ただ声だけが聞きたくて。

思い出していたのは。

視界に映り込んだ 眩しいほどの青。

それは手のひらで霞んで、輪郭をなくして消えていく。

やっと見つけた、本気で愛せたその青も、今はすっかり届かない。

涙を隠して、隠していたのに、……


―――その悲しみさえも、差し押さえてしまう。


「…よし、今吉!」

「えっ?」


ふいに声をかけられた。…まぁそれは、単にワシが気付かんだけで。


「どうした今吉?珍しくボーッとして」

「ん?…あぁ、諏佐か。いや…ちょい考え事な」

「…青峰のことか?」


諏佐に言われた瞬間、ワシは背筋が震えたような気がした。

青峰のこと……思い返せば自分でも悲しいことやったわ。


せやなぁ…あれは確か、3ヶ月くらい前のことや。

叶わない。届かない。

「ワシな、青峰のこと、好きや。」


勇気を出して後輩、青峰に告白した。

正直言うて、絶対無理や…って思ってた。 でもな、


「いいぜ別に、つきあいてぇってことだろ?俺も、好きだし。」


なんか……あっさりオーケーされたみたいやわ。

最初はな、そのつもりやってん。


抱きしめてもらうときのその強い腕と、見た目とは正反対(?)の優しさに

すっかり惚れ込んで、毎日幸せやった。 これ以上のもんはないってくらいに。

キスしたときも、…体を重ね合ったときも。


――それが毎日続くと思い込んでた。……でも現実は、


「大輝。」


その名前を呼んだのは、青とは真反対な愛と情熱に満ち溢れた

…赤がいた。 

舞い上がってアホみたい。

「……何でや」


青峰は、視界の前の赤…火神を見て、ワシに見せていた笑顔を向けてた。

火神も、笑ってた。

それは ワシ以上に幸せそうで、お互い…付きあっとるみたいやった。


「…おい、大輝」


火神は青峰の服の裾を引っ張って青峰を呼んだ。


「んだよ大我。」

「あそこにいるの…今吉さんだろ?」


火神はそう言った。

青峰は それを聞いて足早に火神の手を取って歩いて行った。


その時ワシは思たんや。


「…ははっ、結局わしには何の執着もなかったわけか」


気付いたら、頬には大粒の涙が次々に伝い落ちていた。

涙の向こう側に。

青峰と火神は付き合っていた。

ワシの方を見向きもせんと、あいつは手をつないで笑顔で火神に向かっていた。

後から知ったこと。

ワシが告白する前に、とっくに火神は青峰の恋人やったらしい。


「…あほやなぁ、ワシは」


抑えていた涙は、バケツをひっくり返したように流れていった。

1人舞い上がって、青峰の気持ちも分からんと抱かれてた。

そんな自分がみっともない。



「…今吉」

「諏佐?」


泣き疲れていたのか、ワシは眠っていた。涙のあとが少し痛い。


「今吉、大丈夫か?部室でずっといただろ?…何かあったのか?」


諏佐の優しさで、また涙が落ちた。

優し過ぎるわ。

「なぁ今吉」

「…?なんや?諏佐」


諏佐はワシの頭を大きな手のひらで撫でながら言った。


「今まで、つらかっただろ?」


ワシは力なく、小さく頷いた。

部活に支障をきたさないように、笑顔で、頑張って隠してきたつもりやった。

青峰のことがあってからも、変わらず部活だけは頑張った。

…それは、皆に迷惑かけるのが嫌で。


「…けどな今吉、俺はそんなお前を見ている方が余計につらい。」

「え?」

「お前がそうやって隠して笑顔でいるのがさ、俺…いつかお前の心が

バラバラに崩れちゃいそうなのが見ていてつらいんだよ。」


諏佐……お前になら、全部ぶつけてもええんかな……?

諏佐がわしのこと、こんなに心配してくれてたなんて…

…ハハッ、アホやなぁ、ワシ

…熱い。

「何でさ、諏佐はそないにワシに優しくしてくれるん?」

「は?決まっているだろ?……大事なチームメイトを放っておけると思っているのか?」


…やんな。知ってた。あえて聞いてみただけや。……多分


「ほら、寮に戻るぞ。」

「おん。」


ワシらは部室を後にした。

寮に向かう途中、さっきまでワシの頭をなでていた諏佐のあの大きくて

優しかった手のひらが恋しくて、諏佐の服の裾を少しだけつまんだ。


「…今吉?」

「ん、なんか寂しいから…ちょっとだけな。」

「はぁ…今吉、そう言うのはちゃんと俺に言えよ。」

「え?」

「手、繋いでてあげるから。」


そして諏佐はワシの手を取って、そっと指を絡めた。

大きな手のひらは、少しだけ熱かった気がしたのは、気のせい?

熱と冷気

「なぁ今吉」

「何や?」

「こんなこと、今の今吉に言うのはあれかもしれないけどさ」

「うん?」

「俺さ、ずっと前からお前のこと…好きなんだ。」


…え?


「んな、まっさかー!!冗談やろ?諏佐にしては面白いこと言うな!」

「冗談なんかじゃないよ。」


あ、諏佐の目…今すごい真剣や。試合中の目と同じ本気の目。


「…マジで言うてるん?」

「もちろん。本気で今吉のことが好きだ。」


握ってた手は、火傷しそうなくらい暑くて、でもそれでも頭の中は

フリーズしたみたいに冷めきってた。

「…なんかごめんな今吉、弱ってる所に付け込んで告白なんて…最低だ。」


諏佐は小さく笑ってごまかした。

でも、さっきの目は本気だった。ワシも正直悪い気はしてない。

ならいっそのこと、弱っててもいい。

この手をずっと握ってられるなら、

声が聞けるなら、

諏佐のこと……


「諏佐は、最低やないよ。」

「…っ」

「諏佐、ワシ…お前のこと好きになってええんかな?」

「今吉?」

「いやって思うほど意識してまうんやもん…それやったら好きになってええ?

……って、思ってな。」


諏佐はにっこりと笑顔を見せて、ワシの頬に小さなキスを落とした。


「もちろんさ。…だから、翔一って呼ぶ。」

「じゃあ、佳典…でええ?」

「絶対翔一のことは、離さないよ。もう悲しい思いはさせないよ。」


ワシは、ただその声だけが聞きたくて。

                    ―END―

ただ声だけが聞きたくて。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

青今からの諏佐今、私は初挑戦でしたが、いかがでしたか?

今吉さん可愛すぎてキーボード連打www

次回作は今花か高緑の予定です。

ただ声だけが聞きたくて。

*黒バス腐向け小説です ・ほのぼの?BLです。 ・黒バス、腐向けが嫌いな方はブラウザバックしてください。 ・青今からの諏佐今(今吉視点) ・若干青峰はイイ奴ではないです。(青峰好きのかたはスミマセン)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-08

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 思い出していたのは。
  2. 叶わない。届かない。
  3. 舞い上がってアホみたい。
  4. 涙の向こう側に。
  5. 優し過ぎるわ。
  6. …熱い。
  7. 熱と冷気
  8. 8