…」
    電話の向こう側からフランス語らしき言語が聞こえてくる。
   礼、少し考える。そのまま、フランス語で返答する。電話を切る。
   台所まで急いで向かう。
M礼「予想したより茶が少し薄くなるな…まあいい、このまま行けばこのお茶を淹れ、それを水筒に映した時点で、丁度5…」
   ピンポーンとチャイムが鳴る。礼、緊   
   張。
M礼「そうだ、注文していた画鋲セットが届くのだった。良かった不幸中の幸い…だが」
   お茶にお湯を注ぎ、お湯を回している。
M礼「この作業がしっかりと終わらなければ、まだいけない…」
   チャイムがもう一度なる。
M礼「まて…あと5回…」
   5回回す。と同時に茶を置いて走りだ 
   す。
M礼「よし、まだ、扉の近くに居るはずだ、急げ!」
   礼の顔が歪む。そのまま足を押さえて倒れこむ。
礼「ぐぁ…つ、釣ったぁ!」
   影が、去っていこうとしているのが解る。
礼「待って、待ってくれ!」
   這って進む礼。
礼「今行ってしまったら、彼がここに来るまでの時間が、無駄になってしまう!扉を、扉を開けるんだ!」
   身体を伸ばし、なんとか扉を開ける。
礼「サ、サインか!」
   宅配員、立ち止まり、這いつくばった礼を見る。
宅配員「ま、また来ます…」
礼「また?馬鹿な事言うな、あなたがここに来るまでの時間は戻らないんですから、またなんて言わないでくれ、さあサインを」
   這いつくばったままサインをする礼。
宅配員「大丈夫ですか…?(手を差し伸べる)」
礼「どうも、ありがとう(立ちあがる)」
宅配員「いえ…こちらこそ」
   宅配員、去る。
   礼、扉を閉め、急いで台所へ行ってお茶を水筒に入れる。よし、と小さく呟いて、トイレに向かう。
× × ×
   トイレの水を流して、トイレから出る。
× × ×
   玄関で靴を履く礼。ちらっと砂時計を見ると、丁度砂時計が落ち切る。
   すると電話がかかって来る。
礼「もしもし、丁度いま出るところだ、まさに今な」
友「ごめん!なんかぼーっとしてた!ごめん!10分遅れるわ!すまん!じゃあ!」
   電話が切れる。
   礼、すこし考え、砂時計を逆さにする。
                 終わり

5分の間

5分の間

5分の大切さなんて、分かんないですよね。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-12

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