15の決意とアラベスク

あるコミュニティーサイトで3題で書いてみようとあり、お題が「15の夜」「モーツァルト」「アラベスク」とあったので書いたやつです。
サイトで載せたやつよりは少し訂正してあります。


 同じだった。
 あの時の音と全く一緒だった。
 

 俺がまだ、世間というものを知らない15の頃。
 周りの奴等は受験だの塾だの遊びだの恋だのって言っていた。
 外は梅雨が猛威を振るっており、運動場を使ってするサッカー部は校内でする筋トレがメインだった。そのせいか、外でやるよりだいぶと速く帰れた。 
 何時もなら同じサッカー部の連中とサッカーゲーム等といった遊びを友人宅でするのだが、その日は違っていた。
 少しでも偏差値が高い学校に行かせたいと言う親心からだろうか、友人は塾の準備があるからと言って部活が終わると共に颯爽と帰っていったのだ。
 集まる家がなければ、と他の連中もその日は諦めておとなしく家に帰っていった。
 俺も、おとなしく家に帰ろうとした。
 学校を出て、商店街を進む。進んでいくと大きな道路にぶち当たる。大きな道路を渡り、坂を登りきると俺の家があった。
 学校から歩いて20分弱で着く俺の家は目の前だった。
 もう、坂は登りきった。
 あと少しなのだ。
 あと少しで、玄関の扉をあけれるはずだ。
 もう一分も要らない。
 すぐそこだった。
 なのに俺の足は止まってしまった。
 聞こえたきたのだ。
 ピアノの音が……
 雨音をかき消すかのように、綺麗な旋律が……
 その旋律は、まるで誰かに微笑んでいるようで凄く暖かくて心地良かった。
 音楽なんて一切興味を持っていなかった。
 音符さえも解らない俺だったが、この曲はなんだか好きなれた気がしたんだ。

 
 その次の日は、昨日の雨が嘘のように晴れていた。
 晴れの日は、好きだ。
 練習も思いっきり出来るし、休憩時間も外で遊べる。
 勿論、放課後の部活動は外で行われた。
 昨日の分を取り戻すぞ! と監督は力を入れ、俺たちは8時近くまで練習をしていた。
 部活が終わり、俺はその時間を感じた。
(もう、夜なのかぁ)
 あたりは真っ暗闇だった。
 次の日に学校がなければ遊ぶのだが、あいにく明日も学校だ。
 俺は、道具やら荷物などをかたし家路に急いだ。
 何時もと同じ登下校の坂道を登りきると昨日と同じ所で足が止まった。
 今日はピアノの音などしていなかった。
 普段と変わらない静かな夜だった。
 ただ違うのは、幼馴染みが玄関にいたのだ。
 その幼馴染を見ると、昨日の事が思い出され、硬直してしまった。
「今日も部活?」
 彼女はすました顔で俺にといかける。
 俺の気持ちなんて気にしちゃいないようだ。
「あ、あぁ」
「毎日頑張るね」
「も、もうすぐ試合だから」
 普段と違う俺の様子に気付いたのか、彼女は俺の横に並んで、くすっと笑った。
 なぜだか、胸の内を読まれた気がした。
 昨日聞いたことが尾を引いて、なぜだか謝らなければならない気がしていた。
 そんな事はしなくても良いんだが、そんな気分に陥っていた。
 勿論そんな事はしなくて良いはずなんだが、この時の俺はどうかしてたらしい。
「ご、ごめん!」
 頭はこんがらがっていて、俺は謝ることしか出来なかった。
「え、な、何? あんた何かしたの?」
 彼女は吃驚していた。
 何かした? と聞かれれば何かしたことになっているだろう。
「昨日、お前のピアノ聞いてしまった」
 聞きたくて聞いたわけじゃ――と言い訳をしようとしたが、その言葉必要なかったみたいで、彼女は声を抑えて笑い出した。
「そんな事? 別にいいのに」
「そ、そんな事だと? でもお前、聞かれるの嫌いって……」
「あ、まぁね」
「ほら」
 そんなこと言ったね。と彼女はまた笑う。
(こいつ、こんなに笑うやつだったっけ)
 俺の中での彼女はおとなしくて、あんまり笑う事がない幼馴染だった。
 昔は少しでも笑って欲しくて、こいつの前で馬鹿をしていた。
 馬鹿をしたら、彼女は可愛い顔して笑ってくれたのを覚えてる。
 だからしょっちゅう馬鹿をしてたのにな。
「良いのよ、もう」
 彼女は、俯いて目を一回閉じて、そして開けた。
 何かがあったのだろうか? ふとよぎったが、何もきけなかった。
「……そっか、良いのか」
 彼女の顔は見れなかった。
 見れなかったではなくて、見なくてもわかっていた。
 それぐらい俺は彼女を見てきた。
 俺と彼女は広い夜空を見上げた。そこには、星が瞬いていてなんだか嬉しい気持ちがわいてきた。
「あのさ、昨日の曲なんて言うんだ?」
「へ? 昨日の?」
 この前を通った時間と、歪なリズムで説明をする。
 最初は首を傾けた彼女だが、すぐにわかったようだ。
「あぁ」
「あれは、アラベスクって言う曲。本当は、モーツァルトの曲を練習しないといけなかったんだけど、つまづいちゃって、つい好きな曲引いちゃった」
 少し舌を出して、肩をすぼめて笑う彼女。
 その仕草は俺にとって、どんなに可愛いアイドルよりも可愛く見えた。
「なぁ、俺さ今度の試合に勝ったら、お前に言いたいことあるんだ」
 俺は星空から目をはなし、彼女の顔を見て言った15の夜だった。


 あれからもう何年もたっているのに未だに君の音を忘れられないのは、君が俺にとって初恋だったからだ。
 そして、君が今、目の前で俺に『アラベスク』を弾いてくれているからだ。

15の決意とアラベスク

最後まで読んでいただきありがとうございます。
お題を見たとき、ピンときたんです。そして、これが出来上がりました。

15の決意とアラベスク

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-11-28

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