林檎の芯と未知数

⒈かくれんぼ

子供の頃、かくれんぼをしました。
たっくんと、みなちゃんと、和くんと一緒にです。
私が鬼でした。
みんなには100数えたら顔をあげていいよ、といわれましたが、私はそれをやぶって、80までしか数えませんでした。
結局、私はすぐ、みんなを見つけてしまいました。
悪いことをしたな、と思いました。
それを今、横断歩道を渡っているときに思い出したので、私は道路の真ん中で、残りの20を数えました。
私が、1、0と数え終わって、目を開けてみると、信号は赤になっていて、横から走ってきたトラックに、私はひかれました。


⒉向き

上司に、向きが違うじゃないか、と怒鳴られた。
その度に僕は、180度回転させた首を、元に戻さなければならなかった。


⒊ブロック

夜の七時を少し過ぎた時刻。住宅街のある一軒家に、元気な声が響いた。
「パパ、おかえりー」
「ただいま、ユウタ。ほら、お土産持ってきたぞ」
「わーい、何だろう」
「あら、あなた、おかえりなさい。早かったわね」
「ああ、会議が思ったより早く終わってな。久々に早く帰れたから、ユウタにお土産を持ってきたんだ」
「何かしら、これ?」
と、帰宅した夫を迎えた妻は、夫の持ってきたお土産をみて首を傾げた。
それは、大きな袋に入っていて、その袋にはとあるおもちゃ屋のロゴがプリントされていた。
袋からおもちゃを出した子供が、歓声を上げた。
「わー、ブロックだー」
それには、今子供に人気のキャラクターがデザインされていた。
「あら、これ、ユウタが欲しがってたおもちゃでしょ。高かったんじゃない?」
「いや、いいんだ。こうして家族三人で、顔を合わせるのは久しぶりだからな。ユウタも寂しがってたらしいし、喜んでもらえてよかったよ」
「パパ、ありがとー」
可愛らしい笑顔でいった子供に、夫は微笑んだ。
「どういたしまして。大事に使えよ」
「うん」
子供はそういうと、ブロックを持って廊下をかけていった。行く先は子供部屋。彼は、いつもそこで遊んでいる。
それを見届けた後、夫は玄関で靴を脱ぎ、リビングへと向かった。リビングからは、先ほどから料理のいい香りがしてくる。
妻は、リビングに向かう途中、子供部屋を覗いた。子供はきゃっきゃと笑いながら、ブロックを転がして遊んでいた。
「おっ、今日はシチューか。美味そうだな」
リビングから夫の声が聞こえてきたので、妻は子供部屋を後にし、夫のため、料理を温め直した。


夜の八時を回った頃。夫は夕食を食べ終え、ソファーでテレビをみていた。妻は台所で皿を洗っている。平穏な時間だった。リビングには、テレビに出演しているタレントの声と、妻が皿を洗う音だけが響いている。子供は、さっきからずっと、子供部屋にいて、ブロックで遊んでいるらしい。笑い声が聞こえてきた。
「ユウタ、喜んでもらえて、良かったな」
突然、夫がいった。妻が、洗い物をしながら、答える。
「ええ、よっぽど、欲しかったんでしょうね。今まで、ずっと買ってやらなかったから、あなたからあのブロックを貰えたときは、飛び上がる程嬉しかったんじゃないかしら」
「ああ、そうだな。ここんとこ帰りが遅くてユウタとも、顔を合わせる時間がなかったけど、今日早く帰ることができて良かったよ」
「ええ、私も。今日は本当に良かった。ユウタのあんな笑顔みることができたの、久しぶりだったから」
「これからはできるだけ早く帰るようにするよ」
「ええ」
と、妻が最後の皿を洗い終えたとき、突如家全体に、子供の悲鳴が響き渡った。
「うわああああああああ!」
夫と妻は、それを聞きつけ、すぐに子供部屋に向かった。扉を開けると、子供が泡を吹いて倒れていた。みれば、子供が遊んでいたブロックが、親父顔をした赤ん坊に変わっていた。
「パパとママ、ぼく、ユウタだよ」
気色悪い声で、親父顔の赤ん坊はいった。そのとき、妻は言葉にならない悲鳴を上げ、
絶した。夫は、虚ろな眼差しで、ただそれをみつめていただけだったが、しばらくすると我に返り、親父顔の赤ん坊をボコボコに殴った。


⒋ありえない僕

「そもそも君がここに居ることはありえないわけで、その君がここに居るということは、つまり、そういうことなんだ」
「つまり、僕は死んだ?」
「うん、そうなんだ。君は死んだんだ。でもね、ここは死後の世界じゃないんだ。一体、どこだろう?」
「いや、知らないよ。それより早くここから抜け出すた方がいい気がするんだけど、何なんだろう?」
「知らないよ。そもそも君がここに居るということはありえないわけで、その君がここに居るということは、つまり、そういうことなんだ」
「つまり、僕は死んだ?」
「うん、そうなんだよ。でもここは死後の世界じゃないんだ。一体、どこだろう?」
「いや、知らないよ。それより早くここから抜け出した--」
「知らないよ。そもそも君がここに--」
「つまり、ぼ--」
「うん、そ--」
「いや、--」
「知ら--」
「」
「」


⒌神

神がいた。
髪の神だ。彼は、今日も床屋のハサミに乗り移り、髪を切っていくのだった。

林檎の芯と未知数

林檎の芯と未知数

掌編集第一弾。結局は、自己満足です。 それでも楽しんで頂ければ、幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-23

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