CDショップにいく途中

ショートショートです。初作品です。

爽やかな空を見上げながら
君は言ったんだ

「私なんてなんの価値もない。死にたい。」


今日の空は晴れていて
綺麗な青空が広がっているのに
君の台詞は相反して
どこまでも救いがない

僕の返事を求めているのか
そうでないのか
わからないが
君は両手を柵にもたれ掛けて
片足をブランコのようにぶらぶらさせている

少しの沈黙の後
僕は言う

っていうか
そもそもこういう時何て言えばいいんだ

『本当は淋しいだけなのに
そう言えないんだね』

君のことをよく知りもしないのに
何でも解ってるかのように話す僕の言葉は
慰めともいえない偽善だな
軽い言葉しか言えない自分に嫌気がさす


「淋しい?わからない。
私にはなんの価値もない。生きてる資格もない。
たくさん人を傷つけてきたし。
優しくないし、美人でもないし。ネガティブだし、別に私のこと好きな人なんていない。」

『そんなことないよ。きっと君のこと必要としてる人もいっぱいいるよ。』

僕自身が必要としてるって言えないくせに
何言ってんだ僕は

今もし僕の心が見えてる人がいたなら
100人が100人”偽善者”って言うだろう

「どこに?」

『わからないけど、少なくとも、僕は君が居なくなったら淋しいな』

相変わらずありきたりな軽い言葉しか出てこないんだな、僕は。
でも、今目の前にいるこの子がこの世界からいなくなったら淋しい。
それは、本当だ。


「そんなこと言うなんてあなた変わってるね。」


君は顔を少しだけこちらに傾けて
少しだけ笑った
大きめな瞳からは涙が零れ落ちた跡があった
いつの間にか泣いていたのか・・・
そうか向こうを向いていたのは
泣いていたからだったんだ



ふと急に
泣き顔で微笑んで
所在無くたたずむ彼女を
少しだけ可愛いと思ってしまった


そういや、誰だったんだっけ・・・この子は
古い知り合いではないことは確かなんだけど・・・
ああ、僕も疲れてるな、相当、


「死にたい奴は死ねって言われてきたよ。」

そう言ってまた君は
希望も光も無い目をして空を見上げる。

死にたいときにに“死ね”なんて言われたら
僕だったら
立ち直れないな

この子は
僕よりずっと強い

『彼氏はいるんだろ?』

「いるけど・・・どうなんだろうね・・・・。別に、もう別れるかもだし。」

恋人が居るのに
死にたいと言う子の
多さに
僕はいつも驚かされる


『好きな人と一緒にいて幸せじゃないのか?』


「よくわからないなぁ~。付き合いが長いから。ん~どっちでもいいんだよ。もう。」


あまり恋愛経験がない僕には
付き合いが長いとどうなのかとか
何に対してどっちでもいいのか
サッパリよくわからない

女の子は難解だ。

『君はさ、魅力的な方だと思うよ。』

さっき、一瞬可愛いって思ったんだ。
だからこれは本当だ。

空の目でずっと空を見ていた彼女は
くるりと体ごとこっちを振り返って
さっきよりは幾分元気そうな声で言う

「そうかな・・・?」

『そうだよ。だから彼氏さんだっているんだろうし。君のこと好きだから君の彼氏は君と付き合っているんだろう?』

「うん・・・・。・・・・・じゃあ、ま、いっかぁ。」

何が「まぁ、いっかぁ」なのかよくわからないけど
とにかく良いならいいか

“死ぬのは、まぁ、いっかぁ”ならすごく助かるんだけど。


少しの沈黙の後


君は何かを決めたかの様に
小さく“うん。”と独り言を零しから

全身をこちらに向けて笑顔で言った

「○○君、ありがとうね。なんだか元気になってきたよ!
○○君って、本当に変わってるよね。」

『もう、大丈夫そう?色々と・・・。』

「うーん、大丈夫じゃないけど・・・・でも、なんとかするよ。ありがとうね。
ねぇ、本当に○○君って変わってる!変わり者って言われない?」


死にたい気持ちでいる時に
僕の変わり者具合に興味を示すことのほうが
僕にはずっと変わってると思うのだけれど
それは言わない方が良さそうだ
“いちいちうるさい”とか言われそうだ


女の子は難解だ。
そして怖い。

『言われないよ。』

「ふぅ~ん。」

そう言って
一瞬僕を一瞬品定めするように眺めて
会った時より
幾分笑顔になった彼女は
さっきまで「死にたい」と言っていた人とは思えないほどの
軽やかな足取りで去っていった

彼女の後姿が小さくなって
人ごみに紛れて見えなくなるのを
確認してから
僕はようやく本来行きたかったCDへ向かって歩き出した

とりあえず良かった


そしてこれでやっとずっと欲しかったCDが買える・・・
こんな時でもCDのことをキッチリ忘れない僕はやっぱりあの子が言ったように
「変わり者」なのだろうか?

そしてそもそもあの子は一体誰だったんだ・・・・・・・・
中学・・・高校・・・?いやいや古い知り合いではないんだ・・・・
じゃ、どこで・・・・・・?






「あ!そういえば」

僕は小さく声を洩らした。

CDショップにいく途中

CDショップにいく途中

ショートショートです。 おとなしい少年と 自殺願望のある女の子の プチエピソード

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2011-11-28

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