赤司君の好きなもの。7
体育館
ガラガラッーー
「あっれー?電気きえてるし!」
真っ暗で静まりかえる体育館に、ドアを開ける音と
私たちの話し声だけが響き渡る。
人一人いない夜の体育館。
さっきまで部活で使われていたのかもしれない。
心なしか空気が暖かく感じる。
「ちょっと小太郎おいてかないでよ、も〜」
「レオ姉たちが遅すぎなんだよっ」
「はぁ…、仕方ないわね。ほら、あなたも行くわよ」
そう言って私の腕をつかんだレオ姉さんから、慌てて腕を振り払う。
「………わ、わ、わたしはいいです!」
「え?」
「こっ、ここで待ってます」
キョトン、とするレオ姉さんから顔を背ける。
絶対にむりだ。
夜の体育館なんて、とてもじゃないけど入ることなんて出来ない。
ドアの影に隠れてブルブル震える私を見て、レオ姉さんが、ふふ、と薄く笑った。
「もしかして、怖いかったりして?」
「えっ!?そ、そんなことありませんっ!」
「なぁーに、二人で騒いでんだ」
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
背後から聞こえた声に思いっきり叫んでしまった。
オバケーーーー!?
「ちょっ、耳いったいわよ!」
「レオ姉さぁーん!オバケェェ!!」
「はぁ?ちょっ、あんたねぇ」
背の高いレオ姉さんの背後に周り、力一杯抱きつく。
「あん?本当なにしてんだおめーら」
「あんたが驚かすからでしょ!この筋肉バカ!」
「筋肉なめんなよ、おらっ!」
「あーあー、見せなくていいから!あんたもいつまでもメソメソしてないで離れなさい!」
「ふがっ!」
レオ姉さんにおもいっきり体を引き離される。
「オバケは?!」
「だから、オバケはこの筋肉バカ!なんなのよ、あんたら。疲れるったりゃありゃしない」
「な、なんだ…よかったぁ」
ほっ、と胸に手を当て一息つく。
私、オバケだけは本当にだめだ。
だから、夏の心霊特集なんてものは、死んでも見ないって心に決めてるんだ。
「つか、小太郎の奴は?」
マッスルさんが、暗闇に包まれる体育館を
空いたドアの隙間から覗き込んだ。
「征ちゃんの事を探しに行ったのよ」
「って、部活もう終わってんじゃねぇの?この時間」
「見ればわかるでしょ、それに、征ちゃんだったら毎日ー」
「あのっ!!」
いきなり声をあげた私に、2人が驚いたように目を丸くして私へ視線を向けた。
「その、征ちゃん…、あっ!その、赤司くんって一体誰なんですか?」
この間、爽子ちゃんに言われた言葉が頭に反響する。
『あんた、1番、目、つけられちゃいけない奴に、目、つけられたわよ』
そのあと、彼女は、赤司 征十郎という名前を上げた。
いくらバカな私でもわかる。
目をつけられてはいけない奴、っていうのは、その彼のことなんじゃないだろうか。
だから、知っておきたい。
彼の事を。
「レオ姉さんたちは、赤司って人と知り合いなんですか?」
「えっ、と…あんた、征ちゃんのこと知らないの?」
レオ姉さんが、驚いたように目を丸くしている。
その隣では、マッスルさんが「ありえねぇ」とつぶやいていて。
赤司って人は、かなり有名な人なんだ…。
でも、そういうことに疎い私には、全く分からない。
「まぁ、今にわかるから。あんたは、フツーにしてなさい」
「えっ?」
今に分かるって…
どういうこと?
その時、体育館に大きな声が響き渡った。
「レオ姉ー!だめだよー!赤司いないっぽいー!」
その言葉に、レオ姉さんがため息をついた。
「だからいったじゃないの。はぁ、あたしたちどうなるのかしら…」
「レオ姉さん?どうかしたんですか?」
レオ姉さんは、一度私に視線を向けるともう一度ため息をつく。
「仕方ないわ、今日は帰りましょう」
「えっと、はい」
「なんだ?帰んのか?」
小太郎さんが、私たちの元にかけよってきて、眉を寄せた。
「レオ姉〜っ、俺たち赤司に殺されちゃうよぉ〜〜」
こっ、殺される!?
なにを言ってるんだろうか、この人たちは!
普段聞かない言葉に、頭を抱えていると
後ろで声が聞こえた。
「なにをしているんだ。こんな時間に」
「っ!」
思わず振り返ってしまった。
先生…!?
「あら、いたじゃないのよ」
「小太郎、よくさがせっつーの」
「あっ、赤司!見つけたよ!」
それぞれが口を開く中、
私はなにも言えず、彼を見つめていた。
赤司君の好きなもの。7