現代の手紙
現代の寓話シリーズ、4作目
これが君に送る最初で最後の手紙になる。
元々交わる筈のない二つの時が、
偶然に四日間を共有し、そして、それぞれの日常に還る。ただそれだけの事なんだ。
君は、僕の言葉が記されたこの手紙を読み終えた時、四日間の出来事を全て忘れてしまうはずだ。四日間そのものが失われているのだから。
もう一度、その時の君にとっては初めて、手紙を見たならば、誰かの不気味なイタズラと思う。この手紙を捨ててしまうだろう。
しかし、君がストーカー的な行為、悪意のイタズラに免疫をもち、僕に興味を持ってくれる様な好奇心旺盛なパーソナリティーであった場合、この紙切れは君の傍に、落ち着けるかもしれない。
そして君は、いつの日か、ふとした拍子に四日間の記憶を、手紙の中に見出だす。勿論これは、君に言わせれば「いつもの戯言」だ。
過ごした期間は四日間だが、君の性格からみちびかれる行動くらいは、わかる程度に成長したつもりだ。
君は君自身を信じている。独善的とも言える程に。そっちの世界でも、見知らぬ手紙に惑わされる様な、曖昧な生き方はしていない筈だ。
では、なぜ僕はこの手紙を書いているのだろう。すべては終わってしまうのに。
もう11時を回った。
間に合うだろうか。まあ、配達人を信じよう。
じつは、あまり書くことはないんだ。君があんな壮絶な別れを演出してくれた後ではね。それに、愛や感謝の言葉なんて君には聞き慣れているだろうし。
でも、やはり一応書かして貰おう。
君と会えたこと、君が傍にいてくれたこと。それは僕の人生の宝だ。君の笑顔は、僕を人生の暗い淵から救いだしてくれた光だった。
例え、僕の存在が偽りであろうと、君がすべてを忘れてしまおうと、僕は君を想い続けている。
恥知らずだと言う君の顔が目に浮かぶ。まあ、自分でもそう思って赤面モノだけど、書いちゃったんだから仕方ない。
どうせ、忘れてしまうんだし。
階段を上る配達人の足音が近づいてくる。
手紙に書きたかった事が、ようやく思い付いたんだ。が、もう時間がない。
次、会うときに直接話すよ。
君がどんな反応をするか見たいから。
四日間、最期まで付き合ってくれて、ありがとう。
現代の手紙
彼は、もうどこにもいないだろう。世界は一新され、四日間は何気ない日常に差し替えられる。
しかし、あの日々の中に、彼は確かに其処にいた。たとえ手紙が捨てられていようとも。