とある男の日常
心の中に芽生える感情は、恋なのか憎しみなのか。
あるいは殺人衝動か。
佐久間は一人暗い感情に支配され、苦しんでいた。
自分が相手に感じる感情がわからぬまま、そのまま時は過ぎ、佐久間は高校3年となったその少女の事も忘れかけていた頃…。
彼女は現れた。
数年前とはまるで違うその姿に、彼は固唾を飲んだ。
が、彼女は記憶がなく…
辛い過去を忘れたと泣きそうな表情をする彼女に戸惑いを覚えながら、佐久間は高校最後の一年を過ごす
第一章
佐久間は目覚ましの騒がしい音で目が覚めた。この目覚まし時計はやけに煩く、普段は寝起きのいい彼も眉間に皺をよせるほどだった。
時刻は午前7時15分。時間としてはいいのだが、なんせ寝起きがあまり宜しくない。
やっぱり買い替えようか…と思案しようとしたところで、ふいに着信音がなる。
「…はい?」
電話の相手を見ずに出てしまったが、こんな朝早くに、だれだ。
「貴方は、誰?電話番号が、昔のガラケーにはいってて」
「はぁ…俺の名前は佐久間っていいます」
そう言ったが、電話主黙ったままだ。数分たった後痺れを切らした佐久間は、イライラした口調で言い放った。
「黙られても、あんたが誰なのか分からないんだけど…名乗ってくれないかな」
時間も限られてるし、なんせ相手が分からないとなると更にイラつく。電話を切ってしまいたい気持ちになりながらも、我慢して次の言葉を待った。
「ごめんなさい。誰か分からなかった…です」
失礼します、とその声の主は通話を切った。
え。えええええええええええええ!?
危うく遅刻するところだった。危ない危ない。
ー学校ー
「おぉ、まろ今日は遅かったじゃねぇか?」
「変な電話のせいでな、呆気に取られてた」
「何にも動じないお前 がか。珍しい事もあるもんだ」
佐久間はそう言われ、ムッとする。
佐久間は別に、クールでもドライでもなんでもない。ただ少し、いやだいぶ相手に意見するというのが苦手なだけである。それをクールに取られてしまうとは意外だった。中学の時は皆幼かったのか、無視するという行為が目立って悩まされていたが、高校に入ってからはやけに絡んでくれているクラスのメンバーには感謝もしている。
「ムッとすんなよ、笑え笑え」
そう言ってクラスメイトは頬をむにむにと触ってくる。
はぁ…
自席で一息つくと、すぐ隣にある窓を見つめた。こんな憂鬱な気持ちなのに、空はこの気持ちを払拭するかのように、青い…
数年前、2人で青い空を見上げて笑ったな、と過去を想い出す。名前さえも曖昧だ。
過去に想いを馳せていると、チャイムが鳴った。もう5分近く経っていた。時間の流れが今日は速い気がする。
ガラガラと音を立てて入ってきた教師の後ろにいる女性に、目を奪われた。
唐突だった。
女子にしては幾分か身長が高く、体重も少なそうだ。腰あたりまで伸びている髪は、男子らが騒いでるほど綺麗だ…
「って、紫苑!?」
佐久間は突然椅子から立ち上がって、言葉を失った。周りが心配して手を振ったり呼びかけているが、全く反応がない。
「何でお前…死んだんじゃ…」
紫苑と言われた少女は、佐久間の方をみて、首を傾げた。
「私は確かに紫苑。けれど、貴方がなんで私の名前を知っているのかが分からない。貴方、名前は?」
そういえば、今朝の意味分からない電話の声と似ている。
「佐久間」
「あ、今日、通話に出た変な人も佐久間っていってた」
佐久間は、頭を抱えながら椅子に座り直した。
彼女の名前は、桜木 紫苑。佐久間が知っている、死んだ筈の彼女だった。
とある男の日常