if.....

★if…… 2001,8
 途方も無い事言わないで。自分が猫だったらとか、あなたどうかしてる
 望みは悲しい位に燃え尽きそう 心はいつから金星に追い遣られたの
 あなたはまるで木星のような人 見た目倒しで中身は詰まって無いの
 それでもいつから求めたの?
 太陽系最高峰オリンポス山の様に高く、マリアナ海峡のように深い 思想と理想
 あたしの心は水星のように、あなたという岩石にうちのめされもしたのよ
 あなたは何になりたいの。奇妙な宇宙人
 オリンポスをロッククライミング。マリネリス渓谷からベースジャンプ。
 火星の窒素の中を飛びたいんでしょ。大気の無い場所になんか行きたくない
 寝言にまであたしを困惑させるパワーがあるのね
 もしあたしが土星なら、あなたは周りの岩石。心の中は土星の台風のように苛立ってるの。
 もういい加減にして欲しいのに
 海王星のメタンガスの空に放り出して、冥王星より遠くに捨てて
 太陽の陽で焼却して、月の裏側に埋め立てて、あたしの心はビックバンを起こしそう
 天王星のようにはどんとは構えていられなくなるのよ。ブラックホールはあたしの心の中にある。
 あなたも そう あたしも この地球という世界で 飛行するあなたの情操
 美しくも綺麗に舞って舞って まるでIn The Darck
 空が雨でも良いのよね。くもりでも良いのよね。暑くても良いのよね。

★いつもみたいにアイツは夢でも見ている。アタシはフォークを持つ手をダランと下げた。
背もたれの小さな椅子でもアタシの細い背中は充分に支えられ、自分のヒールに掛けた重心で少し傾いた。
フォークは落ちる
ーーーコトンッ
 まるで子供の様にアイツは座っている。足を放って、両手を天に掲げて指を交差して、天を閉じる目で仰いで空想にでも浸っているの?
アイツの座る周りには熟した林檎もラ・フランスも瑞々しく落ちている。
 切り出しコンクリートの灰色の壁も、アスファルトの床も、石膏の床も、アイツと共に混じってしまえばいい。アタシは立ち上がって踵を返した。
アイツはアタシに気付いて片目だけでアタシの行動を追う。
 バーボンとグラスをテーブルに置いて、床の表示を見る。
DANGER
白の表示はアイツが流し込み書いた。ソレ用の奴をわざわざガメて来た。馬鹿みたいにそれで一時昨日は室内が蒸せた。乾燥する前に、悪魔の蹄みたくヒールの跡を付けてやったら、片膝を立てながらアイツはアタシを見上げて、睨む事もなくヒールの穴を埋めた。その変わり、鎖がのたうっていた。
 何がこの世の危険なんだろう。世は毒だ。極めて危険。イマンジェシーと叫んでいる。
馬鹿らしい事ばかりだから世の中だというのに。何を危険地帯に置きたいの。
椅子に再びもたれてアイツを上目遣いで見つめる。アイツはアタシを下目で見る。
2人の手が同時に小さなテーブル中央の銃に伸びて瞬時に掴む。
「今回は勝ち。」
アイツはアタシを「ガン、」と撃つ真似をして、くるくる回してから再びテーブルに置いた。ハハ、と乾く声がアイツの喉を震わせる。
 昨日アイツは林檎に親指でマシンガンの弾を埋め込んだ。何がしたいのあんたと言うと、これが心臓に見えると言った。指でめり込める程、柔らかいソレは確かに血の様に果汁を滴らせた。どうでもいいわよ。
床に落ちた忘れられた甘い臓器を拾って遠くのトラッシュボックスニ投げ入れた。他のアイツに投げ込まれた物でいっぱいで、美味な林檎は跳ね返った。
ゴトン、
瑞々しい果汁はアスファルトに染み込んだ。
 部屋に何時の間にか居着いている蜜蜂は、興味も示さず飛んでいる。アイツはメープルシロップを瓶のまま口付け、口の中に入れた。スプーンを投げ渡す。
パシッ
「サンキュ。」
 グラスに口つけながら首を傾げてみせる。
「昨日は何かの夢を見た。」
「そうだな。スカルの埋め込まれた階段はお前が上で冷めた面して俺を見てた。闇は闇だけ、俺は階段から横の激流にダイブして、羽根をばたつかせても水の重さでお前の空気中に戻れない。そのまま海峡に飲み込まれただけで。」
「あたしは夢なんか見ない。」
グラスを落とす。
ーーーガシャンッ
「それでもお前は俺を愛してる。俺を手放せない。」
「そうよ。悪い。」
「満足。」
 アイツの笑顔が好き。アイツの声が好き。
アイツは立ち上がってアタシの座る所まで来た。
ガチッガチチッ
 アイツは硝子も気にせずアタシの横に立って、前方見るアタシの組まれる腕に触れ、組まれた足に跨りアタシを見下ろす。
まるで猫の様な目が前方を向いたままのアタシの視界に飛び込む。
「なあ。アゲハ。」
「ん。」
「俺はお前を愛してる。」
「知ってる。」
「お前の為に邪魔な奴等殺して、お前を満足させる為にセックスも前より上達した。」
「そうね。」
「お前は俺に何してくれる?」
「分からない。空想の話は聞いてあげる。ずっと。あんたが仕事中に殺されるまで。あたしはあんたをそいつ等から守ってあげる。」
アイツは微笑んだ。椅子は辛抱強く2人を支える。確認しあう心。確認しあうまでの2人の間。アイツは後ろのテーブルに両手をついて体を月弓のように反らした。
テーブル上の銃が落ちたショックでコンクリートの天井に穴が空いた。アタシは椅子の背もたれに額を乗せて、うなじから背中をアイツの舌が猫みたいに滑る。
愛情って、なんだろう。
いつも思う。目を閉じる。
コンコンッ
「仕事の話よ。開けて。」
「少しの間待てよ」
 ドアの向こうの初老女の溜息。
「あたしは今回急ぎなの。話だけでも聞いていて。仕事自体楽よ」
初老女はアイツが座っていた椅子に腰を降ろして勝手に話し出す。
A班がターゲットをB地点まで追い込む。Cが殺す。お仕舞い。
Cがアイツのいつもの役目。
「OK?」
「OK」

 アタシはシャワーを浴びに行く。アイツはバス派だ。浮いた林檎を弄ぶ。
「ねえ。C。」
「ん?」
「もしもあたしが夢を見たらどうする。」
「あり得ないな。」
「そうかしらね。」
「希望を持たない女だから。」
「そうね。言えてるけど。」
「お前にはこのバスが何に見える?」
「あんたと水と林檎が入ってるバス。」
「ほらな。」
 アイツは肩に水を掛けた。埋め尽くされた黒い程紅い、林檎の間は無くてアイツのその行動で音を立てあう。
ゴツ……
「俺はこれが林檎じゃ無くて猫ならって思う。そうしたら俺は猫を一匹一匹沈めて行ける。既に死んで浮いている猫を。」
「狂ってる。」
「希望。」
アイツには明るく輝く希望なんて言葉は似合わない。シャワーを掛けて頭を冷やせばいい。
シャーーー
冷える事なんて無いでしょうけど。
 アイツは湯が嫌いだった。何よりも嫌い。ガキ時代に親にとんでもない熱湯と熱い油を掛けられて殺されそうになったから。アイツの左顔は頬下からケロイド状になっている。
首筋、肩、左上腕部に続いて背中には放射線を描く様に広がっている。
 アイツはアタシを見上げた。湯気の間から猫みたいな目と、半開きになった口で見つめて林檎の中に姿を消した。
「……。」
「先に出るから。」
林檎の間から手が出てきた。
「じゃあ。」
1個林檎を取って出る。
「なあ。アゲハ。」
 背後からくぐもった声が聞こえる。黒のシャワーカーテンを捲くって顔を覗かせて返事を示す。
「何でお前泣いてるんだ?」
「知らないわよ。」
涙をアタシはアイツが仕事に行っている時、よく流す。アイツの前で流した事無い。理由は無い。
林檎を落とす。
ゴトッ
何年も前、アタシはアイツの親を殺した。その時と同じ音。切られた首は音を立ててアタシの手から落ちた。
「夢、あんたみたいに見ること出来ればいいのにね。」
 アイツはアタシを見上げる。アタシは踵を返す。
「俺が死ねば夢見る様になる。」
「嫌よ、」
チャプ
ゴトゴトッ
「俺はお前の前で死なない。殺されないし、自殺しない。」
黒いカーテンにくるまるアイツの足元に、波の様に赤の林檎が音も無く転がる。
 アタシは静かなのが嫌い。何よりも嫌い。
アイツは少し屈んでアタシにキスした。



 仕事に出かけるアイツ。アタシはテーブルに腰掛けて手の中の銃を投げ渡す。
「今日も死なないで帰って来なさいよ。」
いつもの挨拶。アイツは微笑む。
月の月面がプリントされたドアは閉じる。明りの道は細くなって音を立てて消える。
パタン
 音が無いのは嫌い。何よりも嫌い。
カチッ シュポッ カチッ シュボボ、 ジジッ
揺らめくジッポーの炎。アタシの紫のカラコンの瞳が瞬きする事無く銀のジッポーに移ってる。
稀に黒髪に火を近づけたくなる。病んだ目元してる。生気無いみたいで。
片膝を抱えるアタシを照らす。蜂蜜がアタシに停まる。
 本当はアタシはよく夢を見る。アイツみたいな夢じゃ無い。毎日毎日同じ夢。
3ヶ月前からだった。
アタシは仕事中大怪我をして、それからアタシに仕事の話が無い。アイツと同じポジションだった。
ターゲットに存在を悟られて、返り討ちにあった。そいつはアイツが始末した。
 夢の内容は自分が牢屋に閉じ込められている夢。死刑を控えている。
ボールみたいな球体で16面の白の部屋。24時間監視されている。
アタシはベッドに拘束されていて、口も塞がれて、何も音が無い。その中でアタシは徐々に狂って行く。何がどんな音だったのかなんて思い出せない程、自分の心の声すら思い出せはしない。
あまりの音の無さに、ストレスを溜めて、半狂乱になって、出したい叫び声さえ出す事が出来ない。
音が欲しい。音が欲しい。音が……。どんな音でもいい。
 死刑の日。銃を与えられる。目の前にはアイツがいる。
音。待ちわびた音。
ガンッ シュウウウ カランッ 
ドサッ
カララ……
アイツはアタシに殺されて、アタシは連れて行かれて死刑になる。
 死刑場はなんとも騒々しい、忌々し過ぎる音のオンパレード。
長い事アタシは音が無かった為に、耳が敏感になっている。狂い出すアタシ。
その中で頭が壊れて死ぬ。
そういう夢。
 アイツが死ぬ時。アタシはアイツを殺したりなんかしない。自分が死刑になったとしても。
「道連れにしようか……。生かそうか……。C殺して逃げようか……。自分だけ死のうか……。」
ポツッ
涙が落ち、いつもアタシは音を立てる。
カチンッ
グラス同士のぶつかり合い……。
「……外に行こう……」
キーッ パタン
 アタシは通路を歩く。
Cゲートから開けた場所まで歩く。通路右開口部は音と赤の光りが浸蝕するクラブに酔った人間達が存在を確かめ合うように踊った。左観音扉のシアターは下らない映画をやってる看板が出ていた。コンビマートで銃弾揃える必要は無かった。アイツのキウイ買う。
緑のゴムシートのフロアを歩く。
「アーイ。久し振りねアジー。」
「ハアイ。生きてたのリリカ。」
彼女は情報収集が仕事の女。目的のビルで爆破があったらしいけれど。
「まあね。相変わらず細い綱渡ってる。」
「そう。」
「あたしは今日はオフよ。言ってやったわ。事故爆破は保険が下りないから、有給休暇にしてってね。」
「皮肉?アタシは3ヶ月前から仕事が無いわ。毎日がオフ。アイツがいなかったらまるで牢屋にいるようだわ。」
暇を持て余しても、金が無くても生活できるのが組織の一員という条件。その分、保険は細かい。
「随分素敵な牢屋だこと。」
「Cの存在で生かされているって所かしら。」
「我が侭利く彼持って特ね黒蝶さん?」
アイツは親にヤバイ目に遭わされてから親戚マフィアが本格的に引き取った。
 適当に話を終らせて外に出る。
これと言って用事は無いけど、ただ海を見たくなる時がある。
イヤホンから流れる曲の様に2人で深海に潜って行って、太陽を背に……。
 アタシはトリップする。
辿り付けはしない手を深海に差し伸べて、青に、冷たさに包まれて。
何かを見つめるわけじゃ無い。目の前は混沌と広がる黒しか無いから。
例えアイツがいても気付かなければいい。気付いたら追ってしまう。
水圧に体が潰されて、2人は終ってしまうから……。
 アタシは自ら間を終らせない。
それでも仕事が来る時は……?
Cを、アイツをアタシ、Cが、そのポジションが殺す時なの? 夢の中同様。
Aが追い詰めて、B地点でアタシはCを殺す……。
 あいつはその時、あたしに言った。
「もし、俺がお前のの中に血となって駆け巡るならば、お前が俺の宇宙なんだな。」
ガンッ
「……。愛していたのよ。本当よ。仕事だったから、あんたを守るんじゃなくて、あんたの夢の話聞き続けてあげるんじゃなくて、セックスほめてあげるんじゃなくて、アタシはあんたを殺した……」
記憶
いつの記憶
いつでも一人になると泣いているのよ。あいつが死の世界に出掛けた時、一人になると牢屋の中で。
 マフィアは捕えられてあたしも捕えられた。
牢屋の中。
死刑を待っているのよ。あたし。でもいいって思ってる。アイツはもうココに帰って来ないんだから。
ココロノナカニハかえらない。アイツ。
ポツッ ポツポツ……
声を出してよく泣くと、アイツが格子の外で蜜蜂と戯れながら言う。
「ホラ、こうやってメイプルシロップに包まれればこいつは俺を刺す。俺は大木だ。アゲハはその俺を取り巻く葉の一枚一枚で、風に持って行かれてしまう。俺が一人になった時、お前も一人になっている。俺が燃やされても、風で遠くに飛ばされたお前は燃やされずにいる。」
「嫌よ、それならばあたしは他の者に落ち葉として燃やしてもらうわ。あんたからの栄養をもらえなくなった葉はただそのまま枯れるだけ。灰になったあんたと、灰になったあたしはまた風によって一つに交じり合うわ……。その奇跡の時まであたしは待てる。あんただってそうでしょ。待てる……。その次はあたし達、灰として他の者の栄養になっている。実が実ったら、今度は同じ人に食べてもらいましょう。そういう夢が見られたなら……あんたみたいに……。」
『夢は叶う。』
 アタシは手の平の小石をガードレールから、浜辺に落とした。テトラポットに辺り落ちる。
コツッ
目の前の海は、いつでも音を奏でては一生止む事なんか無い。
ザザ……
アイツが帰って来る時刻はそろそろ近づく。踵を返してアタシは歩き出す。
アイツの、夢の中へと



★格子の音。
ーーーガシャンッガシャンッガシャンッ
静かなのは嫌い。何よりも嫌い。
足で蹴って、床にもたれながら格子を踏み均して小さな窓の月を見る。
ガシャンッ
この頃、監視員は注意もしなくなった。
ガシャンッ
「ねえ。いつになったら死刑にしてくれるの。」
「まだだ。全員分なんて時間が掛かる。」
「一斉射撃すればいいのに。あたしの時は一人で死刑にしてよ。」
 月はあたしが見つめれば隠れるから、2分以上見つめはしない。
アイツは月とは違って、ずっと見ていようが消える筈無かった。もう少し位続いて欲しかった。
ガシャンッ
「ねえ。明日は誰が死刑になるのよ。」
「A-8579、G-7956だ。」
「分からないのよ。」
「死刑になるお前に関係あるか。」
「無いわよ。」
 今日も24時間が長くて、全てが24時間の始まりで、アイツがいなければ朝も昼も夜も来ないから。
アイツが言ってた。
「俺がもし魚なら、深海魚がいい。」
バスに漬かってアタシを見上げた。
あたしだって魚になりたいって思うのよ。
ガシャンッ
そうすれば黒の中のアンタを追えるから。
その前にあたしは破裂するだろうけど……。
そう、アンタにはいつだって届かないのよ。
夢は叶うはず無い事をあたしは知っているのに、アンタの夢に乗るのよ。上辺だけでも理解出来た?
それなら、あたしはあんたの泳ぐ海になりたかったのに
黒のシャワーカーテンの奥のアンタに触れるには、シャワーで温まったアタシは触れられなかったのよね。結局は……。
黒の中のアンタはアタシに飛び込む事出来た? そんな冷たい海底から、空気中の海を泳いで……。
死ねば人は空気になればいいのに。
ガシャン
「愛してるよ。C。」
『お前は俺に何してくれる?』
あんたを包み込んであげる。あんたを愛してあげる。ずっと。
死んで空気になれたなら……。空気が死人を愛せるならば。もし、そうなれたなら良かったのにって、思うのよ。
「If……I Wanna Be A Dreaming With You……」

if.....

if.....

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  • 短編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-10

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