私のお仕事。

アイドルのお仕事を妄想しながら書いたSSになっております。
気楽に読んでいただけたら幸いです。

「わー、お久しぶりですぅ!」
 媚を売るような声を出しながらアイドルになりきった私はファンとの握手に応える。
 世間じゃ『握手が職業』なんて揶揄されてるけど、気にしない、気にしない。
「髪型変えたんですねぇ」
 自分のことをアピールするんじゃなくて、相手のことを覚えてて変化に気づいてあげることが大事。そっちの方が特別感がでるから。一種の疑似恋愛みたいなものなのかな、うーん、ファンの心理は良く分かんない。
 安くはないお金を払ってまで私なんかと握手して楽しいのだろうか、道ですれ違いざまに気付いてくれたらタダでいくらでも握手してあげるのに。
「新曲聞きましたよー、良かったです」
 なんてテンプレな言葉を聞いて、テンプレ通りにお礼の言葉。君君、ほめてくれるのは良いけどもうちょっと特徴つけてくれないと覚えられないぞ。
 私なんかはそんなに人気がある方でもないからわざわざ握手しに来てくれるのはほんの一部の熱狂的なファンの人だけだけど、人気のある先輩メンバーだったら一日に何万もの人と握手して、話して。そりゃパンクもするよね。
 何度めか分からないけど、今日だけでも何回も回って来てくれてる人の番だ。
「今日これで最後なんだー」
「ああ、そうなんですねぇ。残念です」
 うん、それは本心。この人は話題もそれなりに良いセンスしてるし、話すのは嫌いじゃない。
「また次のイベントも来るね、お疲れ様!」
「ありがとうございますっ、楽しみにしてますねぇ」
 ニコニコ手を振ってばいばい。
 もうそろそろ今日の仕事もお終いかな。

「……って感じ?」
「っはー……あんたもよくそんなオッサンとかブサメンと握手できるわねぇ」
 仕事の話を友達にすると、大体こんな反応をされてしまうよね。
 まあ実際面白くもなんともない人もたまにいるし、心ないことを言ってくる人もたまにいる。
 とはいえ、それを言うためにCD一枚かってくれてるのならその人だって立派なお客だ、謹んで受け止めようじゃないか。
「あたしはそんなの無理だわー」
「そう?慣れると気にならないよ、たまにカッコイイ人もいるし、カッコよくなくても話すの上手い人もいるし」

 歌番組の出演では「口パクグループ」だなんて言われたりして。まあ否定できないんだけどね、歌って踊れるなんて本当に才能のある一部の人じゃないと無理だっつーの。
 それでも私は歌うよ、世界平和を祈って。嘘、歌が好きなだけ。
 握手会だって嫌いじゃないし、水着のグラビアだって嫌いじゃないけど、もっと歌うお仕事欲しいなあ…実力が足りないのが悪いんだろうけど。
 もっと練習して、もっとうまくなったらお仕事増えるのかな。がんばるしかないのかな。
 人気も下降気味って言えばそうだし、まあ盛者必衰ってやつか。あれ、違う? 分かんないや。ま、いつまでも人気があり続けるなんて無理なんだろうけど、それでも私は歌っていたいわけで。

「今日まだまだ来るよー!」
「本当ですか? いつもありがとうございますっ」
 この人、本当によく来てくれてるよなぁ。同じCDなのに。売ってるのはこっちだけど、なんかちょっと申し訳なく感じたり。いやいやいやいや、だめだだめだ、私はプロ。この人はお客さん。買ってくれるなら何枚でも、って思わないと。
「新曲良かったよー」
 あら、またテンプレ通りで…と思ってたら。
「歌、上手くなってたね、次はソロパートもらえるといいね」
 なんて言ってくれて。
「ありがとうございます! はいっ、がんばります!」
 そんなこんなで、何だかんだこんな歌とは関係ない仕事でも私の活力になるのだ。
 批判されても、口パクって言われても、嫌いじゃないよ、私のお仕事。アイドル。

私のお仕事。

いかがだったでしょうか。
握手会、の時点で何を意識したかバレバレだったとは思いますが、もし楽しんで読んでいただけてたなら幸いです。

読者の方、ありがとうございました。
感想を教えていただけると幸いです。

私のお仕事。

アイドルの生活を妄想しながら書いてみました。 SSで短めなのでさらっと暇な時にでもお読みいただけたら光栄です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-12-02

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