桜が散る頃

4月の下旬。

すっかり桜も散ってしまった頃。あんなに堂々と咲き誇っていたのに、薄ピンクに色付いた花びらは、既に1枚も残っていない。

「ほんっともったいないよねえ…。」

「え?何が?」

一年中咲いていてくれれば、きっともっと皆から愛されて、持て囃されるはずの花なのに。そんな気持ちが、つい言葉となって飛び出した。

「…な、なんの話?」

「いやー、桜がさ。」

「桜?」

そう尋ねる彼の栗色の髪が、風によってふわりと靡いた。

「うん。散っちゃうの、何だかもったいないなあって。」

自分でも驚く程に、声がか細くなった。別にそんな、悲しいなんてそんなこと、ないのに。彼も彼で驚いたのか、元から大きな目を更に大きくさせてぱちぱちと忙しなく瞬かせていた。

「寂しい?」

「ううん。全然寂しくなんかないの。」

そう、寂しくは、ない。

「大丈夫だよ。」

「え?」

再び風に煽られる栗色から、目が離せなかった。彼は私の真っ黒い頭に薄っぺらい手を乗せて、くしゃりと撫でた。

「また、絶対きみに逢いに来てくれるんだから。」

優しく微笑む彼が、ぐにゃりと歪んだ。悲しくなんてないはずなのに、寂しくなんてないはずなのに。私の目からは、何故だか涙が溢れて止まらなかった。

桜が散る頃

桜が散る頃

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-24

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