真実の泉

『真実の泉』その1

とっても昔のお話。
地中海のある国の出来事です。
その国はとても平和で、人々は安心して毎日の生活を営んでおりました。

その国の王様はたいへんに賢い人で、
どんな悪人もこの王様には嘘がつけず自分が仕出かした悪事を、たちまち自ら自白してしまうという、たいそう徳の高い王様が、その国を治めておりました。

ある日のこと。
その国の大劇場で、火事が起こりました。

逃げ遅れた観客はこの火事に巻き込まれ、何十人もの人々が、焼け死ぬという大惨事になりました。
中には、炎に巻き込まれた母親が自分の子供を守るために、子供を抱きしめ包み込むように二人で、死んでいた焼死体もありました。

その国の警察官が、よくよく調べてみるとその火災の原因が、何者かによる放火の疑いがあることが、わかりました。

王様は、火をつけた犯人を、徹底的に探すように命令を出しました。

火災当日、火事の現場で様子を見ていた三人の役者が裁判所に連れてこられて、調べを受けることになりました。

この国には、『真実の泉』という山からわきだしている泉がありました。
この泉から、わきだしている泉の水には、不思議な力があり、その泉の水を飲むと、嘘がつけず本当のことを、言ってしまうと、言い伝えられていました。

最初の男が、裁判官の前に連れてこられました。

男が、裁判される所に行くと、
そこには大きな瓶が、裁判官の前に置いてありました。

瓶の中には、真実の泉から汲んできた水が、なみなみと入っておりました。
裁判官は、一番目の男にその瓶の中に入るように、命令しました。

「自分に、やましいところがなければ、
その瓶の中に入り、真実をのべよ。
嘘がなければ不思議とこの水は、
人を殺さん。」

瓶の大きさは、人間一人が入れる大きさですが、
どうやら底に足がつかない位大きな瓶で、
その中で、手を縄で縛られたまま、
浮いていることも、出来ない位の大きなものでした。

最初の男は、恐る恐る水に入り、ギリギリ顔が出るくらいの所で、
「私は、火をつけておりません。」
と、叫びました。

しばらく、水に、浮き沈みしながら、
もがき叫び続けました。

裁判官が、
「その言葉に、嘘はないか?」
と、たずねると、男は、
「嘘はございません。」
と、水を飲みながらも答えました。

裁判官は、警察官に、
男を、水から出すように命令しました。
「この男は、真実の泉の水を飲んでも、
やっていないと言っていた。そして、
死ななかった。
この男の言葉に、嘘はない。」

裁判官は、次の男を、呼んで来るように、警察官に命令しました。
(つづく)

『真実の泉』その2

二人目の男が、裁判官の前に連れてこられました。
同じように、二人目の男も、瓶の中に入るように、命令されました。

牢屋の中では、三人目の男が、
裁判所で何が起きているかまるでわからず
自分はこれから、どうされるのか?

不安で、たまらなくなりました。

牢番に、聞いて見ても、何も話してはもらえませんでした。

前の二人の男たちは、何処かに連れていかれ、そのまま戻ってこない。

すると、牢番の所に、他の看守がやって来て、話しを始めました。

「どうやら、二番目の男が、
真実の泉の水を飲んで、
死んだようだ。」

「それでは、今のやつが、放火の犯人というわけか。」

牢屋に閉じ込められている男は、

(どうやら、犯人が見つかったようだな。
それなら俺は、
これで開放されるだろう。)

と、ほっとしていました。

自分は出してもらえる。
と、思って安心していた所に、裁判所から呼び出しの知らせを持った男が、
三人の目の役者の所に、
やって来ました。

(もう、犯人が、みつかったのに、
どうして俺まで取り調べを受けなければならないんだ?)

呼びにきた男は、
「一応、真実の水を飲むだけだから、
心配は、いらん。」

と、言って男を、慰めました。

裁判官の前に連れていかれ、

三人目の男は、同じように真実の水が、
なみなみ入った瓶の中に入るように、
命令されました。
(つづく)

『真実の泉』その3

三人目の男も、両の腕を縄で縛られたまま瓶の中に入るように命令されました。

階段を登り、男は瓶のはしに、腰掛け、
両足を瓶の中に入れ、少しずつ瓶の中に入っていきましたが、
底まで、足がとどきません。

男は、真実の泉の水を飲むだけ飲んで、
「私は、火付けはしていません。」
と、浮き沈みしながら、叫びました。

裁判官は、
「本当の事を言えば、真実の泉の水は、
お前を殺さん。
真実のみ、言え。」

「私は、火付けをしていません。」
三人目の男は、また叫びました。

「真実を言えば、お前は、助けられる。
真実を言え。」
裁判官は、男に声をかけました。

薄れていく意識の中で、
男は、あの日の事を思い出していました。

あの日、おれは、ムシャクシャしてて、
無性に火をつけてやりたくなったんだ。

それで、おれは、衣装部屋の衣装に油をつけて燃やしてやったんだった。

男は苦しくなって、とうとうその日の出来事事を、
「私が、やりました。
衣装に、火をつけました。」
と、告白しました。
しかし、
真実を告げても、
男の苦しみはかわりません。

真実の泉の水が、真実を告げれば、
人は殺さないというのは、
嘘でした。

男は、苦しくなって意識が無くなりました。
真実の泉の水を、
肺の中まで一杯飲んでしまったからでした。

二人目の男は、死ぬまで、
「自分はやってない。」
と、いい続けて死んで行きました。

それで、三人目の男が呼ばれました。

もしも、三人目の男が、本当にやってないか、
あるいは、そう、言い続けていれば、
裁判官は、二人目の男を犯人ということにしたでしょう。

真実の泉の水は、嘘をつけばその人を殺すと、信じられていました。

裁判官は、
二番目と三番目の役者が二人で共謀して火を付けたと王様に報告しました。

真実の泉

真実の泉

大人の童話・ミステリー超短編小説

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-05-05

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