僕と彼女の三日間
ヨシユキとユイの恋愛物語です。
男性目線と女性目線というお互いの目線から物語っています。
ヨシユキ ?
ヨシユキ、女紹介するぞ。
僕のアパートまでやってきて、まだベットにいる僕にフミオが言った。
フミオは僕の悪友。
身長185センチ。俳優の父を持つ彼の顔は彫りの深い、所謂いい顔だ。僕はそんなフミオの引き立て役で、なぜか高校から7年も友人関係が続いている。
でも、そんなフミオが女を紹介してくれるのは初めてだ。
なに?
だから女紹介するからさ。ヨシユキずっと女いないだろう。
そりゃいつだってそうさ。フミオが全て掻っ攫っていくから、僕にはおこぼれもないよ。
だからさ。
罪滅ぼしにさ。
さあ、洋服を着たまえ。
僕に取ってフミオは、プラス・マイナスゼロの関係だ。
だって、見た目とてもかっこいい男がいつも隣にいてごらん、近づいた女はみんなフミオ目当て。たまに僕に声がかかってもフミオ先輩って彼女いないんですか?という質問だ。
でも、フミオを待てない女が僕を通り過ぎて行く時もある。
これも役得なのかも知れないが、嫌になるよね。
でっ何処に行く?
六本木。
六本木?
グランドハイアット東京。
なんだそれ、ホテルか?
勿論、だって僕、アカネちゃんとそのホテルへ1泊するんだもん。でっアカネちゃん、友達のユイちゃんと買い物したいから、連れて行っていいかな?というから勿論、僕も友人を連れて行くって言っちゃった。
なんだ、それ。紹介じゃないじゃない。
でもユイちゃん可愛いらしいぞ。
身長150センチちょい。
ちちゃくて、可愛くて、食べちゃいたいらしいよ。
アカネちゃんが言ってた通りに言ったまでだから。
この7年間で、フミオが彼女だと紹介した女性は30人を超えている。でも、半年以上続いた関係はゼロだ。
勿論、フミオから別れを切り出した関係もあるが、ほとんどふられている。お前は性格が悪すぎだ!と僕はいつも言っているのだが、後釜が行列を作って待っているので、全然懲りない。
はいはい。
では、ちっちゃくて可愛いユイちゃんに会いにいきましょうか。
僕たち二人は、フミオのもう一つの武器である、ポルシェに乗って暑い東京の街に出た。
東京の街はうだるような暑さだ。
ポルシェの中は冷房が効いているからまだましだが。
一歩外へ出たら地獄だ。なんとなく流れていく風景を見ながら僕は思った。
ヨシユキどんな女が好きなんだ。
ユイちゃんはちっちゃくて滅茶苦茶可愛いらしいぞ。運転しながらフミオが言った。
なあ、フミオ。俺、女子の容姿にあれこれ注文はないんだ。
だったら何だ、あそこか?
それフミオだろ。
ははは、だよな、ヨシユキが。そんなわけないよな。
俺思うけど。女子は頭良くなくちゃ。
あたま?
そう、テストの成績がいいとか、偏差値の高い大学行ってるとかじゃなくて、生きる意味で、頭がいい子。こういうのが良いとか、これが美しいとか、それはダメとか、自分の意思がはっきり分かっていて、きちんと自分の価値観を知っている子、そんな女子は頭いいと思うんだ。そんな女子がいたらとは思う。
ヨシユキ、お前やっぱり変わってるよな。
そんな風に考えるのか普通なのか。
考えるのが普通だよ。とは思ってるけど。はははは。
グランドハイアット東京って泊まった事あるか、ヨシユキ。
ない!一刀両断!そんな金ない!
悪いな。
俺だけ泊まってさあ、悪いと思ってるけど。
まあ、初顔合わせで、しないよなヨシユキは。
しないね。
っていうか、普通出来るのか?
出来る。まあ俺はしたね。
でもその日限りだけど。
続かないね。
フミオは長く続けようとは思わないのか?
寝たから彼女とか、彼女だから寝ようとか、そんな関係じゃなくて。きちんと相手の事考えてあげよう、なんて思わないのか?
どうなんだろう。思わないかも。そんな教育受けてねえし。
親も適当に遊んでるから、色んな相手とするもんだと小さい頃から思ってたから。
渋谷で高速を降り、車は六本木通りへ。
平日の午後三時、そこそこ車は渋滞していた。
フミオが親の話をするのは珍しく、聞いた僕も黙り込んでしまった。
車は駐車場へ。
エスカレーターで一階へ。ラウンジで待ち合わせらしく。
予定時間より30分前に着いた。
なあ、ヨシユキ。
ユイちゃん、気に入ったらどうする?
どうするって、相手がある話だから、まずはユイの意向だろう。
でも気に入ったら、気に入ったと言うんだぞ。
ヨシユキは、そこがダメだよな。
思った事、半分も言えないからさあ、考えてる事素直に言った方がいいぜ。
結構、ヨシユキいい事考えてるからさ。
なあ。
ああ、そこだけはフミオの勝ちだな。
なんだよ。勝ちって!
おいおい、来たよ。来たよ。
フミオの視線の先を見ると。入り口から、身長差の激しい二人の女性が入ってきた。背の高い方がアカネだ。スタイルが良く美女。まさしく誰もが憧れる女だ。その隣がユイかな。アカネより、身長が20センチ以上低い。髪も短く男の子的な可愛らしさが漂っていた。
確かにこういう出会いがあってもいいかも。
僕は心底そう思った。
グランドハイアット東京は六本木ヒルズの一角にあるホテル。
ビジネスで東京に来ている外国人も多く、客層がセレブの雰囲気だ。
この1階にある、僕がラウンジと言ってるレストランもイタリアンで、料理も旨いらしい。残念ながら食してないのでフミオの受け売りだ。
アカネさんがフミオの隣に座り、ユイさんが僕の隣に座った。フミオが言うようにちっちゃくて可愛いという言葉そのままのキュートな雰囲気。髪は短めに切りそろえ、でも顔のパーツは全て整っている。それと化粧が濃くないのが、彼女の可愛らしさをさらに増していた。
ヨシユキです。と挨拶すると。
ユイです。シャープな声で答えた。全体の印象からすると、もっと可愛い声をイメージしたのだが、声は切れのある大人の女性らしい声だった。
ねえ、ねえユイさん。
初めましてだよね。
フミオ。
付き合うと決める時、ユイに会って貰ったよね。
ユイがフミオならいいんじゃないの。って言ったから、フミオは私の彼氏になれたんだから、フミオはユイに感謝しなくちゃだめよ。
そうだったんだ。
では、感謝の印にこれを。
そう言って、差し出したのは、ここの2階にあるフランスレストランのテラステーブルでのディナーの予約書だった。
今日の記念ディナーにしようと思ったら。
アカネちゃんは良く行くらしく。
それで、二人にって。
だって、アカネ。
お父様と家族記念日には、プライベートダイニングで、良く食事するの。面白いのよ、個室に専用キッチンがあるから。
専用シェフが目の前で料理してくれるの。
お父様、それが楽しいらしく、よく利用するみたい。
だから、今日はユイとヨシユキさんが出会った記念になればいいなあーって思って、だってアカネはユイにお世話になりっぱなしだし。だから、ねえ。
うん。なあヨシユキ、スゲエだろう。
ああ、じゃあ遠慮なく。
僕はユイさんの顔を見る。アカネとフミオのやりとりを黙って見ていたユイが僕の顔を見る。
うん。と頷く。
その顔が可愛い。声はシャープなんだけど。顔は小動物みたいに表情がクルクル変わって、キュートで、なんか抱きしめたくなる感じかな。
あれ、僕がこんな風に女子に対して思うなんて。
初めてかな。そう思いながら、ユイの顔を見たら、顔が赤くなってきたのが分かった。
おお、なんか暑いな。
本当はクーラーが効いていて、ちっとも暑くなかった。
じゃあ、いいかな。
俺たちチェックインして、ルームサービス取るからさあ。
ねえ、アカネちゃん。今日もいっぱいしちゃおうね。
フミオがアカネさんの腕を取り、出て行くと。
ユイさんと二人きりになった。
ユイさんが僕の顔を見てる。
まだ顔が赤いんだろうか。
手で頬っぺたを触ってみる。
その顔を見て、ユイさんがクスって笑った。
あれ、何か付いている。
何も。
でっ何時から?
ええーー、うんうん、あああ。7時。
そう。まだ一時間もあるね。
どうする?
私、ちょっと買い物したいの。
だから7時レストラン前で待ち合わせでいい?
うん。
もちろん。
僕も青山ブックセンターで買いたい本あるし。
じゃあ、後で。
そう言うと。
ユイさんは出て行った。
僕はユイさんに興味を持ってしまった。
というか、好きかもって感じるくらい。特別な女子。
そんな感じになっていた。
会話の糸口探しに、青山ブックセンターへ向った。
ユイ ?
ユイ、お願い。
付き合って。
アカネのいつもの声だ。
困った時にはいつも以上に可愛い声が出せるアカネ。
携帯で声だけ聞いていたら、身長175センチ、誰もが認める美女だとは思わないはず。
いいわよ。
でっ何?
だって、フミオがさあ、お泊りしようって。言うんだもん。
そりゃあ、あなたたち付き合ってるんでしょ。
って言うか今まで何度もやってんだろう。
フミオに問題があっても、やってあげればいいじゃない!
怒るよ。
うん、もっと怒って、ユイが怒ると。
アカネ気持ち良くなるからさあ。
アカネとは大学に入ってからの付き合いだ。
もう2年。
その美貌から誰も近づかなかったが。
何故か、アカネは私に近づいた。
というか、近づいた理由は、最初に二人で飲みに行って分かった。
アカネは酔うと本性が出る。
私の顔を見て。
ねえ、ユイ、乳首つねって。
ええーーー、だよね。
でっめんどくさいから。
ほらってつねってあげると。
ふむふむふむ。もっと。もっと。つねって。
じゃあ、両手で行くよ。
ほら、いいの。気持ちいいの。
うん。アカネ気持ちいい。
ねえ、ユイ、おっぱいグニュってしてくれる。
そうやって。
その後アカネの部屋で飲んだ時に、なんと私は、アカネのお尻を鞭を使って叩き、このメスブタがあーと叫んでいた。
それから、アカネは私べったりになった。
三ヶ月前。ねえ、ユイ、私やっぱり彼氏必要かな?
いんじゃない。彼氏いて言いと思うよ。
そう言うと。1週間後、フミオを連れてきた。
身長の釣り合いも取れるし。顔もいいから合格点をあげると。
嬉しそうに、これでユイに面倒かけなくてすむね。と言ってから2週間後。
泣きながら、私の所に戻ってきた。
なんでと言うと。
フミオのペニス、これなのと親指を出す。
だってフェラしたって、こうだよって親指を舐める。
口の中がらがらじゃん。
これおまんこ入って気持ちいい?
気持ち良くなんてないし。
だってちっともアカネの事苛めてくんないの。
この間。ついに鞭と蝋燭出したから。
やったあ、やっと苛めてくれるのかな。
って思ったら、僕をこれで苛めて下さいって。
それは私の台詞なんて思ったけど。
ぶってやったわよ。
お前のちんぽは世界一小さい!そんなちんぽだと生きて行く資格なーーし。このあんぽんたんって言いながら。
でも、全然気持ちよくない。フミオは親指から汚い白い液垂れ流していたけど。
その日のアカネは凄かった。
鞭、蝋燭、大人のおもちゃ数種類。
全部、カバンに入れて来た。
女王様来店って感じで。
でも苛めるのは私の役目。
美しい顔して、叩かれ、ヴァイブレーターをおまんこに入れられてひいひい言うのはアカネ。
今度、この姿フミオに見せようか?
はい、ユイさまが、そう言うなら、私のおまんこを苛めているところを見て貰います。
そんな話をして1週間。
アカネがチャンスが来たと電話してきた。
グランドハイアット東京で1泊。
フミオを縄で縛って、楽しみましょう。という魂胆だ。
まあ、いいさ。
どうせ、私は脱がないし。
おまんこをフミオに見せるわけじゃないから。
行っていいわよ。
そう答えた。
待ち合わせは六本木ドンキホーテ。
アカネが欲しいグッズがあるらしい。
いいわよ。
そう言って。
暑い東京の街へ出た。
うだるような暑さの中、アカネは大勢の視線を釘付けにするように、ジーンズとTシャツ、ノーブラで登場した。Eカップはある胸は、ノーブラだとその動きがTシャツ越しに分かってしまう。アカネは男たちの視線で興奮するのが好きだ。
ユイ待った。
またノーブラ?
あなたが、その格好だとこっちは恥ずかしいんだからね。分かって。
だって、みんな見てくれるし。
見られると興奮するから。
いいじゃん、ユイ。ユイはノーブラじゃないじゃない。
それ、関係ないから!
怒った顔を見せると、アカネはさらに喜んだ。
私の腕を取り、六本木ドンキホーテ2階のアダルトグッズコーナーへ向った。
アカネはこういう場所へ来るのにまったく抵抗ないらしく。
好奇心剥き出しの男たちがアカネの行動をつぶさに観察してもまったく眼中にない。
そういう意味では、アカネは凄い。と思ったりする。
あった。これこれ。
丸い数珠みたいなものをアカネが手に取った。
何それ?
アナルボール。これで、ユイにアカネのアナル開発して貰うんだ。
ねえ、良いでしょ。
はいはい。お好きに。
でも、私は脱がないわよ。
いいわよ。フミオにユイの裸見せたくないしね。
でもユイ。あいつのペニス見て笑っちゃダメだからね。
その後、アダルトコーナーが大変な事に。
アカネが大声であれこれ見ながら感想言うから。
男たちが集まって来た。
いつもなら、絶対の声をかけれないであろう男どもが。
アカネに俺はどう?とか。
ねえ、僕がしてあげるとか。
色々言うが、その瞬間のアカネの顔は怖い。
お前ら!何者だ!私を誰だと思っている!そんな声が聞こえそうな。
オーラでまくり、へたな芸能人以上の存在感で蹴散らしてしまう。その凄さは隣で見ていて、こいつカッコいいなあ!と普段絶対思わない感想を持ってしまった。
ねえ、ユイどうしたの?
蹴散らした男たちが消えると。
とたんに甘えた声で言う。
アカネ、お前は凄いよ。
何、何、何?わーなんでもいいけど、ユイに褒められた。あれ、怒られるのも感じるけど、褒められるのもおまんこジュンとしちゃうんだ。
ねえ、ユイいっぱい濡れてるから触って。
ねえ、ああそうだトイレ行こう。ねえ、ユイいっぱい触って。
アカネに一度火が付いてしまうと。もうダメだ。
でも、ドンキホーテのトイレは嫌だ。
ホテルに行ったら、してあげるから、少しガマンだよ。
そう言って、アカネの頭を撫ぜてあげた。
こんないい女がなぜ、こうなる。不思議だ。
このドM女!アカネの耳元で、そう囁くと嬉しいそうに。
うんって頷く。
二人でホテルへ。
アカネは不満そうな顔をしていたが。
待ち合わせの時間だからって。
トイレ行きは次回にした。
待った。
アカネの彼の隣に爽やかな、それでいてぼーとした男性が座っていた。
彼がヨシユキくんだね。
どうユイ。
私にとってストライクかも知れない。
そう思いながら、二人に近づいた。
フィオレンティーナ。イタリアの小都市。このレストランの名前。
昨年の夏過ごした、フィレンチェが思い出される。
イタリアの料理は本当に美味しい。トマトの味から違う。このレストランの料理はどうなんだろう。ふと思った。
アカネはフミオの隣に座った。
自然に私はヨシユキの隣に座ることになる。
ヨシユキは子犬のような目で私の事を見る。
そのもの珍しそうな視線が痛く心地いい。
きっとこいつ私に気があるな。そう思える視線だ。
嫌われるより、好かれた方がずっと心地いい。もっと好きになって!と思った。
ヨシユキです。隣から声が聞こえた。
ああ、挨拶。そう思いながらユイですと答えた。
意外そうな顔。
そうだ、私の声にはだいたいの男性が意外そうにする。
きっと顔と声がアンバランスだからだ。
アカネも同じように言う。
私の声がユイで、ユイの声がアカネだったら、みんな納得するんだね。
きっとセックスもそうだ。
アカネは天性のM。私はアカネにS役をやらされている。
きっと、それはこの声がそうさせるのかも。
ヨシユキは爽やかそうな好青年だ。
フミオの友人らしくない。
だからフミオはヨシユキを親友として認めているのかも。
フミオが案外賢い男かもと気付いた。
アカネが私の方を見て。
ユイが認めた男だから付き合ったとフミオに話していた。
私は認めたつもりはなかった。
でもアカネには男が必要であり、こんなお嬢様とデート出来る男は、そうそういない。まずはお金がなくちゃダメだし、顔も良くなくちゃと思ったら、フミオならいいかも。そう思っただけだ。
フミオが感謝の印として、ディナーをご馳走してくれるらしい。
わおーと思ったが。
自分の格好を見て、まずいと思った。
こんなラフな格好でディナーはちょっと、と思ったが。
アカネが薦めるレストランなら、食べてみたい。
洋服買っちゃおうって決めた。
アカネたちの話を聞きながら、心ここにあらずだった。
私は女子高育ち。
背が低く、女の子ぽいから、街では声掛けられたが、男子は得意じゃない。アカネにするように多少強く言って。
黙らせる位の気概ないといけない。
そんな風に考えていたら。
フミオとアカネはチェックインで出て行った。
ヨシユキと二人残され。
どうする?と聞かれたから。
買い物したいと答えた。
でっ、なんかオドオドしながら。
じゃあ、僕は本屋へ。と言うから。
ヨシユキ君は、私のことかなり意識してる事が分かった。
じゃあ、女らしい洋服にしよう!
そう決めてホテルを出た。
ヨシユキ ?
僕の前に現れたユイは60年代風、濃紺のイブニングドレスを纏っていた。ハイヒールで身長が10センチほど高くなり、アイシャドーと口紅でぐっと大人ぽくなっていた。これで、サングラスをしていたら『ローマの休日』のヘップバーンのようだ。
綺麗。
僕の口から出た言葉は感嘆符だった。
ユイは嬉しそうに僕の腕をとってレストランに入った。
案内された場所は扉を開け、室内に入ると丸いテーブルに二人分の椅子。大きなガラス扉の向こうには六本木の夜景が広がっていた。
そちらの扉から外に出られます。
バルコニーになっていますので、食事の合間に是非夜景を眺めてみてはいかがでしょう。
僕とユイは小さな空間が星粒のようなネオンに照らされた夜景の中に浮かんでいた。
綺麗。
今度はユイの感嘆符だった。
まずはバルコニーに二人で出た。
日が落ち、ようやく暑さが和らぎ、風が心地良い。なんか気持ちいい。素敵な女性が隣に立っていて、美しい風景が目の前にあり、僕は文句なく有頂天になっていいと思った。
有頂天。
ユイさん。
綺麗ですよね。ユイの顔がこちらを向く。
この瞬間、キスが出来たら、最高にロマンチックだろう。そう思うと心臓の鼓動が高鳴った。
僕はユイの顔を見つめた。一歩だけ前進、首を少し傾ければ、そこにはユイの唇。
扉が開く音。
オードブルです。
それとこちら、食前酒ですので、どうぞお飲み下さい。
給仕係りがドアを開け、最初の一品を持ってきた。
ロマンチックな一瞬が過ぎた。
ヨシユキさんはドクターコース?ユイが聞く。
僕の研究の話なんてつまらないですよ。
でも聞きたいわ。
水の研究です。
水?
たとえば、アフリカの砂漠を緑地化するとか、海水を飲み水に変えるとか、色々ですよ。
つまんないですよ。でも、ああ必要なんだなーって昨年アフリカへ行って思いました。アフリカの子供たちって、無邪気なんです。なんか教育がしっかりして無いからかも知れないけど。生活するのが精一杯のはずなのに。僕なんかが行って、砂漠に色んな機材を持ち込んで、苗木を植えるでしょ。でっ一緒にやってくれるんです。
それも楽しそうに。きっとどういう事なのかまでは知らないはずなんだけど。一生懸命手伝ってくれる、それが私たちの気持ちなんだっていう風に、家族総出でやってくれるんです。その感動を味わった時は、この研究してて良かったと思った。
ユイが目を輝かせて僕の話を聞いててくれた。
僕はユイの専攻が何か聞いた。
すると。
ユイが僕の後ろにかかっている絵画がアカネの作品だと紹介した。吃驚した。天はひとりの女性に多くの才能を与えるんだと思った。
ブルーの色調、女性のようなフォルムが深いブルーで描かれていて、中心に一筋のオレンジの涙のように雫がたれている。
抽象絵画だが、見る人に思考する力を与えてくれる、そんな作品だ。ユイの話を聞きながら。
僕の人生について考えてしまうような絵画だね。と僕は言った。
ユイは驚いた顔をした。
それで、僕はヨシユキ君からヨシユキさんに昇格した。
4歳年上の僕に、ユイはずっと君付けで呼んでいた事に、やっと気付いた。
二人でナイフとフォークを握った。
携帯が鳴る音。
ユイが携帯を取り出し、アカネからと言ってテラスに出て行った。
僕は女性の容姿は関係ないと思っていた。
でも、それは大きな間違いだと気付いた。容姿や洋服の着こなしには、その女性の生活全てにおける感性が反映されるんだと分かった。何を考え、どう思うかは内面だけではなく、容姿、すなわち外面をどう見せるかも大きな問題なんだと。今更ながら気付いた。
ユイやアカネを見ていると。彼女たちの生活全てが外面に反映され、それが大きな魅力となり、単なる美しさや可愛らしさを超えたオーラのような感受性を纏った女性に変わる。
それが女性としての魅力なのだと気付いた。
新しい料理が運ばれてきた。
電話が終わったらしいユイが戻ってきた。
僕は、ユイに心ときめいていた。これが恋の始まり。そう思った。
僕は自分の優柔不断な性格が嫌いになる時がある。
給仕係が料理を運んできて、素材の説明や料理方法を話すのを聞いてしまう。
無視すればいいじゃんと思うけど、いちいち聞いてしまう自分。なんて優柔不断なんだと思う。だってユイの話をもっと聞きたいのに、僕は話の腰を折られても怒らない。いや、怒れない、こんな性格がとても嫌いになる。
ユイは僕の顔を真っ直ぐに見ている。
僕は、その顔を見ると、頬が赤くなるのが分かる。
赤くなるなあーって心で念じても、赤くなってしまう。そういう自分が恥ずかしくてならない。
それと、僕はユイに告白しなくちゃいけない事がある。
きっと、告白する事で、この夢のような空間は一瞬にして消えてしまうかもしれない。
でも黙っていることで、もっとユイに対して失礼になると思っている。
さあ、告白するんだ!って自分へ鞭打つが、なかなか勇気が出ない。
僕の口から出た言葉は。
ユイさんは何処か、海外へ行った事があるの?だった。
ユイはイタリアで宗教に触れた話。
そして、ルネサンスが起こった理由を話してくれたが、僕の耳には半分しか入らなかった。
僕は表情がくるくる変わる、ユイの顔を見つめていた。
あっ、ごめんそんな話じゃなかたわよね。とユイが言うから。
僕はつい、ううん、ユイさんが喋っている顔、素敵だなあーって言ってしまった。
その瞬間のユイの嬉しそうな表情を見て、僕は告白する事にした。
ユイさん、聞いて欲しい話があるんだ。
ええ、なんでも聞くわ。
実は2年前、僕は研究でアマゾンに行ったんだけど。うーん、教授のお供でと言うよりは、僕はひとつの目的があったんだ。僕たちが行った先はアマゾン上流の草原地帯。そこには数多くの湖があるんだ。でも上空からじゃないと分からない。木々に囲まれていて、陸地からはそんな数多くの湖があるなんて想像出来ない場所なんだ。
そこで、水を濾過する特殊なバクテリア探しの研究だったんだけど。
僕は、現地の人たちから伝わる精霊の木の話に夢中になったんだ。
その木の根元には精霊が宿り、病気になった人たちを助けるという言い伝えがあって。現地の人たちと仲良くなった僕は、研究が一段落した日に、特別にその場所へ連れて行って貰ったんだ。
彼らは、その精霊の木に祈りを捧げ、地面を掘り、木の根元の一部分を持ち帰るんだ。
その根元を乾燥させ、病人に飲ませると病気が治るとされていたんだ。
その一部を、僕のことを気にいってくれた女の子が、みんなに内緒で少しだけ分けてくれた。当然、それは他の村人には内緒だよ。
その一部を東京に戻ってきて、成分分析したら、まったく未知の微生物を発見する事が出来たんだ。さらに研究を進めると、その微生物は免疫機能を活性化させる力を持っていて、最も効果を上げたのが、血液だった。
そう、白血病への効果が最も高い薬の発見に繋がったんだ。
その成果を研究論文として、アメリカの科学雑誌に発表したら、アメリカの製薬会社とハーバード大学が僕に興味を示して、一緒に共同研究を進めようと話になったんだ。
それって凄いことだよね。
そう間違いなく、僕は凄い発見をしたんだ。
フミオくんも知ってるの。
誰にも言ってない。
父親だけには、話した。
何故なら、僕はハーバード大学で研究しなくちゃいけないから。
ハーバード、ボストンの?
そう、アメリカのボストンにある、あのハーバードなんだ。
えっ、じゃあアメリカ行くの?
うん。
いつ?
三日後の昼。
えー。ユイは黙り込んだ。
僕は、恋愛をする資格が無いのに。この場所にいる。その事に恥じた。
めまぐるしく変わるユイの表情が能面のように氷ついた。
無言の時間が過ぎる。
ごめんなさい。
僕はもう一度あやまった。
ヨシユキさん、私のことはどう思っているの?
僕は僕のこんな気持ち初めて感じてる。
ユイさんの事が大好きなのに、僕は日本にはいなくなる。
ユイさんと会うことが出来なくなる。
そんな悲しい事が。
恋している気持ちと悲しい気持ちが渦巻いているんだ。
僕が話し終わる前から、ユイの目が真っ赤になっていた。
その涙が頬を伝って流れ落ちる時、
ユイが言った。ヨシユキが旅立つまでの三日間、一分一秒でも長く一緒にいたい。
僕の目にも涙が浮かんでいる。
ユイの気持ちが凄く伝わった。
僕は大きく何度も頷いた。
ユイが私たちは恋人だと言った。
僕も。そうだ。
僕たちは恋人だよ。
永遠に相手を思いやる心を持つ、恋人同士だ。
そう宣言した。
ユイは着替えのため、フミオとアカネの部屋に行ってしまった。僕はフロントの前にあるソファに座って、目の前を通り過ぎる人たちを眺めていた。
夜10時、この時間にカップルでチェック・インするのには、何か理由がありそうだ。
40代の紳士に20代女性のカップル。
ここは通常一部屋5万はする。
そのお金を払える余裕があり、女性もお洒落が様になっていると言う事は、恋愛の達人なのかも。そんな事を考えてしまう。
でも不倫?
だよね。そんな事問いかけなくても分かる。
だって、あの二人、手を繋いでいない。
もしかしてお金を介在した関係。
ありうる。
そのどちらかだ。
関係ないカップルの深い関係を想像してしまう。
幸せなのだろうか。
そんな疑問と共に。そこまでして、したいのだろうか。
そんな疑問も浮かぶ。
恋愛しているから、相手の全てが欲しくなる。
その結果の関係なのではなく。
恋愛してなくても。
体が相手を欲する関係。
そんな関係もあるのだろうか?
多分、ある。
僕は経験がないので、想像でしかないけど。
あるはず。
でも楽しいのだろうか?
なんか、考え事が二転三転する。目の前を通り過ぎる人たちを眺めている事で、その考えがさらに二転三転する。
堂々巡りだ。
そんな事を考えていたら。
ユイが戻ってきた。
化粧を落として、眼鏡をかけている。
その素っ気無い感じが、ユイが纏うオーラでとてもカッコイイ。美少年のカッコイイに近いが。
それがユイに合っている。
待った?
ユイの少しハスキーで大人の声。
僕の心臓がキュットする。
二人で駐車場へ向かった。
目的地は決めてある。
僕の実家だ。
父に会ってもらう。
そう決めていた。
何処に行くの?
ユイの問いに軽井沢と答える。
父に会ってもらうためと付け加えた。
ユイが少しだけ不安そうな顔をした。
クルクル変わる表情の中で初めて見せた表情だ。
僕はユイの過去を何も知らない。
そして家族の存在さえも知らない事に気づいた。
聞くべきか?
その迷いがあった。
ユイが自分から話さないのには理由があるはず。
僕はホテルの駐車場からポルシェを出した。
高速に乗るため、六本木通りを西麻布に向け走り始めた。
ユイ ?
グランドハイアット東京のトイレ。
薄いピンクの口紅をさす。
さあ、準備完了。鏡の中の私が戦闘モードに変わった。
ドレスはプラダにした。
身長の低い私には、なかなか合うブランドがない。でもプラダは150センチしかない私でも、なんとか着こなせるサイズがある。但し、ヒールは高い靴は必要。
これで、ヨシユキを落とす。そう思いながら、クルット一回転。履いたばかりのヒールは、なかなか足に馴染まない。
レストランの前でヨシユキが人待ち顔で待っていた。
こちらに視線を向け、驚いた表情を見せた。
それは私の格好が気にいった表情だ。ヨシユキの表情は分かりやすい。絶対嘘を付けない男性だ。嘘を付いた瞬間、顔の表情が大きく変わるはず。ますます私はヨシユキが気に入った。
レストランに入って、個室に案内され私は吃驚した。
思わず、綺麗と呟いた。
そこは宇宙空間に漂うカプセルの中、星降る夜に食事する。
ロマンチックという言葉を超えた美しさだ。
二人でバルコニーに出た。
東京で、こんな夜を過ごせるなんて。私の隣には、シャイだけど優しそうな男子がいて、その男子を好きになりかけている私がいる。
恋人たちの瞬間だ。
その時、ヨシユキが私に声をかけた。
ユイさん。綺麗ですよね。
私は思わずヨシユキの顔を見た。その瞬間、私はヨシユキのキスを心待ちにしているのに気付いた。心臓が高鳴る。お願いだからキスをして。私はヨシユキの顔見た。ヨシユキは私に一歩近づき、私に迫る。ああ、あと少し。
オードブルです。
ロマンチックな一瞬をぶち破ったのは給仕だ。
私のロマンチックなキスを返せ、給仕の顔を私は睨み付けていた。
心臓の高鳴りが収まってしまった。
席に戻った私は、ヨシユキの研究について聞いた。
私の知らないこと、知らない国、知らない人々について、熱く語っているヨシユキがいた。その目が輝いている。ただぼーとした男性が素敵な男性に代わった瞬間だ。
ユイさんの専攻は?ヨシユキが聞いた。
私、私は西洋美術史。
そうだ、ヨシユキ君の後ろの絵。アカネの作品。
凄いでしょ。お父様のコネがどれだけ凄くっても、ここは超一流ホテル。この部屋に入って目に止まった瞬間驚いたわよ。
あっアカネの絵だ、って。
見て分かるの?
分かる、分かる。だってようやく仲良くなりかけた時に、お邪魔したアカネの部屋で描きかけだったから。アカネの才能は特別なのよ。羨ましいと思うわ。
私は、絵のセンスなかった。だから美術史に切り替えたの。イタリア、ルネサンス。ギリシャ芸術の復興をテーマにした一連の絵画の歴史を勉強してる。
なんか、ヨシユキ君と違って、私の話には感動はないわね。
ヨシユキが突然、人生の意味を問いただす絵だねと言った。
私は吃驚した。
アカネが意識しなくても描ける、絵画の主題を一言で言い当ててしまった。
ヨシユキ君凄い。
もう、君じゃなく、ヨシユキさんに昇格です。
ふーん。本当に吃驚。
携帯電話が鳴った。
アカネからだった。
ごめん、アカネからだから、電話出るね。
やーん。やーん。ユイがいない。アカネ寂しい。
何も答えないのにアカネは勝手に喋っている。
どうしたの。
フミオが今、アカネのヴァギナ舐めてる。もう10分以上。
クリトリスとヴァギナの中を交互に舐めるんだけど。ダメ。やっぱり下手。ユイ、ねえフミオにヴァギナの舐め方教えて上げてくれない。
電話で。
そう電話で。
無理だよ。それは、じゃあ、アカネいい。私の言う事フミオに伝えて。
うん。
舌に力いれちゃダメ。舌だけじゃなく、唇も使って、ヴァギナの襞を挟むように愛撫しながら、ソフトな舌使いで、丁寧にして!って言ってご覧。
それとアカネ。目をつぶって、不機嫌なユイに苛められているのを想像しなさい。
少し気持ち良くなるから。
分かったやってみる。
突然電話が切れた。
ロマンチックな気分がエロの毒に侵された気分だ。
私はエロは嫌いじゃない。でも精神的に満たされているロマンチックな気分を持つほうが心が浮き立つ。きっとそういう気分を味わいながらのエロなら、心の高揚と体から沸き起こる性的な高揚がひとつになり、最高の瞬間を迎えられるのだろう。でも残念ながら、そういう経験はない。
テラスから室内に戻った。
テーブルには次の料理がセットされていた。
そして、私に心の高揚を与えてくれたヨシユキがいた。
恋の予感がする。
二人きりの個室。
次の料理が運ばれて来る瞬間、私たちは黙ってしまう。
どうしたら良いのか、分からなくなるからだ。ヨシユキは給仕が言う、料理の材料や調理法にいちいち頷く。私はそんなヨシユキを黙って見る。時々ヨシユキは私の視線に気付いたようで、はにかみながら、頬を赤くする。
好きな男性を自分の虜にする。
誰もが夢見る瞬間を私は、今体験している、その気分に浸っていた。
電流が脳内から背中へ、そして足先からこの個室の床へ一気に流れる。
その快感に浸っていた。
私が男子を意識した年齢は遅かった。
女子中学から女子高へ、女子の中で過ごした私の周りには女子しかいなかった。
特に私は女子からの人気が高かった。ラブレターの数も不思議と多い。全てアカネのようにマゾの気質のある女子からだった。
私は見た目も若く見られ、普通の女王様のイメージからはかけ離れている。
どうして、彼女たちは私の気質を見抜くのだろう。
それが不思議だった。
ユイさんは何処か、海外へ行った事があるの?
ヨシユキの質問だった。私が、肉と格闘して無言だったからなのか。突然だった。
イタリアへ昨年、短期留学したわ。
イタリアですか?
はい。
芸術と宗教の関係って、日本にいたら分からないけど。イタリア行って初めて納得したの。だってそれまでは懺悔という言葉は知っていたけど。それがどういう事か知らなかった。でもあれはよろず相談窓口みたいな物で、悩み相談全て引き受けますよって事なの。
主婦の不倫や。
動物虐待。
近所へ嫌がらせなど。やってはいけない事しちゃうでしょ。
しちゃった後で、後悔したら懺悔する。なんか理に適ったシステムだわ。
それに、やはり芸術は神という存在があったから進化したんだと思う。
人は人として、どう生きるかという哲学的な悩みは、ギリシャ文明で発達したけど、宗教が力を持ってからは、神という存在に照らし合わせた人間の存在。その意義に変わってしまったの。それをもう一度掘り起こそうという動きが、イタリア・ルネサンスなんだけど。
あっ、ごめんそんな話じゃなかたわよね。
ううん、ユイさんが喋っている顔、素敵だなあーって思ったから。
あっ話はきちんと聞いているよ。だから大丈夫。
じゃあ、ヨシユキさんの話が聞きたいな。聞かせて。
うん、ユイさん、聞いて欲しい話があるんだ。
そう言って、話し始めた内容は素晴らしい話だった。
アマゾン。
謎の湖、そこに存在する水を濾過するバクテリア。
さらに、精霊の木に宿る、神秘的な微生物。
私にとっては、全てが想像を超える話だった。
さらに、アメリカの科学雑誌への掲載。
アメリカの製剤会社とハーバード大での共同研究。
すべてにおいて、スケールが大きすぎて、話がよく分からなかった。
ひとつだけ分かった事。
三日後には、ヨシユキはアメリカに旅立ってしまうって事だ。
そして、ヨシユキは頭を下げた。
ごめんなさい、と。
僕には恋をする資格がないと。そして私に対して失礼だったこと。
私の心は掻き乱された。
ヨシユキが日本にいなくなる。
私が恋したと感じた日に、その相手が日本から旅立ってしまう。
私はどうすれば。いいのだろう。
冷静なはずの私は、考えがまとまらない渦の中に放り込まれたように。
ただ呆然としていた。
私は決意した。その決意をヨシユキに伝えるために、ヨシユキに聞いた。
ヨシユキさん、私のことはどう思っているの?
ヨシユキは苦しい胸のうちを明かした。
私は自分の決意をストレートに伝える事にした。
ヨシユキが旅立つまでの三日間、一分一秒でも長く一緒にいたい。
絶対離れない。
いやと言われても、一緒にいるから。
いいわよね。
私の目から流れている涙を頬が感じていた。
ヨシユキが大きく何度も頷いた。
その目からは涙が流れ落ちていた。
じゃあ、私たちは恋人ね。
いいわね。
そう高らかに宣言した。
扉が開き出てきたアカネは素っ裸だ。
私の目の前に形の良い乳房がある。
アカネ、裸でドア開けちゃダメでしょ。
フミオは?
酔って寝ちゃった。
アカネが指差す方向を見ると。ソファーの上で、全裸で眠っていた。下腹部に目が行った。そこには、アカネが言うほど小さくないペニスがだらしなくぶら下っていた。
私は部屋に入って着替えを始めた。
ねえ、そのドレスどこの?
プラダよ。あっアカネのカードで買ったから、支払いよろしくね。
綺麗なユイ好き。
もっと色んな洋服買おうよ。
今度一緒にパリに行ったら、何でも好きなモノ買ってあげる。
アカネは私のパトロンなの?
イエース。ユイは私のもの。
ヨシユキにもおすそ分けしてもいいかな?
ねえ、ユイ、どうだったヨシユキ。
なんか、あのボーとした顔。
でも引き締まったお尻。なんか美味しそう。
お尻かあ、確かにキュットしてたね。
アカネは40インチの大画面でエロビデオを見ていた。
画面には、縄で縛られ、鞭で打たれている全裸の女性。
その女性が鞭で打たれるタイミングでクリトリスをぎゅっと捻ってオナニーしている。
えええ、アカネもユイと一緒にヨシユキとエッチしたい。
ユイに苛めて貰って、ヨシユキのペニスしゃぶったら、なんか気持ちよさそう。大きくなったら、ユイのヴァギナに挿入れてあげるから。アカネは挿入てるユイのヴァギナを舐めて上げる。あああ、したいーーしたいーーよ。
気持ちいい、エッチしたいよ。
今度ね。
本当。絶対。二人の初エッチは邪魔しないから。二度目のエッチは絶対三人でしようね。約束だよユイ。
ドレスはクローゼットに仕舞い。
短めのスカートとTシャツに着替え、シューズに履き替えた。
化粧を落とし、コンタクトも外し眼鏡をかける。
やっと、いつもの自分に戻った気がする。
アカネが全裸のまま近づいてきた。
やっぱりユイかっこいい。
その姿を見ると、アカネのヴァギナ疼いちゃうんだ。
ちょっとだけ触って。
フロントでヨシユキは待っている。
早く、行かなくちゃと思いながら。
私はアカネの口にキスをして、右手でヴァギナをグジュグジュにした。左手で乳首をギュット捻ると。アカネは大声で叫んだ。右手の指4本をヴァギナに突っ込み。手首付近まで差し込む。ギューギューな感じなのに、アカネは腰を震わせ始めた。絶頂が近い。乳首をさらに捻る。
ああああ、ユイ逝く逝く逝くーーー。
アカネは絶頂に達した。
アカネの体を支え、ベッドに運ぶ。
じゃあね。アカネ、ドライブに行くから。
フミオが起きたらポルシェ借りたと伝えておいて。
そう言って、私はフミオのポケットから鍵を取り出した。
アカネにもう一度キスをして部屋を後にした。
フロントの前にあるソファーでヨシユキはボーとしていた。
ボーとしたヨシユキ。なんて可愛いんだろう。
S気質が目覚め、苛めたくなってくる。
待った。ごめん行こうか。
二人で駐車場へ向かった。
ポルシェに乗って、私は行き先を聞いた。
軽井沢。
ヨシユキが言った。
僕の実家、父に会ってほしい。
私が苦手としている大人の男性、その最たるもの父親。
私は、ヨシユキの父親に受け入れてもらえるだろうか。
そんな不安の中、ホテルの駐車場を出発した。
ヨシユキ ?
ユイが処女。
僕は、その言葉で頭の中がぐるぐるしている。
処女とエッチした事がない。
僕は自慢じゃないけど、フミオのお下がりや、フミオ待ちの女の子が多かったから、それなりの経験者ばかりだった。
どちらかというと、最初は僕がリードされ、あれこれ注文されていた。
ようやく最近、自分でリード出来るくらいの経験値が上がったかなとは思うが。
処女=不安
不安=ルイ
ルイ=素敵な女性
素敵な女性=有頂天
僕の頭の中はやっぱりぐるぐるだ。
きっと。
今、頭を割るとザクロのようなのだろうか。
それとも、スイカ。
種があるだけマシ。
さらにユイがドS。
僕には衝撃的だった。
その上、ファースト・キスが僕。
嬉しさのあまり飛び上がるところだった。
ドS=ファースト・キス=処女
そんな方程式は成り立たない。
だよね。
僕は今、どこを走っているのか、さっぱり分からなくなっていた。
ここは、外環?
そう。
じゃあ、このままいけば関越?
そう。
ぐるぐる頭にユイの妄想が迫る。
僕は窓を開けた。
クーラーを止め、外の空気吸いたいから。
そう言って、心を落ち着かそうとした。
ユイの顔が満足そうな顔に変わった。
きっと言いたい事言い切ったにちがいない。
そのまま、眠そうな顔に変わって、コクン、コクンと頭が揺れた。
僕は軽井沢までユイの寝顔を見ながら運転する事になると思った。
僕が生まれた家は別荘地の中に建つログハウス風の家だ。
他のお金持ちの多くが別荘として使っているが、我が家は一年中暮らしていた。
この家は母が父から生前贈与の形で贈られた家だ。
父が母と出会ったのは仕事場だった。
母は映画初主演の女優、父はその映画の監督。
出会って、恋に落ち、あらゆる反対を押し切って結婚した。
一番反対したのは、母の父だ。
結婚式はおろか、全てに反対した祖父は、生前贈与で別荘を贈って、全ての縁を切った。
僕が祖父に会ったのは、母の葬式が初めてだった。
母が言う。
怖い人。
その人自身に初めて会った時、僕は頭の中に抱いていた祖父のイメージを一新した。背が高く白髪の英国紳士をイメージしていたのだが、160センチに満たない身長の人の良さそうなお爺ちゃんだった。それでも、父には厳しい顔で何か怒っていた。
僕は叔母を父に紹介され、その叔母に連れられて来た祖父に会った。
不思議な気分だった。母を叱り付けていた祖父という人が、初めて人格を持った瞬間だった。
中学1年だった僕は、美しい母がこの世に居なくなった実感を持てなかった。
母が女優だった事実は父の友人から、事あるごとに聞いていた。
その美しさ、1本の主演映画を残して、結婚と同時に芸能界から消えたこと。その全てが父という男が奪ってしまったということ。
父の友人たちは恨みがましく父を攻め立てた。でも、それは母が生きていたからで。
葬式の日、家族葬というごくごく小さな葬式であっても、多くの友人が集まった。母の祭壇に飾られたのは、主演映画の時に撮影されたポートレートだった。
カメラから視線を外し、笑顔を向けられた、その視線の先には、きっと父がいたのだろう、そう思わせる写真だった。
僕が胸にしまったままの母の思い出が蘇ったのは、ユイのせいだった。ユイと母は似ていないはずなのに。
僕は、母に似た部分をユイに捜し求めていた。
着いたよ。
僕は、ユイを二時間くらい寝かせたまま、夜明けを待っていた。
林の向こうから朝日が射している。
うーん、うん。ここ何処?
僕の家。
ヨシユキさんの実家?
そう、山の中じゃないからね。
軽井沢だよ。
でも別荘だね。
ははは、確かに別荘。僕は別荘で生まれて別荘で育ったんだ。おかしい?
おかしくはない。素敵な事なのかもね。あああ朝だ。
ユイは上りかけていた朝日を見ながら言った。
うん。じゃあ、入ろうか。父はまだ寝てると思うから。
1年ぶりの実家だ。
父親の部屋に入る。書きかけのシナリオの束が机の上に、それ以外は綺麗に片付けられている。仕事で東京に出かけているのだろう。そんな気配だった。
階段を降り、リビングに戻る。
ソファでは、ユイが体を丸めて眠りに入っていた。
可愛い寝顔だなあーと思う。
この子と何処かで会ったのかな、とまた同じ疑問が浮かぶが、自分の部屋に向った。
部屋の中は1年前と変わらず、少しだけ埃が積もっていた。
片側の壁一面は書棚。
そこには、母がくれた本から、父が知らぬ間に置いていった本まで、ジャンルはまちまちだが、僕の10代を語る上では欠かせない本が並んでいる。
部屋の片隅にあったダンボールにもう一度読みたい本を詰めていく。
母が中学入学祝でくれた『ゲド戦記』。
父が勝手に置いていった池波正太郎のエッセー集。
母が選んでくれた本はファンタジーからサド侯爵まで幅広かった。しかしその殆どが、翻訳小説だった。父は日本の作家しか読まなかった。僕には池波正太郎の魅力を伝えたかったらしく、グルメについて書かれた本を、これが男の美学だ!と言いながら渡した。
両親の趣味の違い。でも二人とも暇があれば本を読んでいた。
僕の家にはテレビが無かったから。
父は映画を見るためにテレビを家に置きたかったらしいが、母の反対で、母が死ぬまで我が家にはテレビがなかった。その後も母の遺言で、我が家にテレビがやってくる事はなかった。
僕は小学生の頃、苛められた。テレビが無かったから。
でも、それは少しずつ成長するにしたがって、必要な事だと分かった。
ダンボール箱1箱分だけ本を詰めると。
僕は部屋を出た。
ユイは寝息をかきながら、まだ眠っていた。
鳥の鳴き声。
朝日。
お腹が空いたと腹が鳴る。
そのぐーという音でユイが目覚める。
小さな音なのに。
ユイは寝起きなのに可愛い笑顔を向け。
お腹減ったね。と僕に向って言った。
ご飯食べようか。
なんか作れるの?
万平ホテルで朝食食べようか?
うん。
泊まってなくても食べれるの?
うん電話すれば大丈夫。いつもだから。
母が生きていた頃、僕は母と一緒にホテルへ朝食を食べに行った。
支配人は、母のファンだった。
僕たちは、誰よりもいい席で、夏の朝日を浴び、風を浴びながらテラスで朝食を食べた。
母はスクランブルエッグ。
僕はポーチドエッグだった。
マフィンにベターを塗り、その上にポーチドエッグを乗せて食べるのが好きだった。
僕の実家から林の中の小道を歩く事5分。
万平ホテルが見えて来た。
僕の右手にはユイの左手。
その手の感触を確かめながら、僕はゆっくり歩いた。
ユイが立ち止まって僕の顔を見る。
僕の心臓が大きく鼓動を打つ。
僕の中で、熱い衝動が沸き起こる。
抱きしめたい、強く抱きしめたい。
そして。
キスしたい。
僕はユイの手を取って強く体を抱きしめた。
小柄な体が僕の中におさまった。
僕が見下ろす感じでユイの顔を見る。
ユイは戸惑いながらも期待を込めた表情で僕を見た。
万平ホテルへ目の前。
林の中には強い朝日が差し込んでいる。
僕はユイの唇に僕の唇を近付けた。
ユイが目を瞑る。
頬が小刻みに震えているのがわかった。
可愛い。
この女性の全てを知りたい。
僕は唇を重ねた。
ソフトにお互いの唇を感じるように。
そして、そっと唇を開かせた。
少しだけ強く、そして少しだけ舌をユイの口の中へ。
二人の重なり合っている唇に意識が集中する。
体全体の意識が全て。
僕は、そっと唇を離した。
ユイの全てが知りたい。
ユイが僕の顔を見る。
それは言葉として発していなかったはず。
でもユイは小さく頷いた。
そして、また目を瞑った。
僕は僕の感情の全てを唇に込めた。
持てるだけの愛の全てを。
ユイの膝が小刻みに震え、僕の背中にしがみ付いてきた。
僕は唇を放し、ユイの手を取って、家の方に走り出した。
ホテルと逆方向に走り出した僕にユイは驚いていた。
ホテルを何度か振り返り、そのたびに僕の顔を見る。
僕は立ち止って、ユイを抱きしめた。
今度は声に出して言った。
ユイ好きだ。
君の全てを知りたいんだ。
今度はユイも大きく頷いた。
僕の手を握り締めて、林の小道を走った。
僕の家が見えてきた。
ユイが立ち止まった。
私もヨシユキが好き。そう言ってユイは僕の体を抱きしめた。
僕も、その体を強く抱き締めた。
家の玄関。
誰もいない。
二人で階段を駆け上がり。
僕の部屋へ。
ユイ ?
ヨシユキさん、私処女なの。
西麻布を越えて、高速に乗ろうとしていた車が急にバランスを崩した。
突然の発言に驚いたヨシユキがハンドル操作をミスったのだ。
はははは。ねえ、信じた?
ヨシユキの顔を見る。
困った顔をしている。
困った顔を見ると感じるんだ。
困った顔が怒った顔に変わる。
ねえ、怒ったの?
無言。そして怒った顔。無言。
男子の反応は面白い。
嘘じゃないのに。真実を見分けられないのだ。
嘘じゃないのに。
呟くように小声で言う。
まだヨシユキは無言。そして怒った顔。
きっと、ヨシユキさんは、好きになった相手にエッチな事言えないんでしょう。おい、ユイ本当は毎日ひとりエッチしてるんだろう?とか。ほらヴァギナが疼いて。疼いて。体を持て余してるんだろうーなんて言う、エロ親父のような台詞絶対言えないよね。
ヨシユキの顔が戸惑っている。
なんで私がそんな事言うんだろう?という顔に変わった。
私だって、ロマンチックな雰囲気になって。
精神的に満たされるのが一番だけど。
でも、私、故障しちゃった。
アカネといるとロマンチックな気分になれない。
だから、ごめん。
怒ってるのも、傷ついているのも分かってる。
でも、故障しちゃったら。直ぐには修理出来ないの。
それも分かって。
戸惑ったヨシユキの顔が心配顔に変わった。
アカネとユイの関係って?
知らなかった。
アカネはドMなの。
私がいなくてはダメなの。
じゃあ、ユイさんはドS?
そう、アカネと一緒の時はね。
でも、本当はどうなんだろう、分からない。
だって処女だから。
えっ、今度は本気で困った顔をした。
だから本当に処女なの。
私、好きな男性とキスしたのは、ヨシユキさんが最初よ。
どう、光栄?
うーうん。
どう言っていいか分からない返事だった。
車は、外環を通って関越に入った。
渋滞もなく、スムーズに流れていた。
本当に?
本当よ。
うん、キスは好きな男子としようって決めたの。
ああ、アカネとはいっぱいしてるけど。
アカネは女子だから、許して。
ユイさんとアカネさんって不思議な関係なんだね。
どう言ったらいいか分からないけど。
僕なんかには理解不能なのかも。でもそういう信頼関係の表現方法もあるのかも知れないね。少しだけ分かる気がする。
私はアカネとの事をヨシユキに告白出来たことで満足した。
二人の関係を秘密にしておくわけにはいかなかった。
ヨシユキの父親に会うには、それなりの覚悟が必要だったからだ。
人は恋に落ちる瞬間、意識するのだろうか?
恋に落ちた自分に冷静でいられるのだろうか?
私は冷静でいられないし、何故恋に落ちのかも分からない。
答えは出ない。
黙々と運転しているヨシユキの横顔を盗み見る。
何故、彼を好きになったのか?
人は人を好きになるのに理由はいらないと私は思っている。
でも、どうして?と自分に問いかける事は良くある。
答えは出なくてもいい。でも理由の一端でも分かればと思う。
そうして探し出した答えはこじつけでしかないのかも知れないが、納得しちゃう時もある。今までの恋愛、私の数少ない恋愛ではそうだった。でも、そのどれもが告白され、中途半端な付き合いから、きっと好きなのかも。と思い始め、キスされそうになって、本当はどうなの?と自分に問いかけると、私は大概、顔を背けた。キスを拒んでしまう。
キスをしたいという気持ちが生まれなかったからだ。
今日、うーん、もう昨日かな、ヨシユキの唇が迫った瞬間に生じた、私もしたいという感情は生まれて初めて沸き起こった。
それが、凄く嬉しかった。
たった三日間、あっもう二日間しかなくても。私は幸せでいられると思った。黙々と運転しているヨシユキに向って、私は心からありがとうと言っていた。
満たされた思い。
心地よい眠りが私を襲った。
ユイ。
ユイ。
深い森の奥からヨシユキの声が聞こえる。
うん、うーん。
着いたよ。
記憶がヨシユキの横顔から、ボンネットの先に見えるログハウス風の建物に移った。
ここは?
僕の家。
別荘みたい。
はははは、別荘だけど。僕の実家。
隣のヨシユキの笑い声が心地よい。
縮こまった体をぐっと伸びをさせるようにして、車を降りた。
木の重そうな扉。
この扉の向こうにヨシユキの父がいる。
そう思うと、入るのを躊躇してしまう。
じゃあ、入ろうか、父はまだ寝ていると思うから。
そう言うヨシユキの声が私の体を後押しした。
玄関の扉を開けると、吹き抜けのリビング。広々とした中にソファがあった。私の頭は、まだ夢の中、ヨシユキが父の部屋に行くと言う声を聞いた瞬間、また夢の中に入っていた。
夢の中に母がいた。その隣には父も立っていた。
私を見る目が優しいけど。何も語ってくれない。
私は両親の腕に飛び込みたかった。
でも、近づけない。1歩近づくと、1歩離れる。
母が何か言いたそうに口を開く。
私は一生懸命、母の声に耳をかたむける。
でも聞こえない。
私の頬に涙が伝う。
悲しい感情が心を占め、泣き出したい思いに駆られる。
母は私に何を伝えたかったのか。
私は夢の中で、母の思いを探る。
ヨシユキの声が聞こえる。
ヨシユキのお腹が鳴る音が聞こえる。
私のお腹も空腹だと分かった。
一気に目が覚めた。
ヨシユキの爽やかな笑顔が目の前にあった。
朝ごはん食べる?
うん。
ヨシユキが作ってくれるのかな?
そう思ったら、ホテルの朝ごはんだった。
軽井沢で一番有名なホテル。
朝食をホテルで食べるのが、ヨシユキと母の恒例だったらしい。
ヨシユキの母が主演した映画を昨年見た。
偶然だが、大学祭で取り上げた映画祭りの監督がヨシユキの父だった。
代表作5作を一気に上映するイベントで、私は5作品を全て見た。
ヨシユキの母は美しい女優だった。
ビデオ化されないため、映画会社が作ったパンフレットには、幻の作品とクレジットされている。物語は、家柄の違いと家族の無理解から起こる悲恋話だ。ロミオとジュリエットの日本版と云っていいかもしれない。パンフレットに記載された粗筋を読む限り、期待しなかったのだが、実際の映画を見て、私は泣いた。
ヨシユキの母は私の心に残った。
他の4作品も恋物語だった。
でも、私は泣けなかった。
物語性はより成熟を増し、心に残るはずなのに、私の心を鷲摑みしたのは、ヨシユキの母だった。
ホテルへ向うため、家の裏庭に出る。
白樺林に囲まれた別荘。そのままだ。
林の中に砂利が敷き詰められた小道がある。
私はヨシユキの右手を握った。
ヨシユキは握った手を見て、私の顔を見た。
優しげな表情で、微笑んだ。
その手の感触を私は楽しんでいた。
時々、真っ直ぐ見て歩くヨシユキの顔を見る。
見られている事に気付くのか、時々私の顔を見る。
その瞬間だけ、私はヨシユキの顔から視線を外し、林の先を見る。
後、どれくらい?
もう直ぐだよ。
確かに目の前に木造のホテルが見えてきた。
歴史を感じさせる優雅なホテルだ。
私はヨシユキの顔を見ながら言った。
ヨシユキさん。
何?
うん、ヨシユキさんの横顔、凄く好き。
ヨシユキの顔が赤らんだ。
私の頬も赤く染まったはずだ。
私は心で願った。
私の左手を強く引いて、そして抱きしめて。
強く、強く、抱いて、私の唇に。
キスをして。
ヨシユキに手を引かれ体を抱きしめられた瞬間。
私は心から望んだ。
その唇を私の唇に重ねて。
それも熱く深く、私の心の奥まで。
ヨシユキのキスは優しかった。
そっと触れた唇。
感覚が鋭敏になったせいか、その触れ合いで私の体は震えた。
舌がそっと口の中に、探るように動き回る。
私の膝ががくがくする。
立っているのがやっとだ。
ヨシユキは唇を離し、私の腕を取ってホテルとは逆方向へ走り出した。
私の体は、なかなか思い通り動かなかった。
耳元で、ヨシユキの声がする。
私の感情が沸き立つ。
私も好き、大好き。
その叫びが、私を覆う。
林の小道は走りにくかった。
時々立ち止まり。
お互いの顔を見る。
やっとヨシユキの自宅へたどり着く。
くつを脱ぎ、階段を上り、ヨシユキの部屋へ。
扉が閉まった瞬間、力強く抱きしめられた。
私はヨシユキの首にしがみ付き、おもいきりヨシユキの口を吸う。
唾液全部を吸い出すように強いキスだ。
両手はヨシユキの洋服のボタンを外す。
ヨシユキも私のTシャツ、ジーンズ、ブラジャー、パンツ。
着ているもの全てを剥ぎ取った。
私もヨシユキのパンツを脱がすと、そこにはお腹に付きそうな位、膨張したペニスが。
ペニスにしゃぶり付きたい。
私の口いっぱいに頬張りたい。
まだ一度もした事がないのに私の中では、そんな途方も無い思いが占めた。
ヨシユキの口から唾液が一滴も残らないほど強くしていた唇を一度外した。
ヨシユキが私の裸を見る。
綺麗だ。
ヨシユキが言うと。膝を着き、私の乳房を両手で愛撫し始めた。
最初は優しく、そして唇で乳首を挟み舌で転がすようにしながら、少し強く揉んだ。
乳房全体の快感が下腹部まで降りてくる。
ヴァギナが収縮する。その瞬間キューンとした感覚が背中から脳天に突き抜ける。
私の膝が崩れ落ちた。
かろうじてヨシユキの手で支えられている。
そのまま、ヨシユキに抱え上げられ、ベッドへそっと下ろさせる。
私の目の前に。
ヨシユキの顔。
ユイ綺麗だ。
凄く好き。
優しい口調のはずなのに、体を抱きしめる力は言葉とは違って強かった。言葉で伝えきれない思いがヨシユキの抱きしめる力として伝わった。
私は答えを。
言葉ではなく行動で示した。
強くキスをした後。
ヨシユキの顔を一度見て、私はペニスを口にした。
それは見た目より大きく、私の小さな口にやっと入るほど大きかった。
でも、私は喉の奥まで飲み込みたかった。
大好きという感情を伝える行為として、ヨシユキの大切なペニスを私の喉の奥に飲み込む。その行為が私の感情を満たし、ヨシユキに愛情を伝える事が出来ると信じた。
ヨシユキは私の顔を愛しおそうに見た。
私の思いがヨシユキに伝わっていると私は思った。
ヨシユキのペニスから苦い液がこぼれ落ち、私の口に広がった。
その瞬間、私の口からペニスが離れ、体を倒され両足を大きく開かれた。
私のヴァギナがヨシユキに見られている。
疼く感覚と羞恥心が一緒に体全体を覆った。
私はヨシユキの顔を見た。
ヨシユキは一瞬私の顔を見て、私のヴァギナを口全体で舐めた。
快感がヴァギナから、腰、背中、脳髄へ電流が駆け巡る。
腰全体の疼きが足先まで達した。
もう体のどこにも力が入らなかった。
ヨシユキに体全体を預け、私は快楽の虜になった。
ヴァギナからは大量の愛液が流れ出て。
私の口からは悲鳴に近い喘ぎ声が出ている。
もうだめ。
お願い、ヨシユキさん来て。
私は上半身を起こし、ヨシユキの首に両手を巻きつけた。
ヨシユキが自分のペニスを片手に持ち。
私のヴァギナにあてがった。
私の初めての男。
大好きなヨシユキ。
さあ、ひとつになって。
私の体全体がヨシユキを求めた。
ヨシユキのペニスは、なかなかヴァギナに挿入らなかった。
十分な愛液が流れ出て、私の準備は出来てるはず。
ヨシユキが腰に力を入れ、ペニスをぐっと挿入れた。
ヴァギナの入り口にキリッとした痛みが走る。
その瞬間、膣の一番奥までペニスが届いた。
ひとつになった。
私はヨシユキの顔を見た。
ヨシユキも私の顔を見た。
その優しげな顔を見た瞬間、私は幸せを感じた。
ヴァギナでヨシユキのペニスを感じて、ヨシユキの優しげな顔を見て私は幸福を感じる。心も体もひとつになる瞬間の素晴らしさを感じていた。
ヨシユキはゆっくり動き始める。
痛くない?と優しげな声。
私は首を振り、両腕をヨシユキの首に巻きつけたまま、私もヨシユキの動きに答えた。
膣の奥が少しづつ反応する。
ジュンとした感覚から、キューンとした感覚へ、さらに疼きがヴァギナ全体に広がり、快感のうねりが腰から背中を伝わり脳へ届いた。
体全部が疼く感覚、その感覚が快感なら私は初体験から感じている。
堪らなくなり、私の腰は勝手に動いた。
その動きに合わせるようにヨシユキの動きが激しくなった。
二人の体を密着させるように私は上半身をヨシユキの上半身に密着させた。
座るような体位になり、ヨシユキの口を思いっきり吸う。
ヨシユキもそれに答えた。
疼きが限界値まで達している。
両足が麻痺するような感覚で、ヴァギナの中をくねくね動くペニスが作り出す疼きの感覚が高まりが次第に怖くなった。
私はおかしくなりそう。壊れそう。私でなくなる。そう感じた瞬間。
逝きたい。
逝っていい?
ヨシユキが私の耳元で言う。
私は首を縦に振る。
ヨシユキの動きが一段と激しくなって、疼きから逃げ出したい感覚が上昇した瞬間。
ヨシユキはペニスを抜き出し、私の太ももに白い液を大量に出した。
逝った?
うん。
ユイ。
愛してる。
そう言って。
ヨシユキは強く私の体を抱きしめた。
ヨシユキ 最終章
ボストンで暮らし始めて1年。
大学の寮から、ようやくアパートに移り住んだ。
この通りは、ヨーロッパの雰囲気が残るストリート。
家賃も他のエリアより、かなり高いが一度は住んでみたかった場所だった。
1ヶ月前。
母を良く知る友人という女性が大学にまで訪ねてきた。
母は、僕が知らなかった事なのだが、小学校に入るまでアメリカで暮らしていたらしい。
確かに、僕の遠い記憶の中で、母と父が大喧嘩した時に、飛行機に乗せられアメリカに来た記憶がある。
その当時、彼女は僕に会ったらしい。
僕の顔を見て大喜びしていた。
バーモント州の片田舎。
母が生まれ、6歳まで過ごした場所だ。
僕の記憶の中にりんごを食べた記憶がある。
後、知らない外人のおじさんに連れられ、川に釣りに出かけた。
寒い秋。
暖炉の火が体を温めた。
ぼんやりとした記憶だが、確かに僕はニューイングランド地方に来ていたようだ。
母の友人は、数枚の写真と母の思い出話。
高校卒業時に彼女のもとを訪れ、本気で留学を考えていた話などしてくれた。
僕には意外な話が多かったが、彼女にとっては忘れられない思い出だったんだと思う。
そんな母の話を聞いて、僕はアメリカをもっと楽しもうという気になった。
この1年近く、僕は大学の寮と研究室の往復しかしなかった。
楽しみはただひとつ。
ユイから毎週送られて来る手紙だけだった。
成田空港での別れ。
女性と別れる事がこんなに辛いことなのかと思った。
ユイを抱きしめた手を二度と離さないぞと思った。
しかし、ユイが先に僕の手を解いた。
こんなに辛い気持ち初めて。
ユイが離した手を見つめながら、僕の顔を見ず言った。
僕の目からは大粒の涙が流れていたが。
ユイも同じはず。
お互いの顔を見れなかった。
僕は、僕だって同じ気持ちだよ。と答えた。
涙が流れたままの顔をユイは僕に見せると、その涙を手でふき取って。
私も行く。
ハーバードに入って見せる。
ヨシユキと同じ教室で勉強してみせる。
そう言って、堅く口を結んだ。
目からは大粒の涙がずっと流れたままだった。
ユイの決意は固かった。
1ヶ月前に届いた手紙には、ハーバード入学の知らせが届いた内容が書き記されていた。
僕のように、特別な研究で招聘される研究員とは違って、通常の大学編入はかなり難しいはずだ。
どれだけ、勉強したのか、僕には想像さえ出来なかった。
でも、僕はユイのその気持ちが嬉しかった。
そしてユイが決めたもうひとつの選択。
手紙だけで繋がっていたいという気持ち。
声を聞いたら、会いたくなって、泣けて、どうしようもなくなるから。と言ったユイの気持ち。
その気持ちが痛いくらい分かった。
僕は流れる涙を拭わないまま、ただただ頷いた。
ユイのハーバード入学の知らせ。
きっとユイは電話で話したかったはずだ。
それなのに手紙で知らせたユイに僕は心底感心した。
そして、僕は手に持った携帯を何度かプッシュしたが、結局電話はしなかった。
ふたりがひとつになれた日。
僕たちは一日中繋がっていた。
心と体がひとつになる幸せ。
その幸せに浸っていた。
次の日。
父が東京から戻り。
フミオとアカネが新幹線で軽井沢へやって来た。
日本最後の夜は、大勢で盛り上がった。
父は次回作の映画が決まり、ご機嫌だったし。
フミオとアカネは僕の最後の夜がつまらない夜にならないように気を使ってくれた。
ユイだけはぼんやりした感じで、時々僕の顔を見ると。
微笑むのだが、何処かに気持ちは飛んでいた。
成田空港で、ユイの手が僕の背中を押し、僕は出国ゲートに進んだ。
僕の目は真っ赤だった。
税関の担当者は僕の顔を見ると、薄笑いを浮かべた。
その顔が憎らしく、怒りの感情が溢れそうになった。
我慢しているうちに涙が止まり。
僕は放心状態のまま、ボストンに辿り着いた。
それから1年。
明日はボストン空港にユイが着く。
1年ぶりの再会。
ユイに会える。
その事を思うだけで、僕は幸福だった。
会える。
会える。やっと会える。僕の頭の中で1万回は思い描いたユイとの再会。僕の胸に飛び込んでくるユイ。
僕はユイを強く抱きしめる。
大勢の視線を浴びたまま、ユイへの思いを全て込めたキスをする。
車は環状線を走り、ようやく日が暮れそうだが、夏のボストンは日が長い。僕のダットサンは、ほかの車の流れに取り残されそうになりながらも。なんとか走ってくれた。
ユイの到着は22時20分。
日本からのボストン直行便はない。
サンフラン経由の飛行機をユイは選択していた。
一昨日届いたユイの手紙に車で迎えに来て欲しいと書かれていた。
僕はまだボストンの環状ハイウェーイに乗りなれてない。
不安な気持ちを抱えたまま、車で走っていた。
ユイには行きたい場所がある。
それが何処かは書いていなかった。ただ、行きたい場所があるから、と。着いた日にそのまま行きたいと書いていた。
夜遅くの到着便。
さらに夜中のドライブ。
ユイの思いは分からなかった。
でも、僕はユイに会える。それだけで逸る気持ちを抑え切れなかった。
ユナイテッド824便が到着した。
後、1時間もしない間にユイが到着ゲートから出てくる。
僕はまた頭の中でユイとの再会を何度も果たしていた。
ユイの髪は伸びていた。女性らしく美しくなっていた。
半そでのシャツに少し短いパンツ。
ユイの愛らしい笑顔。
1年も待った笑顔だ。
僕は飛び出していって、ユイに抱きつきたい、その思いを必死に堪えた。
お待たせ。
僕の前でユイが笑顔のまま言った。
うん、待った。
その一言で、僕たちは誰の目も気にせず抱き合った。
強く、強く、そして優しく。二人の存在を身体全部で感じて、僕たちはお互いの顔を見ながら、ゆっくり唇を寄せて行った。
会いたかった。
うん、私も。
僕たちのキス。誰に見られようが、僕たちのキスは僕たちだけのもの。他は一切目に入らなかった。
身体がユイを欲しがった。
その変化に気づいたユイが唇を離した。
ヨシユキさんに知って欲しい事があるの、だから車で来てもらったんだ。
もう、行かなきゃ。
私も少し、ベッドで横になりたいし。
うん、でも休めるのかな。
僕の言葉にユイは微笑みだけ返してよこした。
車にユイの荷物を積み出発した。
もう23時を過ぎている。
ねえ、今日は?
うん、大丈夫ホテルは取ってあるから。
じゃあ、道案内するね。
だってヨシユキさん、方向音痴でしょ。
なんで知ってるの?
だって手紙読んだら分かるわよ。
私、地図を読める女ですから。
僕たちは環状線に乗った。
それから、ユイの道案内はパーフェクトだった。
途中の有料区間もなんなく通って、一般道へ降りる。
ルート103を通って、僕にはまったく分からない真っ暗な道を進む。
ようやく見えてきたのは小さなホテル。
僕たちは車を止め、フロントへ。
ヨーロッパぽいイメージだなあーと思っていると。
ジョン・アーヴイングのホテル・ニューハンプシャーに出てくるようなホテルよ。そう言って、微笑みながら、一晩の着替えだけ入っている鞄を持って部屋へ向かった。
夜遅いから、僕たちだけでエレベーターに乗って3階へ。
じゃあ、ここはニューハンプシャーなの?
そう、明日目を覚ますと、ベランダの向こうにニューファウンド湖が見えるわよ。
凄く綺麗なの。
絶対ヨシユキさんも感動してくれると思うの。
僕は、何故かこの場所に詳しいユイが謎のままだが。
一刻も早く部屋に入って二人きりになりたかった。
ユイが欲しい。心から思った。
部屋に入り扉を閉めた瞬間、僕たちは強く抱き合った。
お互いの全てをもう一度知るための。
僕は強くユイを愛した。
朝目覚めたとき、ユイはベランダにいた。
もう陽は高く昇っていたが、湖の湖面がキラキラ輝いていた。
おはよう。
そう言って、ユイを後ろから抱きしめた。
ここにヨシユキさんと一緒にいるなんて、私考えもしなかった。
でも、今私、幸せ。
そう言って、振り向くと僕の唇に唇を重ねた。
僕だって、そうさ。
そう思いながら、美しい風景を二人で眺め、時々キスをした。
美味しい朝食を食べ、僕たちは車に乗った。
ここまで、空港から2時間30分。
僕たちは何処に向かっているのだろう。
ルート104を通っている時。
ここは紅葉が綺麗なの。
紅葉、銀杏、秋になったらもう一度来たいわ。
僕は運転しながら頷いた。
ルート89を通って、ルート2へ降りると、そこは英国の街のような。
バーモント州の州都モントビリアだった。
ここが目的地?僕が聞くと、もう少し先。とユイが答えた。
美しい街並みを抜けると。川にかかる赤い橋が見えてきた。
僕の記憶も蘇った。
あっ来た事がある。
それは声に出たらしく、ユイが僕の顔を見た。
思い出したの?
あの川で魚を釣ったと思う。
そうだ。それからコテージにかなり長い間いたと思う。
まだ学校に行く前で、最初英語が分からなかったけど、なんとなく分かって来た時、父が迎えに来て日本に戻ったと思う。
秋だった。
美しい風景が心に残ったんだね。
晴れた日は、ずっと外を見てたかもしれない。
同じ風景だよね。
そうヨシユキが子供の時に見た風景と同じ。
ここは、時が止まった場所だから、20年近く経っていても、何も変わってないと思うわよ。
ねえ、ユイ?
どうして知ってるの?
私が知っていることが不思議?
勿論不思議さ。
そうよね。だから、ヨシユキさんと暮らす前にここに来たかったの。
えっ、僕の母とユイは関係あるの?
あると言えばある。
ないと言えばない。
分からない。確かにユイには、母と同じ雰囲気を感じるときはある。
でも、それは母と似ているとかではなく、同じ雰囲気だってことだ。
兄妹じゃないよね。
違うわよ。
笑いながらユイは言った。
そういう心配はないから大丈夫。
ユイはまた黙った。
道の向こうに美しい大きな家が見えて来た。
着いたわよ。
ユイが僕の顔見て言った。
ユイ 最終章
最後の荷物を国際宅急便に預けると。
部屋の中には何も無くなった。
私が3年住んだ部屋。
小さなワンルームだけど、自分なりにおしゃれにした部屋だった。
その部屋をもう一度見渡した。過去の記憶と未来への渇望。
今の私は未来への渇望しかなかった。
この小さな部屋で、無我夢中で勉強した1年。
英語がこんなに難しく、英語で答える西洋絵画史がこんなやっかいのものだったとは。
何度教科書を壁にぶつけ、何度諦めかけたか。
その度、私はヨシユキの顔と体を思い出した。
心から満足出来る関係。
そんな相手に巡り合えた幸せを逃しては駄目。
心からの叫びだった。
あの日、私は何度目かのセックスで絶頂を知った。
その瞬間、私はヨシユキの体の中に入り込んだ感覚を覚えた。
私のヴァギナを通じてひとつになった感覚が体の内臓器官全て、襞という襞全てまでヨシユキの体内で息づく。そんな感覚を覚えた絶頂だった。
ヨシユキが射精した後のペニスを私は夢中で舐めた。柔らかくなったペニスを口の中に押し込み吸い込んだ。ペニスの中に残っていた精液が私の口に流れる。その精液を飲み込む。私は幸福だった。ヨシユキの全てを知ることが出来て。
私の裸の全て、足のつま先から、耳の奥までヨシユキの口と舌に委ねた。
二人で飽きるまでお互いの体を舐めあう。飽きる前に興奮したヨシユキは私の体に入り込む。
最後には、ヨシユキの精液を私の体の中に射精させた。
ヨシユキは体を離そうとした。
その体を私は両足を使って防ぎ。
お願い!
私の体の中に出して。
お願いだから。
その声は叫びに近かったと思う。
ヨシユキは観念したように私の中に放出した。
その顔には困惑と至福が相俟っていた。
中に放出された精液はごくわずかだったはずだ。
私は妊娠しないでいるから。
ヨシユキは心配そうな手紙を何度か寄こした。
生理が来た瞬間、私が決めた取り決めを破って電話しそうになったけど。
きちんと手紙で知らせた。
きっとヨシユキの声を聞いたら、私は飛行機に乗っていたと思う。
他人をこんなに愛せるものだと、私は知らなかった。
知らないままなら、まだ良かった。
知った相手がアメリカに旅立ったら。
もう追うしかないと思った。
成田空港で、二度と離れたくないと心から思った瞬間。
私はボストン行きを決意した。
それもヨシユキと同じ大学に通う。
私の意地。
それも底知れぬ意地。
そんな意地で、この愛を貫こうと思った。
ヨシユキがそうさせたから。
ヨシユキが教えてくれた。
心と体の幸福感に、もう一度浸りたいから。
私の気持ちはそれだけだった。
何もなくなった部屋の扉を閉める。
マンションの入り口には、アカネの車が止まっていた。
日本最後の夜は、私と過ごすこと。
アメリカ行きが決まったユイにアカネはそう、告げた。
遅い。
アカネの口調は、女の子らしく可愛らしかった。
今日が最後なんだから。
今日だけは、ユイはアカネのモノ。
ねえ、いいでしょう。
ヨシユキと私が初体験を済ませたとアカネに言うと。
寂しそうな顔になって。
ユイも男を知ったのね。
と言って、それ以来二人の怪しげな関係はなくなった。
その代わり、私はアカネの魅力を再確認する事になる。
豊富な語学力。
スイスの寄宿舎で過ごした語学力は本物だった。
何度助けて貰ったか。
それとアカネの教養は本物だった。
躾について、公の場所での立ち居振る舞い。
全てを教わった。
アカネ凄い!と煽てると、直ぐに照れた顔をして、私の顔を見る。
それは肉体関係を解消した後悔と、本当の友人関係になったという気持ちが入り混じっていたはずだ。
最後の夜も。
肉体関係は無し。
それはアカネも十分知っている。
ただただ、長い時間をおしゃべりして過ごしたい、そんな思いのはずだ。
ユイ、明日飛行機に乗ったら、ついにヨシユキくんに会えるね。
アカネが私の顔を見ながら言った。
ヨシユキに会える。
1年待って頑張った。
心と体をひとつにして幸福でいられる相手。
ヨシユキ。
ボストン空港で待っているヨシユキの笑顔が頭に浮かんだ。
ようやく飛行機がボストン空港への着陸態勢に入った。
今回は、サンフランシスコ経由。この経由は初めてだったけど。凄く長い。ボストンは遠い場所だと改めて思い知らされた。
この1年で、私は女らしくなったと自分では思っている。
今まで、ちっとも考えなかった好きな男へ、自分をどう見せるか?
ヨシユキのためなら、お洒落や化粧をしよう。そう思った。
髪だってショートカットから、セミロングまで伸びた。
少しは可愛いと思ってくるかな?
こんなに自分の容姿が気になるなんて不思議だ。
男が女を変えるのは事実だと思った。
サンフランシスコで乗り換えたユナイテッドの国内線は満席だった。
アメリカ人は体格が大きい人が多いので、窮屈さを感じた長いフライトだった。
空港到着ゲートを歩き、荷物を受け取り、入国審査を終えた。
入国ゲートが目の前に、ここを抜けるとヨシユキがいる。
1年待ち焦がれた、恋する相手だ。
私の心臓の鼓動が空港内に反響する。
ドクドクと。音を立てている。
もうすぐ。
ゲートをくぐると。
ヨシユキの姿が見えた。
1年前と同じだ。
半そでのシャツにジーンズ。
こんなに久しぶりに会うのに、自分の格好に無頓着になれるヨシユキは何者?そんな思いが頭を過ぎったが、ヨシユキの笑顔を見た瞬間、私は待ちきれなかった。
でも、走らなかった。
それは、心に決めていたこと。
ヨシユキに会っても、絶対走らない。
何が何でも、ゆっくり歩き、ヨシユキの目の前に立つ。
そして、お待たせと声をかける。
私が決めていたこと。
私はゆっくり歩いた。
そしてヨシユキの目の前に。
お待たせ。きちんと言えた。
でも、決めていた事を出来たのは、そこまで。
後は無我夢中の抱擁とキス。
1年ぶりのヨシユキを体全体で感じていた。
ヨシユキの会いたかったという声に何度も何度も頷いた。
私の体に火が付いた。
それはヨシユキも同じだった。
ヨシユキのペニスの膨らみをお腹に感じて、私はヨシユキから離れた。
これ以上、抱き合っていると、ヨシユキのペニスを体が欲する。
そう思った。
私たちは車に乗った。
向う場所は、母と私の思いでのホテル。
ヨシユキは方向音痴だ。
私のナビが無ければ、絶対ボストンの街からは出られないだろう。
そんな運転だった。
私はアメリカで生まれた。
ヨシユキに出会った事で、私はアメリカに生まれた事を喜んだ。
ハーバードへ入学したいと父に報告した時。
ユイの好きにしなさいと言われ。
私は、母に相談した。
母と父は、私が1歳の時に別れ。私は父と一緒に日本へ。
母は一人でアメリカに残った。
父は、母の事が日本へ帰ってからも、好きだったらしく、再婚はしなかった。
それと私が、中学になった年、父は私をひとりで母の所に送り出した。
それから、三年、夏になるとニューハンプシャーのホテルで、私は母と二人で過ごした。
その思い出のホテルへヨシユキと来たかった。
到着は真夜中。
フロント係りもひとりで、私たちを待っていた。
私たちも気兼ねして、荷物を自分たちで部屋まで運んだ。
こちら側の部屋は、朝起きると、ニューファウンド湖が見渡せる。
綺麗な風景だ。
部屋に入った瞬間、荷物を降ろすまもなく、ヨシユキの唇で口を塞がれた。
空港で付いた火は、まだ残り火としてあったようで、あっと言う間に火がついた。
私のヴァギナが感じ始めてる。
ヨシユキのペニスも膨張していた。
私はジーンズの上から、ヨシユキのペニスを触った。
ヨシユキも私のシャツの上から乳房を揉んだ。
その感触に私は、耐え切れなくなった。
ヨシユキさん。
お願いベッドでして。
そう言うと。
ヨシユキは私の体を持ち上げ、ベッドへ。
全ての洋服を一気に脱がし。
私は全裸に。
その姿を見ながら、ヨシユキはゆっくり全ての洋服を脱いだ。
最後のパンツを脱ぐと、大きくなったペニスがそそり立っていた。
私は直ぐにヴァギナに挿入れてって心で思った。
ヨシユキは、私の願いを聞いた。
広げた両腕を背中に回させ、ゆっくりペニスをヴァギナに挿入する。
1年ぶりのセックスは、久しぶりのせいか、痛みがあった。
でも、その痛みより、ヨシユキのペニスが私の体内にある喜びがまさった。
ゆっくり腰を動かし。
ヨシユキは感情を言葉にする。
好きだと言われ、濡れ。
愛していると言われ、さらに濡れた。
私の体は、ヨシユキの言葉に強く反応した。
ああ、ユイ。
逝きたい!
逝っていい?
それは二人がひとつになって、まだ3分も経っていない時間だった。
私は大きく頷いた。
そして、ヨシユキの背中に回した手と腰に巻きつけた足を離さなかった。
逃げ場を失った、ヨシユキは私の体の中に大量の精液を放出した。
その瞬間、生暖かい感触が子宮に届いた。
不思議な感覚が襲い、私のヴァギナは絶頂とは違う快感を覚えた。
それから、朝まで、ヨシユキは私の中で3回達した。
そして、最後の1回は私から頼んで、口の中に放出して貰った。
その精液を口の中で確かめ、飲み込んだ。
ヨシユキの全てが体全体を満たし。
私は心地よい眠りに入った。
ヴァギナの中には大量の精液が入ったまま。眠った。
翌朝、ヨシユキがまだ眠っている間にシャワーを浴びる。
体のあちこちに付着しているヨシユキの残骸。
その全てが愛らしいと思え、私はヴァギナの中にまだ残っている精液を指で掻き出し、眺めた。ここにはヨシユキの辿った証拠のDNAが詰まっている。子宮で出会った私のDNAとヨシユキのDNA、その二つが交じり合い。愛の結晶が生まれる。
欲しい。ヨシユキの子供が欲しい。
その思いは、ひとりでは達成出来ない思いなのだと改めて思った。
アメリカ国籍を持っている事をヨシユキは知らなかった。
母にハーバード入学を報告したら、ヨシユキに会いたいと言われた。
私は母にヨシユキの連絡先を教え、母は会いに行った。
電話で母は、私に。
良かったね。
いい人だと思う。
ユイを一番に考えてくれる人。そんな男性で良かったね。ユイって言われた。
私も、そう思う。
本当に、そう思う。
車は、バーモント州のモントビリアに近づいた。
中学以来だから、6年ぶりだ。
母には前もって連絡してあるから、出迎えてくれるだろう。
赤い特徴のある橋を渡る。
美しい風景だ。
ヨシユキが記憶にあると言った。
そう、ヨシユキは20年前にここに来たんだよ。
そう言いたかった。
その後、ヨシユキが兄妹なの?と聞いてきた。
そうかあ、何にも知らなかったら、そう思うよね。
でも兄妹で、あんな激しいセックスしたら。
私たちは。とてもいけない存在なのでは?と私は表情で訴えた。
ヨシユキは納得したらしい。
でも、子供の時の記憶が蘇る、不思議な感覚を味わっていたようだ。
白い美しい建物の前に車を止めさせた。
玄関に母が立っていた。
ユイ。
母が呼んだ。
ヨシユキもお辞儀をする。
ヨシユキさん、ごめんなさい。この間は自己紹介出来なくて。
ユイの話すなと言われていたの。
私はヨシユキの顔を見る。
怒ってはいないが、戸惑っているのが分かった。
ごめんね。ヨシユキさん。
私の母。サエさん。なんか名前で言うと変。
サエです。
母は微笑んだ。
でも、サエさんと母は友人だったんですよね。
その時、ユイは?
生まれて1歳になったばかりで、日本へ父親と旅立った後なの。
だから、ユイは何も知らないの。ねえユイ。
うん。本当に1ヶ月の差らしいよ。
私が日本へ帰って、ヨシユキとお母さんがここに来た時の差が。
そうなんだ。
でも、ここは?
入って見る?
うん。
中は、私の記憶のままだった。
広いリビングとダイニング。
奥には、客用の部屋が3部屋。
2階には、ここの持ち主の部屋と、ある女性の部屋。
庭にいるわ。
母は私を見ると。
そう呟いた。
緑の芝生が綺麗に敷き詰められ。
その向こうには、メープルの林が広がっていた。
庭には、車椅子の女性がひとり。
ヨシユキに会って貰いたかった女性だ。
ヨシユキ、こっち。そう言って、手を握りゆっくり歩く。
ユイ、ごめん、なんか僕不思議な感じ。
母の友人がユイの母で。
そのお母さんが、ここに居るのは?
母は看護婦なの。
ある人のお世話をずっとしているわ。
会ってくれるわね。
うん。あの車椅子の女性。
そう。後姿で空を眺めている車椅子の女性まで、まだ50メートルは離れている。
ヨシユキは風景の美しさと空気の美味しさを体に感じながら歩いているようだ。
車椅子の女性を正面から見る。
ヨシユキの顔が大きく変わった。
それは驚きだった。
『母さん、母さんなの。ねえユイ、そうなの。ねえユイ?』
私はヨシユキの顔を見ながら首を振った。
ヨシユキさんの伯母さんなの。
ヨシユキさんは聞いていなかったはずだけど。
お母さんは双子だったの。
ハイスクールを卒業する時、お母さんのお姉さんが交通事故にあってそのまま。
あなたのお爺さんが、ずっとここでお世話しているわ。
私の母が伯母さんをお世話にするようになったのは、同じハイスクールに通った同級生だったから、父と別れた母には仕事が無く、あなたのお母さんがお爺さんに頼んで、それで今までずっと過ごして来たの。
じゃあ、ユイは知っていたの。
うん、記憶の中の一部にあなたのお母さんはいたわ。
実際、お会いしたのは、伯母さんの方だけど。
でも、全て運命だと思った。
私はヨシユキさんに出会うべくして出会った。そう思っている。
そして、この事は隠せないことだと思っている。
だから、二人で暮らす前に知って貰いたかった。
全てを。
ヨシユキは驚きのあまり呆然としていた。
そして、車椅子に座って空を眺めるだけの女性の手を取って。
膝を地面に付き。
体全体で泣き始めた。声はまったく聞こえなかった。
でも、心の声が私の体に届いてはいた。
私はヨシユキと伯母さんを二人きりにして、母のいるリビングに戻った。
立ち直るかな?
立ち直るわよ。
そうじゃなきゃ、ユイの恋人としては失格だから。
そう思いたかった。
それから、1時間後、ヨシユキが戻ってきた。
サエさん。
毎月、伯母さんの様子を見に来ていいですか?
勿論。喜ぶと思うわ。
ヨシユキが私の顔を見る。
ユイも一緒にだよ。
絶対だよ。絶対私も連れて来なきゃダメだからね。
そう言って、私はヨシユキに抱きついた。
母の目の前で、私はヨシユキに激しいキスをした。
母は困った顔をして、ダイニングに去った。
ヨシユキは、私の耳元で。
『結婚しよう』 そう言った。
私は大きく頷いた。
僕と彼女の三日間
三日間という出会いで書き始めたのですが。
物語は思わぬ方向へ行ってしまいました。