ウソつき神様

ウソつき神様の不法侵入


性別は女、職業と名前と年齢は秘密。
そんなこと言ったところで本当かどうか分からないでしょう?

私は今、ある一軒家の前に来ている。
見たところ二階建て、水色の屋根に白く塗られた壁はおもちゃのように愛らしい外観である。お洒落な雑誌では北欧テイストとでもいうのだろうか。
この家には一人の金髪の若い女性が暮らしていて、夕方に一度、一時間程度化粧と服装を整えに帰ってくるだけで、あとは空き家のようなものだ。
そんなことを調べる時間なら腐るほどあった。職業は秘密だ。

そして、私は気づいてしまったのだ。
こんな立派な家に一日一時間しかいないなんて、宝の持ち腐れもいいところである。
というわけで、私は今日からここに住もうと思う。

比較的高齢者が多いこの住宅街の、しかも外れに位置するこの家。
慣れないピッキングに時間がかかっても、それを怪しむ人もここを通ることがない。
念のため、近所の住民が寝静まら頃を見計らってから作業にとりかかった。
持ち前の勘を使って、私は空き巣に挑戦する。人生何事も挑戦だと誰かが言っていた気がする。
・・・カチャ
長いような短いような格闘の末、私は無事鍵を開けることに成功した。
さあ、お待たせしました私の新居。変な緊張感と高揚感に包まれて私は家の扉を開けた。

扉を開けた私は声も出さずに固まった。
誰もいないと思っていた家の中。その玄関に一人の少年が座っていた。
小学校低学年くらいの少年は、青いチェックのパジャマを着て、不機嫌そうに目を擦りながら私を睨んだ。

「さっきからカチャカチャうるさいんだけど。誰?」
「神様」
とっさに出た嘘だった。

ウソつき神様と同居人


「ふーん。すごいね。」
本来の小学生であれば目を輝かせて言うであろう台詞を、少年は真っ黒な瞳のままでつぶやいた。まったく、最近の子供というのは夢がない。
「何してくれんの?」
「君の望みをかなえてあげる。」
「ふーん。僕の望みって何?」
しらねーよ。と面倒な気持ちを裏返し、私は笑顔を返す。
宇宙旅行へ行きたいだの、プロ野球選手になりたいだの言われるよりか幾分ましだろう。
「それを見つけるために、私はここへ来たの。」
適当なウソを並べる。
ウソをつくのは昔から得意だ。こんなふうにウソをついていたら、いつの日かウソがホントになる気がした。
「ふーん。」
「君の望みが分かるまで、私のことは君と私だけのひみ...」
「大丈夫だよ。滅多に帰ってこないから。」
全てを見透かしたように、私を見る少年の眼差しは少し悲しげだった。

それからというもの、彼は冷蔵庫にある腐りかけの食品を少しずつだが私にくれるようになった。
少年は、母親が家に戻ってくるタイミングを熟知しているようで、その時になると、私を守るように散歩を促してくれた。
私は彼に言われるままに外へ出掛け、家の明かりが消えた頃にまた帰っていった。
これほどまでに空き巣に協力的な子供が今までにいただろうか。

少年は私のことについて何も聞かなかった。
私も彼のことについて何も聞こうとしなかった。
この不思議な関係を、私達はどういうわけかすんなりと受け入れていた。

ウソつき神様

ウソつき神様

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-10

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  1. ウソつき神様の不法侵入
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