死の神と一輪の花

黒沢有貴

  1. 第1話『一輪の花』
  2. 第2話『いつもと違う』
  3. 第3話『変化』
  4. 第4話『今を生きる』
  5. 第5話『大切な命』
  6. 第6話『幸せとは』
  7. 第7話『未来への希望』
  8. 第8話『温かい雫』
  9. 第9話『死の神』
  10. 第10話『花の幸せ』
  11. 第11話『本当の幸せのために』
  12. 第12話『生きるという事』
  13. 第13話『過去』
  14. 第14話『俺は俺』
  15. 第15話『篠宮 花乃 』
  16. 第16話『隼人君の幸せ』
  17. 第17話『決意』
  18. 第18話『魂』
  19. 第19話『独り立ち』
  20. 第20話『再会』
  21. 第21話『死神』
  22. 第22話『夏のある日』
  23. 第23話『光の中』
  24. 第24話『死の神と死神』
  25. 第25話『君は僕』
  26. 第26話『真暗な闇』
  27. 第27話『死神の真実』
  28. 第28話『命の砂時計』
  29. 第29話『命の重み』
  30. 第30話『果たせぬ約束』
  31. 第31話『俺が絶対に』
  32. 第32話『幸せになれ』
  33. 第33話『私は誰』
  34. 第34話『ありがとう』
  35. 第35話『本当の自分』
  36. 第36話『ひとつの花』
  37. 第37話『涙の理由』
  38. 第38話『人違い』

第1話『一輪の花』

命とは何か、人間とは何なのか、心は何処に有るのか、じゃあその心とは何の為に有るのか。
 考えた事なんて無かった そう..あの時まで。


 野咲 隼人(のざき はやと)僕の名前だ 来月で17歳になる。

 僕は普通の高校に通ういたって普通の高校生だ。学力も普通、運動だって並の高校生だ。
 特に趣味も無く部活にも入っていない。なぜかというと特に理由も無い。入る理由も無いからだ。
 そう、俺には何も無い何の取柄も無く俺に話しかける生徒も居ない。
 俺はいつもの様に家に帰るただそれだけだった。いつもと同じ帰り道 でも今日は少しだけ違っていた。いつもは目に留まらない小さな花が何故か今日だけは目に入った。
 お前は俺に似ているな、誰にも見られる訳もなく特に綺麗な訳も無くいつかは死んでいく。
 俺には家族という物は居ない、幼い頃に施設に預けられ両親も知らない。それどころか幼い頃の記憶が全く無い。多分ろくな過去ではないだろう、覚えていないのだから。親が何処に居るのか、生きているのかさえ分からない。色々と調べてみた、いろんな人に聞いてみた、でも何も分からない自分が誰なのかさえ分からない。分かるのは名前だけ。中学までは施設に居た。高校に入る時に小さなアパートに住む様に施設長に言われ家賃は払わなくてもいいとだけ言われた。学校に必要な物は施設から度々送られてくる。まるで誰かに飼われている様に。
いつしか俺は知る事を止めてしまった。というより知る事が怖くなってしまったのかもしれない。
 だから現実を逃避するかの様にただいつもやってくる「いつも」を受け入れるだけになってしまったのだ。 
朝が来て学校に行き帰って寝る。今日もまた..
 『帰り道に咲いていた花はどうなっただろう』なぜ今そんな事を考えたのだろう。分からない。
 授業が終わり いつもの道を帰っていると温かい風が桜の花びらと共に優しく俺の横を通り過ぎていく。するとあの花の前にうちの制服を着た女の子がしゃがんでいた。

女の子: あなた独りなの?友達居ないの?私と同じだね..独りぼっち..

 その女の子は悲しげに一輪の花に話しかけていた。

 隼人: その花ブサイクだよな
女の子: えっ!!
 
 その女の子は驚いる様子だった

 隼人: 色もぱっとしないし
女の子: 私は好きだな このお花..私に似てるんだ..独りぼっちだし

 俺と同じ事思ってる この子も独りなんだ..

 隼人: 俺、隼人!野咲 隼人!よろしくな!
女の子: えっ!?野咲隼人君!?
 隼人: どうかした?
女の子: いえ何でも.. 私..花乃です!篠宮 花乃(しのみや はなの)です!

 彼女との出会いはこれだった。この花が僕の目に留まらなかったら彼女とは出会えて無かっただろう。今日はいつもと違うなんとなく嬉しい気がした そんな日になった。

第2話『いつもと違う』

 翌朝俺はいつもと違う感覚で学校へと向かう。この気持ちは何なのだろう。
 あの子は誰なんだろう。篠宮 花乃って言ったっけ..独りぼっち..俺と同じ..何処のクラスかも分からない。俺は何も知らないあの子の事を気になっていた。なぜこんなに気になるのだろう。
 俺は初めて人を気になった。もっとあの子を知りたい。この想いは恋なんかではなくただ単純にあの子の事を知りたいだけだった。もしかして自分と同じ様な人を見つけて自分が独りじゃないと思いたかっただけなのかもしれない。

 放課後またあの花の前にあの子は居た。

隼人: また来てたんだな
花乃: 隼人君も来たんだね あの..隼人君って呼んでもいいかな?..もう勝手に呼んじゃったけど
隼人: ああ..いいよ じゃあ俺も花乃さん..じゃあちょっと呼びにくいから花って呼んでもいいか?
花乃: 花..良いね!花!可愛いし!
隼人: ところで花?いつもここに来てるのか?
花乃: うんん昨日初めて来た そしたらこのお花を見つけて隼人君と会ったの
隼人: 家ここから近いのか?
花乃: ちょっと遠い..かな..あっちの方

 と、花は指を山の方に指す

隼人: あっち..って反対方向じゃないかっ!!なんでこんな所まで来たんだ?!
花乃: 私には帰っても居場所なんかないんだよ..

 と花は聞こえるか聞こえないかの声で言った。

隼人: えっ..!?

 俺が言葉を言い切る前に花は話始めた

花乃: 何でもない!!気にしないで!! 何て言えばいいかな?自分探し?もしかして隼人君に会う為に来たのかもね

 と、花は頬を赤くして笑顔で言った。 
 『俺に会いに..』まさかな と、僕は思いながらなんとなく道端のあの花が目に入った
 『もしかしてお前が俺達を会わせたのか?まさかな..』

隼人: あのさ..また会えるかな?
花乃: うん!!また会おう!!

 そう言うと花はさっきにも増した笑顔で答え、またねと言って去って行った。
 辺りはもう夕日が照らしていた。
 また今日も何も聞けなかった。帰っても居場所が無い..どういう事だろうか..
 
 俺はこうしてだんだんいつも感じていた「いつも」から少しずつ離れていく感じが嬉しくてまたあの子に..いや..花に会いたくなっていったのだった。

第3話『変化』

 俺はこの世界が嫌いだ毎日同じ「いつも」が繰り返されるだけ。
 別に変わりを求める訳じゃないが..
 自分が誰なのかなんてもうどうでもよくなっていた。
 でも最近は何かが違う 俺の知ってる「いつも」じゃなくなってきていた。
 
 朝起きトイレに行き顔を洗い歯を磨き着替えをして学校へ行く。朝ご飯はいつも食べない。あまり食べたく無いのだ。お腹が空かない、なぜだろう昼も夜も食べない事も有る。俺はこれといってお腹が空いた事がない。
 ここまではいつもと同じ、でも今日もまた少し「いつも」と違っていた。
 またあの道端の花の前にあの女の子..花がしゃがんでいた。

花乃: おはよう隼人君
隼人: おはよう 今日は朝から来てたんだな そんなにこの花好きか?
花乃: うん好きだよ
隼人: 何がいいんだこの花の
花乃: 分からない でも..このお花が私を変えてくれる..そんな気がするんだ
隼人: じゃあこの花持って帰ればいいじゃないか?こんな遠い所まで来て大変だろ?

 俺がそう言うと花はいつものかすれかかった小さな声ではなく大きな声で言った。

花乃: ここじゃなきゃ意味がないの!!

 俺は花のその大きな声に驚きながらも少しうれしかった。もしもここで花が俺の提案を受け入れてしまったらもう花には会えない..そんな気がしていた。

隼人: よかった..  遅刻するぞ!早くいこう!
花乃: よかった?
隼人: 何でもない!! ほら行くぞ!
花乃: うん!!

 俺はその時の花の笑顔が忘れられない。
 学校に着くなり「じゃっ!!」と言って花は走って行ってしまった。そういえばどこのクラスなんだろう。そもそも学年すら分からない。
 俺は帰りにあの花の前にあの子が居る事を願っていた。

 クラスに着き自分の席に座りぼんやりと空を眺めている。
 クラスの男子がオカルト的な話をしているのが聞こえてきた。
 俺はそいつらの名前も知らない。


男子1: なあ人間はなんで死ぬと思う?
男子2: 病気とか事故だろ。
男子1: そう表向きはな!

 こいつは何を言ってるんだ?人の死に表も裏も有る訳ないだろ!!殺人とかなら別だろうが。

男子2: 表向きって じゃあ裏は殺人か?
男子1: そう!!でも裏の死は全部が人間が殺している訳じゃない
男子2: はあ?じゃあ何だって言うんだ?神が殺したとでも言うのか?
男子1: そう神!!でも神は神でも死神だ!
男子1: 死神は人の命を奪って生きているらしいぞ
男子2: そのくらいは知ってるけど死神なんかいる訳ないだろ
男子1: まあ信じられないと思う!俺も始めは信じ無かった
男子2: じゃあ何で?

 おもむろに男子はバックから一冊の本を出した。その男子生徒は俺の事を一瞬見た気がしたが俺には関係無い俺はそういう現実離れした話は信じない。
 それよりあの子は今日もあの花の前に来るだろうか?
 今日は何か変だ朝からあの子に会ったりいつもなら耳にすら留まらないクラスメイトの会話が聞こえたり。まあどうでもいいや。
 そんな事を考えながらいつもの様に授業が始まった。

第4話『今を生きる』

 授業中なんだか意識が遠のいていくような感覚に襲われた。
 しばらくするとその感覚は治まった。
 今日はホームルームが早く終わった。帰り道あの花の前に花は居た。

隼人: よっ!!
花乃: 隼人君今日は少し早いね
隼人: 今日はホームルームが早く終わったからな
花乃: よかった 今日は隼人君とちょっとだけ長く居られる
隼人: そんなの嬉しいのかよ?
花乃: うん!隼人君と話ししてると楽しい だって隼人君は私の初めてのお友達だから

 友達..何か新鮮な響きだ。そうか..花は今まで独りだった友達なんか居た事ないんだ..
 俺も友達なんて居た事がない..俺と同じ ずっと独りぼっちだったんだ..

隼人: 俺も同じだよ 初めての友達 それが花
花乃: 隼人君も独りだったんだ..何かごめんね..初めてのお友達が私みたいなので..
隼人: 初めての友達が花で良かったよ 
花乃: えっ?!

 驚いた様子で花は言った。

隼人: 俺も花と話すと楽しいんだ
花乃: ありがとう
 
 花は少しウルッとした目でそう言った。

隼人: なあちょっと寄り道しない?
花乃: 何処に?
隼人: ちょっとそこまで 時間大丈夫か?
花乃; 大丈夫だよ!!
隼人: じゃあ行くか

 と言うと自販機でジュースを買い、山の方に花を連れて行った。

隼人: ここだよ
花乃: わあーー!!綺麗ー!!
隼人: ここ俺のお気に入りの場所なんだ ここに来ると毎日の同じ繰り返しから少し抜け出せる気がしてさ
花乃: 隼人君ありがとう


 と言うと花は泣いていた。

隼人: ちょっ!!何で泣いてんだ?!
花乃: ごめんね..嬉しくてさ..人間ってこんなに楽しいんだね 私知らなかったよ..馬鹿だね私..
隼人: はっ..花は馬鹿じゃない!!お前が馬鹿なら俺は大馬鹿だっ!!
花乃: ふふっ 隼人君面白い
 
 俺達は、くだらない話しでしばらく盛り上がった。

隼人: もうこんな時間だ 帰るか
花乃: うん

 帰り際にいつもはそこに無い花を見つけた。あの花と同じ花だった、今度は二輪。
 『またお前か、ありがとな』
 そして山を降り花と別れた。

 人間ってこんなに楽しい..花はそう言った。でも今日の俺ならその意味も分かる気がした。
 こんな「いつも」だったら生きていてもいいかな。
 初めて生きたいと思った。そんな日になった。

第5話『大切な命』

 俺は今日も花に会いたくなっている。この想いは何?花に会ったばかりの頃の想いとは確実に違っていた。
 今日もまた「いつも」とは少し違う気持ちで、途中あの花に「おはよう」をして俺は学校に向かった。
 学校に着くなり俺はまたあの意識が遠のいでいく感覚に襲われその場に腰を下ろしてしまった。
 しばらくすると症状は治まり教室へ向かった。
 席に着き何事も無かったかの様に空を眺めた。

 今日の空は雲行きが怪しく一雨降りそうな空だった。
 4時間目が終わる頃には雨が降り出した。
 『今日は流石に花には会えないだろう』何か少し寂しくなった。
 ホームルームが終わり俺は帰路についた。
 するとあの花の前に花が立っていた。慌てて俺は花に駆け寄った。

隼人: 風邪ひくぞ!!こんな日まで来なくたっていいじゃないか!!
花乃: 隼人君 ごめんね..私、隼人君に会いたくて..

 複雑な気持ちだった花が風邪をひいたら嫌だが今日も会えた事が嬉しかった。

隼人: ありがとな 嬉しいよ
花乃: 本当?!
隼人: ああ本当だ でも花が風邪ひいたら悲しいな だから気を付けろよ
花乃: は~い!!
隼人: ちょっと公園で雨宿りしていくか?
花乃: うん!!

 と花は笑顔で返した。なんか花は初めて会った時とは別人の様に明るく元気な女の子になっていた。もしかして俺も変わったのかな?
 公園の屋根の有るベンチに腰を下ろす。

隼人: 花 最近元気になったよな?!
花乃: そうかな?
隼人: そうだよ 初めて会った時とは別人だよ
花乃: きっと隼人君のお陰だね 多分これが本当の私なのかもね

 本当の私..本当の俺は何処に居るんだろう
 俺は少し思い詰めた顔をしていたのかもしれない

花乃: 隼人君は隼人君だよ。

 俺は、はっとした。花は続けて話し始めた。

花乃: 隼人君は誰でもない隼人君だけなんだよ だから自身持って

 花のその言葉はなぜか俺の心まで入ってきた。花は続けて言う。

花乃: 私ね両親が居ないんだ..私がまだ小さい頃家族で町まで出かけたんだ..その帰り道で知らない人に私が刃物で刺されそうになった..その時お父さんが私をかばって刺されたんだ..でもその人はまた私を刺そうとしてきた、今度はお母さんが私をかばって刺されたんだ..それから一人暮らしの祖母の所に預けられて そのおばあちゃんも3年前に死んじゃった..だから私は一人なんだ

 急に知らされた花の過去 あまりにも花が可哀想で俺は返す言葉が無かった。

花乃: でも独りぼっちだった私の前に隼人君が現れた そして生きるって楽しいって教えてくれた   
隼人: 花が強いだけだよ 俺は花に何も出来てないよ
花乃: 違うよ隼人君のお陰!! 本当は私、今ここに居ないはずだったから
隼人: えっ!!
花乃: あの日隼人君に会った日 私、本当は死のうとしてた こんな人生嫌だって 人間なんて嫌いだって だからあの日最後に町を歩こうと思って そしたらあのお花を見つけて隼人君に出会ったの そして隼人君は私を救ってくれた 私は独りじゃないって思えたの 人間っていいなって思えたの だから隼人君ありがとうなんだよ

 花は強いよ こんな俺よりずっと 俺の方が花に救われたよ 俺も頑張ろう。
 ふと空を見上げたら雨は上がり光が俺達を包んだ気がした。

花乃: 帰ろっか
隼人: 帰るか

 俺達はまた会う約束をして別れた。
 花となら頑張れそう。そう思えた日だった。

第6話『幸せとは』

 朝が来る そんな普通の事が嬉しく思えた。いつしか俺はこの喜びから抜け出せなくなっていた。
 何も無い「いつも」からあの子が..花が俺を連れ出してくれたんだ。
 もう花が居なきゃ生きられない。そんな事すら思う様になっていた。
 いつもの様にあの道端の花に「おはよう」をして学校に行き帰りに花に会う。
 そんな「いつも」を何度か繰り返すうちにこんな「いつも」を願う様になっていく。
 今日もまたあの道端の花の前で花と会う。

隼人: よっ!!お待たせ!!
花乃: 今来たとこだよ

 俺はここに花より先に来た事が無い。花はいつもここで俺を待っていてくれる。そんな毎日が楽しかった。嬉しかった。

隼人: なあ花、今日は久しぶりにあの場所行こう
花乃: うん!!私も行きたい
隼人: よし!!決まりな

 俺は久しぶりにあの場所に花を連れて行く事にした。あの場所なら..きっと..

花乃: 今日もすっごく綺麗だね
隼人: あ..ああ綺麗だな
花乃: ここに来ると嫌なこととか忘れられる 隼人君とならすっごく楽しいなって気持ちになれる

 俺はこの気持ちを花に伝えたかった。でもこの気持ちを伝えてしまったら花と今までのように過ごせるだろうか。俺は伝える事をためらっていた。
 またあの花が目に入ってきた。俺は決意した。この花が背を押してくれた。そんな気がした。

隼人: は..花?あのさ..
花乃: 何?隼人君?
隼人: 俺さ、花に会えて本当に良かったよ
花乃: 私も良かったって思うよ

 花が話し終わる前に俺は話し始めた。

隼人: 俺さ!!花の事好きだ!!
花乃: えっ?!
隼人: えっと..好きっていうのはただの好きって事じゃなくて..

 俺が言葉に詰まっていると花は優しい声で話した。

花乃: 私も隼人君好きだよ 大好きだよ ずっと一緒に居たいなって思うよ
隼人: えっ!!じゃあ..
花乃: うん..付き合いたいな 隼人君と
隼人: ありがとう!!俺!花を守るから!!絶対守るから!!

 と俺が言うと花は今まで見たことないような笑顔で泣いていた。
 また先を越された。花はいつも俺より先にいるんだ。

隼人: なっ!!何で泣いてるんだ?!
花乃: 隼人君、私幸せだよ..こんなに幸せでいいのかな..
隼人: 良いんだよ!!花は俺がもっと幸せにする!!絶対な!!
花乃: ありがとう隼人君..本当にありがとう

 花は泣いていたずっとずっと泣いていた。今まで我慢していた事を吐き出すかのようにずっと..
 俺は花が泣き止むまでただ抱きしめていた。

 これからは独りじゃない。俺がそばに居る。俺のそばにも花が居る。
 生きる事..それは幸せなんだ。そう思える日になった。

第7話『未来への希望』

 俺の内の「いつも」という物はいつの間にか変わっていた。花と出会い過ごすうちに少しづつだが確実に変わっていった。俺はこれを探していたんだ。そんな事も思うようになった。
 明日が来る 誰にでも平等にやって来る普通。それすら楽しくなった。
 
 あれから月日は流れた。会うたびに増していく想い それは花も同じだろう。
 毎日会った。天気など関係なく毎日会った。お互いの青春を取り戻すように。
 話もした くだらない事とか 将来の事とか とにかく沢山。
 ただ毎日を繰り返すあの「いつも」の螺旋から俺は、花のお陰で抜け出すことができた。

 今日もまた楽しい日になるだろう。と俺は家を出た。
 外の風は冬の訪れを感じさせるように冷たく、そろそろ冬が来るのだと思った。
 1つ気になる事がある。あの道端の花はいつまで咲いているのだろう。普通の花ならとっくに枯れているはずなのだが。あの花だけは今も咲き続けている。
 今日も花と会う。花の家が遠いという事で最近の待ち合わせ場所は花の家寄りの公園にしている。花は初めは嫌がったが、俺の言う事ならと了承した。

隼人: よっ!!お待たせ
花乃: こんにちは隼人君 今日は寒いね
隼人: そろそろ冬だな

 と俺達はベンチに腰を下ろした。

花乃: 隼人君は冬好き?
隼人: 寒いからあんまり好きじゃないかな 花は?
花乃: 私は好きだよ 寒いからこそ暖かく感じれるから
隼人: なんだよそれ
花乃: だって夏なら暑くて暖かいなんて感じないでしょ?
隼人: まあ..そう言われれば..
花乃: でも最近まで冬が嫌いだったんだ..
隼人: じゃあ何で?
花乃: 私はずっと独りだったから冬は寒くて辛かった でも今は隼人君が居てくれる 隼人君温かいから 今は冬が好きになったんだ

 そうか花はいつも独りだったから人の温もりなんてほとんど知らないんだよな..
俺はそんな事思った事無かった。そもそも俺には記憶が無い。だから温もりも知らない。
 そういえば俺は花に自分の事を何も話した事が無い。

隼人: そういえば花に俺の事話した事無かったよな?
花乃: うん でも話さなくても良いよ隼人君が辛くなるかもしれないから..
隼人: 大丈夫!!花も話してくれたから俺も話す!!

 俺は話した。記憶が無い事 両親が居ない事 施設で暮らしていた事 俺の知る限りの俺の情報を全て話した。

 花はただ泣いていた。俺が可哀想だと。

隼人: 泣くなよ
花乃: 隼人君 辛かったでしょ ごめんね何もできなくて
隼人: 俺は花に救われた 俺の人生に生きる意味を与えてくれたんだ だからずっと一緒に居てくれ
花乃: はい..

 花は笑顔で泣いていた。空からは初雪が降り出した。

隼人: 帰ろうか
花乃: うん

 俺はもう過去の記憶を思い出す事は止めようと思った。ろくな過去ではないだろうから。それよりも今の人生の方が大切だ。
 悲しみなんてもういらない。2人で楽しい明日を創っていこう。そう思った日だった。

第8話『温かい雫』

 朝が来た。今日は日曜日 学校は休み。当然部活は無い。今日の花との待ち合わせはいつもより1時間早い。花からの申し出だ。いつもの公園ではなく少し遠くの海岸まで行きたいそうだ。
 いつもより厚着をし家を出た。公園の前で花と会い俺達は海岸へ向かった。
 海が見える辺りまで来たら潮の香りが俺の鼻をくすぐる。今日の花はいつもより少し多い荷物を持ち、俺が持とうと言っても自分で持ちたいときかなかった。
 潮の独特の香りと海に向かう船の音、海岸を行き交う人の姿はまばらだ。奥の堤防では釣りをする人が何人か居るだけで夏に比べて静かに思えた。

花乃: 隼人君あそこにしよう

 と花は海を見渡せる少し高い所にある東屋に俺を誘った。階段を上がり久々に見る海に俺は目を奪われた。

花乃: ここは私のお気に入りの場所なの 隼人君のお気に入りの場所には敵わないかもしれないけどなかなか良い所でしょ?
隼人: かなり良い所だよ よく来るのか?
花乃: ううん よくは来ないよ 小さい頃にお父さんとお母さんと来た事があるんだ..
隼人: ごめん 思い出させちゃったな
花乃: 大丈夫!!ここは楽しい思い出の場所だから だから今日も隼人君と楽しい思い出を作りに来たんだよ

 花は強い 俺なんかよりもずっと..悲しい過去も受け入れて前向きに生きている。
 俺達はベンチに座り温かい日差しが俺達に差し込めた。

花乃: ねえ隼人君死ぬってどんな気持ちなんだろうね
隼人: なっ!!なんだよ急に?!
花乃: ごめんね意味分からない事聞いて
隼人: 俺は分からないな 身内も知り合いも居ないから周りで死んだ人も居ない だから死ぬってよく分からないな
花乃: 私思うの 死ぬって実は幸せなんじゃないかなって
隼人: なっ..何言ってんだ?!
花乃: だってさ 大切な人に見守られて眠るんだよ 姿は見えなくてもずっとその人の傍に居られる 大切な人の為に死ねるならもっと幸せなんだって..今まではお父さんとお母さんは私の事恨んでるんじゃないかって思ってた でも今なら2人の気持ち分かるな
隼人: 花はすごいな 俺が花だったらそんな風には考えられないと思うよ
花乃: 隼人君が教えてくれたんだよ 隼人君のお陰でここまで強くなりました

 そんな話しをしているといつの間にかもう太陽は真上まできていた。

花乃: そうだ!!今日はお弁当を作ってきました

 と言うと花は鞄から弁当を出した。荷物が多かったのはこの事かとようやく理解した。

花乃:隼人君ちゃんとご飯食べてるかなと思って作ってみました

 花は顔を赤らめながら弁当を広げた。

隼人: わざわざ悪いな ありがとな
花乃: いえいえ 隼人君はいつも何食べてるの?
隼人: ほとんど何も食べてないかな なんでかお腹空かないんだよ 喉は乾くけど..
花乃: ダメだよちゃんと食べなきゃ倒れちゃうよ!!何食べる?
隼人: 卵焼き..

 ただの卵焼き でもなんだろう口に入れた時に感じたこの感覚 頬を伝う温かい雫を俺は止める事ができなかった。それはこんなにも温かい物なんだと初めて知る事ができた。

第9話『死の神』

 朝がやって来た。カーテンを開けるとそこは真っ白な世界が広がっていた。本格的な冬が来たんだ。
 今日もいつもと変わらない幸せな1日を過ごすはずだった。

 学校に着くとまたあの意識が遠のく感覚に襲われた。今までより強い症状に俺はその場で意識を失ってしまった。
 「隼人...」「隼人..」「隼人.」遠くの方から声が聞こえた。薄目を開けるとかなり眩しい光が目に入り込んできた。そこは真っ白な世界 空気は暖かくどうやら外ではないようだった。ここは何処だ 辺りを見渡しても何も無い。「隼人」と、俺を呼ぶ声がして振り返るとそこには2人の男女が立っていた。光が眩しくてその2人の顔は見る事ができなかった。

隼人: 誰ですか?
 男: 隼人 ごめんな
 女: ごめんね隼人 寂しかったでしょ
隼人: 何の事ですか?ここは何処なんですか?
 男: 隼人生きろ
 女: しっかり生きて隼人 もう行きなさい

 凄く優しい声だった。目を開けるとそこは保健室だった。さっきのは夢だったようだ。
 それから俺は先生に今日は帰るように言われ帰る事にした。花にはこの事は言わないでおこう。きっと心配するだろうから。
 それから家に帰り いつもの時間に花が待つ公園へ向かった。
 俺はいつものように振舞った。そして時間は過ぎ また会う約束をして家に帰った。家に帰ると部屋の壁掛け時計は7時12分を回っていた。
 「ピンポーン」こんな時間に配達は変だ。そう思うと俺は足音を立てずにそっとドアスコープに目を近づける「君を知る物だ!!」その声に俺は驚いてその場に尻もちをついてしまった。
 「ガチャッ キーー」扉がゆっくりと開いた。俺の心臓は自分の鼓動が分かる位高鳴っていた。
 ドアの向こうには背の高いやせ型で顔は無精ひげを生やし目のキリッとした日本人にしては鼻の高い男が立っていた。

 男: 隼人君だね?野咲隼人君
隼人: そう..ですが..貴方は施設の人ですか?
 男: 私は君の居た施設の者ではありません 稲生弘人(いのう ひろと)と申します 夜分に申し訳ない
隼人: 大丈夫です.. ところで稲生さん何の用ですか?
稲生: 私は貴方を導きに参りました
隼人: あの..意味が分からないのですが
稲生: 無理もないでしょう 本当は父親から徐々に導かれる決まり しかし君にはお父さんがいない
隼人: 何の話しですか?
稲生: 単刀直入に言います 君は...

 男がその続きの言葉を言うまでの時間がとてもとても長く感じた。

稲生: 君は人間じゃ無い

 俺の中の時間が止まった。ドアの外から冷たい空気が入ってきて時間が流れ始めた。

隼人: え...意味が..分かりません..
稲生: 君は選ばれた者です 死の神として

 死の神..何の事か全く理解できない。それからも稲生という男からいろんな話しを聞かされた。その男は俺と同じ死の神とやらだという事 その男はかつて俺の父さんと一緒に行動していたという事 俺の父さんも死の神だったという事 そして...人間とは関わってはいけないという事... 

第10話『花の幸せ』


 初めて出会った俺を知る人物..いや..死の神と呼ぶべきなのだろうか。
 「君は人間じゃない」。そんな事をいきなり言われて誰が信じるだろうか。
 俺は稲生という男にいくつか質問した。稲生という男は俺の質問に答えてくれた。
 稲生が言うにはこうだ。
 
 死の神とは人間の魂を行くべき所へ導く為に存在する。生前悪い事をした人間は死後その報いを受けなくてはいけない。人間世界でよく言われる疑獄の様な所へ送らなくてはいけない。
 事故死や殺人、自殺によって死んだ人間は体の損傷が酷くなければその人の余命分の命を与える事が出来る。しかし死後1時間以内でなければならない。命を与えられた人間は3日間の昏睡状態の後に目を覚ます。その際記憶を失う事が有る。体の損傷が酷い場合その体は蘇生のしようが無く命を戻したとしてもまたすぐに命を失う事となる。
 病死の場合もその人の命の残りは残されていなく命を与える事は不可能となる。死の神は寿命を操れる訳ではなく、あくまでその人の命の範囲内で与えられた命を全うさせる事しか出来ない。
 死の神という呼ばれ方をしているが人間の命を奪ったりする事は出来ない。
 人間の様な姿をして人間とはさほど違いは無く、体の作りも同じで内蔵も有り寿命も有る。だが人間とは違いお腹が空かなかったり夢を見ないという違いは有るという。

隼人: 確かに俺もお腹は空かないがこの間ご飯も食べたし夢も見た
稲生: 内蔵は有るからご飯も食べる事は出来る そして君が見たのは夢ではなく現実だ 前兆として意識が遠のく様な感覚が有ったと思う 
隼人: はい 有りました
稲生: その感覚の時は魂に話しかけられてるという事だ 死の神は魂間で死者と話しができるんだ
隼人: 2人の男女と会いました
稲生: 初めは話しかけられる事しか出来ないがそのうち自分から話しかける事も出来るようになる           
 でも話しを出来るのは1人の魂につき1回限りとなる
隼人: 分かりました じゃあ人間と関わるなとはどういう事ですか
稲生: 私達死の神というのは人間の魂を平等に行くべき所へ導かなくてはいけない だから人間と深い関わりを持ち、その人間が死んだ時に個人的感情を持って魂を導いてはいけない それにこれは私の個人的考えだが、死の神と人生を共にした人間が幸せな生涯を送れるとは思わない..人の幸せを願うなら人間と深く関わる事はしない方がいいと思う..私達は普通の人間ではないんだから..
....................俺は言葉を失った。
 この稲生とかいう男の話しを信じたくはないが俺の事を俺以上に知っているこの男の事を信じるしか無いのだろうか。

 花の幸せ..花はこの先俺と過ごしても幸せな人生を送る事が出来ない..花は俺ではなく普通の人間と暮らした方が幸せなんだ..

第11話『本当の幸せのために』

 俺はまだ受け入れる事ができない。自分が死の神だという事 そして何よりも花とは暮らせないという事を。俺は花とこれからもずっと一緒に居たい。一緒に泣いて一緒に笑いたい。でもそれは俺の幸せであり花の幸せではない。俺は普通の人間ではないんだから...

 今日は学校に行く気分にはなれない。今日は学校を休む事にした。

 さっきまで布団に寝ていたはずの俺は気がつくと花と付き合ったあの丘に居た。空からは雪が降りうっすら積もった雪を夕日が赤く染めている。俺はこんな時間までここで何をしていたのだろう。まだ意識がはっきりとしない。

 「.............」「.......とくーん!!」遠くの方から声が聞こえてくる。その声はだんだんと俺の方へと近づいて来る。「隼人君!!」その声は花の声だった。

花乃: 良かった 隼人君公園に来ないから心配で もしかしてと思ってここに来たんだよ
隼人: 花..ごめん..
花乃: 私は大丈夫だよ それより隼人君が無事で良かった

 大丈夫な訳がない 靴は汚れ 服は溶けた雪で濡れ 顔と手は冷え切って赤くなっている。

隼人: 花..ごめんね..

 それしか言えない俺を花は優しく抱きしめてくれた。花は俺を探してずっと走っていたんだ。こんなに体が冷たくなるまで..こんな俺を..

隼人: 花..俺達ずっと一緒に居られないんだ..なんて説明すればいいのか分からないけど..もう俺達会わない方が良いと思う..
花乃:.............わかった でももう少しでいいからこうして居させて
隼人:うん..

 花は元気な振りをしている。抱きしめた俺の向こうで声を殺しながら泣いていた。

 俺は花が好きだ。大好きだ。だからその大好きな花が不幸にならないように。俺ではない普通の人間と普通に暮らし幸せになれるように俺は花に もう会わない..

 しばらくし花は俺から体を離すと腫れた目で精一杯の笑顔を俺に見せてくれた。

花乃: 隼人君ありがとう 沢山の幸せをありがとう
隼人: 花..幸せになれよ
花乃: うん 私幸せになるよ
隼人: 約束な
花乃: 約束します

 もう出会った頃の花じゃない 花は強くなった。俺が居なくてもきっと幸せになれる。

第12話『生きるという事』


 花と過ごした時間 それは春が去って行くように速くも感じ、永遠のように長くも感じた。そう俺はこんな幸せな時が永遠に続くと思っていたんだ。永遠なんて存在しないんだ。

 俺はこれからどう生きるべきなのか。死の神...俺は死の神として生きていくつもりはない。俺はそのせいで生きる意味を失ったのだから。人間として産まれ人間として暮らし人間として死ぬ。そんな皆がやっている事すら俺には許されないのか。
 家族を失い 記憶を失い 花を失い やっと見つけた幸せを失う。次は命でも失うのか。これも全部俺が死の神として産まれたからなのか。こんな不幸の為に俺はこの世に産まれてきたのか。
 
 今日も俺は学校を休むことにした。昨日降り出した雪は今も止む気配はなく、街は静まりかえり真っ白に染まっていた。
 「ピンポーン」きっとまたあの男だろう。ドアを開けるとやはりあの稲生という男が立っていた。この男はどこから歩いて来たのか肩と頭には雪が積もっている。

稲生: 隼人君私と一緒にしばらく暮らす気はないかい 色々と教えなきゃならない事もある
隼人: ....嫌です 俺は死の神としてなんか生きたくありません
稲生: そうか...いきなり来てすまなかった でも隼人君、私1人では全ての魂を導く事は出来ないかもしれない。 そうして導かれなかった魂は行くべき所 戻るべき所に帰れず また産まれて来る事も出来ないんだ

 と言うと稲生は俺に紙切れを差し出した。そこには稲生の住所であろう内容が書かれている。

稲生: 気が向いたら来てくれ では失礼するよ

 稲生は俺に背を向けた。

隼人: 稲生さん!! 生きるって何ですか

 稲生は静かに振り返る

稲生: 隼人君 君は死ぬのが恐いかい
隼人: 最近は死ぬのが恐いです 死んだら大切な物を失ってしまうんじゃないかって
稲生: そういう事だよ だからそんな恐い思いをして死んだ人を1人にしては可愛そうだろ だから導かなきゃいけないんだ それが私のせめてもの償いだから

 そう言うと稲生は再び俺に背を向け白い世界へと消えていった。
 稲生の言っていた言葉の意味が俺には分からない。そういう事とは何のことなのか。償いとはどういう事なのか。
 知らない人間の死んだ後の事など俺に何の関係が有るというのだ。俺にはどうでもいい事だ。
 今日はもう寝よう...疲れた...

第13話『過去』

 産まれて死ぬそんな繰り返しの世界。でもそんな世界でも生きる意味を見出し毎日を生きている人もいる。俺はそんな世界でやっと見つけた生きる意味。ようやく見つけつた大切な物。俺はそれすら失った。花の事が大切だからこそ俺は別れを選んだ。花の幸せの為に。
 花は何をしているだろう。新しい幸せを見つけただろうか。


 「11月30日日曜日 今日のニュースです」日曜の朝から俺はやることも無く、ただテレビをぼんやりと見ていた。せっかく花が救ってくれたというのにまた俺は同じ「いつも」の螺旋に戻りつつある。
 「今日であの痛ましい無差別殺人事件から13年 犯人は現在も逃走を続けています」
 そういえば俺が施設に預けられた年に無差別殺人事件があったな。13年前か...俺の記憶が始まった年...
 この事件について俺は詳しくは聞いた事がない。今まで俺は人の事など興味が無かったから。      
 
 『喉渇いたな たまには飲み物でも買いに行くか』俺は財布を持ち厚着をして外に出た。冬真っ只中なだけあって外は結構寒い。こんな寒い日にあの事件があったのか...
 外には朝からスコップを持った人が雪かきをしている。
 俺は近所のスーパーに着き書籍コーナーの前を通りかかった時、雑誌の大きな見出しが気になった。あの事件の事が書いてある。手に取りページをめくる。
 俺は初めて知った あの事件は俺の住むこの街で起きていた事を。記憶が始まってからずっと俺はこの街に住んでいるのに何も知らなかった。俺は事件の事が気になり さらにページをめくる。
 
 11月30日午後1時23分から1時36分刃物を持った男が2組の家族を襲った。いずれも子供を狙った犯行。この事件の被害者は3人 子供1人と大人2人。初めの被害者は子供だ。両親と歩いていた所を後ろから刺されたそうだ。次の犯行は1つ目の犯行現場から少し離れた所で、犯人は被害者の前方から子供に襲いかかった。しかし両親が子供をかばい刺された。犯人は逃走。
 その後3人は病院に搬送されたが死亡。1人目の子供は出血によるショックで死亡。2人目と3人目の夫婦は傷が深くそのまま息を引きっとたという。
 『この事件の内容..どっかで..』
 さらにページをめくると被害者名簿が載っていた。

 被害者名簿

 ・篠宮 雅人(しのみや まさと)29歳
 ・篠宮 優子(しのみや ゆうこ)28歳
 
 ・野咲 隼人(のざき はやと)5歳

 ..............................俺はその場に座り込んでしまった。これはどういう事だ...
 俺は死んだのか..それに他の被害者の2人 篠宮って...もしかして...花の両親...。
 あの時の花の言葉を思い出した。
 『私ね両親が居ないんだ..私がまだ小さい頃家族で町まで出かけたんだ..その帰り道で知らない人に私が刃物で刺されそうになった..その時お父さんが私をかばって刺されたんだ..でもその人はまた私を刺そうとしてきた、今度はお母さんが私をかばって刺されたんだ..』
 この2人は花の両親だ..花はこの事件の被害者だったんだ....そして何でこの被害者名簿に俺と同じ名前が...
 俺は一体何者なんだ...

第14話『俺は俺』


 俺は一体何者なんだ。俺と同じ名前...俺の記憶が始まった時期と一致する。
 もしかして俺はこの事件の被害者なのではないのか。
 俺は家へ急いだ。俺の事を知っている人物...稲生ならもしかして俺の事を知っているかもしれない...
 家に着くと俺はこの間もらった稲生の住所が書いてある紙を手に取り、また家を飛び出した。
 空からは雪が降り出した。手が冷たい。顔も寒さで凍りつくほど冷たくなっていた。

 稲生の家はここからは少し遠いようだ。俺の事を知っているとすれば稲生しかいない。
 この住所があっているなら稲生の家はここのはず。その家はボロく外見からしてかなり古い。
 「ピンポーン」俺はチャイムを鳴らした。ドアが開くとそこには稲生が立っていた。

稲生: 隼人君か さあ入ってくれ

 外見同様で内側も古く、木張りの床は「ギーギー」と音を立てていた。
 置くの部屋へと案内され稲生はお茶を持ってきてくれた。

隼人: 稲生さん聞きたい事があります 俺は何者ですか
稲生: 君は選ばれた死の神だよ
隼人: そういう事ではなくて 13年前にこの街で起きたあの殺人事件で俺はもしかして死んだんじゃないかと思って...事件で死んだ人の名前に俺と同じ名前があったんです
稲生: 私もそうじゃないかと思っていたんだよ 13年前の今日、私は君の両親から頼まれたんだよ 君を施設に預けてほしいと 君をよろしく頼むと 私は家に来るようにと言われ、君の家に行った そうしたら君が寝ていた そこに君の両親の姿は無かったよ それから君は何日か眠っていた       
 目覚めると君は自分の名前しか知らなかった 記憶を失っていたんだよ しばらくし私は頼まれたとおり君を施設に預けた
隼人: 父さんと母さんから、それから連絡は無かったですか
稲生: 無いよ 私はその後、事件の被害者の名前を見た時、君は事件の被害者ではないか と思ったよ でもその被害者は損傷が酷かったらしく魂を戻したとしてもまたすぐに死んでしまう..だからきっと君はこの事件の被害者ではない..たまたま名前が一致しただけなんだよ..
隼人: そうですか..よかったです..

 でもなぜ俺は記憶を失っていたんだ。分からない。まったく思い出せない。
 父さんと母さんは俺を残してどこに行ってしまったんだ。

隼人: 父さんと母さんはどこに行ってしまったんですか もしかして死んでしまったのでは..
稲生: お母さんは分からないがお父さんなら確実に生きているよ
隼人: 何で分かるんですか?!
稲生: 死の神の力だよ
隼人: 死の神の力...どうゆう事ですか
稲生: 死の神は一度会った死の神を感じる事が出来る 感じると言っても本当に感じるだけだから今何処に居るかは分からない 君も死の神として生きるうちに感じる事が出来るようになるよ

隼人: じゃあ何処かに父さんは居るという事ですか
稲生: ああ 君のお父さんは何処かに居る 感じるんだ
隼人: じゃあ母さんは分からないんですか
稲生: 分からない 君のお母さんに直接会った事はないから分からないが君のお母さんはきっと人間だ
隼人: 人間...母さんは人間...
稲生: おそらくな 君のお父さんがいつか言っていた事があるんだ 人間を好きになったと
隼人: 俺や父さんが死の神だからてっきり母さんも死の神だと思っていました
稲生: 死の神の体のつくりというのは普通の人間と同じだ 前にも言ったように夢を見ないとかお腹が空かないなどの違いはあるが だから普通に子供だって産める

 俺は知らなかった母さんが普通の人間だった事を。母さんも死の神と関わったせいで色々と辛い思いをしたはずだ。でなければ俺を置いてったりはしない...

第15話『篠宮 花乃 』

 私の名前は篠宮 花乃(しのみや はなの)今年で17歳になる。私は幼い頃両親を目の前で殺され、1人暮らしの祖母の所に預けられた。その祖母も今はもう居ない。それから私は1人で暮らしている。
 毎日は「いつも」の繰り返し。いつも同じ事をして毎日が過ぎてゆく。夜になると泣いてしまう。やっぱり独りなんだって思い知らされるから。
 こんな悲しい世界なんか生きている意味なんて無い。こんな「いつも」ならいっそ...
『私もそっちに行きたいよ..お父さん、お母さん、おばあちゃん』
 私は決めた こんな悲しい世界から、こんな「いつも」から逃げようと。
 最後に街を散歩しよう。私は独りぼっちの家を出た。「いってきまーす」返事なんか無い。知ってるよ..私はもう...
 
 春の風が心地良い 最後くらい笑っていよう。
 私はいろんな所へ行った。17年生きてきたけどこの街の事はまだまだ知らないようだ。最後にこの道を通ったら終わりにしよう。
 『あれ?こんな所にお花が咲いてる』初めて見る花だった。
 「あなた独りなの?友達居ないの?私と同じだね..独りぼっち..」

隼人: その花ブサイクだよな
花乃: えっ!!

 私はびっくりした。話しかけられるのはあまり慣れていない。

隼人: 色もぱっとしないし
花乃: 私は好きだな このお花..私に似てるんだ..独りぼっちだし

 独りぼっちの私にこの人は話しかけてくれた..なんかちょっと嬉しくなった。

隼人: 俺、隼人!野咲 隼人!よろしくな!
花乃: えっ!?野咲隼人君!?
隼人: どうかした?
花乃: いえ何でも.. 私..花乃です!篠宮 花乃(しのみや はなの)です!

 これが隼人君との出会い。
 もしかして隼人君はあの時の...いや..そんなはずがない。私の知っている野咲 隼人はあの日死んだから...あの日の被害者...お父さんとお母さんともう1人の野咲 隼人君はあの日死んだ..殺された..


 私達はそれから毎日会った。天気なんて関係ない。毎日会うたびに隼人君は私の内の生きる意味になっていった。隼人君が居たからここまで来れた。
『お父さん、お母さん、おばあちゃん、私もう少し生きてみます もう少し頑張ってみようと思います』
 『隼人君とこれからもずっと幸せに過ごそうと思います』

 悲しい「いつも」から隼人君は私を救ってくれた。隼人君は私の命の恩人です。そして私のかけがえのない大切な人。

第16話『隼人君の幸せ』


 私は幸せです。だってこんなに笑顔になれるようになったんだもん。
 隼人君が居たから笑えた。隼人君が居るから明日も頑張ろうって思えた。
 本当はあの日、隼人君と会ったあの日に私はこの悲しみばかりの「いつも」が繰り返している世界から居なくなってた。でも私は今ここに居る。隼人君が教えてくれたんだ。この世界はそこまで悪くないって。こんなに笑える世界だって。隼人君ありがとう...
 隼人君とはもう会えない...会わない方が良い... 私にはよく分かんないけど隼人君が考えて決めた事だから...

 今日も家に帰る。誰も居ない独りぼっちの家に。
 夜が来ると泣いてしまう。独りぼっちなんだって思い知らされるから...
 隼人君、私 もう泣かないよ 約束したから 幸せになるって いつも泣いてたら幸せになれないもんね。
 でも今日は泣いて良いかな...今日だけは涙流しても良いかな...隼人君と明日からは会えないから...
 
 朝が来た 今日からは強い私です。もう泣かないよ。1人でも幸せになってみせます。
 朝の準備を済ませ学校へと向かう。11月30日今日はあの事件の日..お父さんお母さんそしてもう1人の隼人君の命日...もう13年か...
 私は空を眺めた。空からは雪が降り出した。
 
 学校生活は変わらない。登校して授業をして帰る。ただそれだけ。今日も学校は何も変わらない。
もう帰ろう...
 校門を過ぎた後から記憶が無い。私はなんでここに居るんだ...そこはいつも隼人君と待ち合わせてた公園だった。我に帰った私は急いで公園を後にする。
 15分位歩いた頃だっただろうか。『あれ..どうしたんだろう..』意識が遠のいでいく様な感覚に私は襲われ少ししたらその感覚は治まった。きっと疲れているんだろう。私はゆっくりと歩き出す、もうすぐ家だ。

 家に着くと着替えを済ませ手を洗い夕食の準備に取り掛かる。ご飯は炊けている 今日は卵焼きにしよう。夜に卵焼きはちょっと変かもしれない。でも良い..ただの卵焼き、でも今日は卵焼きが食べたかった。目の前が何かで滲んでくる。その溢れ出てきそうな何かを私は必死にこらえた。玉ねぎを切った訳でもないが、何かが目にしみたんだと言い聞かせて。

 隼人くんは何しているだろう...新しい幸せを見つけたかな。
 私は隼人君とずっと一緒に居たい。一緒に泣いて一緒に笑いたい。でもそれは私の幸せであり隼人君の幸せにはならない。
 隼人君が幸せになってくれる...それが1番大切だから...私は隼人君の事が大好きだから。

第17話『決意』

 父さんは生きている...母さんも一緒に居るのだろうか...
 俺は会いたいのか?顔も知らない親に..分からない。でも聞きたい事は有る。何で俺を1人置いて行ったのか。

隼人: 稲生さんありがとうございました
稲生: 礼には及ばないよ 私はただありのままを話しただけだからね
隼人: 俺..まだ死の神として生きる気持ちにはなれません
稲生: 分かったよ またいつでも来なさい
隼人: 何か有ったらまた来ます

 稲生は優しかった。でも俺はまだ俺を苦しめた死の神として生きるなんて考えられなかった。
 稲生の家を後にしてまだ雪の降り止まない街へ俺は足を進める。
 急いで家を飛び出して来たから傘なんて持って来る訳も無く、降る雪が俺の体温を奪って行く。
 こんな寒い日に花の両親は...

 「キーーーーー!!ドンッ!!」 何の音だ? 高くて大きな音の後に鈍い音がした。俺はその音を確かめようと走る。角を曲がると音の正体が分かった。.........事故だった。
 女の人が車に引かれ倒れている。その女の人の腕の中に1人の女の子が居た。女の子は泣きながら俺に助けを求めて来た。

女の子: お兄ちゃん...助けて...お母さんが...お願いお母さんを助けて...

 女の子は泣きながら声にならない声で俺にお願いしてきた。

 隼人: 待ってて!!お母さんは絶対助けるから!!

 女の子のお母さんを助けられる確信は無い。そのお母さんは話しかけても全く反応が無い。でも諦めたくはなっかった。このままお母さんが死んだらこの子も花のように悲しい人生をおくる事になるかもしれない...
 近くの家に救急車を呼んでもらい俺は走った。さっき来た道をただ必死に走った。

隼人: 稲生さん!!助けてください!!

 稲生に状況を説明すると付いて来るようにと俺を案内した。

稲生: 説明は後だ!!私の言うとおりにしなさい!!君がやりなさい!!君が助けなさい!!
隼人: でも俺は...
稲生: 時間が無い!!早く!!

 稲生の言うとおりにやった。脳に電気が走る様な感覚に襲われその場に倒れてしまった。
 事故から1時間が経とうとしていた。 
 目が覚めたのはそれから2時間後。目の前には稲生の姿があった。

隼人: お..俺は...
稲生: 気を失ってたんだよ 初めてなら誰でもそうだよ
隼人: 女の子のお母さんは?
稲生: テレビを見てみなさい

 テレビにはさっきの事故の事が報道されているようだ。
 お母さんと女の子が歩道を歩いていると後ろから来た自転車に驚いて女の子が車道側に転び、そこに車が来た所をお母さんが女の子をかばい車に引かれたそうだ。
 お母さんは1度は生死を彷徨ったが今は大丈夫だそうだ。

隼人: 良かった...
稲生: 君が助けたんだよ よくやってくれた

 俺はそうして初めて死の神としての努めを果たしたようだ。
 俺の嫌いな死の神だけど、この力が有ったお陰で女の子のお母さんを救う事が出来たんだ...
 自己満足かもしれないが、これが俺の花へのせめてもの償いになるのなら。
 『ごめんな花..俺、頑張るよ』

第18話『魂』

 俺は花に謝っても謝りきれない事をしてしまった。約束もしたというのに...
 だからせめて花のように不幸な人をこれ以上作らないようにする。それが俺の出した考えだった。
 
 家に帰り荷物をまとめる。稲生の家にしばらく厄介になるつもりだ。まだまだ教わる事が有るから。
 それからというもの俺は稲生に色々と学んだ。毎日学校から帰るなり死の神としての勤めを果たす日々。
 俺の想像していた「いつも」とは違うけれど、これが俺のするべき事だと言い聞かせて...

 そんな毎日を送っているうちに俺は高校を卒業した。また春が来る。
 花はこれからどうするのだろうか気になったが俺が花に会う事は許されないんだ..と、結局何も聞くことは出来なかった。
 今日も帰るなり死の神の勤めをするなかで疑問に思った事がある。

隼人: 稲生さん もしも寿命が残っている魂をみちびく事が出来なかった場合その魂はどうなるんでしょう?
稲生: 導けなっかった魂は、自分の死を受け止めて自ら行くべき所へ行く者もいるが、大体は自分の死を受け入れずに現世に残ってしまう 目には見えないがそこらへんに居るんだ そうなった魂はいくら死の神でも導くのは困難だ 自分の意思で行くほかない でも、いつまでも死を受け入れないままだと産まれ変わる事も出来ないんだよ
隼人: 死の神が居なければ現世に残ってしまう魂も増えるという事ですね
稲生: そういう事だ でも死を受け入れているが自分の意思で現世に残る者も居る きっと思い残す事が有るんだろう
隼人: 思い残す事...
稲生: いつまでも魂で居る事は相当辛い思いをするだろう 目の前に居ても話せない 温もりを感じる事も出来ない そうやって魂でありながら孤独になっていくんだよ
隼人: 死んでも大変なんですね

 死んでも報われない 皆1人なんだ...だから生きてるうちに人を求めて 愛を求めるんだ。
 生きているうちに愛を感じなくてはいけないんだ。
 花はきっと良い人を見つけて幸せになってくれるはず...
 俺の勝手に振り回してしまったけど花は成長した。もう出会った頃の花ではないのだから。


 俺は死の神としてこれからも生きていく1人でも多くの人が幸せを失わないように...

第19話『独り立ち』

 死の神として生きる様になって もうだいぶ経つ。命を導く仕事..仕事というより使命と言うべきだろうか..
 命を導くのはそれほど大変ではないが死ぬべきではない人に命を戻すたびに俺は意識を失いそうになる。だいぶ慣れてはきたが、かなりの体力を失ってしまう。まるで命を少し奪われたかのようだ。

稲生: 隼人君もだいぶ慣れてきたようだね 意識を失う事もなくなったし 私から教える事はもうないよ もう家に帰っても大丈夫だよ
隼人: 本当ですか
稲生: ああ本当だよ でも死の神として絶対にやってはいけない事が1つあるんだ
隼人: なんですか 
稲生: 生きている人間から命を奪ってはいけない これじゃあ本当の死神になってしまう
隼人: そんな事出来るんですか?
稲生: ああ出来る.. 私達の他にも死の神は沢山居るんだよ 私は本当の死神になってしまった人の話しを聞いた事が有る..
隼人: 本当の死神...
稲生: 自分の欲の為に力を使ってしまったんだよ その人は病気を患っていて自分の命が残り少ない事に気づいた そして生きている人間から命を奪った..そして自分の寿命を足したんだよ..
隼人: 奪われた人は死んでしまうんですよね?!
稲生: 勿論死ぬよ その人は病気のせいか命の消耗が早くて 命が少なくなったら足して、また少なくなったら足す..それを繰り返した..本当の死神になってしまったんだよ..
隼人: その人はもしかして今も生きているんですか?!
稲生: もう死んだよ
隼人: だってそれを繰り返せば死なないんじゃ...
稲生: いくらそれを繰り返しても歳はとるんだよ 命は有っても体が耐えられなっかたんだ 永遠なんて無いんだよ
隼人: そうゆう事ですか..
稲生: どんな理由であろうとも力を使って、動いている心臓を止める事は許されない もしその人のように力を使って動いている心臓を止めた場合は...もう生まれ変わる事が許されない 消えてしまうんだ


 消える..それはどういう事なのか俺には理解が難しかった。でも俺には関係の無い話し。ようは力を使って人を殺さなければいいんだろ。

 許しを貰った俺は久しぶりに自分の家に帰る事にした。何か有ったらいつでも来いと稲生は言ってくれた。
 不安は多少はあるがいつも通りにやればいいのだから1人でも大丈夫そうだ。
 いつの間にか俺は死の神として稲生を感じる事が出来るようになっていた。
 でも今日は稲生とは違う何かを感じる..これはもしかして父さんなのか..

第20話『再会』

 確かに感じた何か。稲生とは違うこの感覚。父さんなのか?
 その感覚はモヤモヤしていてなんか気持ちが悪い...

 今日から俺はまた1人だ。1人でもやっていく そう決心させてくれたのは花だから。いや..俺が勝手にそうした。花への償いのつもりだろう..花と同じ悲しみをこれ以上見たくないだけなのか..
 花は何してるだろう..ちゃんとご飯食べているだろうか。また花の卵焼きが食べたい..

 あれから俺は花の事を思わない日は無かった。毎日毎日思った。そして願った。花の幸せを..
 俺は花に会いたいのだろうか..会いたい..出来るならもう一度..

 ふとあの道端の花を思い出した。そういえば最近行ってないな。流石にもう枯れてるだろうが久しぶりに行ってみるか。
 つい先日まで毎日通っていた道なのに今日はどこか懐かしい。
 温かい風が桜の花びらと共に優しく俺の横を通り過ぎていった。
 そういえば花と出会った日もこんな日だったな。たしかこの角を曲がった所にあの花は咲いていた。
 その道端の花は咲いていた。そこに居たのはあの花だけではなかった。俺は何故か立ちすくんでしまっている。いや..これ以上前に進んでいいのか分からなかった。

 「はっ..隼人君..」 そこには花の姿があった..あの日と同じ..
隼人: 花..何でここに
花乃: お花が気になって..
隼人: まさか..毎日ここに来てたんじゃ..
花乃: 毎日じゃないよ 隼人君と会わなくなってから初めて来たの

 偶然..偶然に過ぎない..でも俺は嬉しかった..またこの花のお陰で花に会えた、そんな気がしていた。

隼人: 俺も今日久しぶりに来たんだ 偶然だな..
花乃: うん偶然..でも隼人君 元気そうで良かった
隼人: 花も元気そうで良かったよ 今は何してるんだ?
花乃: 駅前のお花屋さんで働いてるよ
隼人: 花に似合ってるな
花乃: ありがとう でも気になってる事があるの
隼人: 気になってる事?
花乃: うん..このお花の事

 花は道端に咲くあの花に指を差す。

花乃: このお花 どの本にも載ってないんだ そして誰も知らない
隼人: なんだそれ 新種の花かな
花乃: いろんな本見たけど載ってないの だからお花屋さんで働いていればいつか分かるかなって思って
隼人: それで花屋さんってわけか..そこまでこの花の事好きなのか
花乃: うん 好きだよ 私に幸せをくれたお花だから 隼人君と会わせてくれたから
隼人: 花..ごめんな..
花乃: 隼人君!!私 幸せになります!!だから謝らないで

 花は優しかった。こんな自分勝手な俺だけどいつも優しくしてくれた。
 花は絶対に幸せにならなきゃいけない..俺なんか比じゃないほど辛い過去を乗り越えてきたんだから..
 花はこれから幸せな日々を送って行くんだ。



 そう思っていた...

第21話『死神』

 久しぶりに隼人君と会った。あの初めて出会ったお花の前で。あのお花のお陰で私は幸せになれたような気がしている。きっとあのお花のお陰なんだ..
 
 私はあのお花の事が知りたくてお花屋さんの仕事をしたというのにまだ何の情報も無い。本も沢山見た。人にも聞いた。でもどこにも載って無い。誰も知らなっかた。もしかして隼人君が言ったように新種なのかな。

 今日もお仕事だ。お花屋さんのお仕事は私の思っていたよりずっと楽しかった。お客さんは笑顔でお花を買いに来る。記念日とかお見舞いとか皆誰かの事を思ってお花を買いに来る。勿論自分の為に買いに来る人もいるけどお花を買う人は皆良い人ばかり。
 きっとお花には人を笑顔にする力があるんだ。だから私を笑顔にしてくれたあのお花の事を知りたいのに名前すら分からない。きっといつか会えるよね。

 今日、仕事中にまたあの意識が遠のいでいく様な感覚に襲われた。最近多い、貧血かな。店長は優しい人で私を裏で休ませてくれた。いつまでも休んでいるわけにもいかない。15分位休ませてもらい仕事に戻った。
 入学祝いなどで今日はいつもよりお客さんが多かった。後片付けをして今日の仕事はおしまい。
 「お疲れ様でした お先します」店を出ようとした時『あれ、なんだろ..力が..』目の前が暗くなっていく。
 目覚めた時、私は病院のベットの上に居た。
 昨日私はお店を出ようとした時意識を失って倒れたそうだ。病院の先生には貧血だろうと言われ2・3日は様子を見て入院する事になってしまった。心配して店長もお見舞いにお花を持って来てくれた。お花のお陰かその後問題もなく明日退院する事になった。
 最近寝過ぎたせいか夜になっても今日はなかなか眠れない。
 「誰ですか?!」暗い病室のドアの前に男の人が立っている。怖くなってとっさにナースコールのボタンを押してしまった。
 男はゆっくりとこっちに歩いて来た。月明かりに照らされて男が見えた。深いフード付きの真っ黒いマントの様な服からはほとんど肉のない痩せこけた顔と、骨と血管が浮かび上がるほど細い手だけが見えた。男はかすれがかった声で話し出す。

  男: 君をよく知る者だよ

 私はこんな人一度も見た事が無い。

花乃: 私は貴方を知りません
  男: 私が君を知っているんだよ..13年ほど前からね..
花乃: 貴方は誰ですか?!
  男: 私かい?私は死神だよ..

 「どうなされました?!」声と共に部屋が明るくなり男の姿は無くなった。


看護師: 凄く顔色が悪いですよ!!今先生呼んできますから少し待っててください!!

 今のは夢だったのだろうか..でも眠りについた記憶が無い..
 死神...だとしたら私を殺しにでも来たというのだろうか... 

第22話『夏のある日』

 暑い..辺りは緑が生い茂っている。これでもかと鳴くセミ達、今日も街を行き交う人達。
 何も変わらない..こんな「いつも」が俺を支配し始めていた..
 朝が来る それが俺にはそれほど幸せではなくなっていた。

 毎朝何となくつけるテレビからはいつもあまり楽しくない様なニュースばかり流れている。
 最近この辺で不審死が多発しているそうだ、皆決まって原因がはっきりしないらしい。今年に入ってからもう15人とか。
 病気でもなけりゃ事故でもない。ましてや殺人でもない。何なんだ..気にはなるが俺にはどうする事も出来ない。俺に出来るとしたらその魂を導く事位だ。
 
 ニュースを見る限りでは亡くなっている人は多いが最近は迷う魂が少ない。
 稲生はいつか言っていた 死の神は他にも居ると きっと俺ではない他の死の神が頑張ってくれているに違いない。
 
 そういえば花は駅前の花屋で働いてるんだっけ..会ってはいけない気はするが気になってしょうがない。いつしか俺はそこに向かって歩いていた。
 駅まではここからじゃ少し遠いが歩いて行けない事もない。『あっそうだ!!あの道端の花でも見ながら行くか』少し遠回りになるが道を変えた。
 角を曲がると..『あれ?!なんかいつもと少し違う気がする』花びらは元気が無く色も少し薄くなっている気もするけど..それもしょうがないな この暑さだし元気もなくなるさ。
 近くにある自販機から水を買うと道端の花に少し水をやった。『暑いけど元気出せよ こんな元気無いお前を見たら花が悲しむぞ』
 その場を立ち上がりまた花屋に向け足を進めた。
 そろそろ駅だな さっき買った水はもうすっかり温くなってしまった。駅に着き俺は花屋を探した。『あそこか 花の仕事場は..』でも花の姿は見つけられない。こうやってるとなんかストーカーみたいで少し気持ち悪いな。堂々と行こう。

 「何かお探しでしょうか?」その声に驚いた俺はとっさに知り合いのお見舞いでと言ってしまった。
店員は色々と説明してくれるが俺は花が何処にいるか気になってしょうがなく話しをあまり聞いていなかった。

店員: これなんかどうでしょう?
隼人: じゃあそれを..

 成り行きで買ってしまった。店員は今包むから待っててくれと言い歩いて行った。いつもかどうか分からないが電車を降りた人で店内はそれなりに賑わった。店員も忙しそうにしながらこっちにやって来た。

店員: すみませんお待たせして 私1人なもんでご迷惑をお掛けしました。

 と、深々頭を下げている。...ん ?1人? 花はどうしたんだろう。

隼人: あの..
店員: はい
隼人: 篠宮花乃って人知っていますか?
店員: ああ篠宮さんのお知り合いでしたか じゃあこの花は篠宮さんのお見舞いですか
隼人: えっ!!花乃..いや..篠宮さんがどうかしましたか?
店員: ご存じなかったですか 篠宮さんこの間、倒れてしまいまして今は入院しております
隼人: 入院..
店員: 入院と言っても軽い貧血だそうですからあまり心配いらないとの事でしたよ

 貧血か..びっくりしたよ..でも花は家族も居ないからきっと病室で心細いだろう..
 心配だから少し顔出してみるか..

第23話『光の中』

 花屋の店員から花の入院している病院を聞き、そこへ向かった。
 貧血って言っていたけど花が貧血だなんて初めて聞いた。俺と会ってる時はそんな事一度もなかったのに。

 お見舞いっていったら何を持っていけば良いだろうと病院の売店で色々買って花の病室へ向かう。病院独特の匂いが漂う。そういえば病院なんて久しぶりに来たな。
 312..313..314!花の居る病室の前で何故か戸惑ってしまった。ここまで来たのに帰るなんて..
 何を焦ったのかノックもせずに思い切って扉を開けてしまった。日差しが入り込む病室内は光に包まれた様な感覚になる。光の中にはベットに座り窓の外を眺めている花の姿があった。

花乃: は!隼人君?!
隼人: よう..
花乃: どうしてここに?!
隼人: 花屋の店員に花が入院したって聞いて心配だったから..
花乃: 花屋の店員? あぁ店長が言ったのかぁ 入院って言ってもただの貧血みたいだから大丈夫だよ わざわざありがとね

 あの人は店長だったのか。 
 
隼人: 倒れたって聞いたからびっくりしたよ でも元気そうで良かった..これ良かったら食べて
花乃: ありがとう
隼人: あとこれ..花の職場で買ってきたんだ
花乃: お花買ってくれたんだ..隼人君ありがとね

 もうすでに花瓶には花が生られている。そこに買ってきた花も一緒に入れた。

花乃: まさかここで隼人君と会えるなんて思わなかったよ 1人でちょっと心細かったんだ
隼人: そうだろうと思って来たんだよ
花乃: ありがと 嬉しい

 光の中で花は満面の笑みを見せてくれた。
 それからも色々と話し、なんだか付き合っている時の様に楽しい気持ちになっていく。
 俺はやっぱり花の事が好きなんだと再度思い知らされた。

 花は突然聞いてきた。

花乃: ねぇ隼人君...
隼人: なんだ?
花乃: 死神って居ると思う?
隼人: 急になんだよ?!
花乃: きっと夢だろうと思うんだけど昨日死神に会ったんだ..
隼人: 死神って..どういう事だよ?
花乃: 昨日の夜 ここに死神が来たんだよ
隼人: 夢..じゃないか?..
花乃: きっとそうだよね!!

 死神ってどういう事だよ..なんで花の所に来るんだ..
 きっと夢だ!!夢に違いない!!きっと...

第24話『死の神と死神』

 花には真実を話しておこう、信じてはくれないだろうがこのまま隠しておきたくはない。死の神について人間に話していけないという決まりはない。

 俺は話した 自分が死の神だと言う事 何をしているのか だから花と一緒には居られないという事...
 花はただただ頷いていた..信じてくれたんだろうか。
 
隼人: 急に意味わからない事言ってごめん
花乃: ううん ありがとう話してくれて 正直すぐには理解出来ないけど 隼人君が嘘ついてないって事は分かるよ
隼人: ありがとう
花乃: 1人でも多くの人を救ってあげてね
隼人: 花!!俺、頑張るよ
花乃: 隼人君にお願いがあるの
隼人: ん?何?
花乃: もし..もしもだけど..私が死んだら隼人君が私の行くべき所に導いてね
隼人: 分かった..でも死んじゃ駄目だからな 花は幸せにならなきゃならないんだから
花乃: うん!!私幸せになるよ

 花は幸せにならなきゃならない..辛い過去を乗り越えて一生懸命生きている..
 そんな人こそ幸せにならなきゃいけないんだ..

 花はそろそろ退院出来るだろうと言っていた。また明日も来ると花に約束をし、俺は病院を後にした。
 つい話し込んでしまったせいで辺りはもうすっかり暗くなっている。
 この街はまだ街灯が少なく、道は暗くて少し歩きづらい。街灯の無い道は月明かりが頼りになるが今日は雲が月を隠してしまっている。



     「野咲 隼人君だね」

 暗い道の先から話しかけられた。はっとして辺りを見渡すと前の方に人影らしき物が見えるが暗くてその声の主はよく見えない。

隼人: はい.. そうですが 貴方は誰ですか?

     「私かい? 私は..死神だよ..」

 その時、月を覆っていた雲が晴れ そいつの姿が目に入ってきた。
  そいつは深いフード付きの真っ黒いマントの様な服を着ていて、ほとんど肉のない痩せこけた顔と、骨と血管が浮かび上がるほど細い手だけが見えた。
 気づくと俺は震えていて声が出なかった。花の言っていた死神とはこの事か...

死神: 隼人君 君はなぜ生きているんだい

 死神は、かすれかかった声で話し始めた。

隼人: 何を言っているのか意味が分からない
死神: 君は死んだんだよ...


死神: 13年前の11月30日に...

第25話『君は僕』

 なんだよ死神って...俺が死んだなんて...意味が分からない...こうして生きてるじゃないか...13年前って...あの事件...もしかして...あの野咲隼人って...俺...なのか...

隼人: 俺はこうして生きてるじゃないか!!
死神: それが不思議なんだよ...君はあの時確実に死んだんだよ...
隼人: お前、もしかして...
死神: そうだよ あの事件の犯人さ
隼人: お前が花の両親を!!
死神: そうさ 本当は篠崎花乃の命が欲しかったんだけどね まっ両親の命を足したら1人分位にはなったから良いけどね..

 こいつが花の両親を...絶対に許さない...花を苦しめやがって...絶対に...

隼人: お前は絶対に.....
死神: 絶対に何かな?
隼人: お前は絶対に許さない!!
死神: 許さないとどうなるんだい?私を殺すとでも言うのかい?
隼人: お前は3人の命を奪ったんだ...死んでも当然だ!!
死神: 3人? 3人どころじゃないよ...もっと沢山奪ってるよ...でも沢山の命を救ってもいるよ
隼人: 救ってるだと?!
死神: 売ってるんだよ..命をね
隼人: そんな事出来る訳ないだろ!!
死神: 出来るんだよ 私には力があるからね..

 力..もしかしてこいつは死の神...なのか...だとしても命を移すなんて..出来るのか..

隼人: そんな事どうでもいい!!お前は許さない...
死神: 君がなんで生きているかはもう、どうでもいい..もう一度命を貰うまでだよ...

 死神はゆっくりと近づいて来るなり俺の胸にてを当ててきた。

死神: なぜだ...もしや君は...死の神...

 俺の胸に当てられた手を振りほどいた。

隼人: 俺は死の神だ!!お前も死の神なんだろ!!こんな事はやめろ!!人の命は奪っちゃいけない!!
死神: そういう事か...
隼人: どういう事だ
死神: 同じ能力者同士では魂を奪う事は出来ないんだよ だから君も私を殺せない...でもなぜ君が死の神になったんだ...
隼人: そんなの知るか!! いいからもう止めるんだ!!こんな事...何の為にこんな事を...
死神: 自分の為さ...君の様に善人振る気はないね...それにもう手遅れなんだよ...

 手遅れ...生まれ変われないという事だろうか..そんな事、初めから知っていたはずじゃ..じゃあなんで命を奪ったりしたんだ...

死神: あぁそうだ、面白い事を1つ教えてやろう
隼人: 面白い事..


死神: 篠宮花乃は...



死神: 君だ...


 どういう事だよ..花が俺だと..何の事なんだ...

第26話『真暗な闇』

 花が俺だって...どういう事なんだ...

隼人: 花が俺だって..どういう事なんだよ...
死神: 篠宮花乃は病気だったんだよ そう、あいつと同じ病気...
隼人: 病気..
死神: 篠宮花乃はもうそれほど長くなかった だから私は試してみたんだよ
隼人: 試すってなんだよ..

死神: 命の移植だよ

隼人: いっ......
死神: 移植は成功した

死神: 野咲隼人君 君の命を使ってね...

隼人: なんで花の両親を殺す必要があったんだよ
死神: 両親は殺すつもりはなかったよ 篠宮花乃を殺そうとしたのさ
隼人: なんの為に...殺すならなんの為に命を与えたりしたんだ
死神: 篠宮花乃本人のためだよ..
隼人: 本人の為...
死神: そう 命を与えたところで病気が治る訳じゃない 命を少し伸ばしただけでどうせすぐに死ぬんだよ だから殺そうとした ただ苦しみが長くなるだけなんだよ....移植は成功した..でも病気までは治せなかった..奇跡なんて起きなかったんだ..

隼人: じゃあ花は...


死神: ああ もうすぐ死ぬ


 花が死ぬ...そんな...さっきまで笑顔だったのに...
 俺はその場に座り込んでしまった。道路は冷たかった...夏だというのに...

隼人: 何しに..何をしに花の病室に行ったんだ
死神: 伝えに行った..事実を..私が殺してあげられなかったから..ただ苦しみを伸ばしてしまっただけだからね..せめて伝えてあげようと思ってね..
隼人: 止めてあげてください...伝えるのは止めてあげてください...
死神: 分かったよ..君に任せるよ でも命を移植をしようなんて考えない事だね..花乃さんが苦しむだけだから..君も苦しむ..もう生まれ変わる事出来なくなるよ

 そう言うと死神は暗闇の中へ消えて行った。

 花が死ぬ..移植をしたところで花が苦しむだけ..
 俺はどうする事も出来ないのか...

 両親が死んでおばあちゃんも死に、やっと見つけた幸せも失って今度は自分が死ぬ..
 そんなの可哀想過ぎる..何も良い事無いじゃないか..俺のせいで花はさらに苦しんだ..あの時花と会わなければ..花と付き合わなければ..花はあれ以上苦しまなく死ねたかもしれないのに...

 
 花..ごめん..

第27話『死神の真実』

 俺の名前は田辺 明人(たなべ あきと)死の神だ。初めは戸惑ったが、毎日死の神として勤めを果たすようになった。
 だが死の神として生きるだけの毎日は退屈過ぎた。何の為に俺がこんな事してんだ..何の為に生きてるんだとさえ思う事もあった。
 そんな退屈な日々を変えた出来事 それは「恋」だった。
 恋なんて俺には無縁だとばかり思ってた。人なんて皆同じだ。皆、自分の為だけに生きる自分勝手な生き物だと思ってた。
 
 だが彼女は違った..彼女は皆の幸せを願うような人だった。自分より人、自分より皆。人の幸せを自分の幸せに出来る心の大きな人だった。
 彼女の名前は三坂 光(みさか ひかり)名前の様に皆を光で照らしてくれる様な優しい人だった。
 俺が死の神だと言うと光は信じてくれた。俺はこの世界に必要な人だと、そして自分も協力したいと言ってくれた。俺達は付き合った。皆が笑顔で笑える世界になるように。
 
 毎日が幸せで俺も少しずつだが人の幸せに喜べる様になっていった。
 こんな幸せがいつまでも続く事をただ願っていた。
 
 でも、そんな幸せは長くは続かない。永遠なんて無いんだ..

 光は病気にかかった..もうほとんど時間は無い...
 
 俺は世界を嫌った..こんなに人の為だけに生きた光を世界は見捨てたんだ。誰も救ってはくれない..

 そんな時に、かつて居た死神の話しを聞いた。そこで俺は決意した。死神にでも何でもなってやろう。光を救えるなら何でもやろうと..
 


  そして俺は命を奪った...



 光はそんな事、許すはずがない..だから光にはこの事を隠すことにした。 
 移植は成功した。でも光の病気は随分重かった..何度命を与えても元気になる事はなかった..
 ただ光の苦しみを伸ばしただけだったんだ...

 これが光の運命だと言うのか...

 光は最後まで俺の事を気にかけてくれていた...自分が1番苦しいというのに俺の心配をしてくれていた...


  「最後まで一緒に居れなくてごめんね..約束したのにね.. でも私幸せだったよ」
  「ありがとう」

 
 光はもう帰って来ない...
 絶望の中、ただ月日だけが流れていった。

 光が居なくなって3年が経ったある日俺は1人の少女を見つけた。
 篠宮花乃..その少女は光と同じ病気を患っていた。
 『今度こそ..』俺は篠宮花乃に光を重ねてしまっていた。
 まだ光よりは症状が軽い今ならもしかして..

 俺は行動に移す。ただの通り魔の仕業に見せかける為にわざとナイフで殺した。
 命の移植は成功した。でも病気までは治す事が出来なかった..
 また俺は苦しみを伸ばしてしまった..このままだと光の時と同じ事をしてしまう。
 ならばいっそ殺して楽にしてあげよう...
 
 でも殺せなかった。両親が命をかけて少女を守った...
 俺は、ただこの子の幸せを奪ってしまった。

 もう前の様には戻れない。それから俺は腐っていった。

 本当の意味で死神になってしまったのだ...

第28話『命の砂時計』


 
 あいつは言っていた、花はもうすぐ死ぬと..
 
 俺は引き返した。今来た道を全力で..

 病室に戻ると花は驚いた顔でこちらを見ていた。

花乃: どうしたの隼人君?
隼人: いや..あの..ちょっと花が心配になってさ
花乃: 私は大丈夫だよ ただの貧血なんだから...

 その時の花の顔は悲しそうだった。涙を堪えているようにも見えた...

隼人: 花..体は大丈夫か?
花乃: 大丈夫だよ隼人君 心配しないで...
隼人: 何か俺に出来ることあったら何でも言えよ
花乃: じゃあ隼人君...お願いがあるの...
隼人: 何だ?喉渇いたか?ジュースでも買ってこようか?
花乃: うんん
隼人: じゃあ何だ?腹でも減ったか?
花乃: 隼人君...


花乃: もう...来ないで...


隼人: ......................................


花乃: 私達、もう会わない方が良いと思うんだ...
隼人: 花...
花乃: 私は私で幸せになるから隼人君は隼人君で幸せになって...お願い...

 花はきっと自分がもう長くない事を知っていたに違い無い...だから俺に心配をかけない様にと、あんな事を言ったんだろう..

 静かに病室を後にした。病室からはすすり泣く花の声が聞こえていた。
 俺がまた行けば花はもっと辛くなる..
 これが花の初めて言ったわがままだった... だから花とはもう会わない...
 花の望み通り俺が花の魂を導いてやろう...その時までは、花とは会わない...

 俺は世界を嫌った..花は今までこんなにも苦しんで来たというのに..世界は花を見捨てたんだ。誰も救ってはくれない..

 死神の話しを聞かなかったら俺も同じ事をしていただろう...
 いくら命を与えたところで花の苦しみを伸ばすだけだ...そんなんじゃ花は幸せになるどころか辛い思いをするだけだ...

 それから俺は生きる気力を失ってしまった。ずっと家にこもり死の神としての勤めも出来ない位やる気を失ってしまっていた。
 こうしている時にも花の時間は少なくなっている...花の魂を導いたら俺も...そんな事を考えていた。

 「ピンポーン」...「ピンポーン」...「ピンポーン」...「ガチャッ」
 誰か来たようだ...

稲生: 隼人君!!心配したんだよ!!全然顔出さないから
隼人: 稲生さん...
稲生: 隼人君!!どうしたんだい?!何かあったのか?!

 俺は今まで起きた全てを話した。花と付き合って別れた事...死神に会った事...花にはもう時間が無いという事...

稲生: そんな事があったのか...

稲生: 隼人君こんな時に悪いんだが...私の昔の話しを聞いてくれないかい?

第29話『命の重み』

 物心付く辺りから自分は死の神だと言い聞かされていた。死の神とは何なのか。私は何をするべきなのか。ずっとそれを言い聞かされて、自分がなぜ死の神で何の為にそれをしているのかなんて疑問に思った事すらなかった。

 高校に入る頃にはもう、1人で死の神の勤めを果たす様になっていた。
 まるで機械の様に..ただ毎日を繰り返している。
 人の命なんてただの物の様にすら思えた。何の感情も無く..
 親父が寿命で死んだ時も少し寂しいという思いはあったが、これも運命だと親父の魂を導いた。
 
 ある日私は、これからの私にとっての命という考えを方を変える人と出会った。
 彼女の名前は前河 泉(まえかわ いずみ)名前の通り泉のように澄んだ心を持った人だった。
 誰にでも優しくて、人の悲しみを自分の事のように一緒に悲しめるような人だった。

 でも出会った頃の泉はとても悲しげな顔をしていたんだ。名前も知らない彼女の事を私は気になっていた。なぜ彼女はいつも学校の坂道で悲しそうに空を見上げているのか、どうしても気になっていた。
 
 その日、彼女の姿はなかった。いつも同じ時間に同じ場所で空を見上げていたのにその日だけは居なかった。
 私は何か胸騒ぎがして彼女を探していた。家も名前も知らない人を探すなんて自分でもどうかしてると思った。でも今探さなければいけない..そんな気がしたんだよ。
 見つけた時彼女は海岸に立っていた。そして...

 海に飛び降りた...

 慌てて私も海に飛び込み泉を海から引き上げた。
 泉は驚いた顔をしながら私に言う。

  泉: 何で私を助けたんですか?
稲生: 分からない
  泉: 何で死なせてくれないんですか?

 泉は大声で泣きながら聞いてきた。

稲生: 自分でもなんで助けたかは分からない..でもこんな運命なんておかしいよ!!
  泉: ここで死ぬ これが私の運命なんです!!邪魔しないでください!!
稲生: それが運命というなら俺がここで君を助けて君は俺に助けられる それも運命だ!!

 それが私と泉の初めての会話だった。
 泉はその頃から2年前に両親を亡くしている。自殺だったそうだ。
 両親の死、そして両親に捨てられたという思いが泉を徐々に苦しめていったんだろう..

 それから私は泉と会うようになり泉もだんだんと笑顔を取り戻していった。
 毎日会ってるうちに私は泉を好きになってしまっていた。普通の人を好きになったんだ。
 それから俺達は付き合った。幸せだったんだ..毎日が...
 その頃から私は命をただの物ではなく掛け替えのない大切な物だと知ったんだ。泉に出会えていなければ今の私は居ない。

 しばらくして私はそんな大切な命を失った。私のせいなんだ...
 その日は導く魂がいつもより多くて待ち合わせの時間に間に合わなかった。泉は私を心配して私の家まで向かっていた。その途中で命を失った..事故だった...
 私は何度も何度も命を戻そうとした。でも泉は帰っては来なかった...
 私があの日遅くならなかったら..私が死の神なんかじゃなかったら...泉は今も笑顔で笑ってられたかもしれない。
 泉は私を恨んでいるかもしれない。
 
 だから私はもう過ちは繰り返さない。
 もう泉のような可哀想な人を増やさない。それが私の泉へのせめてもの償いなんだ...

第30話『果たせぬ約束』

 稲生さんも大きな悲しみを1人で背負って今まで生きて来たんだ..
 稲生さんは沢山の命を救ってきた。でも泉さんは自分のせいで死んだ、救えなかったという思いから今まで自分を責め続けて来たんだ..
 泉さんの思いは分からないけど、きっと泉さんは稲生さんを恨んでなんかいないと思う。

 人を殺すなんて許されないがあの死神も何かを背負っているのかもしれない..あの時の顔はとても悲しげだった。

隼人: 稲生さん泉さんと話してみたらどうですか?1度なら話す事が出来るんですよね?
稲生: 話すのが怖いんだ..でもいつか話してみたいと思うよ
隼人: きっと泉さんは稲生さんの事恨んでなんていないと思いますよ

 稲生さんはなぜ今俺に昔の話しをしたんだろう。きっと俺に後悔してほしくないんだと思う。

隼人: 稲生さんありがとうごさいます 俺、花に会って来ます 
稲生: そうか 後悔は残さないようにな
隼人: はい

 しばらく花には会っていない。どんな顔をすれば良いだろう..もう会わないって約束したのに。
 
 外は肌寒い風が吹いて秋の訪れを感じさせていた。

 314号室そこには篠宮花乃の名前があった。ノックをしたが返事は無い。恐る恐る扉を開けるとそこには前回会った時とは違うすっかり痩せた花がベットに横たわっていた。
 その姿を見るなり俺は涙が止まらなく流れ出した。
 
 世界は不公平だ..こんなに悲しい思いをした花を..命まで奪う事はないじゃないか...

花乃: 隼人君..何でここにいるの..何で泣いてるの..

 聞こえるか聞こえないかの小さな声で花は話してきた。
 
隼人: 花..ごめんな約束守れなかった...
花乃: うんん ありがとう来てくれて
隼人: 花、具合は大丈夫か?
花乃: うん 大丈夫.. ただの貧血..だから...

 花は涙を堪えていた。声は震え,かすれていた。

隼人: 花..もう泣くの我慢しなくていいんだよ

 花は泣いた..ずっとずっと泣いた..声にならない声で泣き続けた...

 もう花は死を待つしかないのか..希望の無い明日をただ生きなくてはいけないのか...
 そんなの酷い...幸せになれるはずないじゃないか...
 
 俺が守るって約束したのに..俺は花との約束を何も守れていないじゃないか...

第31話『俺が絶対に』

 この世界は嫌いだ。辛い事ばかりが目に入る。何も報われないじゃないか...
 辛さを堪えやっと見つけた幸せさえも奪っていく...
 こんな世界だったら幸せなんて知らない方がいい..
 失う悲しみが増えるだけだ。どうせ奪うならなぜ、与えたりするんだよ...
 花は何もかも失ってしまう。家族も幸せも命さえも...
 最後まで花を見守ろう...俺にはこれしか花にしてあげられる事は無いんだ..

 病室で花は眠っていた..だんだんと起きている時間より眠っている時間の方が長くなっている。
 花に残された時間はもう少ないのかもしれない...
 普通に生きて普通に死ぬ。それさえ花には許されない..
 
 今日も花の所に行く。外を吹く風は冬を知らせるように冷たく、外を歩く人は少なくなっていた。
 病室では今日も花は眠っている。花はこうして死んでいくんだ...

花乃: 隼人君...今日も来てくれたんだね...ありがとう...
隼人: 花 無理して話さなくて良いんだよ 
花乃: 大丈夫... 隼人君...
隼人: 何だ?
花乃: 私...幸せだよ...隼人君が傍に居てくれた...ありがとう...
隼人: 何言ってんだよ...花...こんなの幸せな訳ないだろ...俺は何も花にしてあげられない...
花乃: 幸せだよ...隼人君がずっと傍に居てくれた...それだけで幸せだった...ありがとう隼人君...
隼人: 花...嫌だ!!どこにも行くな!!ずっと一緒に居よう!!俺が守るって約束したのに...俺は花を守れなかった...
花乃: 隼人君ちゃんと守ってもらえなくてごめんね...ずっと一緒に居られなくてごめんね...
隼人: 嫌だ...花...どこにも行かないでくれよ...
花乃: ありがとう隼人君...幸せだったよ...でも、もっと生きていたかった...
隼人: おい...花...花!!はなーーー!!.................

 花は返事をしてくれない...俺は花を幸せに出来なかった...花を守ってやれなかった...
 何も...何もしてあげられなかったんだ...

  「ガラッ」病室の扉が開く

死神: そろそろ花さんは逝く...
隼人: 俺は花に何もしてあげられなかった...
死神: 悲しいが、これが花さんの運命なんだ...
隼人: こんな運命なんて...
死神: 今更だが私は花さんと君に悪い事をした...君の命を犠牲にし、花さんの苦しみを増やした...悪かった...

 いや...まだ終わって無い!!花はまだ死んではいない...いつか死神が花にしたように...俺も...

隼人: ありがとうございます...
死神: 何を言っているんだい...君を殺した私にお礼なんて...
隼人: ありがとうございます!!花に命を与えてくれて
死神: っ!!
隼人: まだ俺が花にしてあげられる事が1つありました...
死神: 隼人君!!そんな事してはいけない!!そんな事しても花さんの苦しみが増えるだけだ!!
隼人: 花は俺が守るって約束したんです...
死神: 私が言うのもなんだが君は人を殺してはいけない!!もう生まれ変わる事が出来なくなってしまう!!
隼人: 生まれ変われなくてもいいです..花が生きてくれるなら...
死神: いけない!!私みたいになってしまう!!花さんはそんな事望まないと思う!!そんな事してもまた花さんが苦しんで死ぬんだぞっ!!
隼人: 確かに花は望まないかもしれません でも俺が望みます!!約束は守る為にありますからね
死神: 隼人君...
隼人: それに誰も殺しません...きっと花の病気も治せると思います
死神: そんな事出来る訳ない!!
隼人: 出来ます!!きっと...

 

 花は俺が絶対守ってみせる!!何があろうと...

第32話『幸せになれ』

 こんな世界嫌いだ。辛い事ばかりが目に入る。でもこんな世界だからこそ気づけた事がある..
 俺は花が好きだ..今までの好きとは違う。何て言ったらいいか分からないけど、今までの好きとは少し違う。
 花が教えてくれたんだこの気持ち...花にもこの気持ち教えてあげたい...
 
 俺が絶対助ける!!花も生きてこの気持ちを知ってほしい。
 花から貰ったこの気持ち。今度は俺が花に...

 目覚めたら花は俺の事を忘れているかもしれない...
 それでもいいんだ...生きてほしい。生きてもっと沢山の人に教えてあげて...この気持ちを...

 俺は病室を飛び出した。

死神: 隼人君!!

 時間が無い...でも、その前に...


 『お願いします..花を..花を救う力をください』
 

 あの道端の花は笑っていた気がした。花に顔なんて無いけれど俺にはそう見えたんだ。
 俺達を出会わせてくれたこの花ならきっと助けてくれる...そう信じて..
 
 そしてまた俺は走った。花の待つ病室へ。

 『花..待ってろよ 俺が絶対に助けるからな』

死神: 隼人君...人を殺してきたんじゃないんだろうね...
隼人: 言ったでしょ 誰も殺さないって
死神: 誰も殺さずに花さんを助けるなんて出来ない 殺したところで花さんを助けるなんて無理なんだよ...
隼人: お願いがあります
死神: お願い?
隼人: 花が目覚めたらきっと俺の事を忘れていると思います その時は俺の事を教えないでください
死神: どうゆう事だよ...っ!! もしかして君は...
隼人: お願いします!!
死神: 分かった...君の事は絶対言わない...
隼人: 俺は迷わない 花が気づかせてくれたこの気持ち...人を好きになるっていうこの気持ち...
 それは辛い事も悲しい事も沢山ある、でも自分より大切な人が出来た喜び そしてその人に幸せになってほしいと思う気持ち そう思えるようになるって凄く幸せなんだ
 だからもし花が俺を忘れてしまっても、花が幸せになってくれればそれでいい...
 それが俺の幸せだから...

死神: 隼人君...
隼人: では始めますかっ!!


 「花...今助けるからな...今までよく頑張ったな...もっと早く気付いてこうしてやれば良かったのにな...ごめんな..」



 『花...幸せになれよ...』

第33話『私は誰』

 あれから3日が過ぎた。野咲隼人はこの世界から姿を消した...
 自分の命を人の為に全て使ったのだ。
 自分がもう生まれ変わる事が出来なくなるかもしれないというのに...
 彼は自分の命よりも大切な物を見つけたのだ。
 花乃の悲しみを全て自分で背負って...
 彼は自分の命と花乃の命を死の神の力を使って入れ替えた。
 いくら命を与えても花乃は病気で死んでしまうのなら、その病気に侵された命と自分の命を入れ替えるという事を考えたのだ。
 そして花乃の苦しみを全て自分の内に詰め込み消えていった...
 元気になった花乃は隼人の事を覚えていないかもしれない...
 それでもいいんだ...
 むしろ忘れていてほしいと...
 覚えていれば花乃はきっと悲しむだろうと。

 
          『花...幸せになれよ...』


 目覚めると私は病室に居た。
 『篠宮 花乃』それしか知らない...
 なぜ病室で寝ていたのか...今まで何をしていたのか...自分に何が起きたのか...自分が誰なのかさえ分からない。
 病院の先生達は『奇跡』だと言っていた。何の事なのかさっぱり分からない。
 でもこの感覚は何なのだろう...胸が温かい...いつも誰かに守られているようなこの温かい感覚は何なのだろう。

 周りは知らない人だらけ。今日私が働いていたというお花屋さんの店長が来てくれた。
 店長は私が記憶が無い事を知り、色々と教えてくれた。私が倒れて入院していた事、あるお花の事を必死になって探していた事。
 そんな話しを聞いても何も分からない。
 私はなんのお花を探していたというのだろう...
 まるで誰かに記憶を持って行かれた様な感じだった。
 覚えていないのだからきっと悲しい過去だったに違いない。

店長: あれ?!このお花...

 店長は病室の花瓶に生けられている枯れかけたお花を見つめながら何かを考えている様だった。

店長: そうだ!!そういえばこの間、篠宮さんのお知り合いだという若い男の人が来てこのお花を買っていったのよ!!彼なら篠宮さんの事何か知っているかもしれませんよ!!

 そんな事言ってもその人が誰なのか、いつ来るのかも分からないのじゃ連絡の取りようも無い。
 ここにいればいつかまた来るかもしれない。その時は聞いてみよう、私の過去を...

店長: あれ?!でも一輪だけ知らないお花が混ざってる、もしかしてあの男の人が入れたのかもね
     でもこんなお花 見た事無いなぁ 何て名前なんだろう...

 そのお花は色もパッとしない小さなお花だった。他のお花が枯れかかっているのに対してこのお花だけが綺麗に咲いていた。

 何故かこのお花を見ると温かい気持ちになる。
 もしかして私が調べていたというお花は、これの事かもしれない。

第34話『ありがとう』

 生きている事すら嫌になった。
 失う悲しみを知る位なら得る喜びを知らなければ良かった...
 そう思っていた。
 でも隼人君はそんな事思わなかった。
 失う悲しみから逃げずに立ち向かい 知った...
 失うよりも得た喜びの方が大きかったのかもしれない。
 大切だから...好きだから...愛しているから...花乃の幸せが自分の幸せだと、花乃が壊れないように 崩れてしまわぬように そっとで飽きしめて。
 そして自分の全てを花乃の為に使った...

 苦しまないように花乃から病気と過去の記憶、自分の存在さえも奪って 隼人は消えた...
 誰にも知られる事も無く 誰にも感謝される事も無く 1人で痛みと闘い 花乃の幸せだけを祈って。
 そして 消えてい
った...
 最後の隼人は笑顔だった。

 自分がもうこの世に生まれて来る保証なんて何処にも存在しない。
 
 「それでもいい...花が笑って 幸せになってくれればそれだけで俺は幸せです」

 隼人はそう言った。
 
 君の望んだ通り花乃さんは元気になったよ。君の事も覚えていない。
 これで良かったのかい?
 
 『どうしてもこれだけは言わせてもらいたい』

 一言だけを伝えに花乃の入院する病室へ私は向かった。
 
花乃: どなたでしょうか?
死神: 貴方に一言だけ伝えにきました
花乃: なんでしょうか?
死神: 貴方の為に闘った人がいた事 貴方の事を心から愛していた人がいた事をどうか忘れないでいただきたい
花乃: その方とは貴方の事ですか?
死神: 私ではありません その人は私なんかよりもずっと強い
花乃: その方は今何処にいるんですか ?
死神: もうここにはいません ずっと遠くの方まで行ってしまいました

 『隼人君の事は話していないよ せめてこの位は言わせてもらいたい』
 
 私はずっと年下の君に学ばせてもらったよ。私が隼人君と同じ気持ちを知っていたら光を助けられたかもしれない。
 
 『隼人君ありがとう..今からじゃ遅いかもしれないが、これからは人の為に生きて行こうと思います』

 ずっと詰まっていた心が隼人君のお陰で救われたよ。

 「隼人君 本当にありがとう」

第35話『本当の自分』

第35話『本当の自分』


 私は誰なのか..私は今までどうして生きてきたのか..分からない..何一つ...
 私の知っている事は自分の名前だけ。あとは、職場の店長に聞いた少しの事だけ...
 店長によると事件に巻き込まれて両親を亡くし祖母に引き取られたが祖母も亡くなりそれからは私は一人暮らしをしていたという。
 それに私は難しい病気にかかっていたというのに今はすっかり治っている。病院の先生は奇跡だと言うが、理由の無い奇跡なんてあるのだろうか..
 何で病気が治ったんだろう..
 
 だめだ..全く思い出せない..

 思い出そうとしても何一つ出てこない。そんな事を考えていると窓のそとはもうすっかり暗くなっていた。
 月明かりが病室のベットに横たわる私を照らす。まるで世界に私1人しか居ないかのようにすら思えた。

 『貴方の為に闘った人がいた事 貴方の事を心から愛していた人がいた事をどうか忘れないでいただきたい』

 ふとあの言葉を思い出した。

 私の為に闘った人...私を心から愛してくれた人...誰だろう...
 きっと忘れてはいけない事を忘れているに違い無い。

 ずっと一人だったはずなのにそんな気がしない。
 まぁ 記憶が無いんだからそれもそうだろう。
 
 今日はもう寝よう。


 病気は完全に消え去り回復も順調 来月には退院出来るみたいだ。
 お花屋さんの店長も退院したらまた働かせてくれるというし住む家は今まで住んでいた家が有るから生活に心配はなさそうだ。
 
 退院したら少しずつ自分の事を調べていくつもりでいる。
 このまま何も知らないまま生きて行くなんて嫌だから。
 きっと辛い過去だったに違い無い、でなければ記憶を失ったりはしないはずだ。
 もし過去を知ったとして、それがどんな過去だったとしてもそれは私の過去 私の記憶 私自身なんだから全て受け入れると決めた。

 あれ..何で私..泣いてるんだろう...

 涙がとめどなく流れた。それは過去を知る事の不安や恐怖で流れたものではなく、胸が暖かくなる様な嬉し涙みたいなものだった。

 私、もう泣かないって決めたのにまた泣いちゃった... 
 
 あれ..私いつ泣かないって決めたんだろう..

 あぁ..そっか..前の私が決めたんだ...


 これが本当の私なんだ...

第36話『ひとつの花』

 私は何かを忘れている。それは確かだ。過去の記憶がないのだからそれは当たり前なのかもしれない..
 でも過去だけではない何か..何か凄く大切な物を私は忘れている..
 それが何なのか、物なのか人なのか気持ちなのか、そんな事すら分からない。思い出そうとすると胸がギューッと苦しくなる。でも凄く温かい気持ちにもなる。


 時が立ち私は具合もすっかり良くなり退院の許可が出た。退院してからは、記憶を無くすまで働いていたお花屋さんで仕事をさせてもらっている。
 記憶を無くしたと言っても全て忘れた訳では無く感覚の様なものは少し覚えているようで、仕事もすぐに出来る様になった。

 仕事を終えると夕御飯までの少しの時間に街を歩く様にしている。無くした物を見つける為に。
 そんな事をしても何も見つけられないかもしれない。でも何かしたいんだ..その大切な何かを見つける為に...

 冬も終わりを告げ街の木々は春の訪れを感じさせる様に枝には所々可愛い花びらが咲いている。
 
 もうこんな時期になったのか..去年の私は今頃何をしていただろう..
 仕事を終え今日も街を歩く。

 『あれっ このお花..』

 そこには入院中に病室に飾ってあったあのお花が一輪咲いていた。

花乃: あなた独りなの?友達居ないの?私と同じだね..独りぼっち..

     「その花ブサイクですよね」

花乃: えっ!!

 振り返るとそこには一人の同じ年頃の男の子が立っていた。

花乃:   失礼ですが私の事知っている方ですか?!
男の子: まっ..まぁ知っているというかなんというか..
花乃:   すみません..私..ちょっと事情があって今は前の記憶が無いんです..貴方の事覚えていなくてごめんなさい..
男の子: そうなんですか..まぁ僕の事は覚えていなくても無理も無いと...
花乃:   もしかして貴方..隼人君ですか?
男の子: えっ?!何で俺の名前を...
花乃:   貴方が隼人君ですか!!私、記憶を無くしてから色々と調べたんです!!そしたらカレンダーとか手帳とかに隼人君ってよく書いてあって
男の子: えっと..あの..
花乃:   良かったー 記憶を無くす前の事 隼人君ってしか私書いてないんだもん
男の子: いや..あの..
花乃:   色々聞きたい事あるんですけど今日はもう遅いからまた今度お会いしましょう
男の子: まぁ..そうですね..
花乃:   じゃあまたね 隼人君
男の子: じゃあ..また..

 連絡先を交換して私は家路についた。
 
 雲ひとつ無い夜空は星達が賑わい月は夜道を明るく照らしていた。

 『良かったー隼人君に会えた これから色々と聞いていこう』

 これで大切な何かを見つけられるかもしれない。

 今日分かった事、私の大切なその何かは隼人君の事では無かったようだ。
 でもこうやって色々探して行けばいつかきっと見つけられるよね。

第37話『涙の理由』

 野咲 隼人君 記憶を無くす前の私にとってきっと大切な人だったに違い無い。
 隼人君の名前を見ると凄く温かい気持ちになって涙だって溢れる事も有る。
 その隼人君とようやく会う事が出来たんだ。
 前の私が隼人君をどのように思っていたかは分からないけど、これから少しずつ思い出して行けばいい。

 今日は仕事が休みだからいつもより街を歩ける。
 朝ご飯を済まし出かける準備をしていつもより上機嫌で家を出た。
 
 今日は港の方まで行ってみよう そういえば記憶を失ってからまだ港までは行った事なかったっけ
 いつもより早歩きで街を歩いた。
 強い日差し セミの声 潮の香り 港はもうすぐだ。

 港までの道は覚えていた。場所の記憶とかは、わりと覚えているみたいだ。
 それに比べて人の記憶は全くと言っていいほど覚えていない。
 悲しかった事 辛かった事 楽しかった事 幸せだった事 全部覚えていない。

 「わぁー綺麗ー」
 目の前には日差しに照らされてキラキラ光る海があった。
 
 海岸を散歩しながら記憶の手がかりを探したが全く思い出せない。
 疲れたから少し休憩をしようと辺りを見回す。
 「あそこにしよう!」

 海を見渡せる少し高い所にある東屋を休憩場所に選んだ。
 階段を上がっていると目の前に広がる綺麗な海に目を奪われた。
 その時なんとも言えない懐かしい様な気持ちになった。
 ベンチに腰を下ろしバックから朝入れてきたお茶の入った水筒を出し、一口お茶を口にする。
 ふと腕時計を見る 
 「もうこんな時間か、どうりでお腹が空いた訳か」
 「ちょうどいい、ここでお昼にしよう」
 今日は少し遠出をするつもりだったからお昼ご飯にと思ってお弁当お作ってきていた。
 一人でお弁当とか.. いつも独りなのに何でこんなに寂しいんだろう...
 
 『何から食べようかなー』と、卵焼きに箸を付け口に入れた。
 『卵焼きしょっぱいや 塩入れすぎたかな』
 『あれ、何で..私..』
 
 花乃の目からは涙が溢れ出ていた。
 
 『何でだろう..私..分からない』
 『でも..卵焼き大好き』

 
 今日もほとんど記憶を思い出す事は出来なかった。
 でもあの東屋で何かあったんだと思う。悲しい事だったの かな..

 帰り道またあの道端に咲く花の前に私は居た。
 何かあればいつもここに来てしまう。きっとここは私にとって大切な場所なんだろう。

 「こんにちは」

 振り返るとそこには隼人君の姿があった。

花乃: 隼人君!!
隼人: ど、どうも..
花乃: こんな所で会えるなんて嬉しい
隼人: 俺もです!!
花乃: こんな所で何してたの?
隼人: 花屋に居なかったんでここかなと思って
花乃: よく分かったね
隼人: あ、あのぉー
花乃: ん?何?
隼人: お名前聞いてもいいですか?
花乃: え?名前?そうだよね!!きっと随分会ってないんだろうから名前..忘れちゃったよね..
隼人: いやぁ..そんなんじゃないんです
花乃: 花乃!!私の名前!!忘れないでね!!
隼人: はい!!忘れない!!ありがとう!!

 その後も、くだらない話で盛り上がり、楽しい時間はすぐに過ぎていってしまった。
 
 今日は楽しかった。凄く楽しかった。でも何かが絶対に足りない...
 この想い何だろう...胸が苦しいよ...

第38話『人違い』

 涙って何だろう..私にはその意味が分からなかった。
 記憶を失う前に何か有ったはず..
 理由の無い涙なんてそんな事は無いはず..

 人は生きるために忘れる事を覚えた。でも、辛くても 痛くても忘れてはいけない事だって有るはず。私はそう思う。
 私もきっと心の奥で忘れきっていない何かを忘れない様に涙を流すんだ...
 きっと見つけて見せる。


 さってとお仕事に行きますか 今日はちょっと遅くなってしまった 急ごう
 お弁当を作り終えると仕事用の鞄に詰め込み いつもの様に仕事に向かう。
 折り曲げてしまった靴のかかとを直しながら家の前の坂を下りお花屋さんへ急いだ。

花乃 おはようございまーす

店長 おはよう!今日もよろしくね

 「おっおはようございます!!」

 緊張した様な声で挨拶をしてきたのは2ヶ月ほど前から私の働くお花屋さんでバイトを始めた桐谷 美宵(きりたに みよい)という高校生だ。
 彼女は緊張症の様な所が有るが明るくて一生懸命頑張って仕事をしてくれる良い子だ。
 私は美宵さんとはすぐに仲良くなることが出来き、もう恋愛相談なんかも受けている仲だ。

花乃 美宵さん今日は早いね
美宵 はい!今日から夏休みなんです
花乃 そうかーもうそんな時期か
美宵 私、一生懸命頑張ります!!

 そんな挨拶の様な会話の後、私は裏で着替えを済まし仕事に出た。

 三時間後

店長 よし!仕事も一段落したし二人共休憩していいよ
花乃 はい では休憩してきます
美宵 休憩行ってきます

店長 あっ!!そうだ今日は暑いし二人でアイスでも買ってきな 私はチョコのアイスでお願い

 と、店長さんは仕事着のポケットから千円札を取りひらひらと私の前でひらつかせる。

花乃 ありがとうございます!!

 買ってきたアイスを食べ終えると私達はお弁当を広げた。

美宵 アイスの後にお弁当とか なんか変ですね
花乃 そうだね でも私 ちゃんとお弁当も食べるよー
美宵 私もですけどねー

 などと笑い合いながらお弁当を食べはじめる。

美宵 花乃さんって卵焼き好きですよね いつもお弁当に入ってるんで
花乃 うん..私、卵焼き好きなんだ...
美宵 ごっごめんなさい!!私何か嫌な事言ってしまいましたか?
花乃 うんん 違うの..私、昔の記憶がなくてね それで最近、卵焼き好きだって思い出したんだ..でもまだ沢山忘れてるの...凄く大切な何かを私は忘れている気がしてずっと探してたんだけどなかなかみつからなくてさ...

美宵 そうだったんですか...でも花乃さんきっと思い出せますよ!!だって花乃さん卵焼きの事だって思い出す前から毎日食べてたじゃないですか
花乃 っ...
美宵 だから大丈夫!!完全に忘れた訳じゃないんですよ!!いつか何かの拍子に思い出すかもしれませんよ
花乃 そうだね 美宵ちゃんありがとう頑張ってみるよ
美宵 私も力になれそうだったら言ってください!!私、部活もしてないんで夏休み暇なんで
花乃 ありがとう そういえば美宵さん
美宵 なんでしょう花乃さん?
花乃 この前言ってた気になる男の子とはどうなった?
美宵 なかなか押してますよ私ー
花乃 美宵さん頑張ってるじゃんー
美宵 今度告白しようと思います私!!
花乃 おぉっ頑張れー応援するよー
美宵 花乃さん見ててください!!私絶対 はやと君の彼女になってみせますから!!
花乃 えっ?!隼人君...
美宵 花乃さんどうかしました?
花乃 ううん..なんでもない ただ知り合いと同じ名前だったからちょっとびっくりしただけ!!


 まさか..そんな訳ないよね!!ただの人違いだよ

死の神と一輪の花

死の神と一輪の花

何の取柄も無い高校生 野咲 隼人、幼い頃の記憶が無く両親も知り合いさえ居ない。 いつも繰り返されている「いつも」から抜け出したいと願いながらも過去を知る事を恐れている隼人、彼が偶然目にした道端に咲いた一輪の花 その花のお陰で出会った少女との出会いで隼人の人生は変わっていく。 楽しく過ごす2人だったが急に知ってしまった隼人の過去 隼人は普通の人間ではない。 なぜ両親が居ないのか なぜ自分は独りなのか なぜ記憶が無いのか 自分は誰なのか 少女と過ごすうちに変わって行く2人の人生。 2人の結末とは?悲しいけど感動する人間を超えた愛の話です。

  • 小説
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  • ミステリー
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