乙女の鼻先

その1。「やさしく笑うの」



「あんたは1番になれる子じゃないから」


たしかあれは、毎年夏に開催される子供向けのミュージカルの一斉応募で、わたしが書類選考からいきなり落ちたときのことだ。

目に見えて深く落ち込むわたしに向かって、母はたしかにそう言った。


「二チカ、あんたより可愛い子や演技の上手い子はたくさんいるんだよ。1回負けたからって、なにを意固地になってるの。主要の役じゃなくてもいいじゃない。ね」


自信があったが故にショックと憤りで嗚咽を漏らすわたしとは対照的に、母は恐ろしく冷静だった。
後々聞いてみると母は別にわたしを芸能界デビューさせたかった訳ではなく、単に消極的だったわたしの性格を改善しようと計画立てただけだったらしい。

乙女の鼻先

乙女の鼻先

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-12

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