奇妙な悪魔物語

奇妙な悪魔物語

第九話 ライフル⑤

奇妙な悪魔物語 第九話 ライフル⑤


ルキフグスの額から汗が流れ落ちる....。
ライフルに当たるはずの氷の槍は当たらなかった。だが、外れた訳でなかった...。いや、当たるところだった。
氷の槍はライフルのコの字になった人差し指と親指の間で"ピタッ"と止まっている。
氷の槍をつまんでいる訳ではない。その間に浮いているのだ。

全く動かない。まるで彫刻のように、人差し指と親指の間に固定されている。
そしてライフルが口を開く。
[あの時、弾丸の一つをこうやって防いだんだ....。最初は飛んでくる弾が見えたんだよ。だからつまもうとしたら、つまむ前に人差し指と親指の間で止まったんだ。後々わかった事なんだが、この二つの指からも強くSが出ているんだよな....だからこの間に入ったものは互いに押されあいその場に止まる]

[........................]

その説明を黙って聞いていた。そして思った。"見事"だと。ライフルは自分が思っているよりもはるかに強かった。なのに自分はなめていた。つまり任務に対する覚悟が明らかに足りなかった。その事を悟った。そして悟った上で何も言えなかった。強がりさえも。弱気な気持ちも。何も言えなかった。何故ならいま何を言ってもそれは無駄なのだから。そんな無駄な事をしている時間があるのなら、次、ライフルが何をしてもいいように、それに覚悟をしておきたかった。

ライフルは手から氷の槍を落とした。
氷の槍は落ちるとパァンと音を立てて簡単に割れてしまう。そして"はぁ"と軽く息を吐く。
[いまからお前に接近戦を挑んでも片腕のお前に負ける気はしねぇ....けど今きずいたんだよ....俺の体がかすかに冷たい。そしてさっきより鈍くなってきた。さっきお前に何発か良いのをもらったときだろう?氷系能力だから、きっと俺の体の細胞を少しずつ凍らせてんだろ?]

そのまっすぐなライフルの目に
"ドキッ"とした。図星だった。ルキフグスは最悪の事態に備え保険を掛けていたのだ。だが、それは今ライフルに見破られてしまった。
けど、ルキフグスに希望の兆しが射した。体が鈍い、と言う意味は効果があった。効いているのだ。ルキフグスはゆっくり立ち上がった。その目はさっきまでと違った。目付きが変わった。勝負をかける気なのだ。片腕で。その目を見てライフルは両手を顔の横に上げた。そして
[あぁ、待て。分かる....お前の考えが。その目を見ればわかるよ。覚悟を決めた目だ。俺と再び片腕で接近戦を挑もうとしてるんだろ?自分の能力で動きが鈍くなった俺と?]と静かな物言いをする。
[けどよ?もうちょっと頭を冷やせよ?何でわざわざ俺が自分の不利な情報をお前に教えたと思う?]

[........何が言いたい?]

[教えなければお前は勝負に出なかったハズだろ?]

[??]

[わからねぇか?それでも俺にはまだテメーをやる方法はあるって忠告してんだぜ?なのに無防備すぎなんじゃねぇか?]
と言い両腕で自分の上着を左右に"バッ"と開いた。するとそこには20本は越える多量のナイフがしまってあった。そしていっせいにライフルの腹に"ピタッ"と引っ付いた。何かで引っ掻けている訳ではなく。能力でくっつけたのだ。
瞬間、ルキフグスの顔が青ざめた。
その表情を見てライフルはニヤケた。
[青ざめたな....?さすがに魔王の親衛隊だ。感が良いな]
ルキフグスは急いで物影に身を隠そうと、体を動かそうとした。だが、遅かった
[遅いわッ!そろそろ死ねッ!]
とライフルはルキフグスに向かって言うと、腹に引っ付いていたナイフがいっせいに飛び散った!まるで爆発して破片が飛び散るかのように!ナイフはNだ。そしてルキフグスはSだ。ナイフは引き寄せられるようにルキフグスの体に刺さるッ!
ザクッ!ザザザザザザクッ!ナイフは刺さってもなお、更に深くルキフグスの体の中に入っていく。

ギリギリ頭には刺さらなかった。首に1、右腕に3、左腕に3、腹部に5、背中に6両足に5と計24本のナイフがルキフグスの体に刺さっている。ルキフグスは首に刺さったナイフを自力で外そうとする。が、ナイフはえぐいほどに深く刺さっている。そして、今も更に深く突き刺さってくる。
そして口から血を吐く。ルキフグスはその場に呆然と立ち尽くしている。足元には血が溜まっている。

そしてその場崩れるように倒れた。
それを少し離れた所から、ライフルが様子を伺っている。"殺ったか?"と思った。

ルキフグスは倒れたまたま動かない。全く動かない。呼吸すらしていなかった。
[....................]

[いや、念のためだ....出欠多量で一時的に気を失っているだけかもしれん....完全なる止めを........]

ライフルはゆっくりと倒れたルキフグスに歩み寄る。1歩2歩3歩........。そして目の前でまで来た。
まだルキフグスは動かないし呼吸もしていない。それを見てライフルは手元から残ったナイフを取り出した。それで止めをさすつもりだ。
そしてライフルがナイフを高々と上げたその時、ルキフグスの指が"ちょんっ"と動いた。その瞬間、ライフルは"はっ"となった。いつの間にかルキフグスの血が止まっていたのだ。だが、きずいた瞬間、遅かった。"バッ"とルキフグスが立ち上がった!自分の使えない右腕を"く"の字に氷らせて固定している!!そして体を勢いよく回転させるッ!氷った右腕がライフル目掛けて飛んでくる!!その勢いは今までの非ではなかった。ルキフグスはこの一撃に全てを注ぎ込んでいた!!そしてその腕には数本のナイフが刺さっているッ!
今のライフルの体はナイフを飛ばすためにNになっている。ルキフグスはSだ。つまり攻撃が届くのだッ!ルキフグスはこれを狙っていた!
[最後だーーーーァッ!]
瞬間!!ライフルに二つの選択しが迫られた!

ルキフグスの拳を防ぐために自分の体をSにするか?だが、ただのSならきっと破られる。フルパワーで能力を使うのだ。だが、そうした場合、ルキフグスの腕に刺さっているナイフがより強い方に引き寄せられるのだ。つまりナイフがライフルに刺さるのだ。

ナイフを恐れ拳を受けるか
拳を恐れナイフを受けるか
この選択にライフルは迷わなかった。
すぐに自分の体をSに変えた。より強い、フルパワーのSに。

すると足元の砂はあまりの磁力のためライフルを中心に離れていく。そして、ルキフグスの拳は止まった。全く進まない。そしてルキフグスの腕に刺さっていた数本のナイフがライフルに突き刺さる。いや、腕だけでない、ルキフグスに刺さっていた全てのナイフがライフルに刺さった!

そしてあまりの磁力にルキフグスは弾き飛ばされてしまった。そのまま木に体を叩きつけられる。
[クッハッ!]

そしてライフルは自分の能力を切った。
[ハァハァハァハァ........]
ライフルの体中にナイフが刺さっている。そしてそれを一本一本抜き取っている。だが、ナイフでのダメージはルキフグスよりも高かった。より強い磁力で引き寄せた為、より深く突き刺さったのだ。

抜くたびに血が"たらぁ"と流れる
明らかに出欠多量だ。顔色が悪い。能力をフルパワーで使ったため疲労も溜まっている。が、その顔は笑っている。ニヤニヤしながらナイフを抜き取る。
その光景をじっと見つめるルキフグス。ナイフでの傷は全て氷で塞いでいた。使えない右腕も氷ったままだ。そしてゆっくりと立ち上がる。
[................................]
黙ってライフルを見つめる

そしてライフルはナイフを全て抜き終わった。まだニヤニヤしている。
それにたいしルキフグスが問いかける
[なにニヤついてんだ?何がそんなに面白い?]

[何が?だって?決まってるだろ?この状況がだよ........お前のその姿がだよ!?なに強がってんだ間抜けッ!バレバレだっつーのッ!]

[!?]

[強がって立っては見るものの俺には分かるッ!さっき飛ばされたとき肋を4~5本折ってんだろ!?立ち上がりかたで分かるッ!]

その通りだった。弾き飛ばされ、木に叩きつけられた時に、肋を5本折っているのだ。正直もう戦えなかった。
そのルキフグスを見てライフルはあざ笑う。何故ならまだライフルは十分に動ける。傷は深いが弱ったルキフグスを相手にするには十分すぎるほどに。
だが、不思議なことにルキフグスの顔には恐怖を感じているような様子は全く無い。何もできない今の彼が....ただ、まっすぐな目でライフルを見つめているのだ。しかも心なしか哀れみの目で........

そしてゆっくりとルキフグスに近寄るライフル。[殺す....殺す殺す殺す........]と呟いている。すると突然彼は黙った。そして、その場から動かなくなった。その顔は"何!?"と驚いている。それを当然だと言っているような顔でルキフグスが見つめている。

そのライフルの足元は完全に氷っている。あがいても動かない。
[なんだっ!?俺の足が氷っていてる!?]
足元だけではなかった。ナイフの傷口からゆっくりと氷り始めていた。 
じょじょに体のいうことが効かなくなる。
そして焦りの表情でルキフグスに向かって問いかける

[貴様っ!何をした!?]

すると涼しい顔でルキフグスが言う
[何もしてないさ.......全てはお前しだいだった]

[何ッ!?惚けてるんじゃないぞ!?]

するとルキフグスは自分の爪で少し深く腕を切る。そして爪に付着した血を地面に投げ捨てる。するとその血は氷ってしまった

[俺の血は俺から離れるとすぐに氷っちまうんだ....だから俺から抜けたナイフには大量の俺の"血"が混じっていた。それがお前の体の中に入った。ただそれだけのことだ。]

ライフルは"信じられない"と言う顔をしている
[バカなっ!そんなバカな....]

[そう....バカみたいにこの戦いはお前しだいだった。俺が攻めてもお前が磁力を俺と同じにしているなら攻撃は当たらない。俺が攻撃を避けてもお前が俺と異なる磁力にすれば攻撃をくらっちまう........この戦いに初めから俺に主導権はなかった]

と体が氷ながらルキフグスの話を聞くしかないライフル。
[認めないッ!認めない認めない認めない認めない認めないッ!]

そのライフルの態度とは裏腹にルキフグスはいたって冷静だ。そして左腕を高らかに上げ、人差し指を空に向ける
[それでも一つ、俺が一枚上手だった]

それを聞いた直後、ライフルの全身が氷った。まるで彫刻の様に。ピクリとも動かない。その表情は悔しさで溢れている。死んではいない。ただ、眠っているだけだ。
そしてそれを見てルキフグスは安心した。するとルキフグスの体の力が一気に抜けた。倒れるように後ろの木に寄りかかり。そのまま倒れこんだ。
そして苦笑いを浮かべ
[安全確保、そして対象の生け捕りに成功........任務完了........]

ライフル氷浸け
戦闘不能

【←To BeCont`onued】

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奇妙な悪魔物語

不死身、その万能すぎる力と。ついに勝負がつく。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-05-07

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