自殺郵便

10日前、おれの家に届いたのは、一本の長いロープと椅子だった。
誰からだろう。
しかし、分からなかった。
9日前、おれの家に届いたのは、ビルの屋上と街を歩く人々だった。
人々は、せわしなく街を歩いている。
おれは屋上に立った。
そこから眺める景色は、特に良くも悪くもなかった。
8日前、おれの家に届いたのは、地平線程の長さの包丁だった。
包丁は、どこまでも続いている。
手で持てそうになかったので、そこに置いたまま放置した。
7日前、おれの家に届いたのは、紫色をした毒薬とペットボトルに入った水だった。
水は、透き通るように綺麗だった。
紫の毒薬は、紫キャベツにかけると見分けがつかなくなるので、そのまま捨ててしまった。
6日前、おれの家に届いたのは、カッターナイフとお湯の張ったお風呂だった。
ここ二年間ぐらい、風呂に入っていなかったので、久しぶりに入った。
体中がポカポカして、その日は眠れなかった。
5日前、おれの家に届いたのは、青い車と炭の入った七輪だった。
今は、赤い車を持っているから、車は必要ないなと思い、七輪に入れて燃やした。
4日前、おれの家に届いたのは、高速道路とその上を時速100キロで走るスポーツカーだった。
スポーツカーは、おれの前をものすごい速さで通過していった。
あんな車、いつか欲しいなと思ったので、赤い車を処分して、貯金を始めた。
3日前、おれの家に届いたのは、丸い形をした爆弾と起爆スイッチだった。
丸い爆弾は、ちょうどサッカーボールと同じ大きさだったので、近所に住む元サッカー選手とサッカーをして遊んだ。
そのとき元サッカー選手が、ボールをもらいたいというので、起爆スイッチと一緒にプレゼントした。
とても嬉しそうだった。
一昨日、おれの家に届いたのは、黒光りする拳銃とサイレンサーだった。
はじめて拳銃というのを持ってみたら、何だか犯罪者になったみたいで、興奮した。
その後、 サイレンサーをつけて、近所に住む元サッカー選手の犬を殺した。
昨日、おれの家に届いたのは、断崖絶壁と曇り空だった。
雨が降ってきそうだったので、傘をさした。
そしたら、風で傘が飛んでいって、崖の下に落ちてしまった。
取りに行くわけにもいかず、代わりに予備の傘をさした。
今日、おれの家に届いたのは、近所に住む元サッカー選手の家からの爆音と犬の死体だった。
犬の死体は、きちんとお墓を作って、埋葬してあげた。
爆音の方はというと、やはり近所迷惑になるので、傘をバット代わりにして、遠くに飛ばしてやった。
カキーン、ドオオオーン、と変な音がした。

自殺郵便

自殺郵便

10日間、家に届く様々なものの数々。そんな話。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-28

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