曹操聖女伝
趣旨は封神演技を題材とした作品やPSPのJEANNE D'ARC等の様々な作品の様々な設定をパクリまくる事で、曹操が三国志演義内で行った悪行の数々を徹底的に美化していくのが目的です。
モッチーがどの作品のどの設定をパクったのかを探すのも良いかもしれません。
この作品はpixivにも投稿しています→http://www.pixiv.net/series.php?id=376409
この作品は暁にも投稿しています→http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~7949
曹操聖女伝第1章
時代は西暦二世紀頃。場所は中国。
一人の男性が寝ているまだ1歳の少女を見下ろしていた。少女は珍しく容姿をしていた。髪は金髪で、左手は指が常人の1.5倍の大きさの中指と薬指のみであった。恐らく、蟹の手と呼ばれ、山ほど苛められるだろう。
左手の2本指はともかく、金髪には理由があった。彼女の両親は中国人ではないのだ。
父親はローマの剣奴(円形闘技場コロセウムで民衆の娯楽のために真剣勝負を強制された奴隷。捕虜出身が多い)、母親はローマに滅ぼされた国家の末裔。二人は共にローマから逃げ、漢王朝の端にあるこの農村に拾われ、此処で用心棒の仕事をしながら暮らしていた。
男は残念そうに思いを口にした。
「嘆かわしい……折角奴らから守り抜いたこの地上界が……嘆かわしい……」
さて、一旦本題から離れ、この男とこの男が言う奴について語ろう。
その所以は紀元前18世紀頃まで遡る。
この頃の中国大陸は“邪凶”と呼ばれる異界の生物、俗に言う悪魔や魔物が跋扈し、不幸と混乱に導かれようとしていた。だが、それに敢然と立ち向かう者達がいた。
一方は“仙人”。
人里を離れて山中に住み、陰陽五行説を思想の背景とし、不老長寿等と言った様々な道術を会得した人間達。
もう一方は“妖怪”。
人以外の生物、あるいは無生物が長きに亘って月日の光を浴びて魔性を帯び、最終的に人の形を取れるようになった者。
両者とも、森羅万象の理を重んじ、自然の摂理を尊ぶ高貴な思想を持つが故に、自分の欲望の為に殺戮を繰り返し、破壊と悪行の限りを尽くす邪凶を許せないでいた。
そして、この男こと“通天教主”は、反邪凶派の仙人や妖怪をかき集めて邪凶に戦いを挑んだ。
人智を超えた者同士の戦いは熾烈を極めたが、仙人と妖怪が共同開発した道術兵器“宝貝”の出現により戦局は一気に仙人・妖怪連合有利となり、邪凶の最上位種である“魔王”は全て封印された。
この戦争は仙邪戦争と呼ばれ、仙人や妖怪に語り継がれていった。
その後、仙邪戦争で仙人に加担した妖怪達の総大将である通天教主は、西海九竜島にある洞府・碧遊宮を総本山とする道教の一派、截教の総帥として後輩仙人・後輩妖怪の育成に努めていた。だが……。
話を西暦二世紀頃の中国に戻そう。
邪凶不在によって平和になったと思われた地上界であったが、とてつもなく愚かな形で中国大陸は不幸と混乱に導かれようとしていた。
漢王朝の皇帝の親族である“外戚”と去勢した男性官僚である“宦官”の権力争いによって政治は腐敗してしまった。今までの中国大陸の歴史の様に、大義を重んじる地方領主が立てばまだ救いはあるのだが、出世用の賄賂の工面に没頭しており、正直期待出来ない。
貧民にとって政治腐敗は……冬の訪れである。その為、八つ当たりするかの如く、貧民の強盗化・山賊化が社会問題となっていた。
この混乱を好機と見たのか、仙邪戦争で戦死した魔王の内の3匹が……魔王の力を持ったまま人間に転生してしまったのだ。
このままでは、紀元前18世紀頃の邪凶の勢力がまだ強大だった頃の様な状態に……いや、ここまで地上界に暮らす人間が此処まで腐ったとなると……。
困り果てながら地上界を徘徊していた通天教主は、いつの間にかこの村に到着し、西暦二世紀頃の中国では珍しい姿の1歳の少女を発見する。
「この娘の左手の指は……強い善意と良心の表れか」
通天教主はふと思った。この者が地上界を統治すれば邪悪の付け入る隙が無くなるのではないかと。
思い立ったが吉日とばかりに碧遊宮に戻り、小さなビー玉の様な宝貝を産み出した。そして、その宝貝を少女に移植した。
4年後、通天教主に気に入られた少女が暮らす村に山賊が押し入った。
少女の父親は勇猛果敢に戦ったが、さすがの百戦錬磨も数の暴力が相手では分が最悪過ぎた。父親は敗れ去り、母親も娘を庇って死亡。このまま少女も殺されるかと思われたが、偶然通りかかった宦官の護衛隊によって山賊は駆逐された。
両親を失い途方にくれる少女を不憫に思った宦官は、この娘を養女として育てる事を決意する。
この宦官の名は“曹騰(字は季興)”。欲望に正直な他の宦官とは違い、慈悲深く礼節を重んずる名君と呼べる傑物である。
少女は曹騰の屋敷で生活する事になったが、元貧民である事、宦官の孫である事、やはり2本指の左手も悪質なイジメの原因になった。一度は自殺も考えたが、ある日、少女の耳に“天の声”が届くようになった。
「天下は乱れようとしており、当代一の才の持主でなければ救う事はできない。天下をよく安んずるのは君である」
それ以来、橋玄(字は公祖)の弟子となり読書によって智を磨き、狩猟で体を鍛え、いつか訪れるかもしれない激戦に備えた。
そして、少女は20歳のときに孝廉に推挙され、郎となった。長い髪を後ろで一つに束ね、落ち着いた物腰とどんな時でも凛々しく振る舞う姿から、男性は当然の事、女性からも憧れを抱かれる絶世の美少女に成長していたのだ。ただ、彼女の美には2つほど問題を抱えていた。
一つはやっぱり左手の指が2本しかない事。もう一つは肉体年齢。通天教主に埋め込まれたビー玉の様な宝貝の影響によって15歳で肉体年齢の加齢が完全にストップしてしまい、身体は非常に若く、またスタイルも良い。
少女が孝廉の郎となったと知った曹騰は、少女の男装時の愛称を与えた。
“曹操(字は孟徳)”
と。
洛陽北部尉に昇格していた曹操は、好き好んで外の見廻りの任に励んでいた。市中の人達の喜怒哀楽を、肌で感じ取れるからだ。
だが、聞こえてくるのは山賊の活動の活発化ばかりであった。
「上が腐れば下が苦しむ……これが醜い権力争いの末路か」
朝廷の腐敗に飽き飽きしていた曹操は、気晴らしに町の外に出る事にした。
静かな微風の音、草や木の生き生きとした匂い、動物の力強い姿。どれも醜い権力争いの震源地と化した大都市・洛陽では得られぬ者であった。
「こいつらを見ていると……権力が邪魔な足枷に見えてくるよ」
しかし、突然鳥達が大慌てで飛び去って行った。曹操も不穏な気配を感じてとある商人から買い取った輝く星のような七つの宝玉が埋め込まれた黄金の剣を正眼に構えた。
「おっ!?兄貴ー!すっげー凛々しい美女がいやすぜ!」
どうやら山賊の様だが、何故その程度で鳥達は大急ぎで逃げるのだ。
「何奴!」
野蛮な目つき、薄ら笑いを浮かべた口元。正に奪う事しか知らぬ下衆であろう。
だが、この者達もある意味醜い権力争いの震源地と化した大都市・洛陽の犠牲者だ。曹操は正直殺したくない。が、
「ん?どうした?何を騒いでる?」
山賊の頭の顔を見た途端、曹操から不殺の想いは消えた。
「どうやら化けの皮を剥いで欲しいようだな」
曹操は静かに深い大義の怒りを両目に宿しながら山賊の頭を睨み付ける。
「おや、立派なもんを持ってんじゃねえか」
「そりゃ金になりそうだな。おい、とっ捕まえろ!」
曹操は一歩も後退する事無く余裕の表情を見せ、
「ほう、抜くか?抜くと言う事は……斬られても文句は言えないぞ!」
そんな曹操を山賊が嘲笑う。
「斬られても文句が言えないだと……そんな玩具の剣で何が出来る!」
「しかも見ろよ、あの女の左手……まるで蠍だぜ!」
「こりゃいい。蠍手の女……受けるぜぇ!」
先に仕掛けたのは山賊の方だった。だが、曹操が持つ装飾品の様な剣を侮った報いを早々と受ける事になった。
この剣こそ……通天教主が人間の商人に化けた弟子を介して曹操に与えた宝貝である。
その名は七星剣。使用者を剣術の達人に変え、使い手の思い次第で切れ味を自在に変えることが出来、峰打ちから岩まで何でも切ることができる。
曹操は迫り来る山賊を鮮やかに叩きのめしていく。
「お前達に用は無い。私はお前達の親玉に用がある」
呼ばれた山賊の頭の頭が不満な顔をした。
「嬢ちゃん……俺を嘗めてんのか?」
曹操は鼻で笑った。
「ふっ、化けの皮を剥がされてもその様な事が……言えるか!?」
曹操の七星剣の光線を浴びた山賊の頭の後頭部から“もう1本の腕”がニューと伸びた。
「うわー!化け物だー!」
頭のもう1本の腕を見た山賊達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ去った。鳥達が大慌てで飛び去ったのも山賊の頭の邪凶としての気配に気付いたからであろうか。
「おのれー……この馬元様の最後の切り札を見抜きおったなぁー」
馬元は怒っていた。そして、少し……焦っていた。
曹操は冷静な態度を崩さない。
「まあ……中凶と言った所か……」
仙人や妖怪は邪凶を小凶・中凶・大凶・魔王と分類している。
小凶は能力が低く退治する事も容易な為さほど危険視されないが、中凶以上は能力が高く、大凶に至っては中凶以下の邪凶を束ねる事が出来、更に魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る為に危険視されている。
馬元は曹操の評価に耳を貸さず、第三の手で曹操を攻撃した。だが、馬元自慢の第三の手が曹操に触れようとした瞬間、余りの熱さに反射的に離れた。
「熱!何なんだ貴様は!」
これも七星剣の能力の一つだ。邪悪を制圧し、その力を封じ生命力を損なう結界を作る。
その七星剣で斬られた馬元は七転八倒。大げさに見えるくらいもがき苦しみ始めた。
「ギャァーーーーー!」
曹操はそんな馬元に強い口調で質問した。
「何故だ……何故邪凶が山賊を操らねばならぬ!」
観念した馬元がこう答えた。
「俺は……もっと人間を不安にしなきゃいけなかったのに……もっと不安がらせねば……」
「不安?」
「張角様ーーーーー!」
黒幕と思われる者の名を口にしながら消滅した馬元。
「ちょうかく?そやつが人間に転生した魔王の内の1匹か?」
天の声から魔王の事は聞いていたが、まさか本当とは思わなかった。
「やはりこの世の乱れが邪凶復活を促進している様だ」
曹操は世界を平和に導くための決意を更に強めた。
曹操は頓丘県令に昇進していた。
だが、これは栄転と言う名の追放と言った方が正しい。
事の発端は、馬元を倒し人間に転生した魔王の1人・張角の暗躍を知った事で改めて政治改革の必要性を知った事に在った。
それが宦官や外戚を敵に回す行為だと感じた曹家の親戚が彼女を諌めようとしたが、
「このままでは国は滅びる!今、政治改革を行わなければ、漢王朝は内部から崩壊します!」
その一点張りで、違反者に対して厳しく取り締まる事を止めなかった。そして……洛陽北部尉任期中に、霊帝に寵愛されていた宦官蹇碩の叔父が門の夜間通行の禁令を犯したので、曹操は彼を捕らえて即座に打ち殺した。
曹操を疎んじた宦官などは追放を画策するも理由が見つからず、逆に推挙して県令に栄転させることによって洛陽から遠ざけた。
頓丘で燻る事になった曹操だが、懲りずに民衆の為の政治改革と邪凶捜索の為の見回りを続けていた。
「まあ、正直腐った寄生虫の目を気にしなくて済むのはありがたい」
そんな曹操の許に不穏な報告が入って来た。頓丘内の町や村で山賊が横行しているのだ。
(馬元の一件もある。私も討伐隊に加わった方が良いな)
現場に到着すると、突然、1台の馬車が近付いて来た。荷台の上には野蛮そうな男がわめいていた。
「貴様だなー!馬元をフルボッコにした蠍手の女は!?」
曹操が気にしている2本指の左手を惜しげも無く突っ込む心無き男に、曹操のこめかみが、ヒクヒクと震えた。
「貴様……何者だ……?」
「俺の名は鵜文化!てめーがフルボッコにした馬元とは一味違うぜー!」
「どう違うのだ?どちらも殺して奪う事しか知らぬ乱暴者ではないか」
曹操の挑発に鵜文化はあえて乗った。
が、目の錯覚か、それとも遠近法の悪戯か、荷台の上から飛び降りた鵜文化の大きさが明らかに変わった。
「ん?さっきと違わないか?さっきと大きさが―――」
鵜文化が邪な薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「ならば……もっと大きくなってやろうか?」
突然、鵜文化が巨大化し身長12mの大男になった。
「がっあーははははは!どうだ!俺の特技偶人変化の味は!?光る巨人に変化し、相手を踏み潰すのだぁー!」
鵜文化が自分の妖術を自慢していると、突然悪童の様な声が響いた。
「馬鹿かてめぇは?的が大きければ、こちらの武器は当たりやすくなるのが道理だぜ!」
鵜文化が自分の妖術を馬鹿にされ激怒していた。
「何処にいる!出て来い!」
すると、蓮の花や葉の形の衣服を身に着け、一対の車輪に乗って空を飛ぶ美少女がやって来た。
「俺の名は哪吒。闡教に属する仙人だ!」
「仙人だとー!俺達から自由を奪った口煩い潔癖症共の仲間かー!小娘ー!」
鵜文化の言葉に哪吒は大激怒。
「俺は男だ!こんなに醜い女が何処の世界に居るー!」
鵜文化と哪吒の口喧嘩が激しさを増す中、額に縦長の第3の眼を持ち、鎧をつけた美青年が曹操に近付き、曹操に膝を屈した。
「私は顕聖二郎真君。闡教に属する仙人であり、截教の総帥・通天教主の命により、哪吒と共に貴方様の天下統一を手伝いに来ました」
二郎真君の言葉に鵜文化が敏感に反応した。
「通天教主だとぉー!あの裏切り者めぇー!またしても口煩い潔癖症共に加担するかぁー!」
曹操はただこう述べた。
「私は只……民衆を救いたいだけだ!政治腐敗から!邪凶から!」
それを聞いた二郎真君は確信した。曹操こそ天下人に成るべき英雄であると。
「コラー!俺を無視するなー!」
「こんなデカい中凶が暴れたら近隣住民に迷惑だ……倒すぞ!」
曹操の命を受けた哪吒と二郎真君が鵜文化に襲い掛かる。
「ふん!俺の偶人変化に勝てるものか!捻り潰してくれるわ!」
が、威勢が良いのは言葉だけで、曹操、哪吒、二郎真君に完全に翻弄された。
先ずはナタクが火炎放射器としても使える槍・火尖鎗を鵜文化の鼻の孔に突き刺した。
「熱いぃーーーーー!」
二郎真君の左手から飛び出した狼が鵜文化の左足のアキレス腱を噛み千切り、その間に二郎真君が先が3つに分かれた槍で鵜文化の右足のアキレス腱を穴だらけにする。
「ぎゃぁーーーーー!」
そして曹操が常人離れした跳躍力で鵜文化の心臓に七星剣を突き刺した。
「がはぁーーーーー!張角様ぁーーーーー!」
まるでガラス窓が砕け散る様に滅び去る鵜文化であった。
哪吒と二郎真君が改めて自己紹介をした。
「俺は闡教に属する仙人の哪吒だ!よろしく頼むぜ!」
「私は闡教に属する仙人の顕聖二郎真君です。変化の術を得意としておりますので遠慮無く扱き使ってください」
曹操は首を横に振りながら、
「顕聖殿……それは違いますぞ!」
曹操の言葉に二郎真君が少々困り果てる。
「何故です!?」
曹操は研ぎ澄まされた瞳で二郎真君を射抜き、諭すように言葉を投げ掛けた。
「私達は同志だ!民衆を助け邪凶から漢王朝を護る同志なのだ!」
二郎真君が少々驚きながら言い放つ。
「驚いた方だ!近付いて来た仙人の力を私利私欲では無く他者の為に使うとは」
「この時代の人間にしては珍しいよねー♪」
急に照れくさくなる曹操。
「そ、そうなのか!?私は人の上に立つ者として当然の事を言ったまでだぞ!?」
「だが、その当然の事が出来ぬ政治家がこの地に君臨しておるのが実情で御座います」
それを聞いた曹操は苦虫を噛み潰した顔をした。
「為政者が良き方向に向かっている限り、平和は続く……なのに、朝廷内は目先の利益しか見えない屑ばかりだ!」
地上界に再臨した魔王の1人である張角の手先・鵜文化を斃したが、未だに張角が中凶を小出しにして山賊を操ろうとしている理由が良く解らず。朝廷の政治腐敗も止まらない。
曹操、哪吒、二郎真君の戦いはまだ始まったばかりである。
曹操の仲間に加わった哪吒と二郎真君は、曹操が雇った傭兵・夏侯惇(字は元譲)と夏侯淵(字は妙才)と名乗り(哪吒が夏侯淵で二郎真君が夏侯惇)、山賊討伐に精を出していた。
「張角様ーーー!」
山賊の頭領を務めていた邪凶がまた曹操に退治されたが、未だに張角が何をしたいのか解らない。
「一斉に攻めるのではなく、小出してジワジワ責めるのがお好きなようだ」
「でもよぉー、そんな事して邪凶共の得になるのか?」
「得……かぁ。本当に何を企んでいるのであろうな……張角は」
しかし、ある日を境に曹操達の邪凶退治は激変する。
とある宗教家が鉅鹿で大演説をするという噂が広がり、重税とそれに伴う貧民の強盗化に苦しむ民衆が鉅鹿に集結した。
其処に張宝と名乗る男性が現れた。
「皆の衆ーーー!いよいよじゃ、いよいよ黄天の使いが降臨なされるぞーーー!祈るのじゃー!祈るのじゃー!」
集まった民衆が言われた通りに祈ると、空から銅鑼の音が聞こえた。音のする方を見て視ると、
「黄天の使いが天から降臨なされたぞーーー!」
黄色い煙に乗って空を飛ぶ張角の姿があった。
「オオォーーー!」
「光ってるぞ、あの者の体が光ってるぞ!」
ゆっくり着地する張角はいよいよ煽動を始めた。
「我は張角!黄天の子なり!新たなる使命を持って降臨せり!我の言葉を聴け!」
張角の演説を聞いている内に、民衆の興奮は漢王朝への怒りに変わった。
「お前達の貧しいのは、お前達のせいではない!世の中が悪いのだ!」
「そうだそうだ!」
「張角様の仰る通りだ!」
「世の中が悪いんだ!」
「では、世の中を変えるにはどうしたらいいのか!?座して待っていても変わりはせん!この手で……お前達のその手で変えるのだ!」
「そうだ、戦おう!」
「張角様と共に戦おう!」
「戦うんだ!」
「黄色い服を身に纏え!黄天の力をお借りするのだ!黄天万歳!」
してやられる形となった曹操達は心底悔しがった。
「畜生ー!山賊を裏で操るのはこれをやる為だったのかー!」
「しかも、黄天軍に加わった民衆は、張角配下の邪凶の事を“黄天の使い”と思い込み重宝している。どちらが悪か判らなくなるぞ……人間達が」
「悪政に苦しむ庶民の逃げ場として黄天軍は発展し、今や漢王朝全土を包み込む勢いだ。漢王朝にとっては怖い存在なのに……朝廷の馬鹿共はまったく気付いていない。危うい事だ!」
その時、曹操の耳に再び天の声が聞こえた。
「皇甫嵩(字は義真)に力を貸し与えるのだ」
二郎真君は曹操の様子が変なのに気付き声をかけた。
「如何いたしました?」
「声が聞こえた……天からの声が……」
「声?神託の類でしょうか?」
「良く解らんが……この声に従うと良い事があるんだよ。何故かは知らんがな」
それから間もなく、中国後漢の第12代皇帝・霊帝(劉宏)の夫人・何皇后の兄にあたる何進(字は遂高)が黄天軍討伐の総司令官として大将軍に任命され、黄天軍討伐部隊が編成されたが……、
「うわー!化け物だー!」
「く、来るなー!こっち来るなぁー!」
「退避ー!退避ー!」
黄天軍には黄天の使いに化けた小凶達がいるのだ。
豚もしくは猪の様な頭を持つ弓兵(残弾数無限)。
牛の様な頭を持ち、投槍(残弾数無限)と盾を武器に戦う大柄な男。
槍を持って二足歩行する超巨大グリーンイグアナ。
首から上が若くて美しい女性の上半身に置き換わったような姿をしているポニー。
頭髪の1本1本が蛇の剣兵。
赤い肌と赤い長髪を持つ若くて美しい女性の様な頭と乳房を持つ鷹。
どれも古代中国ではお目に掛かれない……もといお目に掛かってはいけない者達ばかりである。遂に張角配下の邪凶が本領を発揮したのだ。
朝廷に乗り込んだ曹操は、早速皇甫嵩を探し当て、こう進言した。
「党錮の禁の撤回を推奨しましょう」
皇甫嵩は驚きを隠せなかった。そんな事をすれば、儒家的教養を身に着け地方の秩序の回復を謀る清流派が息を吹き返し、外戚や宦官から目の仇にされる。そうなれば出世どころか朝廷にいられなくなる。
しかし、もし清流派が黄天軍と手を組めば……今度こそ漢王朝は終わり邪凶主導による邪な無法混乱時代が始まってしまうだろう。
(瀕死の政権は何時もそうだ。正論では無く欲望を信じた結果……失敗から学び、同じ過ちを繰り返さぬ事こそが大事なのに)
「急ぎ御決断を!清流派が黄天軍の手に渡れば、最早我々に勝ち目はありません!」
皇甫嵩は曹操の指示通りに動く事を渋った。
「しかし、清流派の復権は自殺行為だ!宦官や外戚が許さぬ!」
(まだそんな事を言っているのか!目の前にある宝に目が眩みすぎて将来を取り逃しおって)
「この話は聞かなかった事にする!これで良いな!」
慌てふためく曹操。
「お待ちください!此処で黄天軍を生かしておけば朝廷その物が消えて無くなります!何卒―――」
皇甫嵩は曹操に敗けぬ大声で言い放つ。
「静かだ!一人でいると静か過ぎていかん!」
それでも曹操は諦めない。党錮の禁を解き、清流派を利用するべきだと進言し続けた。そして……運命は曹操に味方した。
「何の騒ぎだ!?」
曹操と皇甫嵩の大音量舌戦を聞きつけ人が集まり始めたのだ。皇甫嵩は何でも無いと言いかけたが、曹操は悪知恵が働き、
「皇甫嵩殿が党錮の禁解禁と霊帝の私財(銭穀・軍馬)放出を具申すると進言してくださったので、余りの嬉しさに大泣きしておりました!」
「そ、曹操!貴様ー!」
曹操と皇甫嵩は早速協議の場へと引き摺り出された。
「正気の定か?清流派と称し徒党を組み、漢王朝を乗っ取ろうとした悪逆な者達を生き返らせよと?」
漢王朝の汚職蔓延の元凶である外戚や宦官が言っても説得力が無い。
「ですが、黄天軍に敗け続ける今の我々に第二次竇武の乱を停められる力があると御思いか」
曹操の言葉を聴いた外戚達が焦り始めた。外戚である筈の竇武(字は游平)が清流派党人・陳蕃(字は仲挙)と結託して宦官排除を計画し挙兵したが、この挙兵は失敗に終わり竇武は自害した。
「竇武の事は言うな!あの者が行った朝廷への誹謗中傷の陰惨さを知らんのか!」
これも“犬の口から象牙が生えて堪るものか”の類であり、ありえない事なのである。
(なんてこった!此処まで正論が通らないと、呆れを通り越して、“偉い!”とさえ言いたくなる!)
「伝令!」
突然やって来た伝令兵が片膝をついて礼をするのももどかしげに、
「指名手配中の士大夫が張梁と仲よく食事をしている所を発見し、無事に士大夫の殺害に成功いたしました」
曹操が慌てて質問する。
「して、張梁は!?」
「行方も知れません!」
「行方知れずだと!?人公将軍と言う愛称を持つ黄天軍の大幹部を取り逃がしておいて、良く殺害に成功いたしましたと言えるな!?」
この一件により清流派と黄天軍の結託がどれだけ恐ろしいかを一応理解した宦官達は、渋々党錮の禁解禁を許可した。
だが、外戚や宦官が清流派が息を吹き返す切っ掛けを作った曹操と皇甫嵩を許す筈も無く、曹操を騎都尉に、皇甫嵩を左中郎将に任命し前線送りとした。
「何だかうれしそうじゃのう曹操」
「当然よ!これで漸く張角との直接対決が出来るのだ!」
「だが気をつけられよ曹操。人間に転生したとはいえあれは魔王、我々が就いているとは言え、今まで殺してきた邪凶とは次元が違うと考えた方が良いでしょう」
数日後。
曹操の甲冑姿に哪吒が驚く。
「ひょー!すっげえド派手ー!」
「真っ赤な鎧に真っ赤な外套とは……思い切った格好ですな」
曹操は笑顔で答える。
「私は容姿がパッとしませんので、せめて格好だけでも目立たせようと思ってな」
曹操はそう言うが、実年齢は30歳でありながら肉体年齢は未だに15歳のままであり、金髪の美少女も相まって非常に美々しい。
二郎真君が残念そうに言い放つ。
「この姿を橋玄殿にもお見せしたかったのう」
「そう言えば橋玄が死んだのも去年の今頃だったよね」
曹操は静かに七星剣の切っ先を天に向けた。
「橋玄先生ご覧あれ!必ずや魔王張角を討ち取ってみせますぞ!」
皇甫嵩率いる黄天軍討伐隊と合流した曹操はいきなり恨み節を言われた。
「恨むぞ蟹手」
曹操は気にせず、
「して、どう攻めますかな?」
曹操は完全にイケイケになっているが、皇甫嵩は完全にブルーだ。それもその筈、宦官がなぜ自分達を黄天軍討伐隊の隊長に任命したのかを熟知していたからだ。
自分達の政敵を復活させるような提案を惜しげも無く言い放ち、それを押し通して成立させてしまったのだ。恐らく自分達は生きて帰れないだろう。宦官がそれを望んでいるからだ。
皇甫嵩が完全に落ち込んでいる中、曹操の耳にまたもや天の声が入った。
「広宗に火を放て」
「広宗」
曹操は即座に皇甫嵩に進言した。
「敵は広宗に居ります」
皇甫嵩が聞く耳を持つ筈が無い。
「して……根拠は?」
さて困った……と思いきや、曹操は堂々と、
「私の勘が当てにならないと?」
「勘かよ!」
至極真っ当なツッコミを受けたが、曹操はあくまで強気だ。
「貴方達官僚よりも私の聴く天の声の方が正しいのです。その証拠に、貴方達は清流派の残党と張梁との会食を阻止できなかったが、私は党錮の禁の撤回を勝ち取ったではないですか」
皇甫嵩が遂に激怒した。
「だったら貴様達だけでやれ!これ以上私を巻き込むな!」
時間が惜しかったので皇甫嵩との口喧嘩を早めに切り上げ、広宗へと向かった。
広宗に到着すると、大急ぎで土地の特徴を調べ上げ、最も最適な火計を思いついた。
そうとは知らずに広宗を通過しようとする黄天軍本隊。その真ん中にはラクダに跨りダンスを踊る様に手を動かしながら踏ん反り返る張角の姿があった。
“黄天當立!”というシュプレヒコールが鳴り響いていた。両端が崖であるにも拘らず。
其処へ大量の藁が放り込まれた。
「ん?」
張角はなん事だかさっぱり解らず、首を傾げる。其処へ哪吒が現れて、無数の藁に火を放った。
四方八方を炎で囲まれ大混乱する黄天軍本隊。一部の邪凶が気を吐くが、崖を一気に駆け下りる曹操と二郎真君が次々と斬り殺す。
「張角!後は貴様だけだ!」
この期に及んでまだ余裕をかます張角。
「やはり出おったか仙人共。だが、儂に勝てるかな?黄天の使者であるこの儂にー!」
3人の中で最も好戦的な哪吒が羽衣を投げつけた。もちろんこれも宝貝で、空中に放たれた羽衣は突然大蛇の様に張角の体に巻きついた。だが、どうした事か直ぐに力を失い地面に落ちた。
「嘘ー!俺の混天綾が効かない!?」
今度は二郎真君が狼を放つが、これも直ぐに力を失い地面に落ちた。
哪吒の槍が火を噴くが、焼き殺すどころかラクダから叩き落とす事すら出来ない。
「火尖鎗も駄目かよ!?」
今度は曹操が七星剣で斬りかかるが、見えない壁に遮られて近づけない。
「強すぎる……傷すら与えられない!」
諦めきれない哪吒は、2つのブレスレットで殴りかかるが、逆に杖で殴り返されてしまった。
「乾坤圏すら駄目かよー!くそー!」
当の張角は未だにラクダの上で踏ん反り返ったままだ。
「無駄よ……」
今度はこっちの番とばかりに杖からビームを放つ。
「ぐわー!」
張角は一気に畳み掛ける様に横方向に扇状に広がる火炎弾を5つ発射した。
「く、これまでか……」
その時、またまた天の声が、
「七星剣を掲げろ」
それを聞いた曹操はとりあえず七星剣を掲げた。すると、曹操の体が突然、太陽の様に発光した。余りの眩しさに哪吒も二郎真君も張角さえ直視できなかった。
漸く光が消えると、曹操の姿が純白の西洋甲冑を身に纏うワルキューレとなっていた。これが七星剣の最後の切り札“神兵化”である。
曹操の姿が純白の西洋甲冑を身に纏うワルキューレの様になってしまったので、一同驚く。
「これは……」
「な、何なんだこれ?何なんだこれー!?」
「これが通天教主が曹操に授けた力!?」
「力が……力が溢れて来る!これなら……いける!」
それに対して、張角はかったるそうに話す。
「もう……無駄な抵抗は止めたらどうだ?」
それに対して、曹操は強い口調で答える。
「否!私は戦う!お前のような奴から世界を護る!」
「下らん……」
張角が杖から凍結ガスを噴射するが、曹操が七星剣から放つ雷に押し返されてしまう。
「どう言う事ー!?わはぁー!」
何とかラクダの上で踏ん反り返る状態を維持している張角だが、曹操の姿が変わる前の余裕はもう無い。
今度は巨大な火炎弾を放つが、曹操は背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させ、空中を飛翔する。そのまま、ホバリングしながら念動力で火計用の藁の束を張角にぶつける。
「ぎゃあー!」
漸く張角をラクダの上から引き摺り下ろした曹操は、畳み掛ける様に七星剣で張角を斬りまくる。
「うぎゃぁー!」
張角の足下から大きなつむじ風が発生し、張角を空中に拘束する。曹操は飛翔しながら張角に斬りかかり、張角に背中を見せる様に裏一文字斬りを見舞った。
「あっぎゃあぁーーー!」
そして、再び七星剣を天にかざすと、落雷が張角を襲い、耐えきれなくなった張角が爆死した。
「きゃあはぁーーーーーー!」
元の姿に戻った曹操の許に駆け寄るナタクと二郎真君。
「大丈夫か!?」
「ああ」
「それにしても……一体どうして?」
二郎真君に七星剣を差し出す曹操。
「この七星剣を掲げたらこうなった」
七星剣を手に取る二郎真君。
「これは!……これほど邪凶討伐に適した宝貝は有りますまい」
「どういう事だ?」
「曹操殿は神兵化したのです」
曹操は聞きなれない言葉に困惑した。
「神兵化?」
「全能力を飛躍的に上昇させる秘術で御座います。私も実際に見るのは初めてでございますが」
それを聞いた哪吒が驚く。
「それって只の絵空事じゃなかったの!?」
「どうやらそうらしい」
「うへぇー」
曹操は七星剣を返して貰いつつ、
「それほどの物を私が……」
二郎真君が幾つかの注意点を付け加えた。
「ですが、これ程の宝貝をもってしても神兵化の維持は難しいらしく、七星剣の宝玉をご覧ください」
確かに……七星剣の宝玉の一つが少し黒く濁っている。
「神兵化する度に七星剣の宝玉は少しずつ濁ります。日光か月光を浴びせればこの濁りは完全に取れますが、つまり、七星剣の宝玉が黒く濁れば濁る程、神兵化の維持は難しなります」
理解できない哪吒。
「つまりー……どういう事」
曹操が解りやすく説明する。
「制限時間付と言う訳だ。私の神兵化は」
「あー、それなら解った」
二郎真君が哪吒をからかう。
「本当に解ったのですか?」
「何だよー、その疑いの目はー」
3人は一斉に笑った。
駆けつけた皇甫嵩は神兵化した曹操と張角との死闘を見て、完全に立ち尽くしていた。
「……なんて奴らだ……」
曹操が皇甫嵩に行った張角病死報告が中国大陸全土に広まった結果、黄天軍の勢いが一気に減衰した。
張角の弟である張宝と張梁は、曹操を大嘘吐きと弾じたが、最早、坂を転がる玉であった。
「敵将波才、討ち取ったりー!」
汝南郡での戦いは孫堅(字は文台)の勝利で終わり、春秋時代の兵家・孫武(字は長卿)の子孫としての意地を魅せ付けた。
「張曼成の捕縛に成功いたしました!」
伝令兵の報告を聞いた皇甫嵩がシャンパンの栓を抜きそうなくらいに勝ち誇っていた。
「はははは、どうだ!これが漢王朝に逆らった者達の末路だ!」
調子のいい話である。張角が健在だった時は黄天軍討伐の命を授かる切っ掛けとなった曹操を恨んでいたのに、黄天軍が劣勢になった途端これである。
張宝が妖術と配下の邪凶を駆使して抵抗を試みるが、これが人間に転生した魔王その②を歴史の表舞台に引き上げる切っ掛けとなった。
「見苦しいな。敗戦後ぐらい往生際をグッドにホワイトや」
突然現れた貫禄が有り余っているチンピラの様な男に慌てふためく張宝。
「な!だ、だれ!?」
貫禄が有り余っているチンピラの様な男は邪な微笑みを浮かべながら無慈悲な事を言いだす。
「もう張角は敗けたんだよ。だから……君達も死ねよ」
当然怒る張宝。
「ふ、ふざけるなー!」
張角配下の小凶達が男を襲うが、所詮は小凶、男が召喚した1匹の大凶の前では無に等しかった。
「くたばれや!」
持ち主の声により伸縮自在で太さも自由自在な円柱形の棒を振り回しながら10匹の小凶達と互角に戦うサル顔の男。
「我が名は袁洪!この程度の雑魚は楽勝よぉー!」
「何じゃこいつらは!?」
「くくく」
男の笑い声に張宝は背筋が寒くなった。
「な、何だよ!」
「袁洪!後は僕がホワットとかしておく。これはライフ令だ!」
張宝は背筋が寒くなった。男は気にせず手を2回叩くと、突然巨大な竜巻が発生し、張宝を巻き上げた。
「ぎゃあぁーーーーー!」
「さよなら張宝YOU」
観念した張宝が消滅間際に男に名を問うが、
「クェスチョンするな馬鹿!」
一蹴されてしまった。
「ひ、非道いぃーーーーー!」
よく見ると、男の指は3対6本しかない。
文学博士・阿部正路の説によれば、人間の手の5本指は愛情・知恵という二つの美徳と、瞋恚いかり・貪欲・愚痴の三つの悪をあらわすそうだが、それだと、この男の手の指が3対6本なのは、人間が本来持っている良心がこの男には全く無い事になるのだが……。
その頃、阿部正路に人より邪心が少ないと言われた様な感じになっている曹操は、二郎真君に天の声について相談していた。
「成程、その者の声の御蔭で神兵化出来たと」
「そうなのだ。何故私なのだ?」
「さ、さあー……」
二郎真君は言葉を思いっ切り濁したが、大方予想がついていた。
(恐らく……通天教主は曹操をかなり期待している様ですね)
碧遊宮で曹操対張角を観戦していた通天教主が独白。
「こんなに早い段階でもう魔王と戦う羽目になった時はかなり焦ったが、儂が曹操に教え損ねた七星剣最後の切り札に自力で気付いたとは……曹操……儂の見込み通りの英雄と言えるな」
ん?通天教主が天の声役でないとすると、天の声役は一体誰なのだ?
曹操聖女伝第1章の重要登場人物
●通天教主
身長:173cm
体重:66kg
所属:截教
種類:妖怪
性別:男性
西海九竜島にある洞府・碧遊宮を総本山とする道教の一派、截教の総帥。仙邪戦争で活躍した妖怪達の総大将。
漢王朝の政治腐敗が邪凶の復活に繋がる可能性を危惧していたが、曹操となる定めの少女に希望を見出し、歴史の裏で暗躍する曹操の善玉的黒幕の1人。
●曹騰
所属:漢王朝
種族:人間
性別:男性
字:季興
漢王朝の大長秋(宦官の最高位)。
山賊に押し入られた農村を偶然通りかかり、護衛部隊を使って山賊を駆逐し、後に曹操となる幼い少女を養子にした。
欲望に正直な他の宦官とは違い、慈悲深く礼節を重んずる名君と呼べる傑物。出番は少ないが、曹操と漢王朝を繋げたと言う意味ではかなりの重要人物である。
●曹操
身長165cm
体重54kg
スリーサイズ:89、63、88
所属:漢王朝
種族:人間(?)
性別:女性
字:孟徳
本作品の主人公。
ローマの剣奴(円形闘技場コロセウムで民衆の娯楽のために真剣勝負を強制された奴隷。捕虜出身が多い)とローマに滅ぼされた国家の末裔との間に生まれた欧米人だが(曹操が金髪なのもその為)、道教の一派、截教の総帥である通天教主と漢王朝の大長秋(宦官の最高位)である曹騰に気に入られた事で漢王朝に深く関わる事になる。
よく言えば生真面目、悪く言えば融通が利かない頑固な性格をしており、規律と大義を重んじる。その反面、合理的且つ民衆重視の政策を好む為、よく敵を作ってしまう厄介な御方。一度は敵対した相手であろうと有能な人物は残らず配下に招き入れる度量があり、太陽の様な傑物だと尊敬される事もある。
長い髪を後ろで一つに束ね、落ち着いた物腰とどんな時でも凛々しく振る舞う姿から、男性は当然の事、女性からも憧れを抱かれる絶世の美少女だが、左手の指が2本しかなく、通天教主気に入られた影響か肉体年齢と外見年齢が15歳で停まってしまったので、曹操を不気味がる者もいる。只、体つきは非常に豊満で女性らしい。
神託(天の声)を聴きとる能力を持ち、その御蔭で窮地を脱する事も多い。博識多芸で、宮殿の建築や兵器の製造の設計図を手掛けたり、薬学にも精通していた。また、書・文学・音楽などの芸術に造詣が深く、囲碁の達人でもある。
武器・技
七星剣
遠回し的に通天教主から授かった輝く星のような七つの宝玉が埋め込まれた黄金の剣。
使用者を剣術の達人に変え、使い手の思い次第で切れ味を自在に変えることが出来、峰打ちから岩まで何でも切ることができる。また、邪悪を制圧し、その力を封じ生命力を損なう結界を作る。
神兵化
曹操の最後の切り札。
七星剣の力を借りて純白の西洋甲冑を身に纏うワルキューレの様な姿となり、全能力を飛躍的(過ぎる)に上昇させる。この姿の時だけ背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させての飛翔・ホバリング等々の人智を超越した特殊能力を発揮できる。
ただし、七星剣の力を借りておこなう神兵化には制限時間の様なものがあり(最大21分)、七星剣に日光か月光を浴びせる事で消費した制限時間を元通りにする必要がある(エネルギー補充)。
●哪吒
身長142cm
体重48kg
スリーサイズ:72、58、76
所属:闡教兼曹操軍
種族:仙人
性別:男性
截教の総帥・通天教主が曹操の天下統一を支援する為に送り込んだ闡教の仙人。曹操軍内では夏侯淵(字は妙才)と名乗っている。
曹操軍のムードメーカー。豪放磊落を地で行くが粗忽で短絡的。無謀な突撃を行ってはよく二郎真君や曹操に叱られる。
軍の拠点間の迅速な移動やそれに基づいた奇襲攻撃、前線型武将の指揮、兵糧監督などの後方支援を得意とし、その迅速な行軍は「三日で五百里、六日で千里」と称えられる一方、自身の武芸も極めて高い。
可愛らしい顔が災いし、美少女に間違われる。そして、その度に本気で怒る。蓮の花や葉の形の衣服を身に着けている。
武器・術
風火輪
風と火を巻き起こしながら飛ぶ1対の車輪。それほど高空を飛ぶ事は出来ないが、速度は名馬などより遥かに速い。
火尖鎗
火炎放射器としても使える槍。普通に槍としても使える。
混天綾
愛用の羽衣。放り投げると百発百中の投げ縄となって相手を拘束する。
乾坤圏
両腕に装着している金色の輪っか。取り外す事で武器(鈍器)や照明にもなる。強烈な光を放ち敵の目を眩ませる事も可能。
金磚
哪吒が「金磚」と言うと、大きな金色のタライが対象者の脳天に落ちてくる。集団で複数の敵に同時に攻撃する事も可能。
道術
仙人や妖怪が修行によって身に着けた色々な術の事。哪吒は乾坤術(自然の力を操る)と気功術(体調や体質を操作する)を得意とする。
●顕聖二郎真君
身長178cm
体重65kg
所属:闡教兼曹操軍
種族:仙人
性別:男性
截教の総帥・通天教主が曹操の天下統一を支援する為に送り込んだ闡教の仙人。曹操軍内では夏侯惇(字は元譲)と名乗っている。
冷静沈着で礼儀正しい性格。自己の技や術を研鑽する事に生きがいを感じている。曹操軍での貴重な解説役でもある。
前線を指揮する武将として活躍一方、交渉も出来れば、策略も考えるトリックスターな一面も見せるが、たまにミスリードに引っ掛かる。
普段は額に縦長の第3の眼を持ち、鎧をつけた美青年の姿をしている。
武器・術
三尖両刃刀
刃先が3つに分かれた槍。
哮天犬
愛犬。普段は袖口に隠れているが、いざ放つと狼の様な怪物となって敵に襲い掛かる。ただし、殺傷能力は低く、精々負傷させて隙を作る程度。
七十二変化の術
あらゆるモノに変身する。変身バリエーションが100種以上!制限時間がない他、変身した物体の能力も発揮出来る。
変装
他の人物に成り済ますことが出来、声帯模写と併用して敵を欺く。顔や声だけでなく、髪の長さも自在に調節でき、関節を外すことで体格を変えることも可能。
道術
仙人や妖怪が修行によって身に着けた色々な術の事。顕聖二郎真君は安命術(怪我や病気を治療する)と幻惑術(幻覚もしくは病気をもたらす)が得意。
●張角
身長:183cm
体重:63kg
所属:無所属→黄天軍
種類:邪凶
邪凶ランク:魔王
性別:男性
人間に転生した魔王その①。黄天軍総司令官。
配下の邪凶に貧民の強盗化・山賊化の促進を命じて人間の不安を煽り、自慢の妖術や話術で農民達を煽動し、超弩級百姓一揆・黄天軍を誕生させた。
黄天の力を拝借しているという名目で、無数の邪凶の群れを大量発生させて好き勝手やっていたが、皇甫嵩が曹操に嵌められ黄天軍討伐の任に就いた事で曹操と対立した。
最初の内は曹操・哪吒・二郎真君の3人を圧倒するが、曹操が張角の目の前で生まれて初めての神兵化をした事で形勢は逆転、自慢の妖術はまるで通用せず、最期は曹操が発生させた落雷で倒された。
曹操は皇甫嵩に「張角は病死した」と報告したが、実際は曹操と張角の死闘を皇甫嵩に見られていた。
武器・術
妖術
様々な奇跡を発生・使役する。この術と漢王朝の政治腐敗により、黄天軍は中国大陸全土を包む超弩級百姓一揆へと成長した。
杖
杖から破壊光線や火炎、凍結ガス等を発射できる。
邪凶召喚
魔王クラスの邪凶が持つ能力の一つ。魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る。
ラクダ
愛用のラクダ。移動用として飼い慣らしている。
曹操聖女伝第2章
対黄天軍戦は一応の平定を見たのである。
そして、曹操はその功績によって済南の相に任命された。しかし……
「えー!この方々を皆罷免なさるのですか!?」
驚く文官に対して、曹操はシレッと言った。
「どいつもこいつも贈賄汚職にどっぷり浸かった悪徳役人ばかりだ!罷免にして当然だ!」
しかし、焦る文官の説得は続く。
「し、しかし、彼らは皆都の高官達の誼を通しておりますれば、下手すると、貴方様まで―――」
曹操の意思は固かった。
「構わん!黄天軍は腐敗政治に対する警鐘だった筈だ!それなのに朝廷も地方も全く反省の色が見えん!まずは地方政治から改善せねばならぬ!」
こうして、汚職官吏を次々と罷免し、更に、
「な、何をなさいます!これは漢帝の御先祖・城陽景王劉章様を祭る祠ですぞ!」
此処でも曹操の意思は固い。
「五月蠅い!貴様ら悪徳商人が、民衆から莫大な祭祀料を巻き上げている事は、既に明白!悪の温床は全て取り除かねばならん!たとえ相手が祠であってもな!」
淫祠邪教を禁止することによって平穏な統治を実現した。
それから暫くして、済南を追い出された汚職官吏が宦官集団・十常侍に泣きついた。
「またあいつか!」
「いくら曹騰の孫娘だからって、これは遣り過ぎであろう!」
「折角の党錮の禁を台無しにしただけでは飽き足らんのか!」
意見が対立し、会議が長時間に及んで、疲れが目立ち始めた時、
「ひとまず都に呼び寄せて、様子を見る事にしましょう」
と、十常侍の首領格である張譲が言った。
「その通りだ!我らの目が届く場所に置いておくべきだ!」
「そうだ!」
しかし、曹操は病気を理由に東郡太守赴任を拒否した。
哪吒が皮肉を言う。
「解りやすいなぁー。悪党の考える事は」
二郎真君もそれに続く。
「貴重な賄賂要員をどんどん潰していく曹操殿がよほど煙たい様ですね」
その後、沛国譙県の郊外に草庵を建てて様子を見る事にした。
「まさか33歳で楽隠居とはな」
「見た目は未だに15歳の美少女ですがね」
一同が大笑いするが、曹操が直ぐに真顔になり、
「だが、私は世捨て人には成らんよ。私には使命がある。この世界を救うと言う使命が―――」
その時、また天の声が、
「この近くの竹林に行けと?」
「また……例の奴ですか?」
「突然聞こえる助言って奴か?」
「ああ、その様だ」
とりあえず、天の声の指示に従い、この近くの竹林に向かう一同。
だが、道中で異様な化け物と遭遇する。首が無い大男で、その代わりに乳首の部分に目、へその部分に口がある。
「貴様!この地に何をしに来た!?」
化け物の言葉に、哪吒も食って掛かる。
「何だとー!?俺達が此処に来ちゃいけないのかよ!」
二郎真君が割って入る。
「待ちなさい御二方。我々は敵ではありません。私は闡教に属する仙人・顕聖二郎真君と申します」
二郎真君の言葉に敏感に反応する化け物。
「仙人だと!?それは真か!?」
曹操が代わりに答える。
「どうしたら信じて頂ける?」
その時、七星剣が突然光り出した。
「む!この光は!……疑って悪かった。我が名は刑天!仙邪戦争で戦死した護衛兵である」
刑天を名乗る男は、殷王朝の始祖といわれる伝説上の人物・契帝の娘の護衛をしていた兵士だったが、仙邪戦争で戦死した魔王の1匹である蚩尤に敗れ、首を失ったのだと言う。
「して、此処へは何を?」
曹操は真顔で言い放つ。
「信じないかもしれんが、私は天の声が聞こえるのだ」
それを聞いた刑天が驚き、そして喜んだ。
「遂に……遂に姫様の呪いが解けるのですね!?」
「呪い?」
刑天が曹操達をある場所に案内しながら話し始める。
「殷王朝の始祖である契帝様が仙人や妖怪同様、邪凶の暴虐不尽・悪逆非道を許せず立ち上がったのですが、あの憎き蚩尤めが、私が護衛していた卞宣様にとんでもない呪いをかけたのです!」
強い口調だ。目は怒りに燃え、口調は悲しみを湛えていた。
「その……卞宣殿を襲った呪いとは?」
刑天が悔しそうに言う。
「魔王化じゃ」
「人間が魔王になるだと!?」
「なんという事だ!」
哪吒と二郎真君が驚く中、曹操はある確信を持っていた。
「刑天殿、そんなに蚩尤が憎いか?」
「あー憎い!あ奴さえいなければ―――」
「やはりだ……貴方はやはり自分を嫌っている」
刑天が首を傾げる。
「何故我が我を恨むのだ?」
「貴方はさっき蚩尤に首を斬られたと言いましたな?」
「そうじゃが……」
「それでも生きていると言う事は……貴方は今でも卞宣にある種の罪悪感を抱いておるのではないのか?」
流石は曹操、鋭い。邪凶は、確かに下衆である。そのせいで卞宣は仙邪戦争終結から2000年以上も経っているのに未だに苦しんでいる。故に刑天は蚩尤を許せないと言った。だが刑天が最も許せなかったのは、それを阻止出来なかった自分自身であった様に思う。
刑天が観念した。
「確かにそうかもしれん。我は確かに卞宣様を護りきれなかった。既に斬首された後にも係わらず、2000年以上も生きているのは、卞宣様の呪いが消える日を今か今かと待ち望んでいるのかもしれん」
哪吒が怒りだす。
「くそー!通天教主は何やってんだよー!」
刑天が悲しげに言った。
「無駄だよ……通天教主様も元始天尊様も……太上老君様ですら解けなかった強大な呪いじゃ……魔王化の速度をほぼ零にする結界に卞宣様を封印するのが関の山であった」
「あの太上老君を打ち負かす程の呪いだと!?」
「む、惨い……」
漸く卞宣が封印されている場所に到着した。卞宣は光の柱の中で仰向けで浮かんでいた。
「さて……此処まで辿り着いたは良いが、太上老君でも不可能だった事を、我々だけで出来るのか?」
「二郎兄者!このまま見殺しにしろって言うのかよ!」
「そんな訳無いだろ!しかし……」
「やはり駄目か……我の望みは未だ叶わぬか……」
しかし、曹操は迷い無く光の柱の前に立ち、光の柱を斬った。慌てる刑天。
「ちょ!あんたは何を―――」
曹操は気にせず光の柱があった場所に声をかけた。
「そろそろ出てきたらどうだ……蚩尤!」
すると、卞宣の体から黒い煙が出て来た。
「貴様らー……この蚩尤の復活を阻止するだけでは飽き足らず、再び蚩尤を殺す気か!」
黒い煙が6本の腕を持つミノタウロスの様な姿となった。
卞宣に憑り憑いた魔王蚩尤の亡霊と対立する曹操達。
「てめぇーが蚩尤か!?」
哪吒の言葉に蚩尤は鼻で笑いながら答えた。
「いかにも蚩尤である。だが、今の蚩尤には肉体が無い。故に貴様がこの蚩尤と戦う事は出来ない」
「嘗めんな!」
哪吒が飛びかかるが、蚩尤の体を素通りしてしまった。
「な、何で!」
「言ったであろう、今の蚩尤には肉体が無いと」
二郎真君が皮肉を言い放つ。
「それだと、貴方も我々に触れないのでは?」
蚩尤は鼻で笑いながら答えた。
「それはどうかな?」
蚩尤は6本の腕から暗黒瘴気弾を一斉に発射した。
「何だよこいつ!卑怯過ぎるだろ!」
蚩尤が邪な微笑みを浮かべた。
「この蚩尤を攻撃できる方法は1つだけある―――」
二郎真君が蚩尤の言葉を遮った。
「それは如何ですかな?」
二郎真君の攻撃が蚩尤の脇腹に突き刺さった。
「ぬお!?今の蚩尤には肉体が無い筈!」
「そう。今の貴方は只の霊体だ。だから、私も霊体になったのです」
哪吒は驚きを隠せない。
「出来るの!?そんな事!?」
「私は七十二変化の術を会得している身。霊体化も可能です」
呆れる哪吒。
「どいつもこいつも……狡過ぎるぜ!」
しかし、
「くくくく」
「何が可笑しいのです?」
「仙人にしては考えたな。しかし!」
そう言うと、蚩尤は6種類の武器を召喚し、それを使った連続攻撃を繰り出した。流石の二郎真君もこれは捌き切れない。
「くっ!」
「所詮は無駄な足掻きだったのだ。さあ……卞宣の体を返してもらおうか」
曹操が蚩尤に声をかけた。
「待て!」
「まだいたのか?諦めの悪い事だ」
「一つ訊きたい。何故、卞宣なのだ?他の者ではいかんのか?」
蚩尤が少し考え込んで、
「……成程な……卞宣とやらの罪を知らぬなら教えてやろう」
話は紀元前18世紀頃まで遡る。契帝が治める殷王朝に攻め入ろうとした蚩尤。殷王朝は必死で抵抗したが、邪凶が相手では焼け石に水であった。このまま殷王朝が蚩尤に破壊されるかと思われた時、卞宣が勇気をもって仙人達に自己談判し、仙人達から軍隊を借りる事に成功した。
これこそが仙邪戦争の発端の一つと信じられている。その後、蚩尤は仙人達によって退治されたが、敗因となった卞宣を憎み、卞宣に蚩尤化の呪いをかけたのだった。
曹操が静かに深く怒る。
「蚩尤……今の話を聞いて良く解った……居るべき場所に帰れ!地上界は邪凶の駆ける場所に非ず!」
蚩尤は鼻で笑いながら質問した。
「ならばなんとす?」
「七星剣よ!我に力を!」
曹操は神兵化能力を発現させた。蚩尤が邪な微笑みを浮かべた。
「忘れたか?今のし―――」
蚩尤の口上が終わるのを待たずに曹操が蚩尤を斬った。すると、蚩尤の右腕が2本も切り落とされた。
「ば、馬鹿な!?今の蚩尤には肉体が無い筈!?なのに何故、この娘は蚩尤を斬れるのだ!?」
「侮るな!この七星剣は邪悪を打ち砕く為にある!悪の温床如きがこの七星剣に勝てると思うな!」
「ふ、ふ、ふ、ざけんなぁー!」
蚩尤が残った手から暗黒瘴気弾を連射したが、曹操のバリアが頑強過ぎてあまり効果が無い。その間に、曹操が止めとばかりに七星剣を蚩尤の頭頂部に振り下ろす。
「止めだ!」
断末魔の声を挙げる蚩尤。
「ガゴオォーーーーー!この蚩尤が、この蚩尤が、消滅するのかぁーーーーー!」
2000年近くも蚩尤の呪いと戦い続けた卞宣が漸く目を覚ました。
「此処は?」
曹操は優しく答えた。
「卞宣殿、ようこそ未来へ」
「未来……?」
「貴女は2000年近くも蚩尤の呪いと戦っていたのです」
「蚩尤……」
卞宣が仙邪戦争の事を思い出したのか慌て始めた。
「は!蚩尤は!?あの怪物達は!?」
「安心しろ……蚩尤は消えて無くなってしまった」
「勝ったのですか!?あの者達に」
曹操は優しく、そして力強く首を縦に振った。
刑天が卞宣に声をかけた。
「御無事か!?姫様!」
「その声は……刑天……刑天なのですか?」
「あの者は、貴女を蚩尤の呪いから守るための結界を2000年近くも護り続けたのです。首を失い、醜い姿に変えられてもめげずに」
その時、刑天の体から光の粒子が流出し始め、刑天の体が薄くなり始めた。
「刑天!」
「姫様……これで良いのです。我はもう……人間に戻れそうもありません。曹操殿、姫様を頼む!」
曹操は優しく、そして力強く首を縦に振った。
「あぁ、これで心置きなく消滅出来る。有難う……有難う……」
そして……刑天は本当に消滅した。泣きじゃくる卞宣。
「何故じゃ!?罪深いのは私の方の筈!なのに何故……私ではなく刑天が消滅せねばならんのじゃーーーーー!」
泣き喚く卞宣を黙って見守る事しか出来ない曹操達であった。
蚩尤と刑天の完全消滅から半年後。一人の男が曹操の許を訪ねた。
「探したぞ曹操。この忙しい時に楽隠居やらかしおって」
この男の名は袁紹(字は本初)。後漢時代に4代にわたって三公を輩出した名門汝南袁氏の出身で、曹操の幼馴染であった。
「この儂が何進大将軍の下で蜂の様に働いておるのに、お前はこんな所で燻る気か?」
「この私をからかっておるのか?」
しかし、袁紹は直ぐに真顔になり、
「お前を典軍校尉に推挙しに来たんだよ」
「典軍校尉?」
「西園八校尉の一つだ。反乱軍から都を護る為に新設された司令職だよ。儂もその中の中軍校尉に任命される事になっている」
曹操は難色を示した。
「しかしな、私は宦官の監視の目が嫌いで―――」
「其のくらい解っとる。朝廷では、我が何進派と薄汚れた宦官派が対立しておる。お前にはぜひ、我が派閥に加わって欲しいのだ!」
其処へ、卞宣が曹操に声をかけた。
「どうなさいました?」
今でこそ本来の明るさを取り戻しているが、刑天が完全消滅して間もない頃は自分を責め続けたが、曹操の
「貴女が人間に戻れるのが刑天の真の願いだ」
の言葉によって自分の間違いに気付いた卞宣は、過去ではなく未来を選んだのだ。
初めて見た女性に目を丸くする袁紹。
「どちら様?」
曹操はとっさに嘘を吐く。
「売れない歌妓だよ。行く当てが無さそうだったので、私の側室にした」
「側室?女同士でか?」
「悪いか?」
袁紹は困り果てながら言い放つ。
「……やはり何進の下に来い。あの十常侍を散々苦しめたお前の図々しさが完全に失われる前に」
「うーーーむ……私の出番にはまだ早そうだが、朝廷の混乱をこの目で見たい」
「よし決まった!では早速出発だ」
こうして、曹操は典軍校尉に、袁紹は中軍校尉に就任した。
翌年、霊帝の崩御に伴い、皇太子・劉弁が即位した。即位当時の年齢17歳というのは、実は後漢歴代皇帝の即位時年齢の中で4番目の高年齢にあたる(劉弁より上位の3人は初代 - 3代であり、4代目以降では最年長)。こうした事実は、後漢朝の歴代皇帝がいかに幼く、権力のない皇帝ばかりだったかを証明するものである。
その証拠に、政治の実権は母親の何太后とその一族である外戚が握った。折角握った実権を頑強にすべく宦官の粛正に手を染めようとしたが、何太后や何進の弟の車騎将軍何苗が宦官を擁護したため、何氏同士で対立が生じる構図になった。
痺れを切らせた袁紹が何進に自己談判するが、
「この機会に宦官勢力を朝廷から一掃すべきです!」
「解っとる。だが、皇太后が反対しておってな―――」
「何太后は閣下の妹君ではありませんか!兄としての威厳を魅せて頂きたい!」
「でもなあ、わしはあいつの御蔭で出世した訳だし……皇帝の母親だし……」
何進への自己談判が時間の無駄だと思い知った袁紹は、地方の諸将を都に呼び寄せて太后らに圧力をかけた。だが、
「伝令!」
「何の騒ぎだ?」
伝令兵が片膝をついて礼をするのももどかしげに、
「何進大将軍変死!」
何進は無警戒に宮中に参内したところを宦官の段珪・畢嵐が率いた兵によって取り囲まれ張譲に罵倒されながら嘉徳殿の前で殺害されてしまった。
「な、なんだと!?十中八九十常侍の仕業に違いない!おのれ宦官共め!最早かんべんならん!待っとれよー!皆殺しにしてやるからなーーー!」
袁紹はとうとう宦官の粛正に手を染めた。
「殺せ殺せ!薄汚い宦官達を全て排除してしまえ!」
袁紹が行った宦官虐殺は陰惨を極め、
「わー!待て!私は宦官じゃない!ほれ、金玉はちゃんと―――ギャアー!」
巻き添えを含めて2000人以上が命を落とした。
その噂を聞きつけた曹操が現場に訪れるが、広がる陰惨な光景に圧倒された哪吒と二郎真君。
「これは酷い……まるで地獄だ」
「袁紹のおっさんは何考えてんだ!?」
曹操が怯えている女官を発見し、優しく声をかけた。
「大丈夫だ。私は敵では無い。それより、思い出したくも無いかもしれんが、この目の前の地獄を作り出した者達は今何処に?」
凛々しく美々しい少女の姿をした曹操を見て警戒心が解けた女官は、とんでもない事実を口にした。
「この部屋にいた宦官を殺害した兵士達の行方は解りませんが、張譲様が今上帝と陳留王を連れてお逃げに」
曹操は頭を抱えた。
「馬鹿だよ……権力者てさ……」
袁紹に呼び出された地方領主の1人である董卓(字は仲穎)は不貞腐れていた。
「なんで儂が宦官と戦わなければならんのだ!?正直宦官には近付きたくも無い!」
が、この命令が董卓に幸運をもたらす事になる。今上帝と陳留王を擁して逃亡する張譲と段珪に出くわしてしまったからだ。
「何じゃ貴様らは!?」
張譲が袁紹の宦官虐殺を針小棒大に伝えようとしたが、董卓は今上帝と陳留王の身なりから袁紹を逆賊扱いする為の逃走だと見抜き、躊躇無く張譲と段珪を殺害した。
董卓は二人と会話をしながら帰路についたが、この時今上帝は満足な会話さえ十分にできなかったのに対して、陳留王は乱の経緯など一連の事情を滞りなく話して見せたことから、とんでもない野望を思いついてしまった。
だが、その野望を実行に移すには力が足りない。洛陽に入った時は3000ほどの兵力しかなかったので、殺害された何進や何苗の軍勢を吸収したが、同じく袁紹に呼び出された地方領主の1人である丁原(字は建陽)が猛反発した。
その結果、軍を率いて城外で対戦する事になった。そこで丁原は、必勝の策として丁原軍最強の戦士・呂布(字は奉先)に董卓暗殺を命じた。これが丁原の首を絞める結果になるとも知らずに。
この騒ぎを聞いた曹操は、浅ましく醜い権力争いに嫌気がさして故郷に帰ろうとしたが、天の声の忠告を聞いた途端、慌てて董卓軍本陣に向かった。その途中で董卓軍筆頭軍師であり、董卓の懐刀とも言うべき李儒に出会う。
「そなた、こんな所で何を」
李儒の顔を見た曹操は、天の声の言い分が正しいと確信し、とっさに嘘を吐いた。
「私の宝剣を献上しようと思ったのです」
「宝剣?」
「はい。ですので董卓殿にお会いしたい」
暫くして、曹操は董卓との謁見を許可された。
「そなた……儂に渡したい物が有るとの事だが」
曹操は膝を屈しながら七星剣を差し出した。
「ほう、どれどれ」
董卓が七星剣に触れようとしたが、なぜか指に激痛が襲った。
「ぐおっ!何じゃこの宝剣は!?」
その途端、曹操が急にふてぶてしくなった。
「やはりそうであったか董卓……いや、忌々しい魔王め!私の正義の剣の餌食となれ!」
そう、董卓は人間に転生した魔王その③だったのだ!曹操はとっさに神兵化した。だが、曹操の周りに装飾雑多な鞠の様な鉄球が複数出現し、曹操を包囲した。更に、お尻から孔雀の様な鮮やかな飾り羽を生やして発光させ、巨大な幻影となって炎を巻き起こした。
「熱がれ!祭玉!」
複数の鉄球から無数のロケット花火や火の点いた爆竹がマシンガンの様に放たれ、無数の小さな爆発が曹操を包んだ。
「ガハハハ!どうだ!儂の最もお気に入りの技である祭玉の熱さは!?どうだ!熱いだろう!」
だが、曹操は平然としていた。
「熱い?ふん!私の大義の炎に比べたら微温湯よ!」
自慢の祭玉をもろに食らった筈の曹操が平然としていたの空恐ろしくなった董卓は、まるで蚤の様な人間離れした跳躍力とまるで燕の様な飛行能力を駆使して曹操から離れようとしたが、曹操もまた、背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させて飛翔した。
「逃がさんぞ!魔王!」
「く、来るでないーーー!」
董卓は両目から着弾点を爆破・炎上させるレーザーを発射するが、曹操はいとも簡単に回避した。董卓は無数の小凶の群れを次々と召喚したが、神兵化した曹操がほぼ無敵なのは張角戦や蚩尤戦で既に証明済みだ。
「そろそろ終わりにしようか……魔王・董卓」
董卓は刀身が異様に巨大な漆黒の大刀を力任せに振り回し続けたが、それも神兵化した曹操の前では無力だ。
「諦めろ!」
曹操は七星剣から光の刃を発射し、董卓の腹に命中した。
「ウギャァーーーーー!」
董卓が落下したので、止めを刺すべく曹操も董卓めがけて落下した。
「止めだ!」
だが……
曹操同様、董卓殺害の為に董卓軍本陣に忍び込んだ呂布は地上に降り注ぐレーザーに気付いて空を見た。すると、董卓と曹操が空を飛び回りながら人智を超え過ぎた激戦を繰り広げていた。
「何だ……あれは……?」
董卓軍は上へ下への大騒ぎ。とても呂布に構っていられる状況ではない。
暫くして、人間離れした空中戦は曹操の勝利に終わったらしく、董卓が呂布の足下に落ちた。これを見た呂布の中で何かがはじけた。
董卓を殺そうと董卓めがけて落下する曹操。
「滅びよ魔王!」
呂布は手にしている愛用の武器・変々戟で曹操を護っているバリアを何度も叩いた。そのせいで曹操は手元が狂い、千載一遇のチャンスを失った。
その間に董卓が叫ぶ。
「敵じゃー!曹操を殺せー!」
直ぐに董卓軍兵士に取り囲まれた。神兵化した曹操にとっては造作も無い事だが、これ以上の神兵化の無駄遣いはエネルギー補充の時間を悪戯に増やすだけであり、その隙を狙って人間に転生した魔王その②に襲われたら元の木阿弥だ。
「き、今日はこのぐらいにしてやる!憶えておれー!」
捨て台詞を残して飛び去る曹操であった。
結局、曹操の董卓暗殺の邪魔をしただけだった呂布が丁原軍本陣に戻った。
「戻ったか呂布!董卓軍本陣でもの凄い音と火柱が起こったが、おぬしは何か知らんか!?」
呂布はつまらなそうに報告した。
「曹操が董卓を襲った」
「襲った!?して、曹操軍はその後どうなった?」
「いや、曹操は一人で来た」
「暗殺か?私と同じ事を考える者がおったか」
丁原のこの言葉に嫌気が差しつつ自分の部屋に戻る呂布。
「あ!待て、それで曹操の……行ってもうた」
呂布は考えた。彼は元々強い敵を感じると真っ先に向かっていく戦闘狂的な性格であり、血を滾らせるより強い相手との戦いを求めひたすら強さのみを追求する侠なのだ。
だが、そうとは知らぬ丁原の策は、強敵との戦いは極力避け、最小限の被害だけで望んだ結果を得ようとするモノであった。実に軍師らしい考え方だが、戦闘狂的な呂布にとっては理解しがたい方針である。
李儒のあの言葉も呂布の心を揺さぶっていた。
李儒が曹操と董卓の空中戦で受けた被害を確認しながら独白。
「まさか曹操が神兵化能力を持っておったとは」
「神兵化?」
李儒は漸く呂布の存在に気付いた。
「な、何じゃお前!?」
「そんな事はどうでもよい!」
「どうでもよい訳が―――」
「それより、神兵化とはなんだ?」
李儒は訳が分からぬまま神兵化について簡単な説明をする。
「神兵化とは全能力を飛躍的すぎるに上昇させる術の事だ。神兵と化した曹操は恐らく無敵だ!多分……きっと……」
呂布は決心した。
「呂奉先様、丁建陽様が御呼び―――」
「俺は回すぞ」
兵士達は呂布の言っている意味が全く解らない。
「は?一体何を?」
「俺は曹操を敵に回す。あの者こそ我が生涯最良の好敵手じゃ」
兵士達はお互いの顔を見合いながら返答に困った。
「それより、曹操は董卓暗殺に成功したのかが知りたいと丁建陽様が申しております」
「あんな腰抜けの事なぞ知らん。俺は曹操を敵の回す」
そう言いながら愛用の武器・変々戟を握りしめる呂布。その目には殺気が充満していた。
「だが……董卓は俺より先に成し遂げた……曹操を敵の回すと言う偉業をな!」
そう言いながら味方である筈の兵士を一刀両断する呂布。それを見ていた他の兵士が慌てて逃げた。
「呂奉先様御乱心!呂奉先様御乱心で御座るぞー!」
その頃、董卓軍本陣は曹操と董卓の空中戦の後始末を急ピッチで進めていたが、流れ弾による被害が甚大過ぎて最早軍隊とは言えなかった。
李儒が悔しそうに言う。
「曹操め!これでは丁原との戦に惨敗してしまう。いや、もう既に敵方は夜襲の準備に取り掛かっておるやもしれん」
その時、丁原軍兵士が慌てて董卓軍本陣に駆け込んで来た。
「呂奉先様御乱心で御座ーる!」
李儒が訳の解らない事尽くしな展開に軽く混乱した。
「何じゃぁー!?敵兵が我が軍の本陣に助けを求めに来おった!?」
其処へ、呂布が丁原の首級を持ってやって来た。
「曹操に伝えい!俺は貴様の敵の味方だとなぁー!」
李儒が驚きっ放しだ。
「まさか……丁原軍3万を相手に1人でか!?」
そう、本当に1人で倒したのだ。
呂布は丁原軍最強の戦士なだけあって武芸百般の猛将。しかも愛用の武器・変々戟は戦況に応じて5形態(薙刀、鎖鎌、大鋏、大刀、弓)に組替えることができる優れものである。
この鬼に金棒の様な組み合わせと、呂布の本性を見抜けなかった丁原の失態の前に丁原軍は瓦解したのだった。
丁原軍と言う邪魔者が消えた上に武芸百般で一騎当千な猛将・呂布まで手に入った董卓は、張譲と段珪の逃走に巻き込まれた時に突発的に思いついた野望を実行に移す事にした。
「さて諸君、今上帝には君主の威厳が備わっておらず、これでは天下は収まらん。よって退陣して頂き、替わって、英明なる陳留王・劉協(字は伯和)様に御即位願おうと思うが……どうだ?」
勿論、何太后がそれを許す筈が無いが、曹操を失った劉弁と何太后なんぞ恐るに足らず。その証拠に都の軍事は董卓に完全に掌握されていた。
因みに、丁原軍壊滅の最大の功労者である呂布は、その功績を称えられ騎都尉に任命された。
「うおらぁー!董卓氏に刃向う者はこの俺が食っちまうぞー!」
呂布に太刀打ち出来ずに董卓の為すがままと成ってしまった。こうして、董卓に反対した外戚と文官は全て都から追い出された。
「ようし!これで決まった!新しい時代の始まりだ!めでたいめでたい!ガハハハハハ!」
この勢いを借りて劉弁を廃位し、陳留王・劉協を帝位に就けた。この時、劉協は僅か9歳。政治の実権は董卓の手中に堕ちた。調子に乗ってしまった董卓は相国(廷臣の最高職で半永久欠番状態となっていた)を名乗った。
この頃、曹操達は引っ越しの支度をしていた。
「私のせいだ。私がちゃんと董卓に止めを刺しておればこんな事には」
哪吒と二郎真君が曹操を宥める。
「いいえ、貴女は全力を尽くしました。あの結果は只の不運です」
「そうだよ!悪いのは呂奉先とか言うおっさんだよ!本当に何考えてんだ彼奴は!?阿呆かい!」
「哪吒殿……顕聖殿……」
哪吒と二郎真君の励ましに涙ぐむ曹操。しかし、
「どちらに行かれるのですかな曹操殿?」
李儒が曹操の許を訪れた。まるでこの後の激戦を予想するかの様に雷鳴が鳴り響いた。
「どちら様ですか?」
「私は李儒。董卓軍筆頭軍師をやらせて貰っておる者だ」
それを聞いた曹操達はとっさに身構えた。
「邪魔者を消しに来たって訳かい」
すると、李儒の周りに複数の小凶・中凶が集まって来た。
「その通り、貴方方は一度董相国に刃を向けた。貴方方は……危険過ぎる!」
曹操が意を決して叫んだ。
「突っ切るぞ!我に続け!」
土砂降りの大雨の中、曹操達は邪凶の群れに突っ込んだ。
手始めに哪吒が、
「金磚」
と言うと、邪凶の群れの脳天に無数の金ダライが降って来た。
「な、何だー!?」
その隙に二郎真君が銀色の鎧を身に纏う大きな牛に変身して邪凶を次々と突き飛ばす。
哪吒と曹操も負けじと邪凶を次々と斬り殺す。
曹操達は既に小凶・中凶クラスの邪凶を凌駕していたのだ。これには李儒も驚愕するしかなかった。
「アイエエエ! 」
李儒が助けを求めるかの如く呂布に向かって叫ぶ。
「行けー!」
「ハイ!ヨロコンデー! 」
立ち塞がる呂布を見て曹操達の足が止まる。
「この時を待っていたぞ曹操!貴様こそ我が生涯最良の好敵手だ!」
哪吒が悪態を吐く。
「またかよ!本当に阿呆だな!」
意に還さない呂布。
「ふん。貴様の様な小娘に用は無い」
「何だとぉー!」
曹操が困った顔をしながらこう答えた。
「スマンが……私は忙しい。それに……」
「それに?」
曹操が真顔で怒りを込めて言い放つ。
「私は認めない……民に明日を踏み躙る暴力が、正義であって堪るものか!」
其処へ、別の人物が声をかけた。
「御意!曹操殿は忙しき!」
李儒が声の主に声をかける。
「だ、誰だ!?」
すると、2匹の金の龍が李儒と呂布を襲った。
「拙者は趙公明。截教の総帥・通天教主親方様の命ににて、曹操軍に仕官しに参った截教に属する仙人でござる」
声がする方を見ると、黒虎に跨り金色の鋏を持つ目が細くて太めの柔道型男性がいた。
「哪吒で候、乾坤圏を使ゑ!」
「あいよー!て、何で知ってんの!?……は後回しだなこれは」
哪吒の右腕の金の輪っかから強烈な光を放ち李儒と呂布の目を眩ませる。
呂布が慌てて叫ぶ。
「待てー!逃げるなー!」
曹操聖女伝第2章の重要登場人物
●刑天
所属:殷王朝
種族:人間(?)
性別:男性
卞宣の護衛をしていた兵士だったが、仙邪戦争で戦死した魔王の1匹である蚩尤に敗れ、首を失った。それでも戦うことを諦めず、乳首を目に、へそを口にして生き延びて、楯と斧とを持って頭のないまんまで暴れ続けた。
だが、蚩尤が卞宣に意趣返しのつもりで蚩尤化の呪いをかけた事により、2000年近くもの間蚩尤化の呪いの速度をほぼ0にする結界を護る番人であり続けなければいけなくなった。曹操曰く「刑天は自分を責め続けている」らしい。
その後、曹操の手によって蚩尤の亡霊が完全消滅し、卞宣が人間に戻れたのを確認すると、「これで心置きなく消滅出来る」と言いながら成仏した。
●卞宣
所属:殷王朝→曹操軍
種族:人間(?)
性別:女性
殷王朝の始祖といわれる伝説上の人物・契帝の娘。
殷王朝の基となった国が魔王蚩尤率いる邪凶の襲撃に遭い、見かねて仙人達に自己談判した事が仙邪戦争の発端の1つとなった。
そこで蚩尤は卞宣に蚩尤化の呪いをかけたが、仙邪戦争に参加した仙人達や妖怪達が蚩尤化の呪いの速度をほぼ0にする結界を産み出した事で、卞宣は2000年近くも眠り続ける事になる。
その後、曹操の手によって蚩尤の亡霊が完全消滅し、卞宣は人間に戻れたが、刑天が安堵し過ぎて消滅してしまったので、暫くは自分を責め続けたが、曹操の「貴女が人間に戻れるのが刑天の真の願いだ」の言葉を受け未来に生きる事を決意した。
周囲には“曹操の側室”と思われているが、袁紹に「側室?女同士でか?」と突っ込まれた。
●蚩尤
身長:4m
体重:360kg
所属:邪凶軍
種類:邪凶
邪凶ランク:魔王
性別:男性
紀元前18世紀頃の中国大陸で猛威を振るった魔王クラスの邪凶。四目六臂で人の身体に牛の頭と蹄を持つ。
私利私欲を満たさんと殷王朝の基となった国を配下の邪凶達と共に襲撃したが、これが仙邪戦争の引き金となり、妖怪達の裏切りに遭い、仙人達に討ち取られた。
だが、討ち取られる前に卞宣に蚩尤化の呪いをかけ、仙邪戦争終結後は卞宣の体内で復活の時を待っていたが、神兵化した曹操に卞宣の体内から引き摺り出されて消されてしまった。
武器・技
武器召喚
様々な種類の武器を次々と発生させて装備する。ミノタウロス系の邪凶は空間から好きな武器を好きなだけ取り出せる。ただし、後述の理由から弓矢や弩クロスボウはあまり使用しない。
暗黒瘴気弾
蚩尤の邪悪な闘気を瘴気弾として6本腕から連続発射する。1発1発はカタパルト (投石機)に匹敵する破壊力を誇るが、神兵化した曹操には全く効かなかった。
邪凶化
対象者を邪凶に変えてしまう呪い。その気になれば対象者を蚩尤に変えてしまう事も可能。
邪凶召喚
魔王クラスの邪凶が持つ能力の一つ。魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る。
●袁紹
所属:漢王朝→袁紹軍
種族:人間
性別:男性
字:本初
後漢時代に4代にわたって三公を輩出した名門汝南袁氏の出身。曹操の幼馴染。
貫禄ある風貌で、丁寧な物腰であった為、人々からの信頼は厚い。だが、上司運は無いらしく、何進や劉虞の弱腰に泣かされる事もある。
軍の指揮能力に長けている反面、直接的な戦闘が苦手で、顔良や文醜の武勇を過大評価している。
大将軍の何進と協力して激しく宦官と対立。宦官勢力を壊滅させることに成功したが、董卓との抗争に敗れ、一時は首都の洛陽より奔り逼塞を余儀なくされたが、後に関東において諸侯同盟を主宰して董卓としのぎを削った。
同盟解散後も群雄のリーダー格として威勢を振るい、最盛期には河北四州を支配するまでに勢力を拡大したが、官渡の戦いにおいて曹操に敗れて以降は勢いを失い、志半ばで病死した。
武器・技
土竜戦法
名門汝南袁氏の財力にモノを言わせて地中から敵軍の本陣を強襲する作戦。時間は掛るし労力も半端じゃないが、決まれば完全に敵軍の意表を突ける。
移動できる塔戦法
名門汝南袁氏の財力にモノを言わせて、車輪を付けて移動出来る様になった物見櫓を大量生産する。
偽猜疑心戦法
偽りの離反騒動を起こす事で敵軍を特定の場所に案内する作戦。待ち伏せ作戦と組み合わせると更に強力な戦法になるのだが……。
●董卓
身長:172cm
体重:93kg
所属:董卓軍
種類:邪凶
邪凶ランク:魔王
性別:男性
字:仲穎
人間に転生した魔王その③。西域戊己校尉。
本来、只の地方領主で終わる筈だったが、袁紹に呼び出されて首都洛陽に軍勢を進めた。その際、袁紹の宦官大量虐殺から逃げ出した張譲と段珪に出くわしたのでそれを殺害し、今上帝と陳留王を救出して洛陽に帰還した。
董卓が洛陽に入った時は3000ほどの兵力しかなかったので、殺害された何進や何苗の軍勢を吸収して軍事力で政権を手中におさめたが、執金吾の丁原の不信感を買いあわや大戦になるかと思われた。
丁原軍との大戦前日に董卓の正体が人間に転生した魔王だと見抜いた曹操の襲撃に遭い、董卓軍は半壊し董卓自身も腹に大怪我を負った。だが、これが呂布の丁原軍への裏切りの引き金となり、何とか丁原軍に勝利した。
その後、少帝の生母である何太后を脅して少帝を廃し弘農王とし、陳留王を皇帝とした(献帝)。その直後、何太后が霊帝の母である董太后を圧迫したことを問題にし、権力を剥奪した。その途中で相国(廷臣の最高職で半永久欠番状態となっていた)を名乗った。
反董卓連合軍出現後は、曹操の力を恐れ反対を押し切って長安に強制的に遷都した。その際に洛陽の歴代皇帝の墓を暴いて財宝を手に入れ、宮殿・民家を焼きはらった。だが、王允の策略によって自分が丁原軍に勝利する切っ掛けを作ってくれた呂布に殺された。
武器・技
祭玉
空中に無数の装飾雑多な鞠の様な鉄球を発生させる。脳波で誘導制御出来る他、無数のロケット花火や火の点いた爆竹をマシンガンの様に発射できる。派手好きな董卓の最もお気に入りな技だが、威力はいまいち。
孔雀光
お尻の孔雀の様な鮮やかな飾り羽(お尻への収納も自在)を発光させて敵を怯ませる。また、巨大な幻影となって炎を巻き起こす事も出来る。
飛行能力
肥満体質でありながら蚤の様な人間離れした跳躍力とまるで燕の様な飛行能力を有する。
目からビーム
両目から着弾点を爆破・炎上させるレーザーを発射する。
酷牛刀
董卓愛用の大刀。刀身が大きくて黒いのが特徴。重量は20kgだが、董卓はこれを片手で楽々と扱う。
邪凶召喚
魔王クラスの邪凶が持つ能力の一つ。魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る。
●李儒
所属:董卓軍
種類:邪凶
邪凶ランク:大凶
性別:男性
董卓軍筆頭軍師であり、董卓の懐刀とも言うべき知恵袋的人物として活躍する。そんな彼も曹操の前では歯が立たず、幾度も煮え湯を飲まされている。
武器・技
羽扇
主に指揮棒の代わりとして使用する。
邪凶操作
大凶クラスの邪凶が持つ能力の一つ。中凶以下の邪凶を束ねる事が出来る。
曹操聖女伝第3章
橋瑁(字は元偉)は我慢が出来なかった。
朝廷の実権を握った董卓は、洛陽の富豪を襲って金品を奪ったり、暴飲暴食三昧と好き勝手だ。
人事も出鱈目で、まだ簪も挿していない(成人していない)孫娘・董白に渭陽君として領地と部下を与えそれを証明する印綬まで授けた。
このまま董卓の専横を見て視ぬフリをしていて良いのか。いや、良くない!良い筈が無い!だが、橋瑁には力が無い。橋瑁だけでは董卓に勝てない。
しかし、
「貴方が橋瑁殿か?」
「そなたは?」
「私は曹操と申します。どうやら董卓がお嫌いだと聞きましたが」
橋瑁は董卓への怒りを荒々しく口にした。
「あの男は人間ではない!人間の皮を被った獣だ!」
橋瑁の想いを聴いた曹操はある知恵を授けた。
「ならば他の諸侯を一箇所に集めるのです。酸棗辺りが良いかと」
橋瑁は至極真っ当な質問をするが、
「しかしどうやって?」
曹操はしれっと言い放つ。
「三公の公文書を偽造し、董卓に対する挙兵を呼びかける檄文を造れば良い」
それを聴いた橋瑁は納得した。
曹操は早速橋瑁に檄文を書かせた。
それから間もなく、曹操の義従弟・曹洪(字は子廉)が私兵を率いて陳留に到着。続いて曹仁(字は子孝)と曹純(字は子和)も駆け付けた。更に、帳下の吏(記録係)の楽進(字は文謙)まで1000もの兵を引き連れ帰還して、結果、曹操軍は兵力5000以上となった。
曹操軍が出陣の前祝をしていると1人の男が馬に乗ってやって来た。
「曹操殿、張邈(字は孟卓)様からの差し入れです。軍資金の足しにして欲しいとの事です」
「これはありがたい!」
「ところで……貴方の御名前は?」
男は漸く自己紹介を忘れていた事に気付いた。
「あ!いけねぇ、忘れてた!」
皆が笑う。
「おいらは己吾の人間で張邈様の家来の家来になったばかりの典韋ってもんです」
曹操は典韋を甚く気に入った。
「なかなか良い面をしとる。気に入った。お前も一杯やっていけ」
「頂きます!」
典韋は曹操から貰った酒を一気飲みした。
「プハー!うめぇー!」
再び皆が笑う。皆、本当に戦場に行くと言う悲壮感が微塵も無かった。
曹操、橋瑁、張邈の軍勢が酸棗に布陣していた頃、洛陽の董卓は困り果てていた。
「曹操の奴、やはりまだ儂の命を狙っておるのか!」
「橋瑁が偽装した公文書に従い酸棗にのこのこやって来た事を考えますと……」
董卓は一度曹操に殺されかけていたので、極力曹操との再戦を避けたかったのだが、曹操が天下を統一し邪凶のいない平和な世の中を目指す限り、魔王クラスの邪凶である董卓は曹操に命を狙われる運命にある。
李儒が提案する。
「真面にぶつかる等と考えない方が宜しいかと。とりあえず長安に下がり様子を窺うのが上策かと」
李儒の提案に納得する董卓。
「そうだな、長安なら我が本拠地に近くて安全だからな」
しかし、他の文官達が反対する。
「しかし、長安は荒廃して住民も少なく、遷都に耐えられないかと」
それでも曹操との直接対決を避けたい董卓の意思は固い。
「洛陽の住民を一人残らず連れて行く!嫌とは言わせん!」
今度は呂布が反対する。
「どうせ曹操が怖いだけだろう!ならば曹操を殺せば良い!」
それを聴いた1匹の大凶クラスの邪凶が名乗りを上げた。
「ならば私にお任せし、董相国はゆっくりと長安に向かいなされ!」
「胡軫(字は文才)か?」
すると、人間の様な体型をした鶏の様な邪凶が現れた。
「本当に出来るのだな?」
「お任せを」
董卓は2匹の中凶クラスの邪凶を召喚しながら、胡軫に命令を下した。
「胡軫!お前には5万の兵を預ける!今すぐ酸棗にいる曹操を殺せ!華雄!徐栄!お前達には2万ずつの兵を預ける!これなら胡軫隊が伝令や兵糧集めに兵を割く必要性が少しは減るだろう!」
華雄は人間の様な体型をしたヒヨコの様な、徐栄は人間の様な体型をした雀の様な姿をした中凶クラスの邪凶だ。
胡軫は満足げに答える。
「少々多い気がいたしますが、まあ何、大船に乗ったつもりで吉報をお待ちください!」
胡軫、華雄、徐栄が退席すると、董卓はとんでもない事を言い始めた。
「それー!城外百里に渡って火を放って!強制的に長安に旅立たせるのだぁー!」
その際に洛陽の歴代皇帝の墓を暴いて財宝を手に入れ、宮殿・民家を焼きはらった。正に強行策である。
また、長安への遷都中に李儒が一旦董卓の許から離れた。董卓に廃された前皇帝・劉弁を曹操に利用される前に殺害する為である。
「先に動いたのは敵さんの方ですね」
董卓配下の大凶クラスの邪凶・胡軫が9万の兵力を持って酸棗に進軍しているのだ。
対して反董卓連合軍は未だに曹操、橋瑁、張邈の軍勢のみであった。やはり公文書を偽造したのがばれたのか、それとも自らの利益を重視していたためなのか、諸侯が全く集まらない。
業を煮やした曹操が歩み出る。
「言い出したのは私だ。私が責任をとる」
張邈は呆れながら言い放つ。
「止めても無駄の様だな!よし、たいした協力は出来んが、俺の兵を少しばかり随行させよう」
「恩に着るよ張邈」
曹操が自分の陣内に戻るや否や、
「出撃だ。董卓軍が酸棗を攻めて来た」
それを聞いた哪吒が皮肉を言う。
「やるな董卓!どこぞの駄目諸侯共とは大違いだぜ!」
趙公明も一応同感する。
「かは義挙なんじゃぞ!損得を思案する刹那かで候!」
が、二郎真君が残念そうに首を横に振った。
「所詮は自分さえよければ全て良しの者達ですからね、私達仙人や妖怪の様なしっかりとした信念が彼らには無いのですよ。曹操殿を見習って欲しいです」
曹操が照れくさそうに命じる。
「馬鹿やってないでさっさと行くぞ!敵軍は待ってくれないぞ!」
一方、本当に曹操が酸棗に居るのか不安になってきた胡軫は、徐栄隊2万を斥候部隊として先行させた。
「胡軫様」
「ん?何だ華雄?」
「これだと、曹操の首級が徐栄の手に渡ってしまいますが―――」
胡軫は気楽に答えた。
「それならそれで良いではないか。楽だし、曹操がそこまでの者なら俺様の出番は無いよ」
滎陽県汴水で曹操軍と徐栄隊が遭遇したため、董卓軍対反董卓連合軍の初戦が唐突に始まった。
燥ぐ哪吒。
「うほほい!敵の大軍だあ!旗印は“徐”の文字……」
二郎真君が予測する。
「恐らく董卓配下の中凶の徐栄かと思われます」
曹操が薄ら笑いを浮かべる。
「中凶が長の部隊か、嘗められたモノだな」
趙公明が景気の良い事を言いだす。
「されば彼らを撃破して董卓の眼を覚ましめてやりましょうぞ!」
曹操は自軍に号令をかける。
「此処まで来て引き下がるわけにはいかん!みんな心してかかれ!」
「オオーーー!」
一方の徐栄は慌てふためく。
「“曹”だと!?いきなり曹操がお出ましかよ!だが、敵は少人数だ!一気に押しつぶせ!」
「うおー!」
武勇に優れた仙人を3人も有している曹操軍であったが、曹操の本当の両親を失った時と同様、今回も数の暴力に悩まされる事になる。
徐栄隊は質の差を埋める事が出来ず、曹操軍は数の差を埋める事が出来ず、曹操も無駄に神兵化して悪戯に七星剣のエネルギー補給の時間を増やす訳には行かず、丸一日続いた戦いは結局決着を見なかった。
「みんな良く戦ってくれた。これで曹操軍の武勇が天下に轟く事になろう。それだけでも戦った意味はある」
曹操の励ましの言葉に対して哪吒は悔しそうに言う。
「くそう!兵の数がせめて倍有れば何とかなったモノを!」
だが、趙公明は哪吒の意見に否定的だ。
「いやはや、戦は数だけならば出来ん。数と質、しかして智の三拍子そろとはこそ天下無双の軍団と云ゑるのでござる」
「でもよー」
それを聴いた曹操は皆に誓う。
「しかし、私は誓うぞ!いつか必ず、どんな邪凶にも屈さぬ地盤を持ってみせるぞ」
圧倒的な数の差のみで曹操軍に引き分けた徐栄隊が酸棗襲撃部隊の本隊に合流すると、なぜか慌しかった。
「な、何事!?」
兵士の1人が事情を簡潔に説明した。
「華雄様、討死!」
「え……?」
事情がいまいち呑み込めない徐栄。
さて、曹操軍が徐栄隊と戦っていた頃、董卓軍酸棗襲撃部隊は何をやっていたかと言うと。
「報告します。魯陽にて不審な動きを見せる一団を発見しました」
それを聴いた華雄がいきり立つ。
「橋瑁の呼びかけに応えた馬鹿の仕業でしょう。ここで叩き潰しとくべきでしょう」
只殺戮をしたいだけの華雄と違い、胡軫は冷静だ。
「待て、魯陽からだと酸棗からは遠い。橋瑁の呼びかけに応えたと言えるのか?」
華雄は何とか胡軫を説き伏せようと必死だ。そんなに殺戮がしたいのか。
「劉焉(字は君郎)でしょう。益州からだと―――」
「いや、本気で董相国を狙う者が益州にいたとすれば、酸棗なんぞに行かずに直接洛陽に殴り込む筈だ。あの時の曹操の様に」
事実、劉焉は、賈龍らに迎えられて益州に州牧として赴任し、綿竹県を拠点とした。劉焉は離反した者達を手懐け迎え入れ、寛容と恩恵で住民を懐柔しながら、秘かに独立する構想を持ったという。
「じゃあなんですか?あの集団は?」
「近づかん方が良い。我々の目的は曹操を殺す事だ。先頭の徐栄隊の報告を待ってから動いても遅くはあるまい」
しかし、夜中の内に華雄隊が本隊から抜け出し、不審な動きを見せる一団がいる魯陽に向かった。
「あの馬鹿」
魯陽に到着した華雄隊の目に留まったモノは、“孫”一文字の旗。孫堅軍だ。
一体なぜ孫堅軍が魯陽にいたのかと言うと、荊州南部で起こった区星の反乱鎮圧の最中に反董卓連合軍の報を聴いたのだ。最初から参加する心算であったが、孫堅軍の反董卓連合軍加盟を後押ししたのが袁術(字は公路)である。
袁術もまた名門である汝南袁氏出身であるが、同族の袁紹が自身より声望が高いことを妬んでおり、今回の反董卓連合軍を使って汝南袁氏の当主の座を袁紹から奪おうと考えていた。ちょうど反董卓のために挙兵し北上してきた長沙太守の孫堅が南陽太守の張資を殺害していたところであったため、袁術はその後任として南陽郡を支配し、孫堅を影響下においた。
しかし、二兎追うものは一兎をも得ずというが、呆れた事に袁術軍が道に迷ってしまい、酸棗に行くはずが間違えて魯陽に到着してしまったのだ。孫堅軍もこれに巻き込まれて魯陽に到着。
其処へ、董卓軍酸棗襲撃部隊の本隊から抜け出した華雄隊まで魯陽に到着してしまったのだ。
「大将!何か来やすぜ!?」
「旗は?」
「“華”の様ですぜ!」
孫堅は部下の報告に対して首を傾げた。
「はて?性が華の諸侯がいただろうか?」
袁術が意見する。
「いや、違う!そんな名の者は聞いた事が無い」
「だとすると……董卓軍の刺客か!?」
こうして、孫堅軍と華雄隊が魯陽で激突した。
(なんだ?あの化け物は?黄天軍の一員の中にも似たような者がいた様な気が……)
「我は孫文台!貴様は誰だ!?」
「董卓軍酸棗襲撃部隊小隊長の華雄だ!貴様らは魯陽で何をしている!?」
「酸棗に行くはずが間違えて魯陽に到着してしまったのだ!酸棗は何処だ!?」
「酸棗だと!?貴様は曹操の董卓殺害に協力する気か!?」
孫堅が不敵に笑う。
「いや……違う」
「ではなぜ酸棗を目指す!?」
「私が董卓を殺すからだ!」
「ぬかしたなー!良いだろう!貴様達の体に流れる血を曹操殺害成功の前祝の酒にしてくれるわ!」
「やめておけ。江東の虎の血は荒々しすぎて口に合わんぞ!」
この戦いは、曹操軍対徐栄隊と違って数はほぼ互角。故に質の差が結果に影響する。
曹操戦の余興程度にしか考えていなかった華雄隊に対して、孫堅軍は朱治(字は君理)や程普(字は徳謀)などが気を吐いてくれた御蔭で士気が非常に高かった。特に黄蓋(字を公覆)なんか大張り切りで、
「うおらー!大将首は何処だ!?」
と言いながら多節棍に変形する特殊な鉄鞭と虎が彫りこまれた盾と鋭い爪が一体になった武具を振り回しながら敵陣に突っ込む。
最初の内は余裕だった華雄もこれには驚きを隠せない。
「な、何故だぁーーー!何故我らが手古摺る?董卓に選ばれた我々が!?」
そうこうしている内に、目の前に孫堅を乗せた軍馬が迫って来た。
「おのれー!これでも食らえ!」
華雄は背中のヒヨコの翼から羽手裏剣を連射したが、孫堅を乗せた軍馬がジャンプで躱してしまった。
「くそ!貸せ!」
慌てて馬に乗り槍を握りしめる華雄。
孫堅の刀と華雄の槍の応酬は孫堅の勝利に終わり、華雄は大きく背中をそらし、そのまま落馬してどさりと地面に突き落とされた。
孫堅が勝利を宣言した。
「敵将華雄、討ち取ったり!」
その言葉を聴いた華雄隊の兵士達が蜘蛛の子散らす様に逃げてしまった。
「逃げる者は追うな!手向かう者とだけ戦え!」
その2日後、徐栄隊が曹操軍と引き分け、華雄隊は壊滅状態。董卓軍酸棗襲撃部隊でありながら酸棗を拝む事無く汜水関に引きこもる羽目になった。
袁紹軍が酸棗に到着し、孫堅軍と袁術軍が漸く酸棗に到着。その際、孫堅が華雄の首級を梟首にしたと言う噂が流れた事で、漸く他の諸侯も重い腰を上げた。
しかし、袁紹は少々憂鬱だ。それは、袁紹軍の遅参に関係があった。
「元気が無いな。どうした?」
「実はな……俺は上司運が無いのかもしれん」
袁紹の意味不明な言葉に曹操は答えようがない。
「劉協様の後見人となった董卓に対抗して、漢王室の年長の宗室である劉虞(字は伯安)を皇帝に擁立しようとしたが―――」
それを聴いた曹操が激しく反論。
「馬鹿げている!それでは規律と大義に反する!そんな事は通せない!」
袁紹はため息を吐きながらこう答えた。
「劉虞にも同じ事を言われたよ」
結局、劉虞擁立が難航した事が袁紹軍の遅参に繋がり、要らぬ無駄足となった。
その後、鮑信・王匡・孔伷・劉岱・張邈・張超・橋瑁・袁遺・韓馥・朱儁・許瑒・李旻・崔鈞らが集まり、反董卓連合軍は漸く“らしく”なってきた。
曹操は会議の場でこう言い放った。
「孫堅殿の話では、董卓軍酸棗襲撃部隊が汜水関に籠っておるとの事。そこでまずは我々曹操軍が先鋒となり、汜水関城門を攻撃します。その後は各諸侯の判断に任せたいと思う」
反対意見は無い。他の部隊が自分達の部隊の被害を軽減してくれるのはありがたい事だからだ。
(美味しい所だけ貰おうとしているのが見え見えだな)
「後は、私が汜水関を攻撃しに行った後の盟主役には袁紹を推したいのだが、皆さん宜しいか?」
袁術が早速反論したが、だれも聞いてくれなかった。
「連合軍を纏められるのは、この俺しかおるまい!」
「なんでだよ!?この袁術を差し置いて!」
(早速諸侯は互いに牽制か……漢王朝の今後はどうなってしまうのだ)
呆れる曹操をしりめに会議は終了した。
その頃、汜水関では胡軫が困り果てていた。
「なんて事だ!このままでは董相国に顔向けが出来ん!」
徐栄が慌てて胡軫を宥める。
「大丈夫です!我々の目的は曹操を殺す事。酸棗で殺すも汜水関で殺すも同じ事です!」
だが、背後から胡軫の感情を逆なでする言葉を言い放つ者がやって来た。
「フン!寄らば大樹の陰か。腰抜けの雑魚らめが」
「なんだとぉ!」
胡軫が後ろを振り返ると、そこには呂布がいた。
「華雄が梟首になったと聞いて長安から駆けつけて来てやったのだ。ありがたく思え」
胡軫が即座に反論する。
「とか何とか言って、本当は曹操と一騎打ちがしたいだけであろう!」
「んん?」
呂布に睨まれた胡軫が急に萎縮してしまった。
「何でも御座いませーん!」
それから2日後、曹操軍は汜水関に到着した。
「到着したのは良いのですが、これから如何いたす御積もりで?」
二郎真君の質問に曹操は笑いながら答えた。
「ここでは人の流儀では無く、仙人の流儀で戦う」
つまりそれは、道術や宝貝が使い放題である事を意味する。
哪吒は大喜び。二郎真君は苦笑い。
「よっしゃー!さっきの借りを返すぞぉー!」
「しかし、そんな事をすれば、諸侯も黙ってはいまい」
趙公明が二郎真君を宥める。
「まあまあ、良きではござらぬか。かも邪凶から地上界を救うためでござるよ」
そんな曹操軍のやり取りを遠くで眺める者が一人。若くして「王佐の才」とも称揚された男・荀彧(字は文若)である。
(やはり、私の目に狂いは無かった。曹操こそ私の望みを叶えてくれる英傑だ。漢王朝を復旧させると言う私の悲願を)
曹操軍の汜水関攻略が始まった。
先ず始めに城壁の弓兵や散兵を片付ける。その役目は哪吒と二郎真君だ。
手始めに哪吒が、
「金磚」
と言うと、城壁の弓兵達や散兵達の脳天に無数の金ダライが降って来た。
その隙に哪吒と二郎真君が城壁の上に登る。風火輪を持つ哪吒と七十二変化の術であらゆるモノに変身する二郎真君にとって、城壁を飛び越える事は造作も無い事だ。
「ひえー!鷹が仙人に化けやがった!」
「うわー!何何だこの小娘は!うお!」
哪吒と二郎真君が卓越した槍捌きで城壁の弓兵達を蹴散らしていく。
胡軫にとっては困った事態である。敵軍への遠距離攻撃が出来なければ、城壁の意味は半減する。壁に梯子をかけるも良し、門を壊すも良し。勿論、曹操がこの好機を逃す筈が無い。
「趙公明殿!金蛟剪を!」
「任させた!」
趙公明の持つ鋏・金蛟剪は仙邪戦争後期に作られた宝貝で、龍型大凶2匹が封印されており、攻撃時には2匹の金の龍を出現させ、鋏を動かす事で2匹の金の龍を自在に操るのである。
その例の2匹の金の龍が門を押してこじ開けようとしていた。
胡軫が必死で命じる。
「門を抑えよ!城壁の兵達は何をしている!早く門を攻撃している者達を攻撃しろ!」
だが、城壁の弓兵達は哪吒と二郎真君に翻弄されてそれどころでは無い。その間にも閂が悲鳴をあげる。
胡軫が慌てふためく中、呂布はわざとらしく欠伸をしながら嬉々としてこう告げた。
「漸く俺の番か……待ちくたびれたぜ!」
その間、反董卓連合軍は曹操の汜水関攻略を遠くから傍観していた。しかし、一人気を吐く者が余計な事を言い始めた。
「孫堅殿、そう目くじらを立てなくても―――」
「何を言われるか!今回の集まりの元は曹操と聞き及んでおりますぞ!このまま曹操に功績を奪われてばかりで良いのですか!」
しかし、孫堅の言い分も馬の耳に念仏だ。
「曹操が戦いたいと言っておるのだ。戦わせておけば良い」
が、伝令の一言で事態は一変した。
「総大将!汜水関の城壁の敵兵が一掃されました!」
孫堅がちくりと皮肉を言う。
「ほれ見た事か。曹操を勢いだけの小娘と侮ったのが失敗でしたな。曹操は最初から勝算あってこの戦いに臨んでおったのだ」
鮑信が孫堅支持に回る。
「よう言うた孫堅殿!宦官の孫娘ばかりに活躍の場を奪われてばかりでは、諸侯の名が泣きましょう!」
そこまで言われては引っ込みがつかないので、袁紹は渋々命令した。
「では曹操軍を後方に下げ、孫堅軍と鮑信軍が汜水関攻略の攻略に当たれ」
そんなやり取りを聴いていた荀彧はため息を吐いた。
(やはり漢王朝の命運を託すなら……袁紹より曹操だな)
武勇に優れた仙人3人による汜水関城壁への攻撃を満足げに見ていた曹操であったが、直ぐに孫堅に呼ばれ、
「交代だ。そなたらは後方に回れ」
「何ですと」
汜水関城門を金蛟剪で攻撃中の趙公明の背後から威勢の良い声が響く。
「おらおら、退け退け!」
趙公明が後ろを振り返ると、大きな丸太を持った複数の兵士が城門に突撃しようとしていた。
「やいやい、まふ交代かで候」
汜水関城壁で暴れまわる哪吒も異変に気付く。
「どうなってんだ!?」
二郎真君が納得したかの様な顔をした。
「旗印は“孫”。と言う事は、華雄を斃したあの男の差し金か。成程成程、どうやらただ気が荒いだけでは無い様ですね」
胡軫は反董卓連合軍の攻撃手段が仙人の流儀から人の流儀に変わった事で、更に混乱した。
「のわー!只でさえ曹操殺害命令を未だに遂行できていないのに、更に厄介事が増えるのか。しかもあの旗印は華雄を殺った者ではないか!」
呂布が少々焦る。
「早う門を開け!曹操に逃げられてしまうではないか!」
その直後、金蛟剪の攻撃に晒された閂が遂に破壊され、鮑信軍兵士が雪崩込んだ。
「木っ端共、どけどけ。曹操は何処に在りや」
呂布が叫びながら鮑信軍兵士達を蹴散らして突っ込んで行く。
それを見ていた曹操が叫んだ。
「呂布だ!」
孫堅が頷きながら言い放った。
「ほう、あれが丁原軍3万を相手に1人で大立ち回りをした呂布か」
汜水関に雪崩込んだ筈の鮑信軍兵士達が呂布に押し返されていた。
「木っ端共、どけどけ。曹操は何処に在りや」
呂布の叫びに哪吒が答えた。
「なら変わろうかー!風変わりな馬鹿オジサン!」
呂布は哪吒の挑発を無視しつつ、曹操を探しながら孫堅軍・鮑信軍兵士達を蹴散らしていく。
「曹操を出せ!曹操と戦わせろー!」
後方で呂布の頑張りを見ていた袁紹はたまげていた。
「なんなんじゃあの男は!?30人がかりで漸く互角だと!?」
袁紹は呂布の飛び抜けた武勇を見て決心した。
「顔良を呼べ!」
朱治、程普、黄蓋が一気にかかって来ても呂布の勢いは止まらない。
「しかし、その程度では俺には勝てん!」
其処へ、細かな装飾が施された、先端が人間の胴の太さをも上回る巨大な金色の鉄槌を振り回し、大声で叫びながら応援に駆け付けて来た男がいた。袁紹が先ほど言っていた顔良である。
「待て!袁本初の許に顔良ありと言う事を教えてやる!」
「ふん、まだ命知らずがいるのか」
呂布は一向に恐れる様子が無い。余裕をもって朱治、程普、黄蓋、顔良の攻撃を捌いた。
其処へ、また応援の男がやって来た。袁紹が頼るもう1人の猛将・文醜だ。肉厚な刃で重圧感を感じさせる巨大な剣が武器だ。
「待て!この文醜が相手する!」
呂布は叫ぶ。
「面倒だ!みんなまとめてかかって来い!」
呂布に言われた通り、朱治、程普、黄蓋、顔良、文醜が一斉に呂布を攻撃するが、やはり丁原軍最強の戦士は伊達では無い。只でさえ兵士30人分の武勇を誇る呂布なのに、5種類の形態を持つ万能且つ臨機応変な武器・変々戟まであるのだ。
朱治、程普、黄蓋、顔良、文醜はあっさり追い詰められた。前進しようとすれば進路を塞がれ、うっかりしようものなら退路まで奪われかねない。
見かねた哪吒が、
「金磚」
と言うと、呂布の脳天に金ダライが降って来た。しかし、
「こんな物が俺に効くか!?」
金ダライを打ち返され慌ててしゃがむ哪吒。
「あ、あっぶねぇー」
袁紹が呂布の強さに舌を巻く。
「なんという男よ。文醜と顔良を、子供の様にあしらっておる」
其処へ徐栄が呂布に声をかける。
「そろそろ引いた方が良いのではー」
この言葉に呂布は、今日は曹操との一騎打ちが出来ない事を悟って苦虫を噛み潰した顔をした。
「く!孫堅め!よくも俺と曹操との一騎打ちを邪魔してくれたなー!この借りは忘れんぞー!」
そう言うと、口笛を吹いて愛用の赤い重種馬・赤兎馬を呼んだ。
「赤兎馬、頼むぞ!」
と赤兎馬に声をかけ、孫堅軍・鮑信軍の囲みを破って汜水関に逃げ込んだ。
それを見た李旻軍は喜び勇んで汜水関の城門を潜ろうとしたが、徐栄隊が呂布の通過を確認すると、一斉に泥の様な油を大量に撒いた。
「な、何だこれは?」
地面に撒かれた大量の油に滑り転んでしまった李旻軍を背中の雀の様な翼でホバリングしながら嬉々として見る徐栄。その手には火の点いた弓矢が。
「不味い!逃げろー!」
李旻が慌てて叫ぶが時既に遅し。徐栄が放った火矢が油に引火し、炎が李旻軍を包んでしまった。
「ぎゃはははは、どうだ!この徐栄様の策は!」
だが、徐栄はとんでもない者を忘れていた。哪吒だ。哪吒の火尖鎗で斬首される徐栄。
其処へ孫堅が胡軫に追い打ちをかける様な事を言いだした。
「甘いわ!左右が崖に挟まれた場所での火計がどれだけ恐ろしいか……それを知らんと思ったか!」
孫堅軍が複数の巨大団扇で炎を押し返してしまった。巻き込まれた董卓軍酸棗襲撃部隊は壊滅状態となった。
その後、炎が収まるのを待ってから孫堅軍が悠々と汜水関の城門を潜った。
曹操軍は孫堅軍に美味しい所を持って行かれた形となった。不敵に笑う曹操。
「孫堅か、中々面白い男よ」
漸く洛陽に到着した反董卓連合軍であったが、その時既に董卓が洛陽の町を焼き払って長安に撤退した後だった。これにはさすがの曹操も絶句した。
だが、反董卓連合軍は不協和音の連続で、誰も董卓を追撃しようとしなかった。
哪吒があきれ返る。
「解らんなぁー。何で誰も追撃せんのだ?」
「追撃ばかりか、皆の衆勝手に己の本拠地へ引き返してちょーだい勢力争ゐを始めてしもうた」
二郎真君は既に判り切っていた感じだ。
「本当に董卓を討つ心算で酸棗に集まったのなら、もっと集合も出発も早い筈。だが、結局孫堅と袁術が華雄を斃すまで動こうともしなかった。これが意味するモノは……」
「正に群雄割拠の到来でござるな」
趙公明の言葉に哪吒が怒りだす。
「ふざけんなよ!なんでそうなるんだよ!」
曹操はたまらず立ち上がり、
「董卓は非道にも都を焼き、天子を強引に西へ連れ去った。天下は揺れに揺れている!今こそ天が彼を滅ぼさんとしている時!この好機を逃さす一挙に勝負を決すべきだ」
だが、曹操を止めようとする者がやって来た。
「待たれよ。董卓の暴挙は度を超え過ぎています。必ず近い内に自滅するでしょう」
イライラする曹操。
「聖戦の邪魔をするか!」
しかし、男は一歩も見せずに言い放つ。
「ですが、戦いは董卓との戦いだけではない。群雄割拠の時代だからこそ正しい者に正しい力を与えるべきです」
それを聴いた二郎真君が男に賛同する。
「確かに……人間に転生した魔王は3匹いますが、その内、行方を知っているのは張角と董卓の2匹のみ。最後の1匹は名前すら知らない」
二郎真君にそこまで言われ漸く冷静になる曹操。
「確かに短絡な考えであった。すまなかった」
「所業にて、この後、拙者等は如何すらば良きのでござる?」
「その前に名乗らせてください。私は荀彧。字は文若と申します」
曹操が改めて荀彧に質問した。
「ならは荀彧殿、私達はどうしたら良い?」
「兗州東郡に侵入した賊軍を討伐するのが上策かと」
哪吒がからかう。
「ははーん、東郡太守の座が目当てな訳ね」
曹操がふと何かを思い出した。
「そう言えば、袁紹も荀彧殿を誘ったと聞くが?」
「私の悲願は衰えた漢王朝を再興させる事。しかし、残念ながら袁公は大事を成し得る器ではありません」
曹操は少し考えて、
「……可哀想に、袁紹は大魚を逃してしまったな」
その直後、外が騒がしくなってきた。
「何事だ!?」
伝令兵が慌ててやって来た。
「敵将が数人の兵を率いて攻めてきました!」
外では胡軫が純白の戈(ピッケル状の長柄武器)を振り回しながら曹操陣営に乗り込んでいた。かなりの兵と斬り合ったのかかなり傷だらけで、数人の兵を率いていた筈が既に胡軫1匹のみとなっていた。
「曹操は何処だぁーーーーー!」
哪吒がワザとらしく言う。
「あれー?あいつ生きてたのー」
胡軫は必死だ。
「反董卓連合軍が洛陽に到着してしまった。しかも曹操はまだ生き延びている。このままでは俺は長安に行けぬ!」
「じゃから最後の賭けに出たと申す訳でござるな」
「除けい!俺は曹操を……殺すのだぁーーーーー!」
そう言いながら胡軫が鶏の様な翼を広げて無数の羽をばら撒く。
「これで煙幕の心算かよ!?」
哪吒と趙公明が胡軫に斬りかかる。
「うおー!曹操ぉーーーーー!」
胡軫の執念は最早狂気の域であった。流石の哪吒と趙公明も多少苦戦する。
「天晴董卓の刺客、見事じゃ」
「ほざくなぁーーーーー!」
胡軫は背中の鶏の翼から羽手裏剣を連射した。だが、哪吒も趙公明もいやしくも仙人だ。敗ける訳には行かない。
「金磚」
「あぐわ!」
「縛れ!縛竜索で候!」
「うぐお!」
「止めだ!火尖鎗!」
「あぎゃーーーーー!」
哪吒の火尖鎗に腹を貫かれた胡軫の体が炎に包まれた。
「あばよ!邪凶のおっさん!」
それを見ていた曹操は一言、
「危うくとんでもない勇み足をして本来の使命を蔑ろにする所であった」
曹操は決意を新たに、邪凶対策と戦乱終結の為の地盤固めの為に兗州東郡に向かった。
曹操聖女伝第3章の重要登場人物
●趙公明
身長180cm
体重64kg
所属:截教兼曹操軍
種族:仙人
性別:男性
截教の総帥・通天教主が曹操の天下統一を支援する為に送り込んだ截教の仙人。屈強な武士然とした細い目が特徴の偉丈夫。
一見堅苦しそうな言動が目立つが、実際は実直かつ冷静な性格に加え適度に冗談が言える傑物。哪吒と仲が良く、よくコンビを組む。
武器・技
縛竜索
複数の相手を捕えて、動きを封じる事が出来る縄。
金蛟剪
2匹の金の龍を召喚・使役する鋏。仙邪戦争後期に作られた宝貝で、龍型大凶2匹が封印されている。
道術
仙人や妖怪が修行によって身に着けた色々な術の事。趙公明は幻惑術(幻覚もしくは病気をもたらす)と気功術(体調や体質を操作する)が得意。
黒虎丸
趙公明が飼っている黒い虎。主に移動用として使用する。
●胡軫
身長:183cm
体重:75kg
所属:董卓軍
種類:邪凶
邪凶ランク:大凶
性別:男性
字:文才
董卓軍酸棗襲撃部隊大隊長。人間の様な体型をした鶏。
橋瑁と曹操が三公の公文書を偽造し、董卓に対する挙兵を呼びかける檄文を造った事による対策を話し合った際、呂布の「どうせ曹操が怖いだけだろう!ならば曹操を殺せば良い!」の言葉に奮起して名乗りを上げた。
しかし、華雄が迷子になっていた孫堅軍・袁術軍を勝手に襲撃して勝手に討死した為、董卓より貰い受けた9万の兵の内の2万を早々と失った。
呂布と徐栄の奮戦の御蔭で何とか善戦したが、汜水関が陥落し、反董卓連合軍が洛陽に到着してしまった。反董卓連合軍が勝手に解散してくれたから良かったものの、このままでは長安に行けないと思ったのか曹操軍の陣営に単騎に近い数で攻め込んで哪吒に討たれた。
武器・技
白鶏戈
胡軫が愛用する純白の戈(ピッケル状の長柄武器)。
羽煙幕
背中の鶏の翼から無数の羽を周囲にばら撒き、敵の目を欺く。
羽手裏剣
背中の鶏の翼から羽手裏剣を連射する。
邪凶操作
大凶クラスの邪凶が持つ能力の一つ。中凶以下の邪凶を束ねる事が出来る。
●孫堅
所属:孫堅軍
種族:人間
性別:男性
字:文台
春秋時代の兵家・孫武の子孫。
反董卓連合に参加した諸侯の一人で、「江東の虎」の異名を持つ勇将。若い頃に一人で海賊退治を行ったというエピソードを持つ。
反董卓連合に与していた際、華雄の首を挙げるなどその器量で何度も名を上げる。反董卓連合軍解散後は袁術は孫堅を使って襄陽の劉表を攻めさせた。孫堅は、劉表配下の黄祖と一戦して打ち破り、襄陽を包囲した。しかし、襄陽近辺の峴山に孫堅が一人でいる時に、黄祖の部下に射殺された。 享年37。
これにより孫堅軍は瓦解し、敗残の将兵は袁術軍に吸収されることとなった。この後、やがて長子である孫策が袁術から独立し、彼の事業を継ぐ事になる。
武器・技
猛虎刀
トゲ付きナックルダスターと刀が合体したかのような孫堅愛用の武器。
●徐栄
身長:163cm
体重:50kg
所属:董卓軍
種類:邪凶
邪凶ランク:中凶
性別:男性
董卓軍酸棗襲撃部隊小隊長。人間の様な体型をした雀。
胡軫配下の部将として反董卓連合軍と戦い、質に勝る曹操軍に引き分ける、李旻を火計で殺す等反董卓連合を相手にして最も善戦し、戦果を残した董卓の武将と言える。
だが、所詮は中凶クラスの邪凶なので哪吒に楽々と討たれた。
武器・技
飛行能力
背中の雀の翼で飛行・ホバリングする。
火矢
徐栄は弓矢の扱いが得意で、火の点いた矢を使った火計を好んで使う。
曹操聖女伝第4章
董卓の乱は群雄割拠と共に、黄天軍の残党をはじめとする賊徒の横行を活発化させた。
曹操が討伐するのは、黒山賊と呼ばれる賊徒で、10余万の軍勢で魏郡を攻略、東郡太守の王肱を撃ち破った。更に、兗州の東郡に侵攻してきたのである。
が、その程度の賊軍は質に勝る曹操軍の敵では無い!東郡に入った曹操軍は、濮陽でたちまち黒山賊を撃破した。この功績により、曹操は東郡太守に任命された。
この時期、曹操を慕って多くの勇将や策士が彼女の下に集まった。
その頃、長安では反董卓派の文官達が呂布を説得しようと頑張っていた。
「ええ!董卓暗殺ですと!?」
「左様!ぜひとも将軍の御力を拝借したいのです!」
曹操との一騎打ちを強く望む呂布は渋る。
「馬鹿な!董卓は曹操の敵だぞ。董卓暗殺など出来るものか!」
しかし、文官達は説得を諦めない。
「将軍は先日、つまらぬ事で董卓の怒りを買い、危うく殺されそうになったと聞きます」
「噂によると、将軍は董卓の侍女と良い仲になっているとか。これがバレたら只では済みますまい」
「何時殺されるか判らないのに、曹操の事を目の仇にしている場合ですか!?」
苦渋の決断を迫られる呂布。
この時の反董卓派の文官達の大将格は王允(字は子師)。三公の一つである司徒の座にある漢王朝の重臣である。
数日後、宮殿に到着した董卓は、武器を手にした者達を見て怒鳴った。
「あの者達は何者じゃ!」
王允が満足げに答える。
「されば閻魔の使いかと思われます。相国をお迎えに参ったのでございましょう」
王允の合図に応じて、宮廷の兵士達が董卓の車を転覆させ、槍で突き刺そうとするが、卑しくも人間に転生した魔王その③である董卓は、自慢の祭玉と孔雀光と目からビームで蹴散らそうとするが、途中で激痛が董卓の腹部を襲った。
天の声の指示で祈祷をしていた曹操の念が董卓の腹の傷を刺激していたのだ。
「おのれー!またあの小娘か!?」
其処へ、駄目押しとなる弓矢による強烈な一撃が董卓の左肩を貫通した。犯人は変々戟を弓に変形させた呂布だ。
「りょ、りょ、呂布、な、何を致しておる!」
狼狽える董卓に対し、変々戟を大鋏に変形させながら近付く呂布。
「勅命により逆賊・董卓を討つ!覚悟しろ!」
と言い放つや、董卓を斬首する呂布。ここに栄耀栄華を極めた董卓の一生は幕を閉じた。
数日後、曹操は荀彧をべた褒めしていた。
「そなたの予言が的中したな。見事だ!まさに荀彧は私の子房だ」
言っている意味が解らない哪吒が趙公明に訊ねる。
「しぼうってなんだ?」
「前漢の高祖・劉邦に仕ゑた大軍師・張良の字でござる」
哪吒がワザとふざけた。
「フーン、ちょうなの」
董卓の死後、国政にあたった王允は、董卓の旧部下達を厳しく処罰した。また、董卓暗殺の殊勲者の呂布を奮威将軍に任じ、温侯に封じた。
その為に彼らの反発を招き、特に有力だった李傕(字は稚然)・郭汜(字は阿多)の2人によって長安を攻められた。頼みの綱だった呂布は曹操が長安に迫っていると言う誤報に踊らされて明後日の方向に行ってしまい、王允は早々と敗北した。だが、王允は最期まで逃げなかった。
「国家の安定が、私の願いでした。これが達成されないとあれば、命を捨てるまでのことです。朝廷では幼い陛下が私だけを頼りにしているのです。この期に及んで一人助かるなどは、とても私にはできません。どうか関東の諸侯によろしくお願いします。天下のことを忘れないようにと、お伝えください」
これが王允の最期の言葉であった。享年57歳。
結果、李傕と郭汜は長安を制圧し、今上帝・劉協を擁立して傀儡政治を行った。結局、董卓の時代と変わらない状態に戻ってしまった。
そんな中、藤色のツインテールをなびかせた前髪で目を隠しているのが特徴の美少女が必死になって逃走していた。董卓の孫娘の董白である。長安・郿に居た董旻、董璜をはじめとする董卓の一族は、全員が呂布の部下や袁一族の縁者らの手によって殺害され、90歳になる董卓の母親も殺された。故に董卓の孫娘である董白もまた反董卓派の文官達に命を狙われていると見て間違いない。
董白は一応邪凶の力を使えるが、簪も挿していない(成人していない)せいかまだまだ小凶クラスで、追っ手を追い払うには完全に力不足である。だから逃げるのだ。
だが、10歳の少女が出来る事は限られている。あっさり捕まり、追っ手の斬撃が董白に振り下ろされようとしていた。
「や、やめてください!わ、わ、私は渭陽君の―――」
「それは既に過去の話だ。それに、董卓の旧部下達を厳しく処罰せよとの王允様の命を受けておる」
「だ、だからって、わ、私は見ての通り簪も挿していない―――」
「生憎だが、董卓の一族と言う理由だけで90歳の老人が斬首されたのだ。もう手遅れなのだよ」
「やめてーーーーー!」
だがしかし……余りの恐怖で火事場の馬鹿力が発動し、董白は一気に小凶クラスから魔王クラスへとランクアップした。
「う、うわぁーーーーー!」
「な、何だ!?」
いくら相手が10歳の少女でも魔王クラスの邪凶相手では裏方役の仕事しか貰えない人間に勝ち目は無い。
2つの祭玉が董白に近付いて来た。まるで主人を心配する小犬の様に。
「こ、この力は御爺様が私に力を与えてくれたの?」
これなら勝てると確信した董白は、なぜ王允が董卓に勝てたのか聞き出そうとした。
「こ、こ、答えなさい!?なぜ王允は御爺様を殺したのか!?」
本当は内気で引っ込み思案な性格だが、董卓の孫娘として恥ずかしくない様に必死に強気なフリをする董白。
だがやはり内気でおどおどする性格が見え隠れするのか、追っ手は完全に董白を嘗めていた。相手は魔王クラスの邪凶なのに。
「強がっても無駄だ!どうせお前は此処で死ぬ!」
董白が目を瞑りながら祭玉に攻撃を命じる。
「えい!」
すると、2つの祭玉が追っ手の内の2人に思いきりぶつかった。1人は頭蓋骨粉砕骨折。もう1人は祭玉で腹を強打した。
「うぐお!」
ここで漸く董白の魔王クラスの邪凶としての実力に気付き始めた追っ手は慌ててなぜ王允が董卓に勝てたのか話し始める。
「呂布だ!呂布が王允に寝返りやがった!」
それを聴いた董白はもう追っ手に用は無い。本来の邪凶ならここで追っ手を一人残らず殺していただろうが、魔王クラスの邪凶でありながら内気で引っ込み思案な性格の董白は逃げ出した。
しかも、ご丁寧に深々と呂布の裏切りを教えてくれた追っ手に深々とお辞儀をしてから逃げたのである。
二郎真君が慌てふためく伝令兵を発見した。
「ン?早馬だな。おい、何事だ!」
「は!兗州の刺史である劉岱(字は公山)様が黄天軍残党との戦いで戦死されてしまいました」
この年、青州を本拠地とする黄天軍残党が兗州に侵攻してきた。この対応を協議する中で鮑信はこう献策した。
「黄巾軍は百万ともいう圧倒的勢力を誇り、その勢いは衰えることを知らないため、鎮圧することは難儀を極めるだろう。ここは籠城すべきである」
しかし、劉岱はこの進言を聞き入れることなく出陣し、敢え無く討死してしまった。
二郎真君は早速曹操に訳を話した。
「ほう、使者として州の役人を説得しに行きたいと?」
「はい!曹操殿を新しい刺史として迎えるよう根回しをしたいのです」
趙公明が妙に納得した。
「つまり、黒山賊を討とは東郡太守に成り申した如く、今度は黄天軍残党を討とは刺史の座を狙おうとは策じゃな」
とりあえず皆に相談する曹操。それに対して荀彧はこう答える。
「もとより漢王朝を脅かす賊は討たねばなりません。今それが出来るのは曹操殿を置いて他にはいません」
それを聴いた曹操が決断し、そして、力強く命令した。
「よし!州役人達の説得は顕聖殿に一任する!哪吒殿らは戦に備えて兵をかき集めろ!荀彧殿は此処に留まり、兵糧の補給を絶やさぬ様に!」
やがて州郡・廩丘に乗り込んだ二郎真君は、見事に重臣達を説き伏せて曹操の兗州迎え入れを成功させた。
これにより曹操は直ちに黄天軍残党の鎮圧に乗り出したが、黄天軍残党の抵抗が予想以上に凄まじく、曹操軍は大苦戦を強いられた。
哪吒はあきれ返りながらこう言い放つ。
「驚いたね。黒山賊と違って、あいつらの強さは本物だぁ!」
それを聴いた曹操がもの凄い事を言ってしまった。
「長い反乱の中で鍛え抜かれた戦士だからな……邪凶が混ざっていない事だし……欲しいな!」
「えっ!?」
曹操が考えた作戦はこうだ。
先ずは曹操自身が囮となり、黄天軍残党の主力部隊を誘き寄せる。曹操自身が先頭に立って陣頭指揮する事で兵士の士気を奮い立たせる効果もある。
その間に哪吒の部隊が黄天軍残党の背後に回り込み後続部隊を壊滅させる。
そして、頃合いを図って二郎真君が黄天軍残党の頭領を説得するのだ。
「頭領、夏侯惇と名乗る男が城の前に来ております」
「なに?」
とりあえず二郎真君の許へ行く黄天軍残党の頭領。
「これ以上の戦いは双方にとって無益な筈、潔く降伏されよ」
「それは……本気で言っているのか?」
「ご不満か?」
「まあ、言われてみれば確かに無益だな。ただし、一つ条件がある」
「聞こう」
「城内の者には一切の手出しをしない事。この条件を聞き入れてくれるならこの首を差し出そう」
「大丈夫だ!曹操殿はそこまで邪悪では無い。私の誇りに賭けて曹操殿には一切の手出しをさせぬ」
「有難う、夏侯惇殿」
「参られよ」
黄天軍残党が全ての武器を捨てて降伏した。
「よくぞ降伏してくれた」
「この首一つで民と兵を助けられるなら安いものだ」
黄天軍残党の頭領の言葉を聴いた曹操はこう答えた。
「戦いは終わった。今日から我々は理想の国造りを目指す同志である。諸君には土地を与えよう!この兗州が豊かになる様田畑を耕してくれ!兵士達は我が陣営に加わり、共に戦おうではないか」
曹操の懐の大きさに驚きを隠せない黄天軍残党の頭領。
「私は約束する!決して諸君を飢えさせないと!」
黄天軍残党が驚きながら話し合う。
「なんてこった」
「あんな素晴しい領主様と戦ってたなんて!」
「こんな事ならもっと早くに降伏すれば良かった」
「まったくだ!」
これを物陰で聞いていた人間に転生した魔王その②が苦虫を噛み潰したかの様な顔をする。
(バッドテイストつまり不味いな……これ以上曹操が 育てば……僕はこの地上ワールドの支配者では要られなくなる!)
間もなく曹操は、降伏した黄天軍残党の精鋭兵30万人を支配下に置き、これを青州兵と名付けた。以後、青州兵は曹操軍の中核的存在となった。
旗揚げ以来、地盤も兵力も持たなかった曹操も此処に漸く袁紹達群雄の仲間入りを果たしたのだ。
時に曹操は36歳……なのだが、未だに肉体年齢と外見年齢が15歳の美少女のままであった。
袁術の配下の孫堅は豫州刺史であったが、初平2年(191年)頃、袁紹は周喁を豫州刺史として派遣したので、孫堅と孫堅の主である袁術は周喁・周昻・周昕と豫州を奪い合うこととなった。孫堅と袁術は周喁・周昕を敗走させた。
初平3年(192年)、袁術は孫堅を使って襄陽の劉表を攻めさせた。孫堅は、劉表配下の黄祖と一戦して打ち破り、襄陽を包囲した。しかし、襄陽近辺の峴山に孫堅が一人でいる時に、黄祖の部下に射殺された。 これにより孫堅軍は瓦解し、敗残の将兵は袁術軍に吸収されることとなった。
その頃、曹操は東郡の鄄城に入り、此処を兗州支配の拠点とした。その際、程昱(字を仲徳)、郭嘉(字は奉孝)、于禁(字は文則)、曹昂(字は子脩)等が曹操軍の仲間入りを果たした。
そんな中、張邈が袁術軍の進撃の事を曹操に伝えた。
「曹操殿、一大事で御座る!袁術の軍勢が我が陳留まで侵入して参りましたぞ!」
「おのれ袁術め、大事な私達の領地を侵されて堪るものか。よし!私自ら誅を下す!」
「ならばさっそく案内を―――」
だが、曹操の返答は張邈にとっては意外なモノだった。
「いや、張邈殿には曹嵩殿に引き返す様に伝えて頂きたい」
「曹嵩殿がこちらに?」
「そうだ。私が兗州の刺史になったと聞き、曹徳を連れてこちらに向かってくるのだ」
それを聴いた張邈は少々困惑した。
「曹操殿にとって曹嵩殿は父親のような存在だし、曹徳殿は可愛い弟の様な存在ではないか。なのにどうして?」
曹操が少し不安そうに話した。
「胸騒ぎがするのだ……不吉で邪悪な何かが曹嵩殿に迫っている気がするのだ」
曹操にそこまで言われたら、曹嵩を追い帰すしかない張邈であった。
居城に戻った張邈は、曹操とのやり取りの内容を伝え、曹嵩を追い帰す様命じたが、張超の反発を食らった。
「何ぃー?この大事な時期に何で兄上が曹嵩父子の接待をせにゃならんのだ!」
張邈は項垂れながらこう答えた。
「仕方あるまい。今や曹操が我々の上司なのだから」
だが張超は引き下がらない。
「そもそも曹操は兄上の援助で大きくなった様なモノじゃないか!兄上は悔しくないのか!?あんな宦官の孫娘に先を越されて!」
張邈は遂に怒り出して怒鳴ってしまった。
「黙れ!つべこべ言わずに曹嵩父子の所に行かぬか!」
だが、曹操が言っていた不吉で邪悪な何かは、曹操の予想を遥かに超えた速度で陶謙(字は恭祖)に接近していた。
「だ、誰じゃ!?」
人間に転生した魔王その②は意に返さず自分の目を発光させた。すると、陶謙の眼は無機質なガラスの様な輝きをぼんやりと浮かべた状態となった。
「曹操は敵だ。曹操の義ファザーでAる曹嵩と義弟でAる曹徳を殺すのだ。ゴー」
陶謙は人間に転生した魔王その②の命令にまるで機械の様な返答をした。
「ハイゴシュジンサマ。トウケンハソウソウヲコラシメマス」
それを聴いた人間に転生した魔王その②は満足げに肯いた。それを見ていた配下の邪凶・常昊が一言、
「相変わらず凄いな!」
「僕を褒めてる場合ではナッシング。張角、蚩尤、そして董卓。どれも僕に敗けない実パワーの持ちオーナーでAったが 、ゴッド兵化した曹操にシンプルに敗れ去った。ならば正面からではなく曹操に裏切り者の烙印を押させまくるのだ」
人間に転生した魔王その②の卑劣で極悪非道な作戦が中国大陸に多大な影響を与える事になる。
こんな事になっているとはつゆ知らぬ曹嵩父子は曹操との再会を楽しみにしていた。
「早くお姉ちゃんに逢いたいな。別れてからもう3年だもんな」
「儂も早く曹操達に逢いたいわい。さぞ立派になっておるじゃろうて」
其処へ陶謙軍と常昊が率いる小凶の群れが近付いて来た。
「なんじゃありゃ?」
曹徳は楽観的な事を言った。
「きっとお姉ちゃんが差し向けた出迎えの兵士達ですよ」
しかし、陶謙の無機質なガラスの様な力無き目を見た途端、自分達が邪悪な何かの襲撃を受けている事に気付く。
「いかん!早く逃げるのだ曹徳!」
だが……既に遅かった。邪凶と陶謙軍の悪質な一撃は曹徳の命を奪い、曹嵩とその取り巻きを無残に惨殺した。
曹操は曹嵩父子の訃報を聞き、声も無くその手にした七星剣を落したと言う。
「必ず……必ず陶謙を討つ!徐州中の邪凶を復讐の炎で焼き尽くす!この恨みを晴らさで擱くものか!」
曹操は袁術追撃を中止し、直ちに陶謙軍追撃を強行した。
復讐に燃える曹操軍の侵攻は凄まじく、陶謙から10を超える城を奪い、彭城での戦いで陶謙軍に大勝し、通過した地域で多数の邪凶を虐殺したという。
無数の邪凶の死体のため泗水の流れが堰き止められ、その死臭によって徐州の民は次々と異常をきたした。
因みに、人間に転生した魔王その②配下の邪凶・常昊が陶謙軍として戦ったが、
「ハハハ、気分は如何だ曹―――」
「消えろ!」
「あっぎゃぁーーーーー!」
曹操は常昊の口上を聴きとる前に常昊を斬り捨ててしまった。
その後も曹操は、敗走して城に立てこもった陶謙を攻め続けたが、翌年の春、兵糧不足の為に鄄城に退却した。
「では、また徐州に?」
「陶謙の命を絶たねば私の恨みは治まらぬ!」
復讐の鬼と化した曹操を張邈が諌める。
「心中はお察しするが、仇討の為にこれ以上殺戮を繰り返せば、お前の名が地に堕ちるぞ」
曹操が怒鳴り散らす。
「私怨だと?今が徐州攻略の好機である事が貴様には判らんのか!それでよく太守が務まるな!」
と言いかけて、自分の論理に破綻がある事に気付いて、言葉を紡げなくなる。
「……すまん……言い過ぎた」
少しだけ冷静になる曹操。
「荀彧と程昱にはこの城の留守を任せる。顕聖殿は東郡太守として濮陽に、趙公明殿は残りの兵を率いて東郡に駐屯せよ!」
こうして、曹操は2度目の徐州攻略に向かったのだが……。
その頃、人間に転生した魔王その②は陶謙軍の不甲斐無さに腹が立っていた。配下の邪凶・常昊もまた曹操軍の徐州攻略に巻き込まれて死亡していたのだ。
「なんだよ使えないなー!これじゃー曹操に裏切りの烙印を捺させたミーンが 無くなってしまうじゃないか!」
其処へ1匹の邪凶がやって来た。名は陳宮(字は公台)。策謀を得意とする中凶クラスの邪凶だ。
「いいえ、陶謙軍はちゃんと次の裏切り者を作っておりますぞ!」
「作った?フーつまり誰よ?」
張超がまた張邈に食って掛かる。
「こんな扱いで悔しくないのか?兄上の志はもっと高い所にあったのではないのか!?」
其処へ陳宮がやって来た。
「左様。張邈殿ともあろうお方が、何時までも宦官の孫娘に顎で使われている御積もりか?」
「何者だ!?」
「私は陳宮。流浪の軍師で御座います」
張超が陳宮に食って掛かる。
「軍師だぁー?信じられないなぁー」
「信じるか信じないかはこれからの私の働き次第ですよ。それより……」
陳宮の眼が怪しく光る。
「徐州での戦いを見ても曹操の冷酷非道さは既に明白!悪逆非道の董卓が滅んだように、曹操もいずれは天罰を食らうでしょう」
それを聴いた張超の態度がガラッと変わる。
「これは心強い味方が現れた者だ!それで、何か良い策はおありか?」
この時、張超は全く気付かなかった。自分達が曹操に裏切りの烙印を捺させる為の使い捨ての駒に成り下がっている事に。あの陶謙の様に……。
「曹操が留守の今こそ好機!この間に兗州を乗っ取るのです!」
それを聴いた張邈が慌てふためく。
「そ、そんな事が我々だけで出来るものか!」
陳宮が自信満々に言い放つ。
「強力な味方がもう1人。隣の河内郡におりますぞ」
それを聴いた張邈は驚きを隠せない。
「ま、まさか……呂布か!?」
それを典韋が聞いていた。
「これは不味い事になった」
呂布は李傕に騙されて長安から追い出されていた。その後、曹操に戦いを挑む方法を探しながら各地を放浪していたが、風の噂で曹操が兗州の刺史となったと聞き兗州に向かっていた。
それを知る陳宮の出迎えを受けて兗州に入った。
その頃、典韋が二郎真君が駐屯する濮陽城に駆け込んだ。
「なんですって!張邈殿が陳宮と名乗る怪しい男に騙され謀反とな!?」
「本当です!さっきまでその反乱軍にいたんだからまちがいねぇ!」
「しかしあなたは……張邈軍の配下の筈では?」
典韋がやや怒った口調で言い放った。
「たとえ主君であろうと、裏切りは許さねぇ!仇討ちの為に必死になってる曹操様の方が信用出来るってもんだ!」
それを聴いた二郎真君は典韋が急に惜しくなった。
「成程な……だが、今の曹操殿は完全に冷静とは言えない。この状態で曹操軍に寝返りたいと言っても信じまい」
「ではどうするんで?」
「暫く私の許にいなさい。私が頃合いを見て曹操殿に話しておきます」
それを聴いた典韋が気をつけの姿勢となった。
「はい!」
その頃、鄄城でも陳宮の謀略による張邈の謀反の情報が入っていた。
「程昱殿には東阿、笵の両県に赴き、謀反に加担しない様説得をお願い致します。
「良かろう!必ず説得しよう。しかし、儂が戻ってくるまでにこの城を奪われぬようにのう」
荀彧は笑顔で答えた。
「お任せあれ。貴方の仕事もちゃんと残しておきますから」
陳宮の謀略による張邈の謀反の知らせは、直ちに徐州の曹操陣営にもたらされた。
「そんな筈は無い!何かの間違いではないのか!?」
曹操が祈るような気持ちで伝令の返答を待ったが、突きつけられたのは厳しい現実だった。
「いいえ、程昱様と荀彧様の働きで鄄城と東阿、笵の両県は無事ですが、他の城は悉く張邈軍に!」
曹操は掌を顔に当てながら天を仰いだ。
「何故だ!信じられん!」
曹操は直ちに徐州攻略を中止して鄄城に戻った。
その頃、張邈軍による鄄城攻撃が始まったが、荀彧隊の奮戦と呂布の曹操への想いに邪魔されて遅々として進まない。
「愚かな裏切り者共なぞ恐れるな!間もなく殿が戻ってこられるぞ!」
荀彧隊の士気が極めて高く、それに、
(このまま鄄城を落したとして……曹操は俺と戦ってくれるだろうか?いや、もしかするとまた逃げられるのでは?)
呂布の不安に加え、典韋程ではないが、本当に曹操を敵に回して良いのかまだ迷っている兵士達が多いのも重なって、鄄城攻防戦は泥沼状態と化した。
人間に転生した魔王その②配下の邪凶・呉竜はイライラしていた。
「おい陳宮!何だこの様は!?グダグダ過ぎるぞ!」
「どうやら……呂布は曹操の到着を待っておるようですね」
「冷静に分析するな!俺が言いたいのは、どうやったら曹操が鄄城に到着する前に鄄城を落せるかだ!」
陳宮の目に陣頭指揮を執る荀彧の姿が映る。
「どうやらあの文官が鄄城方の士気を大幅に向上させておるようですね」
それを聴いた呉竜が邪な笑みを浮かべた。
「ならば……その文官を消し去れば良いのだな?」
それを聴いた陳宮が少し焦る。
「貴方まさか!?」
「あの方には内緒だぞ!」
呉竜がそう言うと、巨大な百足の姿となり土埃を上げながら飛び上がった。
だが、荀彧隊は怯むどころか逆に無数の矢を象ほどもある大百足となって空を飛び回る呉竜に向かって放った。
「諦めの悪い奴め!いい加減に死ね!」
「怯むな!撃って撃って撃ちまくれ!」
しかし、呉竜の身体は非常に硬く、矢が全く通用しない。
「グワハハハ、効かんわ効かんわ!」
其処へ鯨ほどもある鷲が呉竜を掴んで何処かへ持って行ってしまった。二郎真君の七十二変化の術の為せる技だ。
「な、何だとーーーーー!?」
呉竜の断末魔の叫びが木霊する。呆れる陳宮。
「何しに来たんだ彼奴は?」
其処へ曹操軍本隊が漸く鄄城に到着した。
「荀彧!無事か!?」
荀彧が笑顔で答えた。
「臣下として当然の事をしたまでです」
曹操の到着を知った呂布は喜び勇んで全軍に突撃命令を下そうとしたが、陳宮が先に撤退命令を出していた。
撤退に不服な呂布の怒号が飛ぶ。
「なにやっとんじゃー!陳宮!?」
陳宮にとっては当然の判断であった。張超は曹操への不満で一杯だが、張邈は曹操を裏切った事への罪悪感が未だに強く、今呂布を失えば張邈軍が曹操軍に逆戻りの可能性が高い。そうなれば今回の張邈軍の裏切りが只の茶番に終わり、曹操軍へぼダメージが微々たるものになってしまうのだ。
だが、呂布の説得は予想以上に困難だった。呂布は今直ぐにでも曹操と一騎打ちがしたいのだ。神兵化した曹操の圧倒的すぎる強さが強い敵を感じると真っ先に向かっていく戦闘狂的な性格を刺激する。
魔王クラスの邪凶ですら為す術が無い。さすがの兵士30人分の武勇を誇り5種類の形態を持つ万能且つ臨機応変な武器・変々戟を自在に操る呂布をもってしても、神兵化した曹操が相手では勝てる見込みは殆ど無い。それでも呂布は曹操と戦いたいのだ。
呂布と陳宮が口論している間にも曹操軍本隊が鄄城に迫っている。焦る陳宮。嬉々として曹操の到着を待つ呂布。
だが、今回も曹操と呂布の一騎打ちは実現しなかった。背後に迫る曹操に気を盗られ城壁にいた荀彧隊をほぼ無視したからだ。
「怯むな!撃って撃って撃ちまくれ!謀反者如きに敗けるなー!」
張邈軍に降り注ぐ無数の矢。これでは戦いたくても戦えない。と判断してくれない呂布。
「俺と曹操の戦いを邪魔するな虫けらー!」
其処へ鯨ほどもある鷲が戻って来た。二郎真君が七十二変化の術を解き、いつもの額に縦長の第3の眼を持ち、鎧をつけた美青年の姿となった。其処へ哪吒と趙公明も駆け付け、3人の仙人が呂布と対峙した。
「くっそー!またしても……またしてもー!」
呂布が大袈裟に悔しがりながら渋々撤退した。陳宮は一応胸を撫で下ろした。呂布を失うと言う最悪の事態を回避できたからだ。
何とか鄄城に帰り着いた曹操軍。程昱と荀彧の働きを労う曹操。
「そなた達の御蔭で、私は無一文にならずに済んだ。よくぞ護りぬいてくれた。感謝するぞ!」
「いえいえ、私達は曹操殿の為を思ってやった事です」
それを聴いていた趙公明の不満が募る。
「其れに引き替ゑ……陳宮め!かような卑劣な真似をしおとは。許殿ぞ!」
曹操が項垂れる。
「よりによって張邈までがなぜ……」
程昱が曹操に諭す。
「裏切りは乱世の常です。友どころか、親でも殺し合うのが乱世!これを乗り越え、この様な非常な乱世を終結させてこそ真の覇者ですぞ」
荀彧もこれに続く。
「左様。こんな裏切りで殿の大望が潰されてなるモノですか!」
程昱と荀彧に勇気づけられた曹操は、再び張邈軍と戦う事を決意した。
「よし!出陣だ!裏切りは許さん!張邈裏切りの大元凶である陳宮を完膚なきまでに叩き潰す!」
こうして、兗州争奪戦が開始された。
曹操軍の本拠地である鄄城を落せない張邈軍は、濮陽に本陣を置いた。だが、曹操がこれを見逃す筈が無く、濮陽は瞬く間に激戦区と化した。
呂布が大張り切りで曹操を探したが、両軍入り乱れての大乱戦で完全に曹操を見失う。
「うおぉー!曹操は何処だぁー!」
哪吒が呂布にケチをつける。
「五月蠅い!お前の頭は戦いだけしかないのか!?」
全身武器だらけの哪吒に言われたくないと言いたい所だが、曹操との一騎打ちを熱望する呂布の姿を見れば、どっちが戦馬鹿か判らなくなる。
そんな中、1人呂布に勝るとも劣らない暴れっぷりを魅せ付けた男がいた。典韋である。重量8kgの槍を2本振り回して次々と敵兵を斬ったのだ。
「あれは典韋ではないか。何であの者が張邈軍と戦っておる?」
曹操の質問に二郎真君はこう答えた。
「張邈軍を陥れた陳宮の不義に怒り、私の許に駆け込んで来たので」
「ほーう、私が気に入っただけのことはあるな」
「はい……心強き同志と見受けます」
その武勇を認められ、典韋は曹操のボディーガードとなった。からかう哪吒。
「やったな!このこのこの!」
典韋は照れ笑い。
その時、曹操の耳に天の声が入った。
「張邈軍との戦いを一旦中断して徐州に向かう!」
荀彧が早速諌める。
「お待ちください!もし殿の留守中に兗州を奪われ、更に徐州攻略に失敗したら、どうなさるおつもりですか?」
曹操は周囲を安心させるかのように優しい微笑みを浮かべながらこう述べた。
「徐州攻略が成功するか否かはともかく、張邈軍との戦いにとんでもない邪魔者が割り込んでくるのは確実だ」
その2日後、無数の蝗の群れが兗州に出現し、張邈軍は彼らが通り過ぎるまで休戦を余儀なくされた。
その間に徐州攻略を再開。見事に陶謙を討ち取るが、張邈軍との戦いにうつつを抜かしている間に徐州は最悪な形で変貌を遂げていた。流石の哪吒も酷過ぎて無口になった。
陶謙軍や人間に転生した魔王その②配下の邪凶が毎夜のごとく徐州に暮らす民衆を凌辱したり、村祭りに参加していた農民を皆殺しにしたり、手頃な人間を食用赤ん坊を量産する為の道具として改造したり、罪も無い少年少女を子供兵士として麻薬漬けにしたりと暴虐の限りを尽くしていた。
これを見た曹操軍兵士達は、暫くの間止まらぬ吐き気に苦しめられたと言う。
徐州の士人や庶民は、陶謙の死を皆で喜んだ。陶謙の亡骸は逆さ吊りにされ、衆前の晒し者となった。陶謙を死に追いやった曹操を徐州の士人や庶民は英雄視した。
さて、このまま徐州が曹操の物となるかと思えば、なんと曹操は辞退してしまった。邪凶のモノとはいえ無数の躯と血で徐州を汚した罪を重く受け止めて出した結論であった。また、無事に曹嵩父子の仇を討った事で徐州への興味を失ったのも徐州刺史辞退の一因でもあった。
それから暫くして、曹操の許に新たな徐州刺史の車冑が挨拶にやって来た。
「このままでは徐州に人が住めなくなります。どうか御力を」
「私は徐州の惨劇をつぶさに見て来た。あのような事がこの世に在ってはならない。早急に立て直しましょう」
車冑はこんな風に近くの州刺史に助力を求めていたが、袁術は聞き入れていないらしく、揚州刺史の陳温の死後の混乱につけこみ、揚州を奪取し寿春を拠点とした。正式な揚州刺史の後任である劉繇(字は正礼)は袁術を恐れて曲阿に駐屯せざるをえなかった。
この様な信用出来ない野心家が隣にいて、しかも領地は前任者の冷酷暴虐によって荒れ放題。車冑の苦労は想像を絶するものとなろう……。
それから暫くして、漸く無数の蝗の群れが兗州から去ってくれたので、曹操軍と張邈軍との戦いが再開された。
興平2年(195年)春、曹操軍は定陶郡を攻撃。南城を陥落させられなかったが、折り良く呂布が着陣してきた。
「うおぉー!曹操は何処だー!」
相変わらずな呂布。曹操を探し求めて戦場を彷徨う。曹操は遂に呂布との一騎打ちをする事になった。
「ほお、呂布、おぬしか」
「この時を待っていたぞ曹操!」
曹操から見れば、呂布は必ず葬らねばならない相手ではなかった。しかも曹操は、ここで呂布を斬る気は全くなかった。
「いくぞー!」
呂布の叫びに曹操は無言であった。
呂布は曹操の繰り出す斬撃を悠々と捌きながら叫んだ。
「何をしている曹操!なぜ神兵化しない!?」
それに対して呂布の変々戟をかわすのが精一杯な筈なのに呂布を褒める余裕さえある曹操。
「さすが歴戦の強者、見事だ」
「ほざくな!」
呂布は必死だ。其処へ哪吒が軽口をたたく。
「サッサと俺に替われー!」
それを聴いた呂布が言い放つ。
「黙れ!邪魔するな小娘!」
哪吒が曹操の意思を無視して呂布に飛びかかろうとしたので、二郎真君が後ろから哪吒を羽交い絞めにした。
「放してくれ!もう我慢ならねえ!」
だが、曹操の言葉によって場の空気が一気に重くなった。
「ねぇ、“弱い”ってそんなに悪い事なの?たとえ弱くても微力を尽くして生き続けようとする。それを祈った心は、裁かれなきゃいけないほど罪深い物なの?」
さっきまでふざけていた哪吒が冷や汗を湯水の様に出していた。
(重めぇ……最初とは比べ物にならないほど重めぇよ。まるで自分の想いを込めた一撃だぜ)
「ふざけんな!そんな権力者の綺麗事に縋った結果がこれだ!陶謙に裏切られ、張邈に裏切られ、それでもそんな軟弱な綺麗事に縋るか!?」
それに対して曹操は笑顔で言い放つ。
「呂布。貴方の野望は若い。非常に若すぎて赤ちゃんの様に脆い」
「馬鹿げた事を言うな!敵など力でねじ伏せれば良い!今の世に必要な物は力だ!」
「誰だって自分の安寧を壊されたくないし、誰だって自分の命を丁重に扱いたい。それが解らない内は、貴方の野望は若いままだ。その様な者に神兵化を使う必要は……無い!」
曹操の渾身の一撃が呂布を1m程吹き飛ばした。これを好機と見た荀彧が号令をかける。
「全員で呂布にかかれ!呂布さえ片付ければ、後は如何って事は無い!」
どうやら、曹操と呂布との戦いに手を出すなと言う命令に対して遂に我慢でき無くなった様だ。そして、我慢できなくなった男がもう1人いた。
「待て!この典韋様が相手だ!」
曹操軍の全員が、八方から呂布目掛けて殺到する。
「どうやら、俺だけに的を絞った様だな。今日はこれまでにした方が良さそうだ。また会うぞ曹操!」
そう言うと、口笛を吹いて愛用の赤い重種馬・赤兎馬を呼んだ。
「赤兎馬、頼むぞ!」
と赤兎馬に声をかけ、曹操軍の囲みを破って逃走した。
「待てコラー!」
典韋が必死でそれを追うが、とても追いつけなかった。
同年夏には鉅野を攻めて薛蘭や李封を撃破し、救援に現れた呂布を敗走させた。
呂布は陳宮ら一万と合流して再度来襲してきたが、この時曹操軍はみな麦刈りに出向いて手薄だったので、曹操は急遽軍勢をかき集めると、伏兵を用いて呂布軍を大破した。呂布は車冑を頼って落ち延びた。
同年8月、張超は雍丘に籠城し、曹操の猛攻撃にも懸命に防戦した。しかし同年12月、ついに雍丘が陥落したため張超は自殺に追い込まれてしまった。
同年秋、根拠地の兗州を全て奪還した曹操は、兗州牧に任命された。張邈は袁術に援軍を求めに向かったが、部下に捕らえられてしまう。
曹操は張邈の家族は勿論、本人も許すか許すまいか迷う。
しかし、張邈は厳しい現実を突きつけるかのように言い放つ。
「私を処刑して、軍法を明らかにすべきだ」
張邈の覚悟を知った曹操は涙ながらにこう言った。
「天下を治める者は人の親を殺したり、祭祀を途絶えさせたりしないものだ」
曹操は涙ながらに刑場に向かう張邈を見送った。しかし張邈は振り向かなかったという。
(皮肉なものだな。裏切り者の俺が、遂には部下に裏切られて命を落とす事になろうとは……笑ってくれ……曹操)
これを見た典韋は大泣きした。
「うわあーーーん!辛いよう!曹操様も張邈様も悲しすぎるーーー!」
曹操は精一杯の虚勢を張りながらこう述べた。
「これが戦いというモノなのだ。たとえ父弟を失い、友を失おうとも、私は戦いを辞める訳にはいかん!この覇王の道をひたすら突き進むのみ!」
曹操は張邈の三族(父母・兄弟・実子と養子)を引き取って厚遇し、娘も嫁ぐまで面倒を看たのだった。
曹操聖女伝第4章の重要登場人物
●荀彧
所属:曹操軍
種族:人間
性別:男性
字:文若
曹操軍筆頭文官。
日に日に堕ちていく漢王朝を憂い英傑探しの旅に出ていたが、そこで曹操と出会い、曹操に自分の夢である漢王朝再建を望む。その際、袁紹は荀彧を上賓の礼を持って迎えたが、荀彧は袁紹は大業を成す事の出来ない人物だと判断した。
若くして「王佐の才」とも称揚され、後漢末の動乱期においては、後漢朝の実権を握った曹操の下で数々の献策を行い、その覇業を補佐した。王佐とは徳治を旨とする王道を行なう君主を補佐する事である。
政治家としても軍師としても高い能力を持ち、曹操をして「子房(前漢の張良の字)」と評される程の人物。しかし、劉協に禅譲を迫る曹氏過激派反対した事で曹丕と対立し、晩年は不遇だった。
冷静沈着で生真面目な性格。
●陶謙
所属:陶謙軍→人間に転生した魔王その②軍
種族:人間(?)
性別:男性
字:恭祖
徐州刺史。
人間に転生した魔王その②の精神操作を受けて曹嵩とその一族郎党を惨殺し兗州を治めていた曹操の仇敵となった。
陶謙は曹操の侵攻により領内の十数城を奪われ、彭城での大戦や曹仁率いる別働隊と戦った傅陽戦を始め、取慮・雎陵・夏丘の各地で敗退した。陶謙は郯の地でようやく侵攻を押し留めたという。一方の曹操は、兵糧を切らしたため撤退した。この一連の軍事行動の中で、曹操は各地で邪凶を殺戮したため、泗水の流れが堰き止められるほどであった。これによって、中央の戦乱からの避難民で豊かとなっていた徐州は、壊滅的な打撃を受けた。
張邈・張超兄弟と陳宮らが呂布を引き入れ反乱を起こしたため、曹操軍が撤退することになり、一時的に危機を脱したが、張邈軍が無数の蝗の群れに阻まれ進軍出来なくなり、五城は陥落させられ、さらに瑯邪を越え東海まで攻め込まれた。結局敗死し徐州を車冑に譲る結果となった。齢63だった。
幼い頃から好んで学問に励み、誰の世話にもならず生計を立て、良い評判が立ったとされる。だが、次第に道義へ背くようになり、感情に任せて行動するようになっていった。更に徐州中の邪凶の陰惨で傍若無人な暴虐の限りを許した事と、曹操軍の進撃による徐州壊滅により評価が大急落し、陳寿に「論じるに値しない」と言われてしまった。
●曹嵩
所属:漢王朝
種族:人間
性別:男性
字:巨高
曹騰の養子。
官僚として司隷校尉・大司農・大鴻臚を経て、中平5年(188年)には太尉まで昇った。当時、売官制が横行しており、曹嵩も一億銭にも上る金額を霊帝に献上し、宦官に賄賂を贈って、太尉の職についたという。
その後、黄天軍に始まる後漢末の大乱を避けるために、徐州東北部にある瑯邪郡に家族と共に避難していたが、曹操が兗州に地盤を確保したことから帰還しようとした。だが、人間に転生した魔王その②の傀儡と化した徐州牧・陶謙は曹操に先んじて兵を泰山郡華県に滞在していた曹嵩達の元へ派遣し、彼等を攻撃した。曹嵩達は曹操を当てにして警戒を全くしていなかったため、あっさりと一族郎党を殺害されてしまった。
曹嵩や曹徳の殺害を聞いた曹操は、自ら徐州に進軍し、復讐のため徐州を攻撃し邪凶を虐殺することになる。
その性格は慎ましやかで、忠孝を重んじたという。また、曹操とは親子の様に仲が良かった。
●張邈
所属:張邈軍
種族:人間
性別:男性
字:孟卓
曹操の幼馴染。曹操や袁紹と親友のように仲が良く、頭脳の明晰さと徳行で官界において知られる。
袁紹を盟主として反董卓連合が結成された時、張邈は曹操らと共に参戦した。曹操が戦をするよう呼び掛けると、張邈は鮑信と共に曹操の求めに応じ、部下の衛茲を曹操に同行させた。しかし、曹操達は董卓軍の徐栄に苦戦し、衛茲を戦死させてしまった。
また、董卓を討つべく集まった諸侯に対し己の振る舞いを改めるよう諫めたが、逆に袁紹の怒りを買って殺されそうになった。この時は、曹操が袁紹に取り成したため、危うく難を逃れている。張邈はこの事を知ると、曹操に対し恩義を感じるようになったという。
だが、人間に転生した魔王その②の配下の邪凶である陳宮にそそのかされ、また曹操と不仲だった弟の張超にも諭されたため、彼らと結託して呂布を迎え入れ、曹操に対し反乱を起こした。
これで天の怒りを買ったのか蝗害による飢饉に襲われ、勢いを盛り返した曹操に敗れ、兗州から撤退。部下の裏切りに遭い捕縛された。
陳宮に騙されたという事情があり、若い頃から男伊達で気前がよく、困っている者を救うための散財を惜しまなかった為、曹操は張邈を許そうとしたが、張邈は死刑を望み心の中で自分を笑ってくれと叫んだ。
曹操は張邈の三族(父母・兄弟・実子と養子)を引き取って厚遇し、娘も嫁ぐまで面倒を看たのだった。
●陳宮
身長:176cm
体重:60kg
所属:人間に転生した魔王その②軍(表向きは張邈軍→呂布軍)
種類:邪凶
邪凶ランク:中凶
性別:男性
人間に転生した魔王その②の配下の邪凶。
張角、蚩尤、董卓の失敗を見て来た人間に転生した魔王その②は、自ら曹操と戦う事はしなかった。そこで、曹操に裏切り者の烙印を捺させまくる作戦に出た。
そこで陳宮は張邈軍を曹操を裏切った存在に仕立て上げる作戦の実行役を買って出た。張超が曹操を不快に思っていたのもあり、あっさり張邈軍に裏切り者の烙印を捺す事に成功する。
だが、欲張って呂布まで巻き込んだ事で陳宮の策謀は鳴りを潜める事となる。さらに、呂布を祖父の仇と付け狙う董白に足を引っ張られ、董白が人間に転生した魔王その②の本名を言おうとしたので邪凶としての本性を出して曹操に敗れ、知謀に長けた策士らしくない末路を迎える事となる。
狡賢い性格で、人間のフリをして悪事を働く。
武器・技
悪辣な智謀
口先三寸で人間を騙し、味方にして上手く動かす。
馬絆蛇ばはんだ
普段は人間の姿をしているが、有事の際は全長25m、体重625kg、胴回り直径75cmの猫耳大蛇に変身する。獲物を鎌首をもたげて威嚇し素早い噛み付きで捕らえ、長い体で巻き付いて締め上げる。その気になれば人間の子供を飲み込む事も可能。
曹操聖女伝第5章
その頃、今上帝・劉協は洛陽に逃げ込んでいた。
かつては漢の都として繁栄していたが、この当時残っていたのは、木の皮や草の根を齧る事でどうにか生き延びるのがやっとという極貧だけだった。
ここで機敏に動いたのは曹操であった。
曹操は臣下達を呼び出してこう告げた。
「天の声が“急ぎ洛陽に向かい、劉協を救い出せ”と言っているのだが、これについてどう思う」
荀彧が即答。
「正義無き覇道は混乱と滅亡への道!人心を掴む事は出来ますまい」
程昱もこれに続く。
「さよう。漢王朝衰えたりと言えども、その影響力はまだまだ大きい。大義名分こそが最大の武器ですぞ!」
曹操はやはり天の声に従うべきと判断した。
「荀彧と程昱の意見、最もである。よって、直ちに今上帝の迎え入れの準備に取り掛かる!」
だが、これはある意味競争であった。洛陽に向かっていたのは曹操軍だけではなかった。
「くそー!董承の野郎!ふざけた真似を!」
李傕・郭汜らが今上帝・劉協を傀儡にする事で長安の実権を独占していたが、董承の策で仲違いを起こして劉協を手放す結果となった。そして、劉協奪還の為に洛陽に乗り込んだ。
曹操軍が洛陽に到着したのはその半日後であった。
哪吒が悔しそうに舌打ちをする。
「チッ!遅かったかー!」
だが、曹操は諦めない。
「大丈夫だ。これが李傕の仕業なら向かうは長安。しかも今上帝を奪われてからまだ日は経っていない」
すると、曹操は突然神兵化した。
「七星剣にたっぷりと日光と月光を吸わせた。宝玉7個分は神兵でいられる!」
そう言うと、曹操は長安に向かって飛び立ってしまい、典韋と曹仁が慌ててそれを追った。
李傕・郭汜は劉協を無理やり馬車に乗せ、董承達を牢馬車に無理やり押し込め、長安に凱旋しようとした。
「いいか劉協!お前は俺達の道具だ。道具は持ち主を裏切ってはならない。持ち主の指示に忠実且つ的確に動くのが道具の美徳だ。解ったか!?」
李傕・郭汜が劉協に行っている説教に董承が真っ向から反論した。
「お前達はそれでも人間か!天子を敬う心を失い、庶民を虐げる!これ―――」
郭汜が牢馬車を思いっ切り叩いた。
「黙れ貴様らー!てめーらのせいで劉協は自分の正体が俺達の道具である事実と道具の美徳を忘れちまったんだよ。死んで見せしめとなって償わないとな!」
董承達は愕然とした。この様な外道に漢王朝を乗っ取られ、それに対して何も出来ない。これがこの世の正しい姿なのか?だが、天は彼らを見捨ててはいなかった。神兵化した曹操が漸く追いついたからだ。
圧倒的な力で李傕・郭汜の配下を蹴散らすと、神兵化を解き、劉協に膝を屈する曹操。
「この戦乱の中で洛陽を修復するのは困難です。そこで、我が勢力圏内にある許の地に御移り頂きます。許には既に城郭宮殿全てが備わっておりますれば―――」
李傕・郭汜の配下の兵士を鼓舞するための怒号が曹操の言葉を紡ぐ事を阻むが、肝心の兵達は既に逃げ腰だ。
「下がんな!行けよお前ら!下がんな!行けっておい!」
李傕が慌てて牢馬車に無理やり押し込めた董承達を人質にとる。
「退けよアマ!でないとこいつらを殺すぞ!」
しかし、曹操は再び神兵化し、李傕を空中に浮かべてしまった。兵達が慌てて曹操を攻撃するも圧倒的な力の差に加え、一方は逃げ腰、もう一方は責任感と大義の塊。これではどうあがいても曹操には勝てない。
郭汜が曹操に斬りかかる。曹操の良く鍛錬された、バレエのように優雅でさえある武術に対して、郭汜のそれは野蛮な山賊スタイルであった。
「出直せ」
曹操にアッサリ叩きのめされた李傕・郭汜はそのままほっとかれ、その後、山賊に成り果ててしまったという。
まあ、その統治能力は皆無といってよく、民が苦しむ一方で、李傕と郭汜は互いに酒宴を開き、豪奢な生活を送っていたので、政治家より山賊の方が性に合っていると言えなくもない。
一方、予州潁川郡の許の地に都が移され、曹操は今上帝・劉協の後見人として司空・車騎将軍に任命された。
「国家の安泰は強力な軍隊と充分な食料にかかっている。ところが連年の戦乱の為に食糧不足は慢性化している。この打開策として屯田制と輪作制を導入しようと思う」
典韋は訳が解らず、哪吒達に質問する。
「屯田ってなんスか?」
「兵士に農耕をさせるのさ。そうすりゃ、兵力と食料の一石二鳥だろ?」
「そして輪作は同じ土地に別の性質のいくつかの種類の農作物を何年かに1回の周期で作っていく方法です。栽培する作物を周期的に変えることで土壌の栄養調和が取れ、収穫量・品質が向上します」
「かににて、連作にての病原御身・害虫などに依る収穫量・品質の低下の由々しき事態を防ぐこと、出来るでござる」
しかし、曹操の屯田は一味違った。辺境地帯でなく内地において、荒廃した田畑を一般の人民にあてがって耕作させるもの(民屯)で、当初は許都の周辺で行われ、のち各地に広まった。屯田制下の人民は、各郡の典農中郎将、各県の典農都尉によって、一般の農村行政とは別に軍事組織と結びついた形で統治された。
これによって潤沢な食料を抱えることになった曹操は、各地の民衆を大量に集めることができるようになった。この屯田制が、後漢の群雄割拠の中でそれほど出自的に有利ではない曹操が、他の群雄を退け勝ち残る理由の一つとなった。
また勢力圏の境界付近に住む住民を勢力圏のより内側に住まわせた。これは戦争時にこれらの人々が敵に呼応したりしないようにするためであり、敵に戦争で負けて領地を奪われても住民を奪われないようにするためでもある。
その後も占領区の人心を巧みに掴み、兵力を急増させながら勢力を拡大する曹操軍であった。
人間に転生した魔王その②が山賊に成り下がった李傕と郭汜を捕えて殴り倒した。
「余計な真似をしやがってこの野郎ー!」
袁洪が必死に人間に転生した魔王その②を宥めるが、人間に転生した魔王その②は聞く気は無く、李傕と郭汜を踏むように蹴り続けた。
「もうそろそろお止め下さい!このままではこいつらが死んでしまいます!」
「グッドんだよこいつらは死んバット。こいつらの御蔭でナウ上帝の身柄が 曹操のハンドに渡ってしまったのだからな!」
人間に転生した魔王その②の足の指が李傕の腹に深々と刺さったので、まるで大量の水を吐き出すマーライオン像の様に大量の血を口から発射した李傕。
「げほ、がは、ごほ、げほ」
郭汜が必死に命乞いをするが、人間に転生した魔王その②には邪魔者以外の何物でもなかった。
「そろそろこのワールドからグッバイして貰おうか!」
人間に転生した魔王その②が左手に握りしめられた弩から光の矢をマシンガンのように連続発射して李傕と郭汜を蜂の巣にした。
朱子真と呼ばれる中凶がやって来て、
「また派手に殺りましたなー」
「サッチな事はどうバットグッド。イットより曹操軍はどうなっている?」
朱子真の報告は人間に転生した魔王その②にとって都合の悪い物であった。
「かなり拙いですね。南陽郡の張繍が賈詡(字は文和)の勧めで曹操に降伏する気ですね」
だが、人間に転生した魔王その②は事態を悲しむどころか邪な微笑みを浮かべた。
「そうかー……張繍が 曹操に降伏するのかー。面ホワイトそうだねぇー」
数日後、大慌てで張繍を探す賈詡の姿があった。
「張繍様!張繍様は何処か!?」
漸く張繍を発見した賈詡が問い詰める。
「曹操の野営地に奇襲を行おうとしているとは真か!?」
「いかにも!あの者は最早許せぬ!あの者と組むべきと貫かすお主の方がおかしいのだ!」
賈詡は直ぐに張繍の異変に気付いた。怒気を孕んだ非常に強い口調にも係わらず、瞳が光沢が消えて表情の無い状態でまるで人形の眼であった。
(目と口調が全く釣り合わん!魔性の者にでも誑かされたか!?)
張繍を諌める意味が無いと判断した賈詡は、自軍の強襲部隊に直接命令した方が早いと考えたが、時既に遅く、既に淯水に向かった後であった。
「なんという事だ!このままでは曹操軍との全面対決は避けられんぞ!」
慌てて馬に乗り、大急ぎで奇襲部隊を追う賈詡の姿があった。
この頃、淯水では曹操の命で引き上げの準備が進められていた。天の声の御蔭で張繍軍の奇襲を事前に察知したのだ。
「私も随分腑抜けになったな……もう直ぐ降伏する者に奇襲を許すのだからな」
「なんの。偉大なる改革に反発は付き物です。この世に真の平和をもたらした時、反発は感謝に変わるでしょう」
何故か今回の撤退に不吉な気配を感じた二郎真君は、曹操に暇を貰い、単独で調査を開始した。
そして、張繍軍の夜襲が始まった。最後尾を買って出た典韋の怒号が木霊する。
「裏切り者めが!曹操様に指1本触れさせやしねえぞーーー!」
典韋が凄まじい剛勇であっと言う間に張繍軍の兵士達を屠るが、典韋隊の前に圧倒的な数の兵士が次々に向かってくる。
「必ず……守り抜いてやる……」
その時、何者かが1匹の水牛を張繍軍に投げつけた。
「な、何だー!?誰だよあんな凄い芸当をしたのは?」
其処へ、山賊風の男性が馬車の荷台を右手で引っ張りながらやって来た。
「随分卑怯な真似をする連中じゃないか。これはぶっ飛ばし甲斐がありそうだぜ」
男はそう言うと、片手で荷台を持ち上げてそのまま張繍軍に投げつけた。
「な、何者!?」
男は張繍軍の質問にそっけない態度をとる。
「名乗る気ねえな!」
男は呆れた事に敵兵を凶器代わりに振り回し始めたのだ。
が、典韋や山賊風の男性が凄まじい剛勇を魅せ付けたのも此処までだった。張繍軍が遠巻きにして矢を射かけた。複数の矢が典韋に突き刺さる。
「おいーーー!」
山賊風の男性が慌てて典韋に駆け寄る。
「あんたが何者かは知らんが……おめえが俺の代わりに……曹操様を御守りしてくれ。頼んだぜ!」
其処へ更に矢を射かけられる典韋。一瞬倒れかけるが、
「な、ならねぇ!俺は曹操様の退路を確保する為にも、此処で倒れる訳にはいかねぇ!」
典韋は槍を自らの足に突き刺し、目を怒らせ口をあけ大声で罵り不動の体勢で死んだ。
「曹操様……おさらばです……」
典韋の死を見届けた山賊風の男性の怒号が飛ぶ。
「おのれらぁーーー!」
漸く自軍の強襲部隊に追いついた賈詡だが、立ったまま絶命した典韋を見て顔面蒼白となった。
「なんて事を!あれは曹操軍の剛将・典韋ではないか!優れた人材をこよなく愛する曹操に知れたら大変な事になるぞ!」
そこへ山賊風の男性が賈詡に食って掛かる。
「貴様が親玉かー!?」
慌てる賈詡。
「ち、違うのだ!我が主君は魔性の者に誑かされ―――」
「嘘を吐くならもっとマシな嘘を考えておけ!」
「う、嘘ではない!本当なら我々は曹操軍に―――」
其処へ年老いた老婆が現れ、2人の間に割って入る。
「先程の魔性の者、詳しく聞かせてくれまいか」
怒りに身を任せた山賊風の男性は聞く耳持たない。
「下らねぇ理由で真の漢が1人死んだんだぞ!どう責任をとる!?」
老婆は袖口から大量の泡を噴射して山賊風の男性を惑わし、その隙に賈詡を連れて逃げた。
曹操は舞陰で典韋の死を聞くと涙を流し、その遺体を取り戻すために志願者を募った。
「典韋よ、お前の死は決して無駄にはしないぞ!この曹操、お前が命を張って護っただけの女になってみせる!」
建安3年(198年)、曹操軍は張繍を穣に包囲した。その際、哪吒が張繍を挑発した。
「おい!お前達は夜襲が無いと真面に戦えない屁垂集団かー!?そんな軟弱でよく典韋を斃せたなー!?悔しかったら今直ぐ出て来い!」
其処へ、典韋の死を見届けた山賊風の男性がやって来て哪吒にこう告げた。
「その台詞は俺の物だ。俺が張繍に言い放つ筈だった台詞だ」
山賊風の男性の殺気に敏感に反応した曹操が駆けつけた。
「お主は自分が張繍を挑発する筈だったと言ったな?何故張繍を敵に回す?」
山賊風の男性の表情は何処か寂しげにも見える。
「曹操を護れ……それがあいつとの約束だからな」
自分に声をかけた美少女こそが典韋が言っていた曹操だと気付かない山賊風の男性は、曹操に背を向け、ゆっくりと張繍が立て籠もる城に近付いて行った。
「我こそは許褚!字は仲康なり!アイツの無念を晴らしてくれるわーーー!」
獣の様な雄叫びを上げ、悪鬼の如き形相をもって張繍軍の兵士達を屠る許褚。
「おおおおーーーーー!」
張繍軍の兵士達は恐れおののき、隊列を崩してしまう。
「正に獅子欺かざるの力だな」
許褚は自分の後を追う曹操に質問する。
「お前さんは何者だ?何故俺に付いて来る?」
曹操は悲しげに答えた。
「貴方は典韋の約束を守りたいのであろう。なら、この曹操が貴方の傍にいるのは当然の事だろう」
許褚は驚きを隠せない。当然だ。典韋が命懸けで護った主君が実は何時まで経っても肉体年齢と外見年齢が15歳の美少女のままなのだ。
「あんたが曹操ぉー!?アイツにあそこまで言わせた者ならもっと厳ついかと思ったぞ!」
曹操は微笑みながらこう答えた。
「私が欲しいのは見た目の厳つさでは無い。同志なのだ。不義と戦乱を憎む志だ。私の理想に殉じて戦える者なら、例え昨日まで敵であろうとも、今日より私の部下だ!」
許褚は曹操の見た目に騙され曹操を侮った事を恥じた。そして、かしこまり、手を前につく。
「殿、と呼ばせて貰いましょう」
その頃、賈詡は謎の老婆と共に魔性の者に誑かされた張繍を正気に戻す方法と、自軍を包囲している曹操軍対策を思案していた。
「とりあえず曹操軍は劉表(字は景升)殿に援軍派遣を要請したので何とかなりそうだが、問題は張繍様じゃ。あれはかなり重症ぞ」
「して、どの位変わったのですかな?」
「……見れば解るよ」
賈詡と謎の老婆は人間に転生した魔王その②の傀儡と化した張繍に謁見した。
「何をしておる!早く曹操を討ち取らんか!」
「……賈詡殿……これは……」
賈詡は溜息を吐きながら話す。
「私がちょっと目を離した隙に魔性の者が張繍様を誑かしたのじゃ」
謎の老婆が手を2回叩くと、張繍が急に正気を取り戻した。どうやら人間に転生した魔王その②の傀儡の時の記憶まで消し飛んでしまったらしい。
「ん?此処は……おい!曹操軍が我らを攻撃しておるぞ!曹操軍に降れば曹操に乱暴される事は無いは嘘か!?」
賈詡は溜息を吐きながら話す。
「張繍様は魔性の者に誑かされた後の事を覚えておられぬ故に曹操が我々を裏切った様に見えますが、先に夜襲を仕掛けたのは私達です」
慌てる張繍は事態を上手く飲み込めない。
「や、夜襲ー!?儂が何時!?」
謎の老婆が手を2回叩くと、張繍が冷静さを取り戻した。
「あ、あれ?儂は何を焦って……」
謎の老婆が張繍に質問をする。
「それより、賈詡殿が申された魔性の者について何か知らぬか?」
「魔性の者?……あ、そういえば、なんか妙にチャラチャラした若造がいきなり儂の前に現れて……あれ?その後の記憶が無いぞ」
「それだ!その者が張繍様の正気を奪ったのです!」
「え?と言う事は……儂は誰かに操られていたの!?」
「どうやらその様です」
謎の老婆が口を開く。
「そして、2000年前に滅んだと信じられている無秩序と悪徳を司る生き物達・“邪凶”に天下を譲らんとしている」
賈詡は驚きを隠せない。
「では、あの伝説は真実だと言うのか!?」
「左様。曹操は仙界が遣わした使者じゃ!」
「不味いぞ……劉表軍はもうそこまで来ている!」
謎の老婆が首を横に振りながら、
「心配は無用。曹操はこの程度の窮地は慣れっこじゃ」
劉表は援軍を送って曹操軍の背後を脅かすと、張繍とともに挟撃しこれを破った。しかし敗走する曹操を追撃する際、伏兵にかかって両軍とも敗れ、張繍軍は劉表の許に落ち延びた。
張繍の許にいる筈の謎の老婆が曹操の許を訪れた。許褚にとっては賈詡への止めを妨害した敵である為、許褚が趙公明に羽交い絞めにされた。
「落ち着け!あの者は同志じゃ!」
「うおー!放せー!あの者は張繍の裏切りに加担した―――」
謎の老婆の口から若い男性の声が発せられた。
「やはり見てくれ通り見た目に騙されやすい性格の様ですね。そんな事では仙人に騙されてしまいますよ?」
謎の老婆は変装を解き、いつもの額に縦長の第3の眼を持ち、鎧をつけた美青年の姿となった。
「やはり顕聖殿であったか」
目を白黒させる許褚をからかう哪吒。
「あんたは七十二変化の術を見るのはこれが初めてだったんだな。すげぇーだろ!?」
曹操が二郎真君に質問する。
「して、張繍と邪凶との関係は?」
「やはり邪凶に操られていたようですね。正気に戻った途端に何故我々の襲撃を受けているのか解らず混乱していましたよ」
それを聴いた許褚が怒り狂う。
「向こうが先に仕掛けておいて、何が襲撃を受けている理由が解らないだ!ふざけるな!」
「哪吒殿合力とは!そこの棒にて許褚の尻を、尻をぶっ叩ゐて!」
曹操が呆れる。
「また賑やかな生活に逆戻りか」
その頃、徐州の車冑は窮地に立たされていた。
袁術は勢力を巻き返しつつあった曲阿の劉繇の攻略を孫策に委ね、自身は徐州の車冑を攻撃することを決め、徐州に出征した。車冑は迎撃するために出撃したが、一方でこれ以前に曹操に敗れて流れてきた呂布を庇護していた。
袁術は呂布の参謀の陳宮にこう告げた。
「漢に代わる者は当塗高なり!もはや漢王朝の命運は尽きた。今の今上帝は只の後ろ盾役の傀儡にすぎん」
「成程成程、と言う事は今上帝に変わる新たな皇帝をと」
「いかにも!その役目を果たせるは我以外あるまい!」
「それが宜しゅうございます」
(漢王朝という後ろ盾が無い曹操か……ふふふふふ……)
建安2年(197年)正月、袁術は漢王朝の終焉を認め、寿春を都として仲王朝の皇帝に即位した。さらに、袁術は呂布に、20万石の兵糧を提供する事を条件に、車冑の背後を衝くように持ちかけ、車冑の本拠地の下邳の守将の曹豹・許耽が車冑を裏切り呂布を迎え入れたため、本拠地を奪われた車冑は退却した。
無論曹操は承認を拒否し、車冑に援軍を送った。だが、意外な所から袁術の瓦解は始まっていた。
「袁術様を裏切れと……」
袁術軍部将の韓暹は耳を疑った。突然やって来た陳珪(字は漢瑜)を名乗る老人が好条件を餌として説得しに来たのだ。
「いや、逆賊を滅ぼせと言っていますのじゃ。そうすれば、帝の覚えもめでたいし、呂布殿も丁重にお迎えすると申しておりましたぞ」
陳珪の堂々とした言い分に完全に飲まれた韓暹。
「しかし、これだけの大軍、我々だけでは……それに、最早袁術様が今上帝。これでは帝に刃向う事になるのでは?」
「ならばもう1人仲間に加えれば良い。楊奉殿なんかは如何ですかな?あと、孫策(字は伯符)殿が袁術を離反しようとしておりますぞ」
「マジで!?寵愛を一身に受けたあの孫策が……」
その結果、韓暹と楊奉が袁術を裏切り、徐州は呂布に取られぱなしの状態となった。これに焦った陳宮が韓胤と謀って呂布の娘を袁術の子の嫁に迎え入れて袁術軍と呂布軍の仲違いを解消しようとしたが、呂布と袁術の同盟を恐れる陳珪が呂布の許を訪れ、
「何ー!袁術がそんな事を!?」
「左様です。帝の配下の者達の中には曹操を気に入らぬ者がおりまして、その者達と謀って曹操を亡き者にせんとしておりますぞ」
「嘘だろ?」
「いいや、陶謙の様な輩が帝の配下の中におるやもしれません」
呂布は陳珪の説得に従って娘を連れ戻し、韓胤を曹操に引き渡してしまった。韓胤は曹操の命により斬首され、許の市場で梟首された。
更に陳珪は孫策の許を訪れ、袁術が仲王朝の皇帝に即位した事を告げた。
「あの馬鹿!皇帝即位を諫める書簡を送たぞ俺!」
「他の諸侯も同じ事を言っておりましたぞ」
孫策は武力をもって袁胤を追放し、ついに袁術に対して独立を宣言する。孫策の独立に応じ、一時袁術の配下にいた周瑜(字は公瑾)は魯粛(字は子敬)を連れて孫策の元へ合流する。また、呉景、孫賁も袁術を見限り、孫策に従う事となった。
「おのれ孫策!恩を仇で返しおってー!許さんぞー!」
これに憤った袁術や陳瑀は丹陽郡の宋部一揆の首領の祖郎らを扇動して孫策を攻めさせたが、孫策は孫輔や程普らとともに祖郎と戦い、激戦の末に祖郎を生け捕りにした。祖郎は孫策の部下となり、門下賊曹に任命された。
また、韓胤の死に激怒した袁術は楊奉と韓暹と共同戦線を結び、自身が任命した大将軍の張勲らを派遣して呂布を攻めたが、この時既に陳珪の説得を受けて楊奉と韓暹が呂布に寝返っており、陳珪の合図で袁術軍を攻撃し袁術軍を大敗させた。
正に踏んだり蹴ったりな袁術だが、陳珪の本当の目的は呂布の敗死にある。その為にもこれ以上袁術軍の拡大強化はなんとしてでも阻止なければならない。
もし、袁術軍と呂布軍が手を組めば呂布は無敵となる。そうなれば袁術が真の今上帝となり、呂布を敗死に追い込むチャンスは永遠に失うのだ。
しかし、陳珪は何故此処まで呂布を追い込もうとするのか?
呂布軍は陳珪の策略によって袁術軍と対立している最中に曹操軍と戦う羽目になった。
焦る陳宮であったが、最早巻き返しは不可能に思われた。だが、陳宮は諦めてはいなかった。
(何か手はある筈じゃ!このままでは曹操に徐州を盗られ、袁術は斃され、曹操軍の後ろ盾である劉協が今上帝に返り咲いてしまう!急げ陳宮!急ぎ策を捻り出すのだ!)
その後、曹操軍が小沛に攻め込んだと言う報告を受け、呂布自ら出陣したが、此処でも陳珪が呂布の足を引っ張った。彭城の城門を閉じて、呂布を入れなかったのだ。
陳宮が陳珪を叱りつける。
「これは何事か!?この方は彭城の城主・呂布様で在らせられるぞ!」
が、陳珪は城門を開けるどころか、逆に呂布軍に矢を浴びせたのだ。
「ふふ、この彭城の城主は、呂布などと言う賊ではない」
「おのれ陳珪!袁術を陥れたのは全て徐州を我が物とする為か!」
陳珪はしれっとこう言い放った。
「陳宮よ、血迷うのもいい加減にせよ。この城の主は儂でも呂布でもない、曹操殿じゃ」
陳珪はよりによって曹操に徐州を明け渡すつもりなのだ。しかも、
「それより陳宮よ、曹操はあの者の本名を未だ知らぬらしい。これは不公平ではないですかな?」
陳宮は顔面蒼白となった。曹操に人間に転生した魔王その②に関する重大な情報を与えれば、必ずや曹操は喜び勇んで人間に転生した魔王その②を討ち取りに行ってしまうだろう。流石の人間に転生した魔王その②でも、神兵化した曹操が相手では無事では済まない。
だからこそ曹操軍以外の諸侯を強大にし、曹操を四面楚歌に追い込まねばならない。だからこそ……だからこその袁術の仲王朝皇帝即位と呂布軍と袁術軍の同盟であったのに、陳珪はそれをどんどん壊していく。
その後、陳珪は曹操軍を彭城に迎え入れ、徐州奪還の足掛かりにさせた。
下邳に籠城する事を余儀なくされた呂布軍。その後の展開について呂布と陳宮の意見が対立していた。
「俺が騎兵を率いて曹操の糧道を断つ!」
「お待ちください!出撃は不利で御座います!籠城をなされませ!」
「籠城をして何になる?只のジリ貧ではないか」
「我々にはまだ袁術がおります!今からでも遅くはありません!娘を袁術の許に送るのです!」
「曹操はそこまで馬鹿では無い。俺の娘を曹操にくれてやる様なモノだぞ?」
確かに呂布の予想通り、曹操は呂布が娘を背中におぶり馬で敵中突破して袁術に援軍を求めると踏んで下邳の全ての門を包囲した。さらに、
「確かに呂布は武勇と戦術に優れておりますが、戦略はまるで素人です。そこを明白にしてしまえば、呂布軍は内部から崩壊してしまうでしょう」
「されば水攻めは如何でしょう?幸い、この近くには沂水と泗水があります。この河の水を曳き込めば、必ず下邳城は水浸しになります」
曹操は少し考えてから決断した。
「……これなら袁術軍も呂布軍に援軍を送る気が萎えるな。よし!荀攸(字は公達)と郭嘉(字は奉孝)の策を用いて水攻めにしよう」
それにより水攻め用の堤を作る事になったが、この建築に参加して働くかどうかは人々の自由意志であり、働きたいと思う者には労賃を払うと布告したので、わずか1週間で作り上げた。
「決壊させよ!」
下邳城を包囲した堤に大量の水が流し込まれ、下邳城は湖の上に浮かぶ城となったのである。
このまま水攻めが成功するかと思われたが、なんと下邳城を豪雨が襲ったのである。これを見た陳珪は必死になって叫ぶ。
「今だ!誰か声を上げろ!上げてくれ!曹操殿に就き従えと声を発しろ!そうすれば曹操軍の逆転勝利は現実となるのだ!」
だが、郭嘉は冷静に陳珪を説得する。
「大丈夫だ。城が此処まで破壊尽くされれば、誰でも戦意を失うであろう!」
水攻めの効果は覿面であった。荀攸・郭嘉の予想通り、呂布軍では抗戦か投降かをめぐって仲間割れが生じ、密かに曹操軍に投降する者が続出した。
この後に及んでもまだ呂布軍にいる陳宮。本来の彼なら既に呂布を見殺しにして人間に転生した魔王その②の許へ逃げ帰る筈だが、陳珪の余計な一言のせいで下邳城から出られないのだ。
その事を人間に転生した魔王その②に伝える赤肌のハーピー。
「なんだと!?マイブックネームを曹操にレッスンるだと!?」
「はい。その為に陳宮は未だに」
「サッチな事されては……僕のライフラックが 尽きてしまう。朱チャイルド真Yesるーc!?」
朱子真が人間に転生した魔王その②の前に現れた。
「如何いたしましたか?」
「陳珪とセイ糞爺が 僕のブックネームを曹操にばらすと言っている。そのビフォーにその糞爺をぶち殺せ!」
「は!解りました」
その頃、袁術が送り込んだ援軍が下邳城に到着したが、此処でも水攻めの効果が曹操軍に有利をもたらす。
「これでは呂布軍は間違いなく全滅だ」
「帰ろう。これは勝てない」
「今回の出陣は兵糧の無駄遣いだったな」
朱子真も下邳城の現状を見て愕然とした。
「終わった……最早手遅れだ……」
この結果、陳宮は逃げる事も進む事も出来ない袋小路に迷い込んでしまったのだ。
呂布軍が立て籠もる下邳城を攻略するべく水攻めを行っていたが、曹操は色々と思う事があった。
(呂布よ……戦いだけしか知らぬ若い野望の持ち主よ……此処までされてもなお私との一騎打ちを所望するか?……何故……)
曹操は静かに神兵化すると、周囲の制止を振り切って飛翔。まっすく呂布を目指す。
「呂布よ」
呂布は喜びに打ち震えていた。漸く神兵化した曹操と戦えるのだ。
「待っていたぞ!曹操!」
曹操が突き出した七星剣を、呂布は見事な腕前で受け流して払い、変々戟で斬り込んで来た。今度は曹操が変々戟を払って再び七星剣を構えて振り下ろす。
鋭い金属音が鳴り響く。
「やりおる」
七星剣と変々戟を交差させたまま呂布が唸った。
「まだまだ!」
2人の動きは目にも停まらぬ速さで、その優雅な舞には踊りやアクロバットの名手でさえ平伏す程であった。
「あいつ、強ぇ!」
慌てて駆けつけた哪吒は、思わず息を呑んだ。
両者の七星剣と変々戟が目にも停まらぬ速さで激しくぶつかり合う。声にならない声で吼え、心の叫びをぶつけ合うような応酬が続く。
余りの激しさに、両軍は何時しか手を止めて2人の戦いに目を奪われた。
呂布が声を絞り出すように叫び、変々戟を突き出す。
「お前が悪いのだ!」
曹操は応戦しながら問い返す。
「呂布よ……私の何処にお前を此処まで追い詰める程の魅力があるのだ?」
「俺はお前のような奴を、お前の様な強敵を探していた!なのに何故!お前は俺との戦いから逃げる!?」
それが呂布の本心なのだろう。趙公明は呂布の人間らしさに触れた様な気になり、ドキリとする。
「俺の武勇は?俺の武功は?俺の力は曹操にとって無意味だと言うのか!」
呂布の心からの叫びに、曹操は全身から衝撃波を放つ事を答えとした。
「それだけでは人を測れぬ!」
曹操は富や権力、そのようなものだけが人間を計測する物差しではないと思っている。それだけは解っている。信じているのだ。
吹き飛んで離れる呂布。と同時に細長い光弾を何発も放つ曹操。光弾は、呂布の頬を掠めていく。だが、既に曹操は呂布の後ろに回り込んでおり、その首に七星剣があてられる。
「此処までだ!」
手にした変々戟を落した呂布は観念したのか座り込んでしまった。
「負けたよ……だが、満足だ!その返礼に張遼(字は文遠)をくれてやる!」
それを聴いた張遼が猛抗議。
「何を勝手に決めるんじゃ!」
呂布も言い返す。
「俺の人生は終わったのだ!もうこれ以上恥を掻かせるな」
呂布は自分の首に手刀を見舞いながら言い放つ。
「殺れ!」
此処で漸く神兵化を解く曹操。
曹操に斬首される直前に呂布は満足げな笑顔でこう言い放た。
「くだらない趣味に就き合せて悪かったな」
こと切れる呂布。曹操はこう告げた。
「呂布の武勇は美しい。だが、遠目に見ると、呂布と言う男は悲しいな」
曹操の顔は何処か寂しげだ。
それを聴いた張遼は考えを改めた。
「先程は曹操に降った者を侮辱するような事を申して悪かった」
曹操に膝を屈する張遼。
「もしまだ間に合うのでしたら……そなたを殿と呼んでも良いか?」
「良かろう!我が軍に残り、最強の武を求めよ!」
曹操の堂々とした態度と美しき美少女ぶりに周囲は敵味方の垣根を越えて見惚れていた。
己の野望を達成した筈の陳珪も喜びを忘れて立ち尽くした。
だが、2匹の邪凶だけは違った。
朱子真は体長170cm、肩高90cm、体重190kgで背中や側面に長さ56㎝程の針を約3万本も備える猪となって陳珪に突進する。
(せめて……せめてあの御方の本名だけは死守せねば!)
陳珪は朱子真の突進を受けて吹き飛んだ。そして、そのまま水攻め用の水の中へと落ちた。
「なんだあれは!?」
陳宮がガッツポーズをしようとしたが、趙公明が空気を読んで陳宮の口を槍の柄で塞いだ。
「暫くかを噛みてゐて下され」
曹操は水攻め用の水の中へと落ちた陳珪に向けてこう言い放った。
「満足かね?新たなる魔王よ」
「満足かね?新たなる魔王よ」
この言葉に朱子真も陳宮も理解に苦しんだ。張角と蚩尤は曹操に敗れ、董卓は呂布に殺された。残る魔王はもう人間に転生した魔王その②のみの筈。
だが、曹操はハッキリと陳珪を魔王として扱った。
(これはどういう事なのだ!?あの御方以外に地上の王に相応しき者がおる筈が無い!無いのだ!)
すると、水攻め用の水の中から藤色のツインテールをなびかせた前髪で目を隠しているのが特徴の美少女が全裸で出て来た。その体つきは控えめな胸元と相まって、華奢な印象を受ける。
「何時気付いていたんですか?」
哪吒が悪態つくように答えた。
「最初からだよ馬鹿!」
二郎真君が続けて答える。
「まさか幻影を身に纏うとは……中々面白い変装を見せてくれましたが、生憎我々には通用しませんよ」
許褚が困り果てる。
(また夏候惇に馬鹿にされそうだぜ……)
「して、何時頃から魔王に?」
さっきまで陳珪であった少女は素直に答えた。
「私は御爺様を呂布に殺され、王允に命を狙われました。でも、御爺様が私に力をくれました」
それを聴いた曹操は、さっきまで陳珪であった少女の正体を見抜いた。
「確か……董卓の孫娘に10歳ほどで渭陽君になった者がおると聞く。そうだな?董白」
董白は背中にトビウオの胸ビレの様な羽を生やし、自身の下半身を鯉の鱗で覆われたイルカの下半身に変えた。
「魔王董白よ!お前は何をしに来た。復讐か?欲望か?」
董白は内気で引っ込み思案な性格なりに力強く答えた。
「復讐です」
「して、この後どうする?私はまだ神兵化できるが……挑むか?」
董白は首を横に振りながら答えた。
「その様な事をすれば彼の思う壺となります。故に見逃してくれたら嬉しいと思います」
二郎真君も曹操が神兵化の無駄使いをして、未だに謎が多い人間に転生した魔王その②に付け入る隙を与えたらどうなるのかを懸念していた。
(確かに、七星剣に日光と月光をたっぷりと吸わせれば、曹操は何時でも神兵化出来る。しかし、七星剣に日光と月光を吸わせる最中に魔王級の邪凶に襲われれば一溜りも無い!)
朱子真が再び董白に飛びかかろうとするが、内気で引っ込み思案な性格とは言え魔王は魔王。中凶クラス如きが敵う相手ではない。
「静かにしてください!」
董白にこう言われた途端、朱子真が口を開けなくなりもがき苦しんだ。
「ガフッ!ガフッ!」
それを見ながら曹操は質問する。
「お主は何を企む?」
董白の答えは意外なモノだった。
「それは既に終わりました。呂布亡き今は」
「成程。復讐の事で頭が一杯か。あの頃の私同様に野望が若いな」
それを聴いた董白は自分が出来る最大級の力強さで曹操に問うた。
「曹操さん!だったらどのような野望が年老いたと言えるのですか!?」
曹操は静かに、そして自信満々に答えた。
「私が領主に求める物は3つだ。ひとつ、民を護る盾と成れ。ふたつ、兵を育てる道と成れ。みっつ、領土を肥え太らせる餌と成れ。この曹操、この3つの条件を兼ね備えた者しか領主と認めん!」
董白は納得しながらこう答えた。
「完璧だ。だがしかし、それ故に誰にも相手にされていない!何故なら、他の諸侯はその様な綺麗で完璧な野望は求めてない!自分が可愛いからこその野望!自分を良くする為に野望は在る!」
曹操は微笑みながら告げる。
「まあ道程は困難だろう。この先も多くの敵が私の前に立ち塞がるだろう。だが、だからと言って自分の信念を曲げる事に何の意味がある?それは最早逃げですらない。只の物だ。生命としての価値すら無い」
「所詮、民亡き国は国に非ずか」
曹操と董白の問答合戦を不安そうに眺める朱子真と陳宮。
(止せ!止めろ!これ以上口を開けるな!曹操が知ってはならない真実が白日の下に晒されてしまうぞ!)
だが、朱子真と陳宮の願いも虚しく、董白は人間に転生した魔王その②に繋がる言葉を口にしてしまった。
「劉備(字は玄徳)という方は知っていますか?」
このタイミングで出てくる名前。それが意味するモノは多くて大きい。
哪吒は恐る恐る尋ねる。
「誰だよ……そいつ……?」
朱子真と陳宮の焦りは既に限界値を超えていた。董白の返答次第では人間に転生した魔王その②の本名が曹操にばれてしまうからだ。
董白はまるで墓標の様に突き刺さる変々戟を見ながら独白する。
(劉備……この人が負けたら曹操を止められる人はいなくなる。けど、今更迷っても仕方がないよね?)
「劉備とは……天を知らずして天に背き、乱世に戦わずして乱世に乗り、欲を顧みて人心を惑わす!真に鬱陶しい男だ!」
「うがあぁーーーーー!」
陳宮が全長25m、体重625kg、胴回り直径75cmの猫耳大蛇になってしまった。
「貴様こそ黙れぇーーーーー!」
曹操は七星剣を抜くと、憎しみの塊の様な表情を浮かべた。
「陳宮!張邈を裏切り者に仕立て上げ、不要な戦を次々と作り出し、多くの死と悲しみを生み出した。その罪は許し難し!」
朱子真と陳宮が同時に曹操に襲い掛かるが、あっさり微塵切りにされた。その隙に董白は自身が巻き起こした豪雨を煙幕代わりにして逃げ去ってしまった。
後を追おうとする兵士達を制止する曹操。
「褒美だ。行かせてやれ。御蔭で私の本当の敵の名前を知る事が出来たのだからな」
(そうだろ?劉玄徳!決着の時は近いぞ!)
改めて邪凶から世界を護る決意を固めた曹操であった。
曹操聖女伝第5章の重要登場人物
●典韋
所属:張邈軍→曹操軍
種族:人間
性別:男性
曹操軍武将。
本来は張邈軍武将なのだが、張邈と張超が人間に転生した魔王その②の配下の邪凶である陳宮の甘言に乗って曹操を裏切った事を不義と感じて曹操軍に寝返った。
曹嵩父子の訃報による混乱もあってか、暫くの間は夏侯惇(二郎真君)が預かっていたが、濮陽で呂布と曹操が戦ったとき、典韋は数十人の突撃隊を率いて、2本の槍を駆使しつつ矢の雨の中で奮戦して呂布軍を防ぎ止めた。その武勇を認められ、典韋は曹操のボディーガードとなった。
素朴で屈託のない性格で、さらに固い節義と男気を有していた。その為、哪吒同様曹操軍のムードメーカー……かと思われたが、人間に転生した魔王その②に操られた張繍軍の奇襲から曹操軍を護る為に最後尾を買って出て槍を自らの足に突き刺し、目を怒らせ口をあけ大声で罵り不動の体勢で死んだ。
曹操は舞陰で典韋の死を聞くと涙を流し、その遺体を取り戻すために志願者を募った。曹操は告別式で泣き、棺を陳留郡襄邑に送り届けさせた。
武器・技
二頭槍
重量8kgの槍。普通なら両手で持つ物を典韋は片手に1本ずつの計2本持って戦場をかける。柄の部分に獅子の装飾が施されている。
怪力
細身だが、凄まじい怪力の持ち主。仕事が無い時は町で庭師の手伝いをして、重い庭石を運んだりして体を鍛えている。
●袁術
所属:漢王朝→袁術軍
種族:人間
性別:男性
字:公路
後漢の名門である汝南袁氏出身。袁紹の従弟又は異母弟。
当初は官界にあったが、董卓による動乱の中で群雄の1人として名乗りを上げ、反董卓連合の崩壊後は孫堅らの支持を受けて一族の袁紹と抗争を繰り広げた。
揚州を実効支配した後は漢王朝の終焉を認め、寿春を都として仲王朝の皇帝に即位した。その際、陳宮は袁術と呂布を組ませて曹操を陥れようとした。
だが、孫堅の遺児である孫策を寵愛していたが、皇帝即位がきっかけで仲違い。更に、呂布敗死を目論む陳珪(董白)の策略によって連敗ばかりが続く結果となった。
最期は、袁紹の許に向かう途中で曹操軍に敗れて生け捕りにされ、曹操との問答中に民衆の支持を失ったと悟り、潔く処刑を選択した。
●呂布
身長205cm
体重130kg
所属:丁原軍→董卓軍→張邈軍→呂布軍
種族:人間
性別:男性
字:奉先
丁原軍最強の戦士。
最初の内は丁原軍に所属していたが、神兵化した曹操の強さに惚れこみ、曹操と戦いたいという一心で丁原軍を裏切り董卓軍に就いた。
だが、まるで恋慕の様に曹操との一騎打ちを所望するが、運命の悪戯か、それとも戦略眼の無さが招いた罰か、いっこうに曹操と一騎打ち出来ず、それどころか色々な者達に利用されて裏切りの常習犯的な立場になってしまった。
曹操は最初、呂布の戦略眼を軽んじて真剣に相手しなかったが、下邳城で呂布が悲しい存在に見えたのか、呂布の望み通りに神兵化して戦い、見事に呂布を斃した。
強い敵を感じると真っ先に向かっていく戦闘狂的な性格であり、血を滾らせるより強い相手との戦いを求めひたすら強さのみを追求する侠。
武器・技
変々戟
呂布愛用の武器。状況に合わせて5形態(薙刀、鎖鎌、大鋏、大刀、弓)に変形する。構造が複雑な為、常人だと形態変更に10分以上かかるが、呂布だと形態変更を僅か5秒で完了させてしまう。
赤兎馬
呂布愛用の赤い重種馬。
恵まれた身体能力
一般兵30人と互角以上に戦え、100mは裸足で11秒を切る驚異的な身体能力を誇る。また、武芸百般に長けており、単騎での武力は当代随一とされる猛将。
●董白
身長:140cm
体重:34kg
スリーサイズ:68、52、74
所属:董卓軍→無所属
種類:邪凶
邪凶ランク:小凶→魔王
性別:女性
董卓の孫娘。
まだ簪も挿していない(成人していない)にもかかわらず、渭陽君に封ぜられ領地が与えられたが、董卓が王允の策略と呂布の裏切りによって死亡したけっか、董一族は三族に至るまで悉く獄門に送られた。
彼女もまた処刑されたかと思われたが、火事場の馬鹿力の要領で一気に小凶クラスから魔王クラスへとランクアップした。その後、その力で呂布に復讐する事を決意し、陳珪に化けて呂布軍と袁術軍を策謀で陥れた。
だが、呂布が敗死した後の事を考えておらず、他の魔王の様な野望も無い為、只ブラブラしているだけに陥った。
藤色のツインテールが特徴の可愛らしい美少女だが、内気で引っ込み思案な性格な為、前髪で目を隠している。
武器・技
祭玉
空中に無数の装飾雑多な鞠の様な鉄球を発生させる。脳波で誘導制御出来る他、無数のロケット花火や火の点いた爆竹をマシンガンの様に発射できる。祖父の董卓がロケット花火や火の点いた爆竹を多用するのに対し、董白は祭玉を直接ぶつけたり、盾として使用する事が多い。
目からビーム
両目から着弾点を爆破・炎上させるレーザーを発射する。
人魚
自身の背中にトビウオの胸ビレの様な羽を生やし、自身の下半身を鯉の鱗で覆われたイルカの下半身に変える。主に水中を移動する時に使う。また、驚異的なジャンプ力を誇る。ただし、使用する際は全裸にならないといけない。
水難攻撃
豪雨、津波、洪水、高潮等の水害を自在に巻き起こす。
水面歩行
水の上に立ったり、水の上を歩く事が出来る。
滑空
背中のヒレがグライダーの翼のような役割をし、猛スピードで滑空する。速度は50-70km/h、高さ3-5mに達する。
変装
幻覚を身に纏う事であらゆる者になりきれる。
邪凶召喚
魔王クラスの邪凶が持つ能力の一つ。魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る。
曹操聖女伝第6章
連戦連敗なうえに呂布に先立たれた袁術は、袁紹に援軍を要請したが、子供の病気を理由に断っている。そこで仕方なく袁術自ら袁紹に自己談判しようとしたが、曹操はこれを阻止するため、徐州に朱霊(字は文博)と徐璆(字は孟玉)を派遣し、袁術を捕える事に成功した。
孫策軍立会いの下、曹操は袁術に質問する。
「どうしても解らない事がある。貴方ほどの野心家がどうして孫堅の名声に箔を付ける役回りを演じていたのか?」
袁術は鼻で笑った。
「フン!孫氏は所詮、朕の属国にすぎん!その様な者がどうやって朕を踏み台に出来る!?」
「貴様!」
曹操は袁術に飛びかかろうとした孫策を制止し、質問を続けた。
「ならば!民衆から貰ったモノを大いに自慢してたちどころに私の罵詈雑言を止めてみよ!」
袁術は曹操をぎゃふんと言わせるような答えを言おうと考えていた。しかし、待てども待てども答えが出ず、静寂が支配する時間が続く。
「どうした?何故黙る?」
袁術は結局答えが出ず、自分の涙で自分の頬を濡らした。
「……無い……」
哪吒が悪態を吐く。
「無いって……何で無いんだよ!」
袁術は泣きながらこう叫んだ。
「朕は、もう1人の民も持たぬ国王だったのか。水の一杯も恵んでもらえぬ国王だったのか。そこまで人の心は離れていたのか」
袁術は絶望してとんでもない事を言ってしまった。
「曹操……朕を……朕を殺してくれ!そして、朕を楽にしてくれー!」
袁術の言葉に曹操軍は驚いた。
「え!」
「えぇー!」
曹操ですら驚愕し過ぎて沈黙してしまった。
「これ以上民を失えば天下の笑いもの。もうこの乱世に朕の居場所は無いのだ!」
曹操は漸く決断した。
「哪吒殿、混天綾を」
「おうよ」
哪吒が混天綾を投げ、混天綾が袁術の首を絞めた。
「朕の首級を得た事を誇りに思え」
その直後、袁術は絶命した。
それを見ていた曹操は袁術の従弟の袁胤にこう宣言した。
「袁術の野望年齢が既に成熟していた事を認め、袁術の亡骸を厚遇する事を此処に宣言する!」
それを聴いた袁胤が涙ぐむ。
「申し訳ない!恩に着る!」
孫策は首を傾げた。
「はあぁ?野望年齢ぇ?」
孫策の疑問に曹操はこう答えた。
「この曹操、老化の判断基準を外見では無く勢いで行っている。野望もまた然り。うら若き野望は自分の力を魅せられる乱世を望み、年老いた野望は自分の平穏を護れる治世を好む」
それを聴いた周瑜(字は公瑾)は痛烈な皮肉を浴びせた。
「それはまるで若者の意見より年寄りの意見の方が正しいと申しておる様なモノではないか」
その言葉に対して曹操は自慢げに言い放つ。
「いや、治世は皆が思っておる程頑丈ではない。治世の隣に常に“新しい”が居らねば長続きしない。故に私の野望は中間的な立場である父親世代を維持して欲しいと切に願う」
帰宅時、曹操の大きさに完全に打ちのめされた孫策は周瑜と魯粛(字は子敬)に命じた。
「曹操を徹底的に調べ上げろ!あの化け物がいる限り、俺の目標は遠く彼方のままだ!」
それに対して、周瑜は安堵の表情を浮かべながら首を横に振った。
「その心配は無い。曹操は我々を侮っている」
魯粛が尋ねる。
「それは如何言う意味ですかな?」
「孫策殿が曹操の言った“野望年齢”の意味が解らずにいたでしょ。その時に面白い事が浮かんだのです」
「面白い事?」
「このままいけば、曹操は孫策殿の事を“この程度なら恐るるに足らん”と思うと読んでいましたので、私が更に空気を読めていないと思わせる台詞を業と言っておいたのです」
孫策は納得した。
「成程!そうすれば曹操の目線は俺達から離れる!」
「その通りです」
魯粛が袁術の死を振り返ってこう述べた。
「しかし、民衆から貰ったモノを自慢しろと言われた途端に命をあそこまで縮めたのは凄う御座いましたな」
孫策は当然だという表情でこう答えた。
「袁術が他の者に好かれなかった証拠さ。ああ成ったらもう君主じゃねぇよ!」
周瑜が補足説明をするかの如く言い放つ。
「民有っての国であり、国在っての民ではありませんからな」
その後、曹操は諸侯の礼をもって袁術を揚州で葬った。
曹洪が少し困った顔をしていた。哪吒が曹洪に声をかける。
「どうした?」
曹洪がため息を吐きながら答える。
「これは夏侯淵殿、曹操殿が無理難題を命じましてな」
哪吒が首を傾げた。曹操が人に無理難題を強要するとは思えないからだ。
「無理難題?どういう事だ!?」
「実は……夏侯淵殿を男として扱えと申すのです。この様な可愛らしい幼女を屈強な大男として扱えと。これは―――」
哪吒が激怒した。
「俺は男だ!歯を食いしばれ!修正してやる!」
曹仁が曹洪にフェイスロックを見舞う哪吒を発見する。
「夏侯淵殿!これは一体何ですか!?」
哪吒がさらっと答える。
「何って、お仕置き」
報告を受けた曹操が大笑い。
「アハハハハハハハ!ハハハハハハ!ハッハハハハハ!」
「曹操、窒息しそうなぐらい笑うなよ」
笑い過ぎて半泣き状態の曹操。
「御免なさい。でも、可笑しくて可笑しくて」
荀彧が一応弁護する。
「し、しかし、これ程の暴れん坊の夏侯淵殿が何故に女子に間違われるのか不思議で」
哪吒が怒ったように言う。
「こっちが聞きたいよ!」
趙公明が哪吒をからかう。
「其れは外見の由々しき事態にやあらむ?黙とはゐらば、何奴も、見惚らるる美おぼこに見ゑござらぬもぬ……筈……」
「見てくれの問題かよ!?」
怒って出て行く哪吒。
「趙公明も酷い事を言うぜ!こんなに醜い美少女が何処の世界に居る!」
とりあえず町を散策して気分を晴らそうとする哪吒。そこで不思議な光景を目撃する。町でも有名な庭師の店から大きな庭石を持った許褚が出て来た。
(あんな大きな庭石を1人で運ぶなんて……もしかしてあれって意外と軽いのか?)
「ん?って許褚じゃないか、こんな所で何をやってんだ?」
漸く哪吒が近くにいる事に気付く許褚。
「誰かと思えば夏侯淵殿か。俺は今ここの店の手伝いをしてるんだ」
「手伝いって……禄はちゃんと出ているはずだ。もしかして全部使ってしまったのか?」
仕え始めたばかりとは言え、結構な禄を貰って居る筈。それが哪吒の考えであったが、
「ははは、違う違う。典韋殿がよく庭師の手伝いをしていると聞いてな」
その事実を全く知らなかった哪吒が驚く。
「典韋がそんな事を?どういうこった?」
「典韋殿が此処を手伝っていたのは鍛える為らしい。城で武術の訓練をやるなら相手には困らないだろうが、こういった重たい物は城にはあまりないからな」
「だからここで庭石や樹木を運ぶ手伝いをしていたのか……」
哪吒が典韋の告別式で泣く曹操の姿を思い出す。
「本当に惜しい奴を亡くしたな……俺達」
それに対して、許褚は明るかった。
「確かに典韋殿その者は消えて無くなってしまったが、典韋殿の意思を継ぐ事は出来る!」
「だから典韋が生前にやってた事をやってんのか。あんたにしてはよく考えてるな」
「そうそう俺にしてはよく考え……って、どういう意味だよ夏侯淵」
哪吒が笑いながら言う。
「冗談だよ冗談」
こうして、外見的問題から華奢な美少女に間違えられる苦痛に因る鬱憤が解消されたと思ったら。
「おい、あの娘可愛いな」
哪吒の額に青筋が浮かぶ。
「娘?可愛い?」
「よう彼女ー、あっちでお茶しない?」
哪吒をナンパした男達が酷い目に遭った事は言うまでも無い。
「俺は男だ!歯を食いしばれ!修正してやる!」
曹操は多才で博学だ。
楽器を演奏させれば飛ぶ鳥さえ唸らせ魅了し、楼閣の設計図を書かせれば官渡に非の打ち所の無い完璧な防衛用楼閣が誕生し、古代中国版チェスをやらせればほぼ無敵と言う有様。
二郎真君と趙公明が何気なく道術をやってみないかと曹操を誘ってみた。すると如何だろう、曹操は陰陽五行の要素、すなわち火、水、土、木、金の五行を見事にモノにした。
これには通天教主も驚くしかなかった。曹操に埋め込まれたビー玉の様な宝貝は、宿主の身体を不老長寿と宝貝を使いこなせるように改造するのみで、宿主を博識多芸にする能力は無い。これは全て曹操の才能と努力の為せる業である。
碧遊宮からこの様子を見ていた通天教主はこう言い放った。
「やはり儂の眼に狂いは無かったようだ」
曹操は円形の祭壇へと移動した。祭壇には思い思いに五行を表す箇所が設けられ、椀状にうがたれたくぼみの中にそれぞれの元素を含んでいた。
曹操はサッと手を一振りし、五行の要素を持ち上げた。くるくる回る火の玉、氷の玉、鉄球、泥の玉、そして、木目の豊かな木の玉。まるで曹操が、神秘的な均衡を操るジャグラーでもあるように、全ての玉が曹操の前で回転していた。
見守る導師達は優秀な弟子に満足して、重々しく微笑んだ。だが、意外な者がこの道術の宴の邪魔をした。
「孫策殿がお話が有ると参っております」
その言葉を聴いた曹操は、慌てて持ち上げた五行の要素を元の位置に戻そうとしたが、孫策は少々無礼にも曹操の許可を待たずに二郎真君と趙公明の知り合いである導師達から道術を学ぶために建てた祭壇に上がり込んだ。
「可愛い顔して随分と勇ましいご趣味を御持ちで」
慌てて振り返る曹操。
「こ、これは孫策殿ではないか。何、私の知り合いに道術を嗜む者がおりましてな」
孫策が皮肉を言う。
「なれば仙人になられては如何か?」
曹操は純粋な子供の様な微笑みで返答する。
「なれば誰が漢王朝を蘇らせるのですかな?」
何とも恐ろしい光景だ。見た目には解らないが並みの者ならその場で失神してしまう程の緊迫感があった。
曹操の近くにいた文官が堪らず怒鳴り散らした。
「これ!司空の御前であるぞ!これ以上の無礼は許されませんぞ!」
だが、孫策に睨まれて急に黙りこむ文官。
曹操は
(私が命じもせぬのに毛を吹いて傷を求める(態々欠点を暴く)馬鹿共だ)
と思ったが、口には出せず、只孫策を睨み続けるのみであった。
「まさかとは思いますが……道術を教わりにこちらを訪れたとは言いますまい」
「無論だ。曹操殿が道術を使える事を今初めて知った」
曹操は孫策の目的が曹仁の娘と孫策の弟である孫匡(字は季佐)との結婚についてだと気が付いていた。順調に勢力を拡大していく孫策の勢いを曹操も警戒していたのだ。
「して、曹操殿は俺の弟に知り合いを譲る気になったんだ?」
曹操は既に腹を知っているくせにと思ったが、出来るだけ明るく振る舞った。
「いや、私は只、中々貰い手がいない曹仁殿の娘が不憫に思っただけだ」
孫策は周瑜の予想通り自分達を侮っている事に気が付いた。
曹操は孫堅を高く評価していた。それは事実だ。しかし―――いや、だからこそ親の七光りと軽く見ていたのだ。そのツケが今回の無理な関係取り持ちである。
(やはり動くのが遅かったか)
最初の内は悔やんだが、曹操はふと孫策の死相を発見した。
「それより……私も孫策殿もかなりの恨みを買っている様ですね」
その言葉に眉を顰める孫策。
「何が……何が言いたいのだ」
「文字通りの意味です。恐らく私も孫策殿も無理な勢力拡大を行った自分を憎む日が必ず訪れるでしょう」
結局、曹操と孫策はそのまま喧嘩別れとなった。
「本当にこれで良かったのでしょうか?」
曹操は平然と答えた。
「孫策殿の顔に死相があった。間違いなく近い内に死ぬ」
対話相手に顔に死相が有ったと言う理由だけで喧嘩別れとは……一見、馬鹿げた話に聞こえるが、曹操は占いにも精通していたのだ。此処でも多才を発揮したのだ。
事実、196年、曲阿を始めとする丹陽郡を手中にした孫策は、呉郡、会稽郡の攻略に取り掛かる。呉郡攻略において、呉郡太守であった許貢に勝利し、会稽郡の攻略においては太守であった王朗に勝利する。
が、許貢の死後、彼の客人3人が復讐として孫策の殺害を計画し、実行した。襲われた孫策は自ら3人とも斬り殺したものの、3人の内の誰かが放った矢の一本が頬を貫いたため、これが基で病死してしまった。
重傷で自らの死を悟った孫策は後継に実子の孫紹ではなく弟の孫権を指名し、その補佐役として張昭と周瑜を指名して26歳で死亡。死に際して、張昭ら幕臣には孫権の補佐を頼み、孫権には
「天下の均衡争いに与するようなことは、お前は私のようにはできるまい。しかし、才能ある者を用い、江東を保っていくことについては、私はお前に及ばない」
と、臣下の言を重んじ江東を固く保つことに意を注ぐよう言い残した。享年26。
此処まで凄いと逆に欠点を探したくなるものだが、あるとすれば左手の指が2本しかない事ぐらいだ。そして、相変わらず肉体年齢と外見年齢が15歳のままである。こんだけ別の才能に溢れている時点で正直既におなかいっぱいである。
と思いきや……。
ある日、自分が開発した酒の醸造法“九蒕春酒法(現在の日本の酒造業界において尚行われている「段掛け方式」の元であると言われている)”を見物中に何者かが隠したと思われる書物を発見した。
「何故、こんな所に……」
とりあえず目を通すと、房中術大図鑑と艶本(エロ本)であった。すると……
「な、ななななななんじゃこれぇーーーーー!」
書物に書かれている性交渉に完全に赤面し、いつもの凛々しさは何処に行ってしまったのか慌てふためきカミカミ口調になってしまった。
「あわわわわ、こ、こここここんなのあ、あああああ―――」
荀彧が曹操に水を差しだした。
「とりあえず落ち着いて下さい」
荀彧から貰った水をがぶ飲みする曹操だが、気管に入ったのか急き込んで吐き出してしまった。
「げほげほげほ、あー、どえらいのを見てしまった……」
これを見ても解る様に……曹操は性的に関しては完全に初心だったのだ。
許昌の町は曹操の政策の御蔭で大賑わいであった。
「曹操様の言われた通り、交通路の道幅を広くし、平淡で真っ直ぐな道路を造っています」
「道路の両側には木を植えるのだ。暑い日には旅人が木陰で休める様にな」
曹操は上機嫌だ。自分の考えた政策がこうも簡単に軌道に乗ったのだから。だが、それが後の暗殺未遂事件を引き起こしたのだ。
董承が許昌の町を散策していると、
「何だ、その楽市楽座とは?」
「うむ。許昌の町では、誰でもが自由に商売が出来、税を採られないと言う事らしい」
「え!?他国者の儂でも、商売が出来るのか?」
「そういう事さ」
「儂が前にいた所では色々と役人が五月蠅かったぞ」
「いっそのこと、引っ越したらいかがかな?」
「さっそく!」
そんなやりとりを見ていた野次馬達が大笑いしていたが、何故か董承の顔色がすぐれない。
(確かに曹操殿の言い分は民衆に受けやすい……だが……)
「これでこの町も栄える一方だ」
「ああ、何だか曹操様が帝のような気がしてきたな」
「まったくじゃ。儂はかつて洛陽に暮らしておったが、曹操様の様なありがたい方は帝の中にはいなかった。どいつもこいつも高官達の傀儡のすぎなかった」
「もう、俺達の暮らしが良くなれば、誰が帝でもいいや」
曹操の政策が民衆に受ければ受ける程、民衆の心が今上帝・劉協から離れていくのを感じる董承。
確かに董卓や李傕・郭汜らの後ろ盾として利用される生きた伝国璽(中国の歴代王朝および皇帝に代々受け継がれてきた玉璽)でしかなかった。
それでも劉協は漢王朝の皇帝だ。尊ぶのが常識の筈だ。だが、役に立たない政治家への民衆の眼は無慈悲で非情だ。
外戚や宦官達の好き勝手に因る政治腐敗、貧民の強盗化への対応の遅れ、切っても切れない賄賂と出世との腐れ縁。歴代の後漢の歴代皇帝が築き上げてきた負の遺産が重く圧し掛かる。一度失った信頼や名声はもう取り戻せない。
(このまま……漢王朝はこのまま終わってしまうのか……)
その夜、董承の許に人間に転生した魔王その②がやって来た。
「貴様は何者だ!?」
董承が驚くのも無理はない。何の前触れも無くいきなり出現した上に、非常に無礼で傲岸不遜である。しかも手の指が3本ずつしかないのだ。
(なんたる妖気!)
「く、曲者じゃー!」
「呼んバット来ぬよ。ナウ頃、ワイフちゃんと頑張っている頃でAろう」
最初の内は人間に転生した魔王その②の言う事が解らなかったが、いくら待っても衛兵達がやってこないので死を覚悟する董承。
「怯えるネセサリーはナッシング。僕は君のウィッシュを叶える者だ」
「貴様……一体何が目的なのだ!?何を企んでいるのだ!?」
人間に転生した魔王その②は苦しく微笑し、董承を見つめる。
「僕は只、曹操を許せないだけだ。漢王モーニングをマイセルフの意のままに操り、ネクスト第に権パワーを強大化させようとする曹操の狡猾さが 」
図星を言われて狼狽える董承。そう、董承が恐れていたのは其処なのだ。漢王朝が曹操に乗っ取られるのではないかと不安で一杯なのだ。曹操の本心も知らずに。
「……どうする気だ?」
あと一歩で董承は堕ちる。少なくとも人間に転生した魔王その②に本心を見透かされている。
「But、正面からでは勝ちアイはナッシング。そこで安易に曹操に近付けるYOUのパワーが ネセサリーだ」
その言葉の意味が容易に推測出来た。つまり暗殺だ。
「しかし、どうやって?」
「曹操は頭痛に弱い。そこに付け込めばグッドだ」
つまり毒殺だ。病気を治す薬と偽って毒薬を呑ませるのだ。
董承の返答は早かった。
「やるか……やろう!」
それを聞いた人間に転生した魔王その②は大いに喜んだ。
「ネクストそれでこそナウ上帝・劉協の真の忠臣!正にジェントルメンのミラー!」
だが、奴僕がそれを聞いてしまった。
(大変だ!袁紹が何時攻めてくるか分からない大事な時期に曹操を失えば、漢王朝は滅びる!)
そこで董貴人に密告し救いを求めた。
「父上がその様な事を」
「は!董承様を誑かした男を捕えれば済む問題な筈ですが、何故かその様な手段では事が収まらぬ気がいたしまして」
奴僕の予感は正しかった。相手は邪凶の最高位である魔王。並みの人間では太刀打ちすら敵わない化け物だ。
数日後、曹操が病に倒れたと言う噂が流れた。
民衆に筆舌に尽くしがたい不安が襲い掛かる。
3日目にして早くも民衆が城門に大挙として集まり、その安否を尋ねる一幕があった。
「曹操様は急病の為、床に伏しておられる!」
一揆に似た勢いで城門に迫った民衆を見て、城内からひどく事務的な説明を行うと、人々は更に詳しい情報を求めて不満の声を上げた。
見かねた劉協が吉平と呼ばれる名医を診察に差し向けている。だが、これこそ曹操暗殺を目論む董承の罠だったのだ。
だが、曹操毒殺の使命を帯びた吉平が曹操の部屋に入るなり、自分達の目論見が既に破綻している事に気が付いた。
「こ、これは……只の仮病ではないか!」
ゆっくりと置きながら曹操は不気味な事を言い始める。
「最近どうも妙なな夢を見るのだ。まるで自分の死期が近い様なそんな感じだ」
慌てる吉平。
「何を申されます!健康そのものではないか!」
其処へ哪吒がやって来てこう告げる。
「病魔だけが死の原因ではあるまい。たとえば、良からぬ事を考えている者とか……」
「な、何を申されておる!」
曹操が冷やかす。
「何を慌てておるのだ。それより、私の診断はまだかね?」
「診察も何も仮病が相手ではどうしようもない!」
「では何故私は病に伏しているのだ?」
怒りを抑えきれない吉平。
「こっちが聞きたいわ!」
とりあえず帰る事にした吉平。だが、
「まて、折角私の診察に来たのだ、禄ぐらい貰っていけば良い」
「……訳が解らんわ……」
しかし、曹操に渡された袋の中身は董貴人の首級であった。空恐ろしくなる吉平。
事は4日前に遡る。
董貴人に呼び出された曹操は、董貴人の口からとんでもない目論見を聞かされた。
「私を殺す?」
奴僕が必死に説得する。
「この耳でハッキリ聴いたんだ!本当だ!信じてくれ!」
それでも曹操は半信半疑だ。董承がそこまで悪人とは思えないからだ。
「董承は今上帝の腹心、その様な真似をして何の得がある?」
「操られてるんだ!妙な奴が董承の部屋に突然出現して―――」
「出現?入って来たの間違いでは?」
「本当なんだ!信じてくれ!」
曹操は漸くこの事件に邪凶が絡んでいる事に気が付いた。
(よくもまあこの様な卑劣な策を)
「判った、信じよう。して、そなたらは如何いたすのだ?」
董貴人は突然、剣を取り出して自分の首に突き付ける。予想外の動きに驚き焦った曹操は、董貴人から剣を取り上げようとしたが、
「父上を頼みます」
「止せ!」
董貴人は自害してしまった。曹操は董貴人の躯の前まで来る。董貴人を見つめる曹操。その目から涙が零れ落ちる。曹操は片膝をつき、董貴人に語りかける様に、
「悪いのはそなたでもそなたの父親でもない、今回の政争に付け込んで己の欲望を満たさんとする外道と心得よ……」
曹操は董貴人を抱きかかえて立ち上がる。
「だが、董貴人という女の生き様は、この曹操が背負うべき価値がある」
その後、董承の家を強制的に捜索し血判状を発見する。そして、発見された血判状の中に気になる名前を発見した。
“劉備”
この男こそ、董白に名指しされた謎の男であり、人間に転生した魔王の可能性のある男であった。
数日後、劉協に呼び出されて出廷する曹操。
今上帝たる劉協が上座に座し、家臣達が居並ぶ。その中には董承の姿もあった。
董承が事務的な口調で曹操に質問した。
「曹操よ……そなたは董貴人を殺害したそうだな」
曹操は劉協には答えない。弁明もせず、開き直りもせず、ただ黙っているのみであった。
「答えよ曹操。何故董貴人を殺害した」
曹操は董承が憐れに思えた。愛娘がこんなにも無様な姿を晒しているのに、人間に転生した魔王その②に操られた彼の言動からは父親特有の怒りが全く感じない。
「何故押し黙る。答えよ」
本当なら曹操が董承に斬り殺されても文句が言えない状況の筈なのに……曹操が董承一派を試す為の仮病を使った際に門番が行った事務的な返答。それと全く同じであった。
(操られているとは言え、愛娘を殺害した者が目の前にいるのに……これでは、董貴人は何の為に死んだのか解らん!)
その間、哪吒と二郎真君と趙公明が道術を駆使して董承を正気に戻そうとしたが、反応は変わらない。相変わらず事務的な質問ばかりであった。
最早……董承が感情的になるのを待つのを諦めた曹操は、董承の家から押収した血判状をその場でばら撒いた。
それを見ていた劉協が顔面蒼白となった。
「こ、これは……何故漢王朝を支える者同士が殺し合わなければならないのだ!?」
明らかに愛娘を殺害された董承とは比べ物にならないほど感情的だ。これを見ていた曹操は董承に食って掛かりそうになるが我慢する。
王子服・呉碩・呉子蘭・种輯などの同志一派も顔面蒼白になっている中、董承だけは事務的に淡々と言い訳をする。
「これは捏造です。董貴人殺害を正当防衛と言い張る為の―――」
遂に董承は曹操の逆鱗に触れた。
「貴様!それでも父親か!?愛娘を殺した仇が目の前にいるんだぞ!それなのに……よく此処まで淡々としていられるな!」
そして、曹操は口を滑らせ、墓まで持って行くつもりだった董貴人の死の真相を口にしてしまった。
「董貴人はな、自分の首級を差し出してまで自分の父親の暴走を止めてくれと頼んだんだぞ!お前は愛娘の死を無駄にする気か!」
そこで漸く董承が表情を変えた。だが、その顔は大事なモノを失った被害者とは程遠い……邪な加害者の顔であった。
「この期に及んで貴様に殺された者を自殺として扱うとはな。実に簒奪者らしい考えだな!」
曹操は漸く董承がここまでいとも簡単に邪凶に操られたのかが理解できた。だが、別の意味で董承への怒りが湧いた。
(身分など飾りに過ぎん。盗賊に成り下がる高官より、“義”の為に自らを斬った董貴人こそ、真の権力者ではないか)
其処へ例の奴僕がやって来て、
「帝様!曹操様の申しておる事は真にございます!」
「あ奴は誰じゃ!?」
「董承の奴僕でございます!」
そして、奴僕はとんでもない事を言い始めた。
「董承様は不届き者に操られております!そこで董貴人様が命を賭して救って欲しいと曹操に懇願致したのです!」
それを聴いた劉協は董貴人の心根を知り涙した。
だが、そこへ死んだ筈の董貴人がやって来た。
「父上、目を御覚まし下さい。この様な争いこそが漢王朝を脅かす者の本当に欲していた状況にございます」
董承以外の一同は驚きを隠せない。当然だ、吉平の証言が正しければ董貴人はもうこの世にはいない筈である。
それでも曹操を殺す事しか考えていない董承は只々曹操殺害の必要性を説くばかりであった。
「最早是非も無し!斬る!」
曹操暗殺未遂事件は実行犯が死亡してその娘が自殺と言う物悲しい結果に終わってしまった。
「董承を突き動かしたのは帝への忠誠心。元は純粋な考えの素であったが、どんな純粋な思いも邪に染まり暴走すれば……」
趙公明が弁明する。
「曹操殿は良くやとはおるでござる。悪しきのはその純粋な思ゐを逆手に取り意のままに操る外道の者にござる」
哪吒と程昱がこれに続く。
「そうだぜ!そいつさえいなければこんな事にはならなかった筈だ!」
「左様、我々が今回発見した血判状に書かれた者の中に未だに捕えておらぬ者がおりますぞ!その者こそ―――」
曹操は首を横に振りながらこう述べた。
「いや、私は民衆の事しか考えておらず身分を蔑ろにした。遅かれ早かれ結末は一緒だよ」
哪吒が微かに涙を浮かべながらつぶやくように言い放つ。
「身分って何だよ?只正しい事をしてれば良いだけの話だろ?」
間違った正義、間違った悪、それを判断する事は難しい。良かれとした事が誰かを傷付ける事もある。正義とはなんであろうか……。
ただ、これだけはハッキリと言える。董貴人の死に顔が穏やかであったのに対し、董承の死に顔は怒りに満ちた見苦しい顔であった。
曹操は不快な気配を感じて辺りを見回した。
「いるのは解ってる!そろそろ出てきたらどう!?」
突然出て来たのは人間に転生した魔王その②であった。その表情は不満と怒りで満ちていた。
「ユーはホワット処まで図々しい事をすればスピリットが 済むのだ!」
私利私欲の為だけに曹操の周りを裏切り者だらけにし、多くの者達を死へと追いやった悪魔に言われたくないセリフである。
だが、曹操は人間に転生した魔王その②の言葉を無表情で聞いている。
「サッチなにも用意してやったのに……ホワイ何故死ねない!ホワイ死ぬとセイシンプルな事が 出来ない!」
人間に転生した魔王その②の言葉を聞いて、曹操は鼻で笑った。
「死ぬが簡単?可笑しな事を言う。邪凶が残され、邪凶を抑えなければいけないと言う使命を背負う者がいない世界の恐ろしさを知らんと見える」
「僕のワードのホワット処が 変だとセイのだ!」
曹操は何時にも増して凛々しい顔で答えた。
「私が欲しいのは、帝位でも王位でも奴隷でもない。治世だ。もし他の誰かに天下を盗られる事で真の平和が訪れるなら、私は甘んじてその結果を受け入れよう。だが、人間に転生した魔王その②!いや、劉備!貴様は違う!」
この時の曹操は何時にも増して凛々しく、逞しく、美々しく、そして神々しかった。
「孫策亡き今だから白状出来る事だが、私は孫堅親子を高く評価していた!お前達邪凶がいなければ……そいつらに天下を明け渡していたかもしれん!だが、残念ながら貴様らがいた……欲望と他人の不幸を尊ぶ愚劣な貴様らが!」
人間に転生した魔王その②……この言葉は意外と面倒なので、そろそろ本名である劉備で呼ぶ事にする。の堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけるなーーーーーー!イットじゃAまるでワールドが 僕のシングだとセイトゥルースをノー定するちゃんなモノではないかぁーーーーー!」
「どうやら私はまだまだ戦い続けなきゃいけない様だね」
「グッドに考えろよ!袁術は“朽ちた骨”!袁紹は決断パワーが ナッシング!劉表は評判だけ!孫権は親の七ライトり!劉璋は駄ドッグ!そしてユーは不器用でスカイスピリットの読めない“大義馬鹿”!ワールドの支配者は僕だけ!」
曹操は笑顔で劉備の台詞を否定する。
「袁術はかなり強気な漢、袁紹の後ろ盾である汝南袁氏は侮りがたし、孫権には優秀な親兄弟の血が流れている、劉璋の手中には益州という天然の要塞がある。そして、私は邪凶討伐の必要性を十分熟知している。これの何処に付け入る隙がある?」
劉備の怒りは頂点に達した。
「そのような悪ふざけのようなワードをすらすらと言えるな!ユーはホワットちゃんのつもりだ!」
一旦、劉備に背を向けた曹操は、劉備の言葉を受けてニヤリと笑みを浮かべながら空を見上げた横顔をそのまま相手に向かって倒したような顔の角度で振り返る。
「ふふふ、乱世の奸雄か……それも良い」
曹操の邪悪な微笑みにゾクッとしながらも、劉備は世界の支配者の威厳を保とうと必死に虚勢を張る。
「こ、このままで済むとシンクつまり思うなよ!ユーが 生きている限り、裏切り者の烙印を捺される者は際限無く増えコンティニューする―――」
「なら……貴方が私を終わらせてよ。その、魔王の力を使って」
ジワリと攻撃に転じて劉備の怒りを引き出そうとする曹操。曹操は劉備を怒らせて自分を殺す様に仕向けようとしたが、その意図を見抜いた袁洪に羽交い絞めにされる劉備。
「おやめください!今戦っても張角や蚩尤の二の舞なだけです!どうか御自愛を!」
悔しがる劉備。だが、主導権は完全に曹操が握っていた。
とうとう劉備が袁洪の制止を振り切ってしまった。曹操に向かって複数の隕石が落下してくる。
だが、曹操は既に神兵化しており、七星剣から光線を放って全ての隕石を破壊する。
「ぐぬー!おのれー!」
「もう終わりか?ならばこっちから行くぞ!」
袁洪が口から黒煙を吐き出した。曹操は七星剣を回転させるように振るう事で煙を払う。しかし、既にそこには劉備の姿は無かった。
「逃げ足が速すぎるわね。他の魔王はもっと自信に満ち溢れていたわよ」
結局取り逃がしてしまったモノの劉備との舌戦は完全に曹操の勝ちであった。
博識多芸な曹操は口先もなかなか達者で、恐らく機智に富んだ会話をさせたら、曹操が最も巧みなのではあるまいか。
数日後。
「申し上げます!劉備が徐州刺史の車冑を斬り、反旗を翻しました!」
一同が驚く中、曹操だけは冷静だった。
(やはりこうなったか……車冑には悪い事をしたな)
「劉備め、遂に本性を現したな!よし、直ちに劉備討伐に向かうぞ!」
曹操と敵対することになったので孫乾を派遣して袁紹と同盟し、曹操が派遣した劉岱・王忠の両将を破った。 劉備は劉岱らに向かっていった、
「おまえたち百人が 来たとしても、僕をどうすることもできぬ。曹公が バイワンセルフで来るなら、どうなるーcわからぬが ね」
だが、劉備は攻めて来た曹操の指揮の旗を見ると、戦わずして袁紹の元へと逃げ、楊顕は劉備の妻子と共に曹操に囚われた。
「劉備は、今まで何度も、殿の御命を狙った男……」
「その男の妻子が助けを求めて、我が軍に逃げ込んでくるとは……」
「此処は一思いに……」
だが、曹操の言い分は違った。
「いや、あの者達は助けよう。今劉備の妻子を討てば、私に敵対する勢力が一つに纏まるであろう」
(劉備……恐るべき強かさ。だが、全てが貴様の思い通りになると思うなよ)
曹操聖女伝第6章の重要登場人物
●梅山七怪
所属:人間に転生した魔王その②軍
種類:邪凶
邪凶ランク:中凶~大凶
性別:男性(金大昇のみ女性)
劉備の腹心達。
白猿の精・袁洪、ムカデの精・呉竜、長蛇の精・常昊、大豚の精・朱子真、羊の精・楊顕、犬の精・戴礼、牛の精・金大昇の七人組。袁洪が首領格。
武器・技
如意棒
持ち主の声により伸縮自在で太さも自由自在な円柱形の棒。袁洪が使用する。
七十二変化の術
あらゆるモノに変身する。変身バリエーションが100種以上!制限時間がない他、変身した物体の能力も発揮出来る。袁洪が使用する。
筋斗雲
口から吐き出す黒い煙に乗って空を自在に飛ぶ。脳波で操作できる。袁洪が使用する。
邪凶操作
大凶クラスの邪凶が持つ能力の一つ。中凶以下の邪凶を束ねる事が出来る。袁洪と金大昇が使用する。
大百足
象ほどもある大百足となって空を飛び回る。呉竜が使用する。
猪嵐
体長170cm、肩高90cm、体重190kgで背中や側面に長さ56㎝程の針を約3万本も備える猪に変身する。朱子真が使用する。
羊馬
羊の体毛と角を持つ重種馬に変身する。楊顕が使用する。
グリフォン
背中に儂の翼が生え、尻尾の部分が毒蛇の上半身となっているシベリアンハスキーとなって空を飛び回る。戴礼が使用する。
妖艶淫乳牛。
首から上が妖艶な巨乳美少女の上半身に置き換わったような乳牛に変身する。子を産まずとも母乳が出せ、自身の母乳を精力増強剤や催淫香として使用する。金大昇が使用する。
●劉備
身長:183cm
体重:73kg
所属:人間に転生した魔王その②軍
種類:邪凶
邪凶ランク:魔王
性別:男性
字:玄徳
人間に転生した魔王その②
前漢六代景帝の子、中山靖王劉勝の孫の嫁の連れ子のはとこの妾の三つ上の兄の恋女房の曽祖父の隠し子と触れ込んでいる。
梅山七怪と共に花嫁泥棒など働く悪党。乱世のドサクサに紛れて一旗揚げようと義勇軍を立ち上げたりする。
張角、蚩尤、董卓の失敗を見て来た為、曹操との直接対決は避け、曹操に裏切りの烙印を捺させまくる作戦に移行。それが戦局に大きく影響する事になる。
性格は冷酷で卑怯でドスケベ。古代中国出身なのに英語が混ざった独特の口調で話す。また、装飾雑多な服装を好む。
文学博士・阿部正路の説によれば、人間の手の5本指は愛情・知恵という二つの美徳と、瞋恚いかり・貪欲・愚痴の三つの悪をあらわすそうだが、それだと、劉備の手の指が片手に3本ずつの計6本なのは、人間が本来持っている良心が劉備には全く無い事になる。
武器・技
靖王伝家
中山靖王劉勝より伝わるとされる、王たる者のみが持つ事の出来る鍔無しの直剣。豪壮な装飾が施されており、装飾品に近い。
光矢弩
愛用の弩から光矢を200発/分で発射する。
障壁深紅
マントをひるがえして周囲の敵を一掃し遠くに吹き飛ばす。
催眠術
特殊な眼光で一瞬にして相手を催眠状態にして意のままに操る。しかし相手が強固な意志を持っていると通用しないことがある。
メテオフォール
計10個の隕石を落下させる。隕石はある程度敵を狙って落下し、味方には被害を及ぼさない。
ヴォルテクスレイジ
敵を巻き込んで暴れまわる竜巻を発生させる。脳波で操作できる。
サンダーレイン
敵の頭上に雷を落す。
ワープ移動
行きたい場所に瞬間的に移動する。主に敗走時に使う事が多い。
邪凶召喚
魔王クラスの邪凶が持つ能力の一つ。魔王は大凶以下の邪凶を召喚・使役出来る。
曹操聖女伝第7章
曹操が董承を処刑していた頃、幽州でも血生臭い出来事が起ころうとしていた。切っ掛けは公孫瓚(字は伯圭)と劉虞との対立であった。
幽州では銀月族と呼ばれる亜人種の反乱に頭を悩ませていた。そこで朝廷は幽州刺史の経験のある宗正の劉虞を幽州牧に任命してこれに当たらせた。
銀月族に対し恩徳を以た懐柔策を採る劉虞に対し、公孫瓚は
「銀月族は制御し難いものである故に、彼女等が服従しない事を以て討伐すべき。若し今彼等に恩徳を与えたら、益々漢室を軽視するに違いない。劉虞の政策は一時の功名は立てても、長期的戦略ではない」
と反論し銀月族降参の使者を捕らえて殺害した。
また、橋瑁と曹操が董卓に対する挙兵を謀った際、袁紹や韓馥は、劉虞が漢王室の年長の宗室ということで皇帝に擁立しようとしたが、公孫瓚は
「皇帝になれるほどの人物なら、天から雨を降らせることができるであろう」
と強引な要求をした。時は真夏の最中だったが、結局雨が降らなかったため、劉協はなんとか今上帝の地位に踏みとどまれた。
更に公孫瓚は袁紹にこう告げた。
「馬鹿げている!それでは規律と大義に反する!そんな事は通せない!」
この一件が袁紹軍の遅参に繋がったのである。また、この一件から、元より悪かった劉虞と公孫瓚の仲はますます険悪になった。
やがて劉虞は公孫瓚が乱を起こすことを警戒し、異民族らと連携し数万余の大軍を集め公孫瓚を攻撃した。
ところが公孫瓚との決戦を前に、従事の程緒が
「公孫瓚の悪事過失は明白だが、処罰の名目が立っておらず、また勝算の見通しも立っていない。ここは兵を留めて攻撃せず、武威を示せば公孫瓚は降伏するでしょう」
と進言する。
劉虞は進言を退け、士気を沮喪させたとして程緒を斬首に処したが、かえって軍勢は混乱した。さらに従事の公孫紀は、公孫瓚と同族で彼に厚遇されていたため、討伐作戦の詳細を密告した。
公孫瓚は劉虞の陣へ火攻めを仕掛けて散々に討ち破り、ついに劉虞は捕らえられてしまった。
これに慌てたのが袁紹であった。曹操が董卓軍残党の魔の手から劉協を奪取した事で、まるで飛ぶ鳥を落とす勢いとなった事を憂いでおり、何とか曹操を今上帝の後ろ盾を得た状態から引き摺り降ろしたかった。
が、袁術の失敗を見た後では、皇帝僭称への踏ん切りがつかなくなる。そこで後漢の東海恭王・劉彊(光武帝の長男)の末裔である劉虞を皇帝に擁立しようと考えていた。
無論、劉虞を斃せば袁紹が動き出すのを読んでいた公孫瓚は、易京に防衛用楼閣を建造し、10年分の兵糧を貯め込んだ。
「兵法には百の城楼は攻撃しないとあるが、現在自分の城楼は千重にもなっている。(農事に励んで蓄えた)この穀物を食い尽くしている間に天下の事態の行方を知る事が出来よう」
其処へ1人の美少女がやって来た。
サイドを首筋で切りそろえた綺麗な水色の髪、スッキリとした鼻筋の通った端整な美貌、月光に輝く白い肌、ほっそりとした優美な肢体、だが胸元や腰回りは十分すぎる程女らしい豊満なラインを描いている。チューブトップとミニスカートを掛け合わせたような白い和装束にナースキャップという不可思議な格好を除けば、多くの男性を虜に出来そうな美貌だ。
これ程美しい少女がやって来てやったのに、公孫瓚はあからさまに嫌そうな顔をする。それにはちゃんとした理由がある。
「趙雲(字は子龍)……お前はまだその格好なのか?」
「良いではないか。私が好きで此処におるのだ」
「しかし……勇猛で重厚な武芸の達人であったお前がこの様な姿に成り果てるとは……勿体無い事だ」
「私が選んだ道だ。何も後悔は無い」
趙雲なる美少女……実は元男性だったのだ。だが、銀月族が行おうとした呪術の儀式を妨害した際、その呪いを受けて女性化してしまったのである。
「それより、お主がまだ私の許にいるのは予想外だったぞ」
公孫瓚が突然真面目な話をしてきたが、趙雲は人を食ったかのような感じて答える。
「袁紹……あの男こそ天下に一番近いと揶揄されておるが、あの男には民を尊ばせる力はあるまい。それに……幽州のメンマは中々珍味でな」
「メンマの良し悪しで主君を決めていたのかよ!」
「何を言う!料理は剣より強し!料理を制する者は世界を制する―――」
趙雲は自分達の敗北がすぐ傍まで近づいている錯覚に囚われ話を中断する。
「待て!何か様子がおかしいぞ?」
「今度は何だ!?趙う―――」
其処へ伝令兵が駆け込んで来た。
「袁紹軍がこの易京城に侵入!既に我が軍の被害甚大!」
これには驚きを隠せない公孫瓚。当然だ。易京に建造した防衛用楼閣は幾層もの城壁を備える堅城。よほど油断しているかよほど透明に近い存在感でない限り直ぐに見つかり……完膚なきまでに叩きのめされるのがオチの筈である。
それに対して、趙雲は冷静にこの事態を分析する。
「袁紹軍はかなりの労力と財力をこの戦いにつぎ込んだらしいな」
「どういう事だ?趙雲?」
趙雲、袁紹軍の軍略を見透かした(と勘違いして)目を細める。
「あ奴らは恐らく地下からやって来たに相違ない。だが、これだと進軍に時間が掛かるし、もし見破られれば……」
趙雲の推察通り、袁紹は地の底を掘って易京城に潜り込もうと考え、日夜トンネルを掘り進んで、とうとう城の中に達した。
予期せぬ場所からの奇襲に浮き足立つ公孫瓚軍。このまま袁紹軍に壊滅させられるのは時間の問題であった。
完全に諦めてしまった公孫瓚は、趙雲にこう告げた。
「私の首を刎ねよ」
これには冷静ながらおちゃらけた性格で悪ノリした言動が目立つ趙雲も激しく動揺する。
「正気か公孫瓚!」
「必勝を確約する筈のこの楼閣までもが破られた……私は敗けたのだ」
返答に困り茫然となる趙雲。
「趙雲よ、私の首は手柄になる。遠慮せずに―――」
趙雲、毅然とした態度で言い返す。
「断る!私の尻はそこまで軽くない!それに、袁紹が亡くなれば戦局も変わろう」
「死ぬ気か!?今戦っても袁紹に辿り着ける保証は無いぞ!」
「それはやってみないと解らん。それに、幽州のメンマを廃らせる訳には行かん」
趙雲は自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら袁紹軍に斬りかかった。
「……趙雲……お前馬鹿だよ……」
「ふっ……なかなか雄壮だな袁紹」
袁紹の三男である袁尚(字は顕甫)が趙雲を発見し公孫瓚軍に仕える事の無意味さを説き始める。
「最早公孫瓚に活路は無い!大人しく父上に仕えよ!」
趙雲は呆れ半分、困り半分でおちゃらけた答えを返す。
「私は最近あちこちに贅肉が付き始めて困っておると言うのに、何故が私の尻は軽いと勘違いする者が多い。何故だ?」
「ぬかせ!小娘1人にこの戦局を変えられるものか!」
「万夫不当が要らぬ事をやらかせばあるいは……趙子龍。今より歴史に向かい、この名を高らかに名乗りあげてみせよう!」
己の手に馴れ親しみ、身体の一部と化した槍と語らう為に、趙雲は演舞をするように槍を振るう。
「いさ……参る!」
趙雲はたった一振りの槍を構えて押し寄せる袁紹軍土竜戦法部隊の波に向かって強く地面を蹴りつけた。
「恐れる者は背を向けろ!恐れぬ者はかかって来い!我が名は趙子龍!この身これ刃なり!」
久々に天の声を聴いた曹操は、2万5000の兵を率いて官渡にある防衛用楼閣に向かった。
「もう直ぐこの防衛用楼閣が陥落する。天の声が言うのだから間違いないのであろう。だが、どうやって?」
そんな曹操の疑問は官渡にある防衛用楼閣に到着した事で更に大きくなった。
「敵兵がいない!天の声は崩壊ではなく陥落とハッキリ言った!なのに何故!?」
それでも曹操は天の声を信じて官渡にある防衛用楼閣に駐屯する事にした。
一方、公孫瓚の易京城に見事勝利した袁紹軍は、曹操の快進撃に立ちはだかるべく日夜トンネルを掘り進んでいた。
「さすがの曹操もこれは見抜けまい!気付いた頃には我が軍の刃は曹操の首元よ!」
冀州魏郡鄴県に袁紹の高笑いが木霊する。まるで勝利を確信したかのように。
官渡にある防衛用楼閣は平穏無事のままであった。本当にここが陥落するのか?疑いがいよいよ頂点に達したので二郎真君と趙公明が官渡の未来を占ってみた。すると……。
「いかが申す訳か幾度占とはも袁紹の兵、この防衛用楼閣に放火し、城門を開ゐて袁紹軍を導き入らるる光景しか見ゑぬ」
「ありえない!袁紹は未だに軍を動かしておらん!なのに何故!?」
2人の報告を聞いて首を傾げる曹操。
(一体……何を企んでいるのだ袁紹)
が、二郎真君と趙公明の不穏な占い結果とは逆に官渡にある防衛用楼閣は平穏無事のままであった。
曹操軍がもたもたしている間に……袁紹が待ち望んだ報告が遂に届いてしまった。
「袁紹様、朗報です」
「如何した?」
「例の坑道が曹操が官渡に建てた防衛用楼閣の真下に到着しました。これでいつでも官渡を攻撃できます」
袁紹が大喜びしながら言い放つ。
「宜しい。善は急げだ!明日の早朝に土竜戦法の総仕上げをするぞ!」
「はっ!」
そうとは知らない曹操軍は、今だ来ぬ袁紹軍への警戒を続けていた。
「今日も誰も来ませんでしたね」
(おかしい……天の声も趙公明殿の占いもこの防衛用楼閣の陥落を私に教えてくれた筈。どうなっているんだ!?)
その時、伝令兵が曹操の許にやって来た。
「どうした?」
「はっ、城門に奇妙な生き物がやって来ました。如何いたしましょう?」
袁紹が邪凶と手を組んだのか。最初はそう考えたが、その割には殺気が少ない。曹操は軽く混乱しながら現場に向かった。
するとそこには確かに変な生き物がいた。ラクダの顔に牛の耳、海老の様なピンと立ったヒゲ、手には鶯のカギ爪、足は虎、身体は魚の鱗に覆われていた。それが仙人の服を身に纏っているのだ。
「あっ、曹操はん。こん人達をなんとかおくれやす。うちは通天教主さんん命で此処にやって来やはったやけや」
曹操は通天教主の名を聞き、安心してこの変な生き物を迎え入れた。趙公明がこの変な生き物を見た途端驚いた。
「竜鬚虎!貴様も派遣させたとか!?」
哪吒が趙公明に訊ねる。
「知ってんのか?」
竜鬚虎が代わりに答える。
「うちは竜鬚虎とええます。通天教主さんに頼まれて曹操軍ん仲間入りしはる事になったんや截教ん妖怪どす。以後お見知りおきを」
曹操は快く竜鬚虎を迎え入れた。
「事情は分かった。これからも宜しく頼む」
「ウチこそ―――」
竜鬚虎が何気なく下を見ると、慌てて曹操に警告した。
「曹操はん!こん真下にどなたかが掘った坑道が有るんや。しかも完成しいやから日が浅い!」
「どういう事だ?一体?」
「竜鬚虎は土系の道術、大得意にて、土の中を見通しめるとでござる」
二郎真君は違う納得をした。
「成程……地下からなら敵兵の視線を気にする事無く進軍できるか……袁紹殿も考えましたな」
曹操が真顔で言い放つ。
「感心している場合では無いぞ!問題はどうやってこの坑道からやって来る敵軍を迎撃するかだ!」
「それこそこんうちん出番どす。一旦外に出まひょ」
竜鬚虎に促され城壁の外に出る曹操達。すると竜鬚虎が道術で地面を深く陥没させる。
「成程。こっちも坑道を造り敵軍の坑道に対抗する訳ですね」
哪吒が燥ぎ始める。
「それなら話は早いや!それ!」
哪吒も道術で地面を深く陥没させる。竜鬚虎が負けじと道術で地面を深く陥没させる。哪吒も負けじと道術で地面を深く陥没させる。それを呆れながら見ている曹操と二郎真君と趙公明。
「……弐人ともやり過ぎにては……?」
伝令兵の報告に驚きを隠せない袁紹。
「なにーーー!曹操も穴を掘りだしただとーーー!?」
「はい!城壁の傍に堀を掘りめぐらせている様子で……」
「その堀に官渡水の水を引かれたら、こちらの坑道は使えなくなってしまいますぞ!」
袁紹は心底悔しがった。
「折角の作戦も全て水の泡か……くそーーー!」
なんだかんだで袁紹軍の土竜戦法を破った曹操軍は、竜鬚虎をべた褒めしていた。
「いやーあんた凄かったんだな」
哪吒の言葉に謙遜する竜鬚虎。
「いやいや、うちは只土ん中を見たやけや」
そこへ賈詡がやって来て、
「何を言われますか。竜鬚虎が見抜かねば、今頃地中から湧いてくる伏兵の処理に忙殺されていたところでしょう。大手柄です」
許褚は不機嫌そうにその様子を見ていた。それに気付いた曹操が声をかける。
「未だに許せんか?」
「曹操殿、あ奴は―――」
「みなまで言うな。確かに私から典韋を奪った張繍の罪は大変重い!だが、来る者拒まず。それが私の生き方だ」
許褚は曹操の真っ直ぐな生き様に典韋が惚れ込んでいた事を良く知っている。だが、それでも許せないモノは許せないのだ。
曹操が官渡に向かう3日前もそうだった。
「なんと、私に投降したいと?……判らんな。貴公と張繍は袁紹に就くものと思っておったが……」
賈詡はしれっとこう言い放った。
「確かに袁紹の勢力は兵力だけ見れば曹操の数倍。常識的に視ればとても勝ち目はありますまい」
それを聴いた許褚が怒りだした。許褚にとっては張繍と賈詡は典韋の仇である。その仇が曹操の悪口まで言うのだ。とても我慢が出来ない。
「な、何をーーーーー!」
「しかし、それ故に袁紹は私の忠告を聞く事は無いでしょうし、それに、袁紹は汝南袁氏の出身に胡坐を掻いている様に見えますな。故に曹操に勝たせたい。そう考えたのですじゃ」
「貴様ー!典韋殿を死に追いやっておいて何を今更!」
「才有る者なら例えどんな人物でも召し抱えるのが曹操殿の信条と聴いておりますぞ」
笑い半分、呆れ半分で聴いていた曹操は、賈詡にとっては予想通りであり、許褚にとっては予想外な答えを出した。
「評判通り、食えぬ御仁の様だな。気に入った!投降を許す」
「ははー。ありがたき幸せ!」
許褚はソッポを向いてしまった。
「フン!」
この曹操・賈詡・許褚のやり取りは、すぐさま袁紹の耳に入り、
「何ーーー!?張繍と賈詡が儂の招きを断って曹操に降った申すか!?訳が解らん!不愉快だ!」
郭図(字は公則)や審配(字は正南)らは公孫瓚を完膚なきまでに叩きのめした土竜戦法を主張した。
「こうなれば直ちに曹操を討伐し、張繍達を思いっ切り後悔させてやりましょう!」
それに対して、沮授や田豊(字は元皓)は持久戦を主張。
「それはならぬ!ここ数年、出兵続きで民衆は疲れ切っており、財政も逼迫しております!」
「田豊殿の申される通りです。国力さえ充実しておれば、曹操など恐れるに足りません!」
「だが、どこぞの白馬馬鹿のせいで曹操が今上帝の後ろ盾を得ている状態のまま!これ以上曹操が育てば手がつけられなくなる!その前に叩くのが上策!」
因みに、公孫瓚は武勇に優れ白馬に乗っていた。また公孫瓚は降伏させた烏桓族から、騎射のできる兵士を選りすぐって白馬に乗せ「白馬義従」と名づけたので、異民族から「白馬長史」と恐れられた。
袁紹は郭図の言を受け入れた。
「よくぞ申した!沮授や田豊の意見は臆病者の慎重論に過ぎぬ!天下の覇者たる袁本初には相応しからぬ愚論よ!」
こうして曹操軍への土竜戦法が開始されたが、前述通り竜鬚虎の道術に敗れ、大成功直前になって突如中止となった。
二郎真君が今後を曹操に訊ねる。
「あの袁紹の事だ、これしきの事では引き下がるまい」
賈詡が即座に付け足す。
「さよう!あんな坑道作戦を考えた連中じゃ、今頃とんでもない手を考えとるかもしれんて」
許褚が食って掛かる。
「貴様には訊いとらん!」
哪吒が呆れながら告げる。
「おいおい、反省はすれど後悔はするなと言う言葉を知らんのか?」
二郎真君が強引に話を押し進める。
「それなら、誰かが袁紹軍の様子を―――」
哪吒が即挙手。
「はいはーい。俺が行きまーす」
そう言うと、哪吒は官渡城を飛び出していったが、僅か3分で慌てて戻って来た。
「おいおい……ありゃ12万はいるぜ……」
「こちらの5倍ではないか!」
「河北四州中の兵士をかき集めて来たか!?」
「それに、物見櫓がうじゃうじゃいるぜ」
賈詡が首を傾げた。
「はて?我らの突撃への対応ですかな?しかし、数では袁紹軍が有利。突撃への備えは余り意味が無いような気が―――」
許褚が嫌味を言う。
「おやおや?張繍軍きっての名将も袁紹が相手では形無しですか?」
哪吒が完全に呆れていた。
「懲りねぇなー、仲康ちゃんも」
12万にも及ぶ袁紹軍と対峙する形となった官渡城。その城壁の上で敵軍を監視していた兵士達が奇妙な違和感を感じていた。
「おい、敵軍の櫓……昨日より大きくなっていないか」
「お前もそう思うか?俺もなんだよ」
このやりとりは即曹操に報告された。
「敵陣の物見櫓が大きくなった?」
「はい。門番や城壁にいる兵士達が口を揃えてそう言っております」
曹操は少し考え、あるとんでもない推測を言い始める。
「これで袁紹軍が櫓を大量に用意した訳が解ったぞ!」
「と言いますと?」
二郎真君がこれに続く。
「早い話が……近付いているんですよ。あの櫓は」
「つまり、櫓は動かないと言う決めつけが櫓の巨大化という錯覚を生み出したのだ」
許褚と哪吒が驚いた。
「動くのあの櫓!?」
「ひえーーー、やっぱりとんでもない事を考えていやがった!」
「其れにて、いかがしんす?」
そう、敵軍の櫓の巨大化の原因は解ったが対応策が無いのだ。これでは原因解明の意味が無い。
そこへ、賈詡がしゃしゃり出て来た。
「夏候兄弟と趙公明殿は道術が得意と聞く。そこで、幻を使って敵の移動櫓の動きを封じます。その後―――」
数日後、袁紹軍移動櫓部隊の指揮を任された劉備が上機嫌で官渡城を見下ろしていた。
「ノー、グッド眺めだなー」
袁洪は上機嫌な主君に反して不安を隠せないでいた。
「本当に袁紹と手を組んで大丈夫でしょうか?私は袁紹から死相に似た不穏な空気を感じましたが」
「袁洪、君も随ミニッツスモールさくなったな?折角予期せぬ所でAの憎き曹操の戦死を高所から見シングキャンつまりできるチャンスだってセイのに」
曹操が徐州を邪凶から奪還した際、劉備は曹操軍の猛攻から逃れて袁紹軍に流れ着いたのだ。
その後は打倒曹操で利害が一致。劉備はこうして移動櫓部隊を借りる事が出来たのだ。
「さて、ここしばらくはチェンジな幻が ゴーするハンドを阻んBut、最早曹操のライフラックが 尽きたも同然だ!」
「やはり撤退した方が良いですよ!幻の妨害を受けてる時点で既にこの部隊の正体はばれてますよ!」
今回は袁洪の意見の方が正しいのだが、劉備は矢の豪雨を受けてもがき苦しみながら死んでいく曹操軍を早く見たいという欲望の方が勝り、袁洪の諫言を完全に無視してしまった。
「弓隊!並びに弩隊!構えーーー!」
「劉備様!」
姿形は貫禄が有り余っているチンピラだが、その表情はこの世を100年分も恨み続けてきた老爺のような、奥深い邪悪を宿している劉備。さすがは人間に転生した魔王その②である。
が、
「な、なんだあれは!?」
賈詡が曹操に提供した策が漸く完成したのだ。つまり発石車である。
曹操軍の狙いにいち早く気付く袁洪であったが、時すでに遅く、複数の発石車から次々と岩が放たれたのだ。これには袁紹軍自慢の移動櫓もひとたまりもない。
「ウワー!」
「おじゃずげーーー!」
さっきまでの上機嫌はどこへやら。怒りの治まらぬままの状態での敗走を余儀なくされた劉備は怒りにまかせて曹操を罵ったが、所詮は負け犬の遠吠えであり、曹操軍兵士は全く気にせず、発石車の猛攻による騒音のせいでよく聞き取れなかった者までいる始末であった。
「憶えておれよー!阿婆擦れの糞イヤー増ーーーーー!」
袁紹軍の土竜戦法に続き、移動櫓部隊まで撃破した曹操軍は上機嫌であった。
「発石車の効果は抜群!御蔭で矢の雨は止みました!」
「敵さんは霹靂(雷)車等と呼んで、すっかり怖気づいたらしい」
だが、曹操はそんな上機嫌を窘める。
「いや、袁紹はそこまで諦めの良い男ではない。警戒を怠るな!」
その頃、袁紹軍本陣では……。
「あれも駄目、これも駄目、となると……只攻めるより、あの楼閣から曹操を追い出す方法を考えた方が早いかもしれん」
懲りない袁紹、次はどのような手で曹操軍を苦しめる心算なのか。
それに引き替え、
「ホワットだよあいつら!全然使えないではないか!」
袁洪の嫌な予感を完全に無視した事を棚に上げて曹操軍の発石車に敗れ去った袁紹軍の移動櫓への悪口を言い続ける往生際の悪い劉備であった。
これにはさすがの袁洪も苦笑いである。
曹操軍と袁紹軍による官渡城攻防戦が続く中、1人の男性が曹操を訪ねた。
「許攸(字は子遠)と名乗る男が拝謁賜りたいと参っております」
趙公明が首を傾げる。
「はて、袁紹軍の軍師殿、何にて曹操に會ゐに参ったのでござる?」
「会ってみよう。ここへ通せ」
曹操と謁見した許攸は、袁紹を裏切った経緯を自慢げに話し始めた。
「あの馬鹿殿は折角用意してやった必勝の策を馬鹿にしおった!」
「自慢の策?許攸殿はいかがやとは曹操軍に勝つ所存にてあったでござるか?」
「されば、曹操軍をこのまま官渡に釘付けにしておき、その隙に許都を強襲して天子をお迎えすれば、天下は自ずと袁紹の手中に」
「成程……確かに左様な事をさせたら曹操殿は困り果ててしまう」
「だと言うのに……あの馬鹿殿め!家臣の忠告に全く耳を傾けず、自ら滅亡の道を突き進んでおる。最早付き合いきれぬわい!」
「じゃからとは、袁紹軍の内情を察すお主、此処に参ったのは不味ゐでござろう」
許攸と趙公明の遣り取りを只黙って聞いていた曹操は、何か形容しがたい違和感に襲われていた。が、口には出さずに許攸をじっと見るに止めた。
「それより……曹操殿にお伝えしたい事がございます」
「はい?」
「袁紹は現在、1万台あまりの輜重車を後方の白馬に集結させとるが、迂闊にも敵襲に対する備えを怠っておる!」
それを聴いた曹操は違和感の正体を知り、何も出来ずに硬直した。
「―――3日と経たずに……曹操殿、聴いてます?」
曹操ははっとした表情で答える。
「え?あぁ、白馬にある袁紹軍の兵糧基地を襲うので遭ったな」
戸惑いながら苦笑いする曹操。この苦笑いを見逃したのが後に許攸の致命的な失態となった。
許攸が去るのを見計らって趙公明が曹操に話しかける。
「やはり天の声の説と許攸の説は食ゐ違とはおり申したな」
「ああ、天の声は烏巣に向かえと言っておったが、許攸は白馬に敵の兵糧があると言った」
「天の声を信じるなら……かは罠かよしんばれん」
その可能性は否定できない。だが、曹操にはその可能性を否定した理由が一応あった。
「だが、許攸は私の旧知だ」
其処へ哪吒達がやって来てとんでもない事を伝えて来た。
「大変だ!汝南郡の連中が劉備に操られた!」
「許昌周辺を荒らし回っており、かなりの被害が出ております」
タイムリミットが迫っているのを感じてはいる曹操。だが、既に大事な人を沢山失っている曹操はやはり判断に迷う。
「曹操殿……」
曹操は漸く決断した。小さくか細い声で。
曹操が選んだのは―――天の声が示していた烏巣であった。そこには曹操のある思いがあっての事であった。
だが、その思いは吉報と言う形で無残にも打ち砕かれた。やはり天の声が示す通り……袁紹軍の兵糧基地は烏巣にあったのだ。
烏巣に駐屯していた淳于瓊(字は仲簡)はある事情から曹操軍の奇襲への備えを怠っていたので対応が遅れたが、それでも一度は曹操軍を押し返すも決死の覚悟で強襲を続行したために、遂に淳于瓊軍は殲滅させられた。淳于瓊は曹操の部将楽進に斬られ、眭元進ら四将も曹操軍により尽く討ち取られた。
曹操軍が烏巣にある兵糧を片っ端から焼却処分している隙を突いて逃走を図る許攸であったが、その前に趙公明が立ち塞がった。
「は!……趙公明……」
趙公明が皮肉タップリに言い放つ。
「それがしに“殿”を付けのうこざった辺り、未だ袁紹殿の身を案じてくらるるのみにてのこころもちは有るやうね」
「くっ!……なぜだ……何故我が軍の輜重部隊が烏巣に居る事を知っていた!?」
「いやはや、拙者等も此処に来る迄は此処、敵の兵糧貯蔵庫であるとは知らなんだ。ある者、烏巣に参上した者、良きと申したのみにてじゃ」
「何だと……儂は曹操の旧知じゃ!なのに儂よりその様な得体の知れん者を信用したと言うのか!?」
趙公明が悲しげに答えた。
「こたびは其れだけならばぬ。旧知の進云を無視したでござる進軍、自身の敗因になるなら甘んじて受けやう。しかして、旧知なりそなたの云葉を信じのうこざった結果、袁紹軍の輜重車を取り逃がす羽眼になると真剣にて信じておりき……曹操殿は真剣にて信じておりきのでござる!」
「そ、そこまで言うなら何故……何故白馬を選ばなかった!?」
「曹操殿、白馬を選ばのうこざったのは、旧知なりそなたの云葉をいさざかとはいえ疑った己への刑罰としてちょーだい、先程も申したでござる通り、烏巣を選みて墓穴を掘る事を望んじゃからにてござる!」
許攸が理解に苦しんだ。
「そんなに旧知の言葉を信じたいなら、普通白馬を選ぶだろう」
趙公明が嘲笑うように言い放った。
「人間とは弱ゐものでござるで候。乱世の奸雄を気取とはも中身はか弱ゐヲトメじゃ。しかも既に大事な人を沢山失とはゐる。故に旧知の謀反を直視するでござる勇気、無かりしであらう」
許攸が獣の雄叫びの様な奇声を揚げながら趙公明に斬りかかる。
「きいぃあがばあーーーーー!」
だが、苟も截教派の仙人である趙公明が旧知を平気で裏切る文官如き敗ける筈が無い。
「……いかがやら、まことに罰を得るべきは曹操殿ではござらず……お主のごとしな……許子遠!」
趙公明が所有する宝貝の1つである金蛟剪に噛み殺された許攸であった。
「そなたの口から“じゃから白馬に向かゑば良かったんじゃ!”と申して欲しかったでござるよ……曹操殿も其れを望みてゐる……」
趙公明の頬が涙で濡れていた。
その頃、袁紹は呑気に伝令兵の報告を待っていた。既に自分の策略が失敗に終わった事も知らずに……。
「うわっははは。予想通り、官渡城から多く兵士達が飛び出してきおったわ!もうじき、曹操も御終いよ!」
「白馬には我が軍きっての勇将である文醜と顔良が駐屯しておりますからな」
「そろそろ、良い知らせが届く頃です」
「うむ」
「伝令!」
「おっ、どうやら知らせが来たようです」
袁紹に片膝をついて礼をするのももどかしげに、
「淳于瓊様、烏巣にて敗北!」
袁紹の顔色が一気に真っ青になった。
「曹操が烏巣を!?うそーーー!」
袁紹にとっては訳の解らない事であった。白馬に誘き寄せる為に偽の裏切り者を生み出し、曹操の猜疑心の発動を遅らせる為に劉備を使って南方の豫州の汝南郡(元は袁氏の膝元の地である)に反乱を起こさせたのだ。
にも拘らず、曹操軍は白馬ではなく烏巣を選んだのだ。此処まで自分の策を見破られては立つ瀬が無い。
郭図(字は公則)が
「この間に官渡城を攻撃すれば、敵軍は必ず引き返すでしょう。そうすれば、援軍を出さなくても解決できます」
と言い、
張郃(字は儁乂)は
「敵陣は堅固なので勝てません。それよりも早く淳于瓊を救援するべきです」
と言った。
その結果、今までの奇策塗れが嘘の様に軽騎兵を烏巣に向かわせ、重装備の兵で官渡城を攻撃するという中途半端な選択をした。
このグダグダな作戦は許昌周辺を荒らし回っている劉備軍にも伝えられた。
袁洪は呆れながらこう進言した。
「最早袁紹軍に勝ち目はありません。このまま逃亡した方が身の為です」
しかし、劉備は変な予想を立てていた。
「ノー、ナウなら官渡キャステルを攻める事が 出来る。曹操の事だ、烏巣強襲の陣頭フィンガー揮はAサーヴァントが 執っている筈だ。つまり、官渡キャステルに曹操は居ない」
袁洪は引き下がらない。
「恐れながら、確信のある予想とは思えません!もし万が一曹操が―――」
劉備は邪な微笑みを浮かべながらこう答えた。
「ノープロブレム。曹操は居ない」
だが、袁紹軍と合流した劉備が見たモノは……神兵化した曹操であった。
「まさか……旧知に裏切られたその日に仇敵の顔を拝む羽目になるとはな」
劉備にとって最も避けたかった曹操との直接対決が実現してしまった。
「馬鹿な!?なぜユーが 此処に居る!?君は烏巣に居る筈だ!」
曹操は悲しげに答えた。
「私は万が一の事を考えてしまったんだ。烏巣強襲を強行した結果、袁紹軍への兵糧攻めが失敗する事を望んだ。旧知の言葉を疑った私への罰として。だが、現実は無情だ。そして、今の私にはその現実を直視する自信が無い」
「だからユーは此処に居るのか!くそー!演技パワーラックめ!」
曹操は少しだけ弱々しく微笑んだ。
「だが、この非情な現実による鬱憤を使命を果たしながら晴らせるとは、私の悪運も捨てたモノではないな」
「くっ!」
曹操は既に魔王級の邪凶に勝った屈強な神兵ワルキューレだ。しかも3匹も。だからこそ劉備は曹操との直接対決を今日まで避けていたのだ。
だが殺るしかない。そう思いながら辺りを見回す劉備はとんでもなく邪悪な策を思いついてしまった。愛用の弩を曹操軍兵士に向けたのだ。
「貴様!」
効果覿面だった。背後に部下を庇っているせいで、いつもの反則的な強さを発揮できない。
「ははははは、サッチなおジェントルつまり優しいお馬鹿ちゃんが 乱世の奸雄だと?片腹痛いわ!」
その後も曹操軍兵士に向けられた劉備の攻撃を曹操が弾くを繰り返し続けた。正に弱い者虐めに抗う憐れな正義の味方という構図であった。
「どうやら邪凶の中で一番下衆なのは誰か決定したようだな!」
曹操は既に図星めいた悪口を言うのが関の山だと思い込んだ劉備は真に受けない。
「これだから学のナッシングサーヴァントはウォリードするのだ!勝てば官軍!敗ければ賊軍!とセイワードを知らんのか!」
劉備の卑劣な攻撃に曹操が屈するかと思われたその時、劉備の後頭部に激痛が走った。
「これは……フェスティヴァル玉!馬鹿な!董卓は既に死んだ筈だ!」
劉備は混乱した。祭玉を使える者がもう1人いる事を知らないのだ。
「曹操さん、御爺様の仇である呂布を死に追いやってくれた借りを返しに来ました」
「ユーは董ホワイトではないか。ユー如きが 僕に勝てると思っているのか?」
劉備はまだ知らない。董白が小凶級から魔王級に進化した事を。
「確かに私だけでは貴方に勝てません。でも、御爺様が私に力を貸してくれるなら或いは」
「御爺ちゃんのパワーだと?インタレスティング!董卓とはいずれワールドの覇権を賭けた戦いをしなければならないとシンクつまり思った事があったんだのだ!」
遂に始まった魔王級の邪凶同士の戦い。……かに見えた。
今度は劉備の左脇腹に激痛が走る。巨漢の兵士が槍を突き刺したのだ。
「余計な真似をするな!邪魔だ!」
劉備がマントを大きく翻すと、その下の肉を半ばまで断ち斬っていた。
「い、今で……御座います……曹操様……」
董白が戸惑う中、曹操が劉備に表一文字を見舞った。
(く!浅いか!)
やはり劉備の卑劣な攻撃が効いていたのか曹操的にはあまり良い手応えではない様だ。
それでも、最早劉備はワープ移動で逃げるしかなかった。たとえ曹操と董白のどちらかに勝っても、もう一方が劉備を斃してしまうからだ。
「Aとワン歩……Aとワン歩だったのにー!くっそーーーーー!」
どうにか劉備を追っ払った曹操。その切っ掛けを作ってくれた無名の巨漢の亡骸を悲しげに見ていた。
「大手柄だ!お前の働きは二度と忘れん!」
董白がバツが悪そうに言った。
「借りを返すのはまた今度になりましたね……さようなら」
袁紹軍は最早総崩れであった。
劉備による官渡城強襲は曹操に防がれただけでなく、張郃と高覧は袁紹を見限って曹操に帰服してしまった。
袁紹は命辛々河北へと敗走した。こうして官渡城争奪戦は曹操軍の辛勝で幕を閉じた。
だが、曹操の心は重かった。旧知に裏切られ、劉備殺害の最大のチャンスを棒に振ったからだ。
一方、戦勝のチャンスを棒に振るう形となった袁紹は落胆のあまり病を発し、
「解らん……解せん!天から選ばれた筈のこの儂が。なぜ曹操如きに敗北せねばならんのだ!何故だ……何故なのだー!?」
202年5月、失意の内にこの世を去った。
それから数年の内に曹操は袁紹の領土を悉く平定し、204年8月、遂に本拠地の鄴を陥落させた。
この時、曹操は袁紹の墓を詣でた。
「許攸には裏切られ、袁紹を死に追いやってしまった。己の人徳の無さが身に染みるよ」
趙公明が少々きつめに励ました。
「其れにて良きとでござる。覇王の道は孤独な道、人徳にては天下は取れませぬ!」
曹操の返答は無い。
「劉備などは、この先たとゑ運、向おりきとしてちょーだいも……小幕府の王になるの、関の山」
曹操が漸く返答した。
「こんな乱世は一刻も早く終わらせねばならん!急がねばならん!勝ってこの覇道を極めるのだ!」
曹操の肉体年齢と外見年齢が未だに15歳の美少女のままだが、実年齢は既に50代だ。はたして間に合うのであろうか?
一方の劉備は、袁紹軍の予想外の敗北の影響で大怪我を負い機嫌が悪かった。
そんな時、曹操軍に捕らえられていた劉備の妻子が羊の体毛と角を持つ重種馬に乗ってやって来た。
「劉備様!例の女を奪還しました」
だが、劉備は悔しさのあまり妻を斬り殺そうとした。羊の体毛と角を持つ重種馬と化した楊顕が慌てて割って入った。
「劉備様!お気を確かに!劉備様はこの女をまた孕ませたではないですか!」
だが、楊顕は劉備の妻諸共真っ二つになってしまった。
「な……何故……です……劉備……様?……この……女は……劉備様の……子を孕んで……おる……の……に」
楊顕にとっては予想外且つ不本意な死となった。さすがの魔王級の邪凶である劉備でも自分の子を孕んだ女を殺すとは思ってもみなかったのだ。
だが、自分の子供への愛着より不本意な敗北と大怪我への怒りが勝っていたのだ。
この様な自分の感情でしか物事を考えられない男に天下を任せて良い訳が無い!改めて曹操の使命の重さを思い知るエピソードと言って良いだろう。
さて、この戦いが中国の情勢を大きく動かす事は火を見るよりも明らかであった。
未だに生き残っている諸侯の話題は曹操の取り扱いで持ちきりであった。
現に曹操は、後漢王朝が開かれて以来置かれていた司徒、司空、太尉の三公を廃止し、丞相と御史大夫を置いて自らが丞相の座に就いた。
丞相とは、君主の補佐を目的とした最高位の官吏。今日における、元首が政務を総攬する国(大統領制の国や君主が任意に政府要職者を任命できる国)の首相に相当する。
曹操聖女伝