おはなしの樹

おはなしの樹

すべてのおはなしの樹へ

おはなしがどこから生まれたか?気になりませんか?では、その話をしましょう

遠い遠い昔のはなし
まだ、樹が世界の大部分を覆っていたころのおはなしです。
世界にはさまざまな小さな生き物達と、さまざまな樹々が存在しておりました。
中でも世界の中心にある天高くそびえる大きな樹はいっとう美しく。家程もある金色の葉をつけ、巨大なルビーのごとき実をたわわに実らせていたとききます。その幹は一回りするのに一日はかかろうかというほどでしたが、朝露にぬれたその姿は実に美しく、まさにこの世の極楽であったと聴いています。その樹は、美しいだけでなく、大変な知恵ものでありました。そのため、多くの生き物や、樹々に尊ばれていたのです。

ある時、大きな樹は小さな生き物が石の道具で、他の生き物を殺そうとしているのを見つけました。
大きな樹は言いました。
「まてまて、何をしている?なぜ、石の道具で同じ生き物を殺そうとするのか?そんなくだらないことはやめなさい。」
小さな生き物は答えました。
「しかし、大きな樹よ。我々は飢えているのです。我々は生きる為に肉を食べなければいけません。それに、我々は生まれてくる時に、体の毛を忘れてきてしまいました。このままでは凍えて死んでしまいます。どうかこの鹿の肉と、毛皮を御与えください。」
樹はなるほど、確かに我々も生き物を食べて生きている、それにこの生き物はあまりにも寒そうだと思い、こう言いました。
「なるほど、たしかにお前の言う通りのようだ。しかし、無駄に生き物を殺してはいけないよ。」
小さく寒そうな生き物は「なぜですか?」と問いました。
大きな樹は、乱暴な樹が生き物や樹々を殺した後、自らの行いのせいで枯れ果ててしまった話や、そのせいで子を失った親うさぎの話などを言って聞かせました。
小さな生き物は目から雫をひとしきり垂らし、こう語りかけました。
「大きな樹よ、実にすばらしいお話でした。私は、我々の仲間にもこの話を伝えたい。しかし、その術がわかりません。」
大きな樹が考えていると、脇にいたリンゴの木が「私たちのように葉擦れでおしゃべりをすればいいわ」と答えました。
大きな樹はそれを聴いて、
「おお、では、こうしてはどうか。」
と小さく寒そうな生き物に言葉を授けました。
また、自分の枯れた枝をおろして、火をつける術を教えました。

小さく寒かった動物は、大きな樹を、そして樹々達を敬いました。また、それまで殺してきた他の生き物達にも敬意を払うようになりました。
樹々達や他の生き物達も、その小さく寒かった生き物に応えました。
特に樹々達は自分たちから多くを学び、純粋に敬うその動物達の姿勢を見て、自然と「我が子ら」「子ども達」と呼ぶようになりました。

「子ども達」は大きな樹を様々な呼び名で敬いました。
「世界樹」「黄金の樹」「王の樹」「父なる樹」・・・・
しかし、大きな樹がいっとう気に入った呼び名がありました。
「おはなしのき」
「我が子ら」のなかでも新しく生まれた、ちいさなちいさな命達が笑って、自分をそう呼ぶのです。
名前など必要としなかった大きな樹ですが、そう呼ばれる度に微笑むように優しく葉を揺らしました。
そして、その後は決まって、その大切な命達にこう呼びかけました。

「では、おはなしの樹がお前達におはなしをしてあげようね。聴いたらお前達の愛する者たちに伝えておくれ、樹々に、他の生き物達に、そして、我が子らに・・・。」

大きな樹は永い永い時間のなかで「我が子ら」に数多のおはなしをしました。それに応えるように、「子ども達」は樹を敬い、他の生物を尊び、大きな樹に感謝を捧げたのです。
大きな樹はこれまで味わった事の無い程、暖かく、満ち足りた気持ちでした。

ある日、急に世界が寒く、凍てつき始めました。
多くの樹々が枯れ、多くの生き物が死にました。大きな樹は「子ども達」だけは守ろうと、枝を落とし、実をつけ続けましたが、
とうとう、終わりがきました。

「我が子ら」が大きな幹に抱きついています。みな目から雫を落としていました。幾度も死を看取ってきた大きな樹は、「子ども達」が自らの死を悲しんでいることを感じました。そして、こう話しかけました。

「我が子らよ。愛しい子らよ。私が枯れ果てた後は、私の体を燃やしなさい。そして、忘れなさい。私はお前達のおかげで、まるで日の光にあたるように暖かな気持ちでいられたよ。しかし、お前達が悲しむ事は私も辛いのだ。せめて、忘れておくれ。」

「子ども達」の一人が言いました。
「それはできません。それはあまりにも残酷すぎる。どうか忘れさせないでください。」
大きな樹は枯れた枝から一つの雫を落として、言いました。
「大丈夫、お前達が私を忘れても、私がお前達にしたおはなしは無くならない。今度はおまえたちが、おはなしの樹になるのだよ。生きて、多くを見て、お前達の愛する者たちに伝えておくれ、樹々に、他の生き物達に、そして、我が子らに・・・。」

その言葉を最後に、大きな樹は枯れたのでした。
その後、子ども達がどうしたのかは定かではありません。

しかし、おはなしの樹は確かにあります。
私がこれから貴方がたに伝えるおはなしも、おはなしの樹から頂いたものなんですよ?
さてさて、今日はどんなおはなしにしましょうね?
アルコールランプのように輝くさそり座にある赤い星のおはなし?
遠い異国の姫が牛に化けた神にさらわれた時のおはなし?
それとも、木の根のやつが兎を転ばしたのを見て、一ヶ月近くもその場で待った男のおはなしにしましょうか?
どうぞごゆるりとお楽しみくださいね。
どれも、金色の葉の葉擦れのように楽しくて、真っ赤に熟した実のようにあまいものばかりですから・・・

おはなしの樹

何となく、ふっと湧いた話です。
自分の場合、詰めて書く事もあるのですが、お話はなんとなくふっとわきます。
そういう時の方がいいのは、やはりおはなしの樹が語りかけてくれたからなのでしょうか?

おはなしの樹

ずっと昔の話、世界には大きな樹がありました。その樹は多くの人に敬われていましたが、とある生き物と出会う事でこれまでになかった感情を知る事になります。そして、彼がその生き物達に多くの知恵と共に与えたのが、おはなしでした・・・ これはすべてのおはなしの始まりのおはなし

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-23

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND