酔夢

夢から何が見えるのだろうか

明け方に視る夢は

酔夢

初夏のある明け方近くに夢を見た。
目線の少し上に、ひらひらと舞う赤白の和金と紫が映える紫陽花がゆっくりと揺れている。
優雅だなと思い気が付くと目が醒めていた。

起き抜けの頭にも鮮明に残る金魚と紫陽花、何か予感めいたモノかも知れぬ。
しかし、寝起きの頭ではそれ以上思考が廻らず、日常へ埋もれて行った。

その日の午後の事、同居中の娘さん達が夏の装いについて談義している。
聞こえない風を装いPCのモニタを見ていると、あるWebに大きな紫陽花を配した画面。
何やら記憶を呼び戻されそうな頭痛に額を押さえていると、娘さんらが出掛けたいとの事。

「先生、夏ですし浴衣が欲しいんです」と二人が言いますが、
同行しますと払いはこちらなのは明白、先生としてのプライドも有りますが、懐への打撃は確実。
頭痛をネタに辞退を申し上げると、二人は怖さを含んだ満面の笑みで言ってきた。
「先生嘘はダメですよ」と、袂からハガキを出してきた、馴染みの呉服屋からのお知らせである。

文面には「夏の装いに浴衣をどうぞ、当店オリジナルの新柄を用意して御座いますので来店をお待ちしています」
との事、こんな時はあの丸顔の店主の顔が憎くなる。
小一時間行きたい、欲しいと駄々を捏ねる姿に根負けし、呉服屋へ向かう事にしました。

店先で水打ちをしている丸顔の店主が来訪者に気づき。
「おや先生暫くです、今日は何用でしょうか」
「店主ハガキに有ったがのだが新柄入ったんだって?」
「はい、この時期に合わせました柄物入荷しましたよ、今お出ししますお待ちください」
そう言うと店内へ入る。

奥の棚から二本の反物を持ってきて、床へ転がし並べると何かが頭の中に光った。
その柄、揺らめく赤白の和金と紫が映える紫陽花柄。
(あぁ、これだったのか)と反物を見て納得したよ。
二人は最初から判っていたのかと思うほどに、それぞれ金魚と紫陽花を手にし浴衣の仕立てへ、
「先生、此れは私達を待ってたと思うの」
「前の約束覚えてますか?私達は覚えてますよ、その約束今ここで使いますね」
美しくも同じ顔の二人が、満面の笑みを称えると、それは綺麗であるが恐怖すら感じる。
「お前さん達には負けたよ、好きにしなさい。但し懐事情も考えてくれると有難いね」
「大丈夫ですよ、存じ上げてますから」
しかし、容赦の無い二人は、下駄を含め一式オーダーしてくれたよ。
あの朝見た夢は、浮いてた柄だから俺の財布も浮くって事かいな。

以上

酔夢

先生と双子の娘達の話を書いていきたいと思います。
実際に起こった話に脚色をしての掲載となります。

酔夢

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-15

CC BY-NC-ND
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