きらきら
僕はどうやら
大事なものを
校舎に忘れてきてしまったらしい
そんな予感がした
あくまでも予感
帰り道
校舎の裏へと出る急な坂道
その途中
グラウンドに続くスペースで
校舎を見上げた
今日は卒業式だった
涙を流した奴は数人だった
僕は泣かなかった
どうして泣くのだろう
そんな冷めた奴だった
風の音だけが聞こえる
静かな坂道の途中
今頃教室は
色紙の裏に寄せ書きしてもらうイベントで
賑やかなことだろう
色紙の裏に
友達からメッセージを書いてもらうのは
一つの青春の証
メッセージは
多ければ多いほど
そいつの中学生活はきらきら
たとえ心のこもっていない言葉だったとしても
色紙の裏にたくさんメッセージがあれば
そいつの青春は、とりあえず、きらきら
僕は
裏がまっさらな色紙を
隠すように
エナメルバッグに押し込んで
そそくさと教室を出てきた
風の音だけが聞こえる
静かな坂道の途中
まだ引き返せる
ここはそんなポイント
誰もいない帰り道
中学生活を思い返す余裕は
たっぷりあった
目を閉じると
三月九日という歌と重なった
僕の瞼の裏には
あなたがいない
どうしよう、引き返そうか
そんな葛藤で
頭がいっぱいになり
腑に
じわりと
寒い風が染み渡る
そしてあれから五年後
予感を題材とした作文を書くにあたって
ふと思い出した
あの頃の
忘れ物をしてきた予感
あれは
本当に
単なる予感に過ぎなかったのだろうか
引越しのときに整理した
押入れの中の
ダンボールを開けて
あの時の色紙を
引っ張り出してきた
色紙の隅に
申し訳なさげに
小さい文字で
書かれていた言葉
「あなたのことは
私が覚えていてあげる
だから一人じゃないよ」
たったその一言で
胸にじわりと
何かが込み上げてきた
予感は予感のままで
胸に大事にしまっておこう
きっといつか
きらきらに輝くから
きらきら