ルパン三世~短編集~
追うものの心情
女子高生の甲高い笑い声、おじさん方の楽しそうな話し声、
絶妙な音のコントラストが飛び交う街に突如として空から手紙が降ってきた。
初めは少なく、徐々に多く。
その手紙はカラフルだった街を雪が降ったあとのような、そんな真っ白な風景に変えてしまった。
手紙を降らしていたのは、よくそんな色のスーツ見つけたなという感じの派手なスーツを着た男と、目を凝らさなければわからないほどの黒いスーツを着た男が乗る気球だった。
あんな服着こなせるやつは私が知っているなかで奴しかいない。
ひとつ、手紙を拾い上げ中を読んだ。
「本日午前0時きっかりに"龍の心臓"をいただきに 参ります。 ルパン三世」
独特のマークがかかれたそれは本日の犯行予告だった。
「とうとう来やがったなルパンめ。」
私は側に止めてあったパトカーに急いで乗り込み、龍の心臓が展示されている美術館へと向かった。
午前0時まであと4時間。その間に館長と話をつけ、警備体制を万全にしておかなければ。
そう冷静に考えを巡らせる裏腹、わくわくにも似た複雑な感情が私の心を支配しようとしていた。
この日が来るのを3年も待っていたのだ。興奮するのも仕方があるまい。
ルパン三世を捕まえるその日が今日かも知れない。
そう考えることが何回もあった。しかし、奴は捕まらない。
捕まらないどころか私には奴の本性がさっぱり分からない。
でも、私はルパンを、ルパンは私を、敵ながらに信頼し、時には助け合ってきた。
こんな形で会っていなければ彼と私は親友とも呼べる、そんな存在になっていたであろう。
そろそろ午前0時だ。もうすぐ奴が現れる。
何処から現れるか分からない奴を今回こそ捕まえる。
自然と頬が緩んだ。
次の瞬間、会場の電気がすべて消えた。
「ルパンだ!ルパンが現れたぞ!」
電気はすぐについたが肝心の龍の心臓がなくなっている。
「何処だ?!何処にいるんだルパァン!!」
「とぉっつあん、ひっさしぶりだなぁ。確かに龍の心臓はいただいたぜぇ!んじゃぁ、まったなぁ~♪」
窓から聞こえたその声は3年前と変わらない、懐かしい声だった。
「ルパァァァァァァァン!! 待てぇぇぇぇぇ!!おい!何をボーッとしとるんだ?!
早くルパンを追ぇぇぇぇぇい!!」
「はっ!!」
こうしてまた、私と彼との長くにわたる鬼ごっこが再開された。
追われるものの感情
今回狙っているお宝は盗るのは簡単だが、そのあとが大変だ。
そいつを狙っている奴等は大勢いるだろうし、何よりとぉっつあんも黙ってはいないだろう。
しかし売られた喧嘩は買わないわけにはいかない。
そう、今回狙うお宝のもとには先日俺からの手紙が届いたそうだ。
もちろん、俺はなにもしちゃぁいない。
「これはきっと罠だぞルパン。どうしてもやるのか?」
何度も何度も次元は聞いてきた。次元は少し心配性なんだよなぁ。
聞かれるたびに幾度もいった。
「俺は天下一の大泥棒、ルパァン三世なんだぜ?売られた喧嘩は買わないわけにはいかないでしょうよ。お前は知ってるはずだぜ?」
この言葉を聞くと次元は拗ねるか呆れるか怒る。それほど心配しているわけだな。
もっと信頼してくれてもいいんじゃないの?だって俺はルパン三世なんだぜ?
なんだかんだ言いながらも協力してくれる次元には感謝してる。
今回ばらまいた手紙の印刷も手伝ってくれた。
なんて、考えているうちに美術館の屋上に着いた。
さて、今日はとぉっつあんはいるかな?
ルケットモンスター~ポ〇モン・RPG風味~
「やぁ、諸君。元気にしておったかね?今日はこのルケットモンスターの世界に君を招待しよう!」
突然と始まるシナリオ。軽快なBGM、そして何より目の前にいる見たことのある老人。
「ところで君は男の子かな?女の子かな?」
見たらわかるはずなのに必ず聞かれるこの質問。
そう、ここはポ〇ットモンスターならぬ、ルケットモンスターの世界。
「君の名前はなにかね?」
俺は迷わず、"ルパン"と入力する。
「君の幼なじみのえぇと、名前はなんじゃったかのぉ?」
目の前で名前を忘れていることをカミングアウトされた幼なじみ可哀想。と感じつつ、"ぜにがた"と書き入れる。
「おぉ、そうじゃった、そうじゃった、名前は"ぜにがた"じゃったのう。では、この三つのルケットボールの中から好きなものをひとつだけえらぶんじゃ!」
ボールは全部で三つ。ひとつめには悪タイプの"次元 大介"、ふたつめには鋼タイプの"石川 五ェ門"、そしてみっつめはノーマルタイプの"峰 不二子"。
「俺様はやぁっぱりふ~じこちゃんかなぁ♪」
するとライバル"ぜにがた"は
「お前がそいつにするなら俺はこいつだ!!」
"次元 大介"をえらんだ。
「二人とも選び終わったかのぉ。それじゃあこいつも渡しておこう。」
ルパンはルケモン図鑑をてにいれた!
まぁ、こんな感じで話は進んでいき、ついに四天王を倒し、チャンピオンの前までやって来た。
「ついにチャンピオンのところまで来たかぁ。そういえばポ〇モンのチャンピオンって・・・。まさか・・・・。」
嫌な予感が頭の片隅に流れ込む。まぁ、ゲームの世界だし、そうあせることもないのだが。
案の定そこに待ち構えていたのは「ルパァン!!逮捕だぁ~!!!」
ぜにがただ。
「とぉつぁん!すごいなぁ、チャンピオンにもなれるのか。とぉつぁんって案外何でも出来るよなぁ。」
ここはルケモンの世界なのでこうしてしゃべっている間にもバトルは繰り広げられている。
"峰 不二子の誘惑!"
次元 大介には効果がないようだ。
「まぁ、次元にゃぁ効くわけないよなぁ。」
"次元 大介の挑発"
峰 不二子は攻撃力が上がった。
峰 不二子は混乱した!
"峰 不二子の壺で殴る!"
一撃必殺。効果は抜群だ!
次元 大介は倒れた。
ぜにがたにかった!賞金100,000円をもらった!
「わひゃぁ~。ようやく勝てたぁ。全く、こんなことなら最初から次元を選んどきゃよかったよ。」
調度プレイし終わったときに次元がアジトに戻ってきた。
「・・・?どうしたんだルパン。そんなじぃーっと俺をみて。何か付いてるか?」
「・・・いや、長年の友っていうのは大切にしなきゃなぁ、と思ってさ。」
「はっ、なにいってやがんだよルパン。そんなこと言ってんなら女癖の1つや2つ直した方が俺たちのためになるわ!」
青空の下、二人の泥棒が大きな声で笑いあっていた。
俺の美学
とある秋の夕暮れ。蜻蛉が飛び交うのどかな風景、そんな田舎の民家には2人の危ない人たちがいた。そう、超の上に6つ超がつく世界一の大泥棒ルパン三世と早打ちでは誰にも負けない次元大介だ。
「なぁ、ルパン。」
「ん?」
「今日の計画、中止にしないか?」
いきなりの相棒の発言に猿顔はポカンとしている。
「どったの?なんか調子でも悪いのか?」
「あぁ、なんだか嫌な予感がする。」
そう言う相棒の姿はなんだか老けたように見えた。
「ふぅん…でも予告状は出しちまってるから俺は行くぜ。」
「いや、今日は行かない方がいい。」
強い口調で次元は言った。
「そんなこと言ったってよぉ。俺にだって都合ってもんがあるの。分かる?次元ちゃん。」
「どうしても行くのか?」
扉の方へ向かった俺の前に相棒は立ちはだかる。
「あぁ。予告状を出したからには時間通りに盗まなきゃ、俺の美学に反するの。
それぐらい分かってるだろ?それとも、俺をどうしても行かせたくない理由でもあるわけ?」
「あるさ。お前が狙っている"メフィストの泪"には良くない噂がある。」
「そんなもんはとっっっくのとうに知ってるさ。」
ルパンはおちゃらけたように言った。
「だからこそやりがいがあるってもんよ。どうしても嫌だってんなら…。」
サッとスプレー缶を取りだし次元にプシューっと吹きかける。
「くっ…ルパンっ…。」
「ごめんな、相棒。」
崩れ落ちる黒いスーツに背を向け、赤ジャケットは歩きだす。
例えそれが危険な仕事だとしても
「行かなきゃならんものがあるでしょう。男には…。」
未熟者
空から結晶がしんしんと降る山奥に一見侍にも見える若者がいた。こんなところにいるなんて思っても見なかったわしは興味もあってそいつに話しかけてみた。
「おぬし、何用でこんな山中においでなすったのかね?」
「身と心を清め、己の精神を鍛えうる為です。あなた様こそどうしてこんな山奥に?」
「…わしのことを知っての詮索かのう?石川 五エ門殿。」
「拙者の名をご存じで?!」
「おまえさんの袴に、ほれ、名前が書いてあるのでな、あってたかの?」
「…っ?!」
若者は驚いた顔で袴を掴み、そこに張ってあるふざけた字で`石川 五エ門´とかかれた紙を引きちぎった。
「では、あなた様のお名前を伺ってもよろしいか?」
「いいとも、わしゃ…」
名前を言おうとした刹那、凄まじい爆音が数m先で起こった。
「なっ、なんじゃなんじゃっ?!何事じゃっ!!」
「心配ご無用。これしきのこと、日常茶飯事。」
腰にさしている刀に若者は手をかけた。次の瞬間、何が起きたのかは定かではないが突然表れた男どもを斬り倒してしまった。
「見事な腕じゃな。」
「まだまだ未熟なもので…。」
「ほっほっほっ、そうじゃな。そろそろわしの正体に気付いてもいい頃じゃないか?なぁ、五エ門?」老人が発したと思われる声は途中から若い男の声に変わっていた。
「お、おぬし、ルパンじゃないか!!」
「ぬふふふふふ。まぁったく、五エ門ちゃんったら全然気づかないんだもん。」
老人は顔を引っ張ると中から猿顔が表れた。
「…で、一体何用でこんなところまで?」
「いやぁ、ちょこっと手伝ってほしい仕事があるのよ~協力してくれるよね?ね?」
「修行場にまでこられちゃ仕方あるまい。手伝おう。」
「たぁすかるよ、五エ門ちゃん。」
ひょうきんな顔でお礼をされても、まぁ、嬉しくはある。
「ところでおぬし、さっきなんて答えるつもりだったのだ?」
「あぁ、もちろん。」ルパァンさぁんせいって言うつもりだったのさ。
ガハハと大口を開けて笑う猿顔の横でなんでこんなやつと組んでるのだろうと悩んでいる若者が二人揃ってきゅっ、きゅっ、と足元を踏みしめながら山を下っていった。
ルパン三世~短編集~