GIRL MEETS A GIRL .3
お話を、戻しましょう。
女子短大の在学中も、卒業して地元に就職してからも、5、6年間は、まったくと言っていいほど、「出逢い」がありませんでした。
前に話したことの繰り返しになりますが、少し説明不足の部分も含め、改めてお話します。
短大生の頃から、私は、年上の女性との「出逢い」を求めていました。
同級生に気になる子もいたのですが、特に進展はありませんでした。
そして、いま30歳を越え、ビアンとの出逢いを考えた時に、18歳から20歳くらいの女性を、敬遠してしまう自分に気がつきました。
この辺りの年代の女性は、どうしても「幼く」思えてしまうのです。
大人のビアンからみると、肉体の若さは、決してアドバンテージにならないと思います。
もちろん、これは私見です。私だけの感覚、かもしれません。
さらに、その人の希望があるので、もっと「出逢い」の確率は低くなると思います。
その人の希望、ですか?
いわゆる「タチ」、「ネコ」、「リバ」など、相手に求める希望です。
これをよく、ストレートの人は誤解しますが、これは恋愛のスタイルです。
セックスのスタイルだけではありません。これも、私見ですが。
振り返ってみると、今までに、7人の出逢いがありました。
ゆきずりの、その場だけの関係を含めると、10人を超えるかも知れません。
数ですか?
出逢いの数として、多いのか、少ないのか、ですか?
7人以上というのは、たぶん、多いと思います。
今までにお付合いした女性の感想だと、私の経験は多い方だそうです。
それでは、高校卒業間際のお話で、中断してしまいましたが、短大卒業後、地元に就職した頃からの、私のレズビアン歴を話します。
【菊川直美/29歳/主婦】
私が26歳の時に、2回だけお付合いしたのが、「菊川直美」さんです。29歳の、既婚女性です。
菊川直美さんのご主人は、東京から転勤でこの街へ来ました。奥さんの直美さんも、ご一緒にいらっしゃったわけです。
私の勤める会社と、ご主人の勤務している会社が取引関係にあるとかで、パート契約として、五月の連休前から、働き始めました。
本の注文から発送までの業務は、私がP Cで行うため、菊川直美さんには、庶務的な事務のお手伝いを、会社は頼んだようです。
初日に現れた菊川直美さんは、ごく普通の主婦に見えました。
質素でもなく、華美でもなく、落ち着いた雰囲気で、ご挨拶されました。
倉庫で働く古参の、おじさんたちは、すぐに「直美ちゃん」と、呼び始めました。
さすがに私は、そう馴れ馴れしく呼ぶ事は出来ませんから、下のお名前の「直美さん」と、呼ぶ事にしました。
直美さんのパート契約は、とりあえず1年間だそうです。
勤め始めて、2週間もしないうちに、私と直美さんは、女子休憩室で一緒にお弁当を広げる仲になりました。
倉庫で働いている人は、大半が年配の男性ですが、事務所の庶務や経理は女性がほとんどです。
私たちは年齢が近いせいか、話しも弾み、1時間のお昼休みを、時々、超えてまでおしゃべりに夢中になったこともありました。
彼女が働き始めて、2ヶ月たった頃の月末のことです。
総務部全員が、午後9時近くまで残業をした日がありました。
私のは、営業部なので、定時で帰りました。
翌日、給湯室で、総務部の古参女史が、若い男性社員に、
「しょうがないわよね・・経理部のためだからね・・」と、話しているのを聞きました。
その日のランチタイムで、いつものようにお弁当を広げている直美さんに、昨日の残業の話しを聞いたところ、彼女は30分ほどの残業で帰宅を命じられたそうです。
「総務も、大変だよね・・何か・・あったのかな・・」
私の知る限り、「棚卸し」以外で、総務部が残業したのは初めてのはずです。
それだけに、今朝の古参女史と男性社員との会話もあり、私は直美さんに尋ねたのです。
「・・ごめんなさい・・私はあまり、知らないのよ・・」
直美さんは、すまなそうな顔をしました。
私はそれもそうかなと思い、会話の続きは特にありませんでした。
それから、2週間後のことです。私が、総務部の部屋へ行くと、誰もいません。
奥の会議室のドアに、『棚卸し準備会議中』の張り紙がしてあります。
「棚卸し」の準備のため、総務部全員が会議室に入り、その打合せをしているようです。
その時、直美さんが、来客を受け付けるカウンターの陰に身を屈めているのを見つけました。私から見ると、後ろ姿です。
私は、彼女が何をしているのかと思い、近づきました。
直美さんはカウンターの下に手提げ金庫を置き、ふたを開けて中を見ていました。
その手提げ金庫には、宅配便などの着払い時に必要な現金を入れてあります。
誰もが対応できるよう、経理部が自分たちの都合で置いた金庫でした。
金庫と言っても、千円札を20枚、つまり2万円だけを入れてあります。
その時、彼女は、金庫から、千円札を1枚だけを抜き取り、素早く小さくたたみ、スカートのポケットに入れたのです。
直美さんから、もちろん私は見えません。
私は、声を掛けようと思いましたが、あまりの光景に声も無く、そのまま、静かに、総務部を出ました。
果たして、その日もまた直美さん以外の、総務部全員が残業になりました。
2日後の昼休みに、私は直美さんを、普段は人の来ない倉庫2階の休息室に誘いました。直美さんは、ニコニコしながら、私についてきました。
いつもの女子休息室と違い、そこはまったく殺風景でした。いつ開けたかもわからないようなロッカーが並び、アルミの灰皿が乗ったスチールのデスクに、3つのパイプ椅子。
休息室とは、名ばかりの部屋です。
私は直美さんを、デスクではなく、窓辺に誘いました。
朝から雨が降っているせいか、部屋の空気も、湿気で澱んでいるようです。
私は、窓を大きく開けました。雨が吹き込むことはありませんが、少しは空気が入れ替わり、呼吸も楽になった気がしました。
私は、2日間悩んだことを、話すことにしました。とは言え、どう切り出せばいいか、迷っていました。まだ気持ちの中には、止めようかな、という思いもありました。
しかし、今を逃すと、二度と話せないような気もしていました。
私は、静かに話しました。
「・・直美さん・・あのね・・」
直美さんが、無邪気な顔をしています。。
「・・なに・・?」
「私ね・・」
私は、まだ迷っていました。自分が見たことを告げるべきかどうかを、です。
彼女に否定されれば、それまでです。証拠は、私の見たことだけですから。
少し強めの風が、吹き込んできました。直美さんは、目を細めました。
私は、言おうと決め、直美さんを見つめました。
彼女も、見つめ返してきます。
「直美さん・・カウンターの・・金庫から・・お金・・借りているよね・・」
私は、ギリギリのところで、言葉を絞り出すことが出来ました。
直美さんの目が、大きく見開かれました。
窓からの風が、直美さんの髪を、乱します。
私は、直美さんが口を開くまで黙っていようと思いました。
階下の外から、搬入のために入ってきたトラックを誘導する、倉庫スタッフの声が聞こえます。
「・・わたし・・」
直美さんが、目を伏せながら、両手で窓枠を押さえながら何か言おうとしましたが、あとが続きません。
窓枠を握ったまま、うつむいています。
「いいのよ、返しておけば・・私も、前に、お昼の出前のお金、借りたことあるしね・・」
これは、ウソです。カウンターの金庫に、一度も触った事さえありません。
その時に、その場で思いついたウソでした。
彼女が金庫からお金を取り出したのは2回だけだと思います。
千円札2枚ぐらいでしょう。
その程度のお金に、直美さんが困っているとは思えません。
もし、理由を考えるとすれば、素人考えですが女性特有のサイクルにあるのではないかと、私はそう思いました。
「・・私・・自分では・・どうしようもなくて・・」
「いいわよ、借りたお金なんだから、返しましょう・・」
直美さんが、窓枠を握っていた両手で、今度は私の手を握ってきました。
見開いた目に涙をためています。
直美さんは、私の手を握ったまま、何度も、何度もうなずきました。
握られた私の手の甲に、直美さんの涙が落ちました。
私は、手を振りほどき、上着のポケットからハンカチを取り出し、直美さんの手に握らせます。彼女はハンカチで、目を覆いました。
私は窓を閉め、彼女をパイプ椅子に誘います。椅子の上を軽く手で払い、直美さんを座らせました。
私も、パイプ椅子を引き寄せ、彼女の隣に座りました。
直美さんが、口元にハンカチを当てたまま、口を開きます。
「・・自分では・・どうしようもないの・・病気なのね・・」
自嘲気味に、微笑みます。目元の化粧は崩れ、目は赤くなっています。
「・・ご主人は・・知っているの・・」
「・・こっちへ来る前に・・近所のスーパーでも・・その時に、主人に・・」
私は、このことは、誰にも言わずに置こうと決めました。カウンターの金庫の件は、必ず返金させようとも思いました。
なぜ、そんなに、直美さんの肩を持つのか・・ですか?
そうですね・・高校のときの同級生が、同じ「病気」でした。
でも、その子は誰にも理解されず、不良のレッテルだけが残りました。
親友でした。私だけが、「誤解だから」と、庇ったのです。
そのことがあったので、直美さんも庇ってあげようとしました。
それから直美さんがパート契約を終えるまで、二度と、金庫からお金が紛失することはありませんでした。もちろん彼女は、「返金」しています。
総務の人たち、特に金銭を扱う経理の人には、今でも申し訳なかったと思っています。私が、真実を握りつぶしたのですから。
えっ、いつ直美さんと?
そうでしたね、私のビアン歴の話、でしたね。
この件が有って以来、直美さんと、私はもっと仲良くなりました。直美さんは年上でしたが、私に対し年下のように慕ってくれました。
直美さんの悩みや家庭事情なども話してくれました。
相談というよりも、愚痴を聞いてあげる仲でした。
ある時、その日は土曜日だったのですが、倉庫の整理にかりだされて、午前中だけ勤務しました。
前日から、直美さんと明日の昼食は一緒に食べようと相談をしていました。
それは、少し離れたところにある有名な蕎麦屋さんで昼食を摂る計画です。
そのために、私は、ふだん母親が乗っている軽自動車で出勤しました。
倉庫の整理は予定よりも早く終わり、私と直美さんは、11時に会社を出ることが出来ました。その蕎麦屋さんまで、クルマで約30分かかります。
紅葉にはまだ早い時期でしたが、街から遠くに望む山々は、少しづつ色づいていました。
クルマの窓を半分ほど開け、ヒンヤリとした冷気を取り入れます。
助手席に座っている直美さんは、倉庫の整理という仕事のためか、いつもよりラフな格好でした。
それは、私も同じでした。ジーンズにスニーカーは、同じですが、私は上にデニムのジャケットを着ていました。
直美さんは、濃いブルーのフード付きトレーナーです。胸に大きな文字で、「OLD NAVY」 と染め抜かれています。
お昼前に着いたので、お店は半分ほどのお客さんで埋まっていました。
ほとんどが地元のお客さんです。
私たちは、窓際の席に案内されました。
お店の中庭を見下ろす位置にあるテーブル席です。
私は、地元の自然薯を使った、薯蕷蕎麦。
直美さんは、山菜の天ぷらの付いたざるそばを、注文しました。
お店は人気店らしく、私たちが食べ終える頃には、入口にお客さんが待つほどの盛況ぶりでした。
「美味しかった・・早めに着いてよかったね・・」と、直美さん。
「ほんとね・・」と、私。
私たちは、ここまでに来る途中に見つけた山小屋風の喫茶店に寄ることにしました。お店から道を下って10分ぐらいの距離です。
太い木材を組み合わせたログハウスの喫茶店には、お客さんはいませんでした。再び、大きな一枚板のテーブルを間に差し向かいで座ります。
コーヒーカップを前に、日本蕎麦以外の、お店をいろいろあげて、次回の楽しみを話していました。
ふと、会話が途切れた時に、直美さんが、じっと私を見つめていることに気がつきました。私は、コーヒーカップに手を伸ばしながら、見つめ返します。
直美さんが、視線を外し、コーヒーカップに手を添えます。
「・・麻紀ちゃん・・聞いていいかな・・?」
「えっ、何、急にかしこまって・・」
「麻紀ちゃん、女性の恋愛って、どう思う・・」
私は、コーヒーカップを持つ手が空中で止まりました。
それから、ゆっくりとカップをテーブルに戻しました。
「女性の恋愛・・?女性が恋愛すること・・?」
「あっ、ごめんなさいね・・女性が、女性に恋すること・・」
私の頭は、フル回転をしました。
この質問は、引っかけなのか?それとも、からかっているのか?
それとも、無邪気な、質問なのだろうか?
最も大きな疑問は、『直美さんはレズビアン?』、でした。
レズビアンか、ストレートかで、会話の展開は変わります。
私は、とりあえず、黙り込み、怪訝な表情をうかべてみることにしました。
「・・つまりね・・私のことなんだけど・・」と、直美さん。
「・・ええ・・」
「・・私ね・・というより、私と主人のことなんだけど・・ダメなのよね・・」
「ダメ・・というのは・・?」
「もう、終わっているのかもしれないかな・・」
テーブルには、明るい日差しが差し込み、ふたつのカップの影がくっきりとでています。
その時、店内のBGMに初めて気がつきました。
イーグルスの「Hotel California」が、流れていました。
そういえば、喫茶店の名前と山小屋風のデザインにギャップを感じていました。
看板の文字は、「うぇすと・こーすと」、しかも、凝ったひらがな文字です。
「終わっているって・・?」
私は、どう話しを続ければいいのか、戸惑っていました。
女性同士の恋愛と、直美さん夫婦の破綻が、どこで結びつくのか、よくわからなかったからです。
「・・さっきの・・女性が女性に恋する話と、その、お二人の仲が・・」
私は、言葉が続きません。
「・・ごめんなさい・・はっきり言わないと、わからないよね・・」
直美さんは、私の目をまっすぐに見つめます。
私は、黙ってうなずきました。
直美さんが、コーヒーカップを両手で包みながら話しを続けます。
「・・ウチの人がね・・その・・別れてくれないかって・・私に・・」
「直美さんと、離婚したいってこと・・?」
「そう、なるわね・・別れるってことは・・」
「その・・なぜ、ご主人は・・そう言うの・・直美さんと別れたいって・・?」
仮に直美さんがレズビアンと想定した場合。
彼女が、ある女性に恋をして、それをご主人に知られたと想像します。
私自身は、女性同士の恋愛に、違和感も嫌悪感も無いので、直美さんの考えに100パーセント、理解と支持をすることができます。
でもその場合、不思議なのは、直美さんの性的な志向を、この時まで見抜けなかったことです。
私も、ビアンとしての自負がありますから、毎日のようにお昼ご飯を食べている仲なら、その特別な志向を見落とすことなど、無いと思っていました。
しかし、直美さんが続けた話は、私の想像を、超えていました。
「ウチの人・・ゲイなの・・」
「ゲイ!?」
私は、思わず声を上げてしまいました。直美さんが、うなずきます。
「・・でも、さっき、直美さんが女性と恋愛しているって・・」
直美さんが驚いた顔で、私を見つめます。しばらく、黙ったままです。
やっと、私の言葉を理解したようです。
「ごめんなさい、私の話し方が、ややこしいよね・・」
『そうね、とってもややこしいわね』と、心の中で返事しました。
「・・ウウン・・大丈夫です・・」
「ありがとう。つまり・・主人から、自分はゲイだって言われた時に、その、ゲイ・・というか、つまり、同性を好きになる気持ちが・・」
「・・同性になる気持ちが・・理解できない・・ですか?」と、私が話を引き継ぎます。
「・・私には・・でも・・」
「でも、なに?」
「まったく、知らないってことでも、無いのよね・・」
「どういうこと?」
「主人にそう言われたから・・あっ、言われたのは、3ヶ月前だけど・・」
直美さんの「金庫事件」と、同じ頃だと、私は思いました。
直美さんが、話を続けます。
「主人に言われたから、私も、実は思い当たることがあるの・・」
「思い当たることが、直美さんに・・?」
「うん・・私、女子校、女子大だった・・」
学歴の話は、初めて聞きました。
「その、学生の頃、とても仲の良かった友達がいて、何となく、自分では恋愛関係だと思っていたの・・」
「だから、何となく、同性を好きになる気持ちも理解できるって、ことですか?」
「・・そうね・・何となく、だけど・・」
「ご主人は・・なぜ・・あなたと、結婚したの・・?」
ゲイの男性が、ストレートの女性と結婚する理由を知りたいと思いました。
「・・たぶん・・何となく・・だと思う・・」
『何となく』恋をして、『何となく』好きな人が出来て。『何となく』別れる。
宇崎竜童の歌に『知らず知らずのうちに』という曲がありますが、直美さんの話と、似ているような、似ていないような。
知りませんか?
ダウンタウンブギウギバンドの曲です。バラード・・ですね。
私は、バラードが好きなんです。
すみません、直美さんのお話ですね、続けましょう。
「じゃあ、離婚するの・・?」と、私。
「・・そうしようかな・・」と、直美さん。
私は、あっさりとした直美さんの返事に驚きました。
同時に、この話を私にする理由が、ますますわからなくなりました。
最初の話は、『女性同士の恋愛』でしたから。
「・・直美さんは、離婚してどうするの・・?」
「・・私?」
「そう。ご主人は、その、ゲイの道を進む訳ですよね」
「ゲイの道・・ね」
直美さんが、微笑みます。どこか、人ごとのような、微笑みです。
「・・私も、じゃぁ、レズロードを・・」
私も、つられて微笑んでしまいました。
「・・レズビアンに、邁進するわけね・・」
冗談めかして言いましたけど、私の動悸は少し早まっていました。
初めて出逢ってから、直美さんをビアンの目で見ていたわけではありませんが、いざ現実的な目で、つまり、ビアンの視線で見ると、彼女の印象もずいぶん変わります。
もちろん、好意的な印象です。
私より3歳年上ですが、既婚者の持つ「色気」を持っていました。
既婚者の「色気」、ですか?
それは、どんな「色気」なのか、ですか?
そうですね、これも私だけの感覚かも知れません。
人妻は日常的に性的な刺激を受けたり与えたりしていると思います。
つまり、日常的に性的モードに、スイッチが入っている、と思います。
その日常的な性的モードを、私は「色気」と感じるのです。
「人妻」という言葉にも、性的な響きを感じます。
「人妻の色気」と言った方がわかりやすいですか?
「・・でも、レズビアンに邁進するほど、経験もないから・・」と、直美さん。
私は驚きました。
《レズビアンに、邁進するわけね》の言葉には
『そんな事無いですよ』と、
直美さんの否定を、予想していました。
ところが、直美さんの言葉は、肯定的な言葉でした。
私は直美さんの気持ちを探るように訊ねました。
「・・直美さんは・・レズビアンを、経験してみたい・・ってこと?」
「・・うん、経験したい。学生のような、軽いものではなく、大人として、してね」
「大人のレズビアンを、経験したいと、思っているんだ?」
直美さんは、大きく頷きました。
えっ、願ったり叶ったり、ですか?
私と、直美さんが、ですか?
違いますね。
というのは、この時、直美さんは私をストレートだと思うから、レズビアンのことに触れていたと思います。
ありませんか?
相手にまったく無関係だからこそ、本音を言ってしまう。
興味はなかったのか、ですか?
私が、直美さんにビアンとしての興味?
いいえ、興味はありました。
「色気」を感じていましたから、直美さんに対して。
直美さんとの会話は、ここで途切れました。
喫茶店で、コーヒーを飲みながら、口説くということは、ありえません。
ところが、帰り道のことでした。
直美さんが、誘ってきたのです。
ええ、そう言いましたよ、直美さんほうからが、私を誘ってきたのです。
確かに、驚きですよね・・やっぱり出来過ぎ、ですか?
続けて、お話します。
助手席の直美さんが、話し始めました。
「・・麻紀ちゃんは、女性に興味ない? 確か、女子校から女子大だったよね」
「ええ、地元ですけど、女子校から、女子短大に・・」
「その頃、親しいというか・・親密な友人はいなかったの?」
「・・そうですね・・仲の良かった子は、いましたけど・・」
「私ね、けっこう言い寄られていた、のよ・・」
直美さんは、私を口説いていると思いました。
やはり、私をストレートだと思っています。
ひょっとしたら、今でも、そうかも知れません。
ホントの事を言わなかったのか、ですか?
私のセクシャリティを、ですか?
言いませんでした。
言いそびれたのかも知れません。
隠したいという気持ちは、無かったのですが。
直美さんは、さらに、具体的に話をしてきました。
「麻紀ちゃん、お付き合いをしている人、いないでしょ?」
聞きようによっては、とても失礼な話だと、思います。
この時、私のセクシャリティを、たとえ直美さんに都合のいい解釈としても言い当てたのは、やはり私よりも、レズビアンの感覚に長けていたのだと、思います。
「いませんけど・・でも、女の人とは・・」
私は、直美さんの誘いに乗ることにしました。
ある程度、経験をにおわせ、レズビアンを拒否してはいない、と。
私は、クルマを運転しながらでは、話に集中できないと思い、途中の公園の駐車場に停め、エンジンを切りました。
土曜日の午後ですが、駐車場には私たちのクルマだけでした。
「・・一度だけ・・先輩に誘われて・・キスを・・」
「そう・・キスしたの・・されたんだ?」
私は助手席にカラダを向け、うなずきました。
直美さんは、両手を膝の上に置いて微笑んでいます。
そして、片手を上げて、顔にかかる髪をかき上げました。
直美さんの唇に塗られていた、赤いルージュが、とても綺麗でした。
『いつ、お化粧したのかな・・』
その唇を見つめながら、私は続けました。
「キスも、されましたけど・・先輩はそれ以上のことも・・・」
「それ以上のこと・・?」
直美さんが、助手席の上で座り直します。
そして、シートを後ろに下げて、足を組みました。
その時、遠くで稲妻が光り、少しだけ遅れて、雷鳴が聞こえました。
ふと、窓の外の空を見上げると、1時間前とは打って変わり、空が、濃い灰色に覆われ始めていました。
「ええ、キス以上のこと、です・・」
再び、稲妻と雷鳴がクルマを包みます。
明らかに、光と音の間隔が短くなっています。
直美さんが、ビクンとカラダを震わせました。
私も、少し震わせました。
さりげなく、直美さんが、手を差出してきました。
私もその手を握りました。
「近いね・・」
直美さんが、フロントガラス越しに空を見上げます。
フロントガラスに、大粒の雨滴が、バチバチバチと音を立てて当たります。
次の瞬間、すぐ近くに、落雷の響きがありました。
「ひっ」と言いながらうつむいて、直美さんが私の手を強く握ります。
私も、声こそ上げませんでしたが、直美さんの両手を、私も両手で握りました。
落雷と同時ぐらいに、さらに大粒の雨滴がクルマの屋根に叩き付けられました。
軽自動車のうすい屋根板では、車内で会話が出来ないほどです。
横殴りの雨がアスファルトの地面に、白く雨煙を立てていました。
直美さんが、さらにカラダを寄せてきます。
相当に怖がっている様子でした。
私は、両手を振りほどき、直美さんの背中を抱きしめます。
直美さんも、しがみついてきました。
屋根を叩く雨滴も、バチバチという音から、ザーッという音に変わりました。
幾分、雨脚も弱まったようです。
稲妻も、雷鳴も、過ぎ去ったようでした。
しかし、私たちは、クルマの仲で抱き合っていました。
先に唇を求めてきたのは、直美さんでした。
私も、すぐに応えました。
ルージュの味がしました。私たちは、深く激しいキスを繰り返しました。
激しい雷雨が、私たちの欲望に、火をつけたようです。
「・・私のウチに、来ない?」
直美さんが、かすれた声で私の耳元に囁きます。
「・・でも、ご主人が・・」
「大丈夫よ、月曜日まで帰って来ないわ・・出張よ。それに、土曜は絶対帰って来ないの・・ゲイの道を、楽しんでいるのよ」
私は、クルマを駐車場から出しました。
雨は、すっかり上がっています。
西の空から、青が増えて行きそうな模様です。
駐車場には、大きな水たまりが出来ていました。
そこを、水しぶきを上げ通り、道路に出て、直美さんの家へ向いました。
直美さんのマンションは、街を挟んでちょうど公園の反対側にありました。
6階建ての、この街では珍しい瀟洒なマンションでした。
1階に4部屋、2階から6階までは、各フロアに6部屋ありました。
直美さんの自宅は、3階の左端でした。
「ここは、子供がダメなのよ・・だから、静かといえば静かだけど・・」
「ご夫婦だけ、ですか・・?」
「いいえ、独身の人もいるみたいね・・」
3階のフロアにエレベータで昇ります。
エレベータを降りたところで、入れ違いに、他の住人が乗り込んできました。
40歳を超えたぐらいの女性でした。
直美さんが、軽く会釈をします。私も直美さんの後ろで頭を下げました。
直美さんが鍵を取り出し、ドアを開けます。
後に、私も続きました。
瀟洒な外観同様、室内も、かなりおしゃれな雰囲気でした。
モデルハウスとまでは行かなくとも、インテリアの趣味は、子供のいない大人らしい好みが反映されています。
直美さんは、居間へ案内せず、いきなり私を八畳の和室に引き入れました。
そこは、客間らしい部屋でしたが、和室らしからぬ洋風の家具が置かれています。
午後の日差しが障子の窓を通して、柔らかく、部屋全体を明るく見せています。
直美さんは、部屋の隅から座布団を取り上げ、私に座るように奨めます。
「・・家庭内別居・・ってことかな・・」
部屋を見回しながら、直美さんが言いました。
それから、立ち上がり、衣装タンスの引き出しから、バスタオルを取り出し、私に手渡します。
「先に、シャワーを浴びてくれる・・」
私は、立ち上がり、バスタオルを受け取り、うなずきました。
直美さんが、和室の向いにある浴室へ案内します。私の家よりも広い脱衣所に驚きました。壁一面の上半分が鏡です。
「この、籠使ってね・・」
「・・はい・・直美さんは・・?」
「ふふ、いいわよ、一緒に入ろうか・・?」
私が聞きたかったのは、
『直美さんは、離婚後も、ここに住むんですか』でしたが、まったく別の答えに、嬉しくなりました。
私は、大人の女性の裸が、とにかく好きでした。もちろん、今でも好きですよ。
なぜ、好きか、ですか?
前にお話した、高校生の時の「覗き」にも、驚かれていましたよね・・。
でも、好きです。大人の女性を、見たいのです。
え!? 母親ですか?
確かに、母親も、大人ですよね。
中学生のころ、自宅に母の妹さんがよく来ていました。
叔母さんですね。
母の実妹だから、こっちの「叔母」さんで、いいと思います。
当時、35歳ぐらいだったと思います。
今の私くらいだったと思います。
中学生の私には、十分な「大人の女性」でした。
その叔母さんが来ると、必ず、お風呂に一緒に入りたがりました。
中学生と言っても、まだ1年生の頃です。
母親、ですか?
そうですね、母親の存在は、大きいと思います。
いいえ、その存在ではなく、性的な意味での存在です。
私が自分のセクシャリティを自覚するようになった、きっかけのひとつかも知れません。親離れが出来ていない、だから、女好きになった・・では無いですよ。
そこは、はっきりしています。
どうでしょう、機会を改めませんか?
直美さんのお話が、一区切り着いたら、ちゃんとお話します。
そうしませんか?
それでは、直美さんとお風呂に一緒に入った話を続けます。
お風呂と言っても、シャワーを一緒に浴びて、互いにカラダを洗いました。
二人でカラダを、互いにアワだらけにして遊びました。
何故か、性的なことは、しなかったですね。
大学生の、卒業旅行のノリでした。
たぶん、気持ちのどこかで、照れていたのだと思います。
私は、もっと触れ合ったり、キスしたりするのかと思っていました。
シャワーを弾く、直美さんの肌は、とても綺麗でした。白く、きめ細やかです。
背中から、腰、そしてお尻の盛り上がりを、流れて行くシャワーの湯滴。
股間の淫毛は、私よりずっと薄く、柔らかな毛質です。
淫膣の筋が見えそうなくらいでした。
二人共に、バスタオルをカラダに巻き付けたまま、直美さんの部屋に戻りました。
直美さんは、その格好のまま、押し入れから布団を取り出し、枕とシーツも取り出しました。
二人で布団を敷き、真新しいシーツを張りました。
バスタオル姿で身を屈めると、直美さんの薄い淫毛の淫部が見えてしまいます。
それから、布団の上に、向かい合わせで座りました。上気した直美さんの顔がセクシーでした。私も、セクシーな顔をしているといいな、と思いました。
直美さんが、胸元で止めていた私のバスタオルを、外しました。
バスタオルの下は、もちろん全裸です。
私の乳首は、すでに硬く立っていました。
直美さんが、その乳首を、クニクニと指先で摘みました。
私も、直美さんのバスタオルを外しました。
直美さんの乳房が、再び現れました。
二人の乳房を比較すると、ひとサイズ以上、カップサイズに違いがありました。
私は、直美さんの大きく、豊かな乳房を下から持ち上げるように手で包みました。
直美さんが、私の肩に両手を置いて、顔を寄せてきました。
私は、両手を直美さんの背中に廻し、クルマの中でのキスのように、激しく求めました。直美さんも、私のキスに同様に応えます。
私は直美さんのカラダを、シーツの海に浮かべます。
直美さんは、溺れまいとするかのように私の肩に手を廻します。
互いの口、両手指で、相手のカラダを確かめるように愛撫し合いました。
乳房を揉み、乳首を吸い、キスを交わし、お尻や背中をさすります。
私の唾液に濡れ、直美さんの乳首も、硬くツンッとなっています。
言葉ではなく、息づかいと、うめき声と、短い叫びが、午後の和室の空気を、淫らに淫靡に、乱しました。
「アアァ・・・」
「アッン・・そこ・・」
濡れそぼっている淫部に、先に口を寄せて来たのは、直美さんでした。
私もカラダを横向きにし、頭と足を反転させ、直美さんの淫部を求めました。
私も直美さんも、太ももの間に顔を入れ、淫膣と淫核を口唇で舐めて吸いました。
直美さんは、その愛撫に、指を入れることを加えてきました。
私も、お返しにとばかりに直美さんの淫膣に指を入れ、同じように淫核を舐めながら、指で淫膣を弄ります。
私は、初めて、このスタイルで達しました。
直美さんも、腰を震わせて、同じように達しました。
この日が最初で、二回目は、私のクルマで、隣の街のラブホテルで楽しみました。
菊川直美さんとは、その2回のお付き合いでした。
直美さんが、引っ越して行ったからです。
離婚したかどうかは、わかりません。
今は、まったくの音信不通です。
GIRL MEETS A GIRL .3