さんふらわー
去年(高校2年)の夏休み辺りから秋口にかけて書いたオリジナル小説。
元々文芸部の部誌に載せるために書いたのだが、あまりに長くなったため部長権限でもう1本の部誌テーマに沿った小説を削除して無理やり載せたという作品。てへぺろ。
ちなみに、後に専門学校の入学の際、修正され使われることとなった。
これはその修正後の作品。
「さんふらわー」
プロローグ
アメリカのクーデターは迅速に行われた。
まず米軍がテロをおこし、アメリカ国内の情報網は大混乱した。
テロ実行者はアメリカ軍ではないだとか、アメリカ軍だとか。そう言った情報があふれ返り収集がつかなくなった。
次にテロを起こした米軍と、前もって手を組んでいたテロリスト集団がアメリカ各地でテロ行為を起こした。
これによりアメリカの情報網は完全に麻痺、テロ鎮静すら危うくなる。
その混乱を利用し、米軍がアメリカの主導権を奪い取りクーデターは完了した。
クーデター開始から終了まで、14時間と言う早さだった。
ところがこれで終わりではなかった。
アメリカの応援要請を聞きつけ、関わりのある国々が次々とアメリカへと軍隊を向けていたのだ。
が、肝心のアメリカは援軍がたどり着く前に占領されてしまった。
アメリカに向かっていた軍隊は、クーデター完了後の新アメリカに総攻撃を開始。
これに怒り狂った新アメリカは各国に大規模な攻撃を仕掛ける。更にはソ連の頃からいがみ合いを続けていたロシアには核すらをも撃ち込むという暴挙までもおこした。
これにより世界の経済は壊滅、もしくは回復不可能な状況にまで陥った。
☆★☆
「ねえ、あとどのくらい!?」
元々は綺麗に舗装されていただろう道を、一台のバイクが走って行く。
その車体の上にはには人影が二つ、狭い中落ちないようにと身を縮めて乗っている。
バイクはいわゆるスーパーカブと言われる物で、外見はお世辞にもかっこいいとは言えないが、馬力が強く重いものもスイスイ運べるのが特徴のバイクだ。
「わかんない、地図とちょっとずれてるはずだからもう少しかかるかも!」
破壊されたコンクリート道路は道がボロボロになって走りにくいため、自然と外れた場所を通る人が増える。その為獣道のような場所が出来上がり、自然と少し外れた場所を走る事になるわけだ。
「早くどこかで休みたいんだど!」
「もう少し我慢して!」
バイクのエンジン音に掻き消されないため、必然的にお互いが大声をあげて会話をしなければならない。
が。そんな中僕は、頭の片隅で次の町までガソリンがもつかを考えていた。
☆★☆
いつの間にか、彼女は僕の家に居た。
新アメリカの絨毯爆撃により、東京にあった父親が建てた自慢の一軒家は無惨にも燃えた。
隣の家から炎が燃え移ったのだ。
そして運が良いのか悪いのか、燃え出した矢先に爆撃で吹き飛んで火は消え、半分は残った。
だが、家族は残らなかった……。
逃げ出した僕ら家族は、早々にばらばらになってしまった。
攻撃が落ち着き、町中に人を見るようになってから僕は半分の家に戻った。
数日は家族の帰りを信じて待っていたが、結局誰一人として戻っては来なかった。
僕は何かが抜け落ちてしまったかのようにふらふらと町中に出ては、食料や水を探してきて半分の家で引きこもるように過ごした。
そんな生活を続けて数週間がたった。
気が付いたら家に見知らぬ少女がいた。
ショートカットに纏められた黒髪に、煤で汚れた小柄な顔、意思の強そうな切れ長な目。服装はTシャツにショートパンツを合わせた物で、まさに部屋着ですと言う格好だった。
今は雨をしのぐ場所すら確保しにくいため、誰も居ないと思って入って来たのだろう。
何か問題があるわけでもないので、僕は何も言わず普段通りに生活を続けた。
少女も始めの内は申し訳ないと思っていたのか、そわそわと落ち着かないそぶりを見せていたが、僕が出て行けという意思表示をしないのを「居てもいい」と取ったのかのか頻繁に姿を見せるようになった。
そして僕らの可笑しな同居生活が幕を開けた。
僕らはお互い言葉を交わすこともなく、ただその場所に置いてある物のように過ごした。
そしてまた数週間がたったある日。
膝を抱えて部屋の片隅で睡眠と覚醒の間をさ迷っていると、ふと目の前に人の気配を感じた。
僕は顔を上げるか悩んだが、一応見るだけはしようと顔を上た。するとそこには居候の少女が目の前に立って、僕を見下ろすようにこちらを見ていた。
僕は何か言おうかと迷ったが、特に話す事も思いつかなかったため、黙ってまた顔を膝に埋めようとした、その時――
「向日葵が見たいわ」
と、頭上から凛とした声が響いた。
「え?」
しばらく言葉を発していなかった僕の口からは掠れた声が出た。
「向日葵が見たいの」
「……」
今まで話した事の無かった彼女が急に声をかけてきた事もあり、僕はなんて返事をしていいか分からず黙り込んでしまった。
「ねぇ、聞いてる?」
しびれを切らしたのか、少女が不機嫌そうな声をあげる。
「あ、うん……」
「向日葵が見たいって可愛い女の子が言ってるのよ? つれていってあげなきゃって思うのが男の子ってもんじゃないの?」
ようするに連れて行けという事が言いたいのだろうか。
「でもこの辺に向日葵なんて咲いている場所はないよ」
「なら連れていってよ、向日葵が咲いている場所に」
その凛としたよく通る声は、有無を言わせない強さが宿っていた。
何故か僕は、少女に言われるがままに準備をしていた。
どういうわけか、知らない場所に連れて行けと言う理不尽さや恐怖、不安などは感じなかった。我ながら自分の心が弱っていることを感じた。
僕達は町中に放置され雨ざらしにされているカブの中の1台を拾い、最低限の缶詰や飲み物を持って東京だった場所から飛び出した。
☆★☆
「着いた」
「やっぱりここもボロボロね……」
バイクに揺られ数時間。おしりが痛くなってきた頃、ようやく建物が密集している場所にたどり着いた。
とは言っても、爆撃により町があった跡があるだけで人がいる様子はない。
こういった場所は元々人がいないわけではなく、生き残った人々は皆都心の方へと集まって行くので無人の街が出来上がっていくのだ。
「向日葵、無さそうだね」
「そうね、花すら咲いてないわ」
僕達はバイクを押しながら町中へと歩き出したが、やはり人の気配はない。ここも廃墟となってしまったのだろう。
「仕方ないわ、何か使えそうな物を探しましょ?」
「そうだね、そろそろガソリンを探さないと。予備の分も少なくなってきてるし」
そう言うと、僕らは壊れた小さな町の中を探索した。
家の跡地や、元は駐車場らしき場所を探し、缶詰や使えそうな車などからガソリンを貰う。一つ一つは極微量でもたくさん集まればそれなりに使える量が溜まるのだ。
もっとも、バイクを弄るようになってからバイク好きになった僕としては、いつから放置されていたのかわからないガソリンを混ぜてカブに入れるのは、ホントは嫌なんだけどね。
それでも文句を言っていられる場合ではないので致し方ない。
日も傾き町が夕暮れに差し掛かってきた頃、僕らは集めてきた物をバイクの周りに広げていた。
「野菜なんかの缶詰が5個に煮魚の缶詰が3個、非常用のパンの缶詰が2個か」
「思ったより多かったわ、きっとすぐに都心の方へ向かったのね」
「そうだね、これだけあれば今までの分も含めてしばらく食料には困らないよ」
僕達は集められた缶詰を積み上げて、今後の食料計画について話し合った。しばらくは特に心配しないで済むだろうけど。
「それで、ガソリンは?」
「うーん、いまいちかなぁ……次の町までは足りるだろうけど」
といっても余裕は全くないが。
「まあ仕方ないわね。あ、そう言えば町外れてちょっと行った場所に小さい川を見つけたわ、水も綺麗だったから飲めそうよ」
「ほんと? 水もほとんど空に近かったから助かるね」
僕達は缶詰をまとめると、バイクを手で押してその川の近くまで行くことにした。
町の少し外れた場所に、涼しげな音を立てて小川が流れていた。
「ね?」
少女が得意げに僕の顔を見ながらニコッと微笑んだ。
「全然気がつかなかったよ、お手柄だね」
「ふふん」
褒められたのがうれしいのか、少女は鼻を鳴らしている。
僕は川に近づいてしゃがみ込むと、手で水を少しだけ掬って口元に運んだ。口を水が冷やし、飲み込むと喉をスーっと通っていく感触が心地よかった。
「うん、変な味とかもしないし大丈夫だと思う」
「大丈夫に決まってるでしょ、魚だって泳いでるわよ?」
見ると、川の深い場所では小さな魚が数匹固まって泳いでいた。
「ほんとだ……珍しいね」
「そうね」
今となっては綺麗な川自体が珍しい。
自然というものは偉大だと最近つくづく思う。人間に壊滅的な破壊をされたと言うのに、草木は何処からともなく芽を出し育っていくし、魚もこうやって細々とだが確実に、しっかりと生きているのだから。
「ねぇ」
しばらく無言になって水を飲んだり、その冷たい水を腕や足にかけて涼んでいると、妙に真剣な顔をした少女がこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「いっぱい水があるわね」
「……? そうだね」
何を言いたいのかよく意味がわからない。僕の頭上にはきっとハテナマークが浮かんでいるのだろう。
「う~、あ~もう! やっぱりあんたに期待なんてしても無駄だわ!」
とてつもなく失礼なことを叫んだかと思ったら、少女は川の水を両手いっぱいに掬い僕に向かってぶっ掛けてきた。
「うわっ! 冷たッ!」
「体が洗いたいのよ! 向こう行って!! コッチ見ないでよ!?」
「わっ、冷たいって! わかったから水掛けてこないでよ!!」
僕は逃げるようにしてその場を離れた。
「まったく、それならそう言えば良いじゃないか」
辺りは随分と暗くなってきているため、出来る事もなく僕はカブに寄りかかってブツブツと文句を垂れていた。
「だいたいからして、信用できないから名前は教えないなんて言っておいて、僕に見るなあっち行けって言うだけですましてるって無防備すぎないか?」
☆★☆
彼女には理不尽な事ばかり言われている。
東京跡地を旅立ってから数時間後、僕はふと彼女の名前を知らないことに気がついた。
それは彼女も同様で、お互いになんて呼んで良いのかわからない筈だ。
これは不便じゃないか? と、そう踏んだ僕はバイクを降りて休んでいる時
「ねぇ、名前なんていうの?」
とたずねたのだ。すると彼女は
「……」
僕の質問に返事もせず、黙って僕の顔をジーッと見つめ返してきた。
「な、なに?」
思わずたじろいでしまった僕は、見つめられる視線に耐えることが出来ず顔をそむけた。
「言わない」
「え?」
一瞬なんて言われたのかよくわからず、思わず聞き返してしまった。
「あんたが信用できないから教えない」
「……」
「それに私達二人しかいないんだから、別に名前を呼ばなくてもわかるでしょ?」
あんたとまで言われた僕は、あまりのことに言葉を失ってしまった。彼女は満足したようにバイクに跨ると「もう休憩はいいでしょ? 行きましょ」と、催促までしてきたのであった。
今思い出しても悲しくなってくる。あの時僕はどうして怒らなかったのだろうか……
人によっては怒鳴っても許されるような返事じゃないか?
考えれば考えるほど理不尽な話だと思う。
「はぁ……」
まぁ要するに僕は気が弱いのだ。
何より自分が良くそれをわかっている、あんな自分と同じぐらいの小さな少女にすら頭が上がらないのだ、まったくもってどうしようもない。
「よく考えたら、散々人の家に居座っといてそれはないよなぁ……」
まぁ、半分しか家残ってなかったけどさ。
自分の情けなさに涙していると、遠くから少女が手を振っているのが見えた。もう良いという意味なのだろう。
僕はカブを押しながら再び先ほどの川原まで戻っていった。
☆★☆
「その服……どうしたの?」
戻ってみると、彼女は元々着ていた服とは似ても似つかないような服を着ていた。
「拾ったのよ、少し汚れてるけどこんなに保存状態の良い服がまだあるとは思わなかったわ」
彼女は今ではもう見る事の無いセーラー服を着ていた、黒地で裾に白色のラインが入ったスカートとセットだ。
「なによ、そんなにまじまじ見て」
「いや、よく制服なんてあったなって」
「棚の奥に大切に仕舞ってあったの、厳重に仕舞ってあったから何か思い出のある大切な物なのかも」
少女は若干申し訳なさそうに制服のスカートの裾を掴んで弄んでいる。
「でももう使わないんだろうし、使ってくれる人が大切に使ってくれるならその方が持ち主もうれしいんじゃない?」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
「とにかく大切に使ってあげればいいんだよ」
「そうね」
それでも少し気にかかる部分があるのか、少女の歯切れは悪い。
よし、ここは少し雰囲気を紛らわせてあげるとしよう。
「普段は暴力的なのに制服を着て静かにしてるとおしとやかに見えるね」
「……どういうことよ」
少女の額に青筋が浮かび上がっている。
「あ、いや、だってボーイッシュだし言葉遣いも荒いからさ! でも似合ってると思うよ、うん」
「フォローになってなーい!!」
ゴスッと鈍い音が僕の頭から響いた。
「いったっッ……」
「自業自得よ! ほら戻るわよ、さっさとする!」
「へいへーい」
僕は生返事をすると叩かれた場所をさすりながら彼女の後をついていった。
再び廃墟になった街へ戻って来ると、屋根が生き残っている家の前で廃材や小枝などを積み上げた。焚き火をするのだ。
小枝に燃えやすい乾いた木の葉で火をつけ、少し大きめの枝、廃材へと火を移す、するとあっという間にそれなりの火がつくわけだ。
「あんた本当にうまくなったわね、最初なんて火が付かなくて大変だったのに」
「そりゃ男の子だしね」
「バイクもそうよ、何度転んだ事やら……それが今じゃガタガタした道も綺麗に乗って見せるんだからたいしたもんだわ」
都会育ちの僕は小枝に火をつける事すらうまく出来ず、始めのうちは彼女と二人して散々苦戦しながら火をつけたものだ。
「僕だってやれば出来るって事だよ」
「何よえっらそうに」
彼女は蔑んだような目でこちらをにらみつけた。どうも素直に評価はしてくれないらしい。
お互いに何もいわず、中央で燃え上がる炎を見つめた。何ともいえない空気が二人を取り巻いている。
「ねぇ……」
「ん? なに?」
声のした方を見ると、彼女は僕に背を向けるようにして横になっていた。
「何であたしをここまで連れてきたの?」
「え?」
何をいまさら言い出すんだ?
「赤の他人でしょ? なんで? ほうっておけば良かったと思わないの?」
「それは……」
なぜと聞かれても良くわからない、なんとなく虚無感に襲われていた僕に声をかけてきて、特に何も思わないままに連れて来ていた気がする。
「それなら、何で君こそ僕に声をかけてきたんだよ」
「馬鹿みたいだったから」
「え?」
僕同様ろくな返事が無いもんだと思い込んでいたため、予想外の返事に思わず聞き返してしまった。
「馬鹿みたいに毎日毎日死んだ目をしているから声をかけたの。あんた本当に生きてるんだかわからないんだもの」
「……」
それは心配してくれていると言う事なのだろうか?
「希望も何も無いみたいな顔してたわよ、あのときのあんたは」
「ははは、そうかもね……」
「生き残ってさ、命があるんだからさぁ~もっと前向いて生きなさいよってね」
何とも言えない気持ちになった。この子はきっと自分の心配をしてくれていたんだ。
「ま、こんなの全部口実で、私が死ぬ前に向日葵が見たかったってだけなんだけどね」
「あっそう……」
そうでもないらしい。
とんでもないわがまま娘と一緒に居るということを改めて確認させられた気がした。
☆★☆
バイクの後ろに跨る彼女が新しい服を見つけてから一週間ぐらいたった。
「ようやく着いたわね」
「ああ、そうだね」
あの廃墟と化した街を出てから1週間ぐらい。随分都心から離れたこともあり、なかなか次の町を見つける事が出来ずにいた。
「ほんと、田舎になればなるほど町と町が離れるわね」
「そうだね、燃料とかの在庫が心配になってくるよ」
すっかり燃料も減り、すでに食料も底を付きかけている。
「今度こそ誰か居ないかしら」
「こんだけ離れちゃったら逆に誰か居そうだけどね」
「そうね」
そんな話をしていると、少女がバイクから下りて進んでいく。
僕はあわてて町の入り口のほうへと、バイクを押して少女について行った。
「やっぱりどこもぼろぼろね」
「そうだね、僕達しか世界に居ないみたいに思えてくるよ」
「馬鹿言わないでよ」
町の入り口から中心辺りまで歩いてきたが人影は無く、ほとんどの家が燃えるか爆発で吹き飛ばされている。
「あ、みて、学校があるよ」
「ほんとだ、誰か居るかな?」
「行ってみましょ」
ちょうど中心だろう場所から少し先に3階建てぐらいの特徴のある大きな建物が見えた。
「うわぁ、半壊だね……」
校舎はちょうど正面から見て左側が大きく欠けていた。まるでシャベルか何かで掘り出されたかの様に抉られている。
「ちょうどあんたの家みたいになってるわね」
多分これも爆撃で吹き飛んでしまったのだろう。
その時――
「誰だおまえら」
――と、背後。僕達が来た方から声がした。見ると白衣を着たオジサンと言うよりは、青年と言った方が似合うような男性が歩いてきた。
「おっと動くなよ、素性を明かしてからだ」
目元がキリッとしていて、二重、なおかつ顔の形も整っている、いわゆる世間一般でイケメンといわれる部類の顔立ちをしている。それだけのことに闘争感が生まれそうだ。
髪型も清潔感を漂わせ、服装も綺麗だ。
「何しにきた?」
「向日葵を見に」
驚いて横を見ると、迷いなくまっすぐに男の顔を見て少女が当然だと言うように告げた。別に適当な事を言ってもいいだろうに……と僕は思ってしまうのだが。
「向日葵だぁ?? 物珍しいもいいとこだな、こんな状況で咲いてるなんて思えねぇが」
ごもっともです。
「それでおまえらそのバイクでここまで来たのか?」
「そうです」
「ふ~ん……」
不振そうにこちらの様子を観察する白衣姿の男は、何かに納得したかのような顔をした。
「そうか、わかったぞ。おまえら駆け落ちだな」
見事な迷推理だ。あまりにも突拍子な事を言うもんだから僕も彼女も口をあんぐりあけ、驚いたまま固まってしまった。
「あん? なんだ、違うのか?」
「ふ、ふざけないでよ!! 誰がこいつなんかと……こいつなんかと……か、かか駆け落ちなんてするかっ!!」
「ぐほっ!!?」
我に返った少女の右ストレートが見事に男のみぞおちを捕らえた。しかも男は殴られた勢いで仰向けにひっくり返ってしまった。
「まったく何よこの男、ちょっとカッコいいからってムカつくわ」
あなたの言った事に僕はどう反応していいのかわからないのですが、どうしたらいいのでしょうか神様。あそこまできっぱり断言されると流石に悲しくなってくる。
「さっさといきましょ」
「え、でもなんかそこの人動かないよ」
「ほっといていいわよそんな男、それより早く先に進みましょうよ」
流石に放置というわけにもいかないだろう。あり得ないが万が一ご臨終されていたら寝覚めが悪すぎる。
それに、人がいるって事はこの辺りの事や何かしらの食べ物などを分けてくれるかもしれない。
ズガズガと先に行ってしまおうとする少女を何とか制して、倒れたまま動かない男の安否を確かめるために近づいた。
「ねぇ、でもどうするのこいつ」
「う~ん、せめて日の当たらない涼しいところに運んで様子でも見る?」
そんなことを話していた時である。
倒れていた男が急に腕を伸ばし、少女の足首をガッと勢い良く掴んだのだ。
「きゃああああ!! な、なな、なななっななな!?」
あまりの驚きに言葉にならない少女を構う事無く、男は顔を勢いよく上げた。
そして、ニヤリと顔を歪ませると――
「パステルカラーか」
――と、つぶやいた。
「――――ッッ!?」
隣に立つ少女は口をパクパクと動かし、音にならない悲鳴を発したあと、足元に倒れている男の顔面をつま先で蹴り飛ばした。
「ぐげへっ!!」
蹴られた男は、危うげな声を発しながら地面をごろごろと転がっていった。
「かえる! もう帰る!! あんな変態視界に入るのすら嫌!」
相手の顔を蹴ったというのにそれでも怒りが収まらないのか、顔を真っ赤にして恥ずかしそうな顔をしたり、怒り狂ったように眉を吊り上げたりと世話しなく表情を変えている。
「あらあら、亮くんいたずら?」
ふと気が付くと、校庭をゴロゴロと転がり学校の入り口でのびている変態男の前で一人の女性がしゃがみ込んで声をかけていた。
「だ、だめですよ! そいつ変質者なんです!!」
隣にいた少女が、同じ女性として危機感を感じたのか、慌てた様子で声をかけた。
「だいじょーぶよ、この人私の幼馴染なの」
しゃがみ込んだままこちらを見る女性は、やさしそうな微笑を浮かべてこちらを見ていた。
対する僕らというと、ありえない言葉に二人してアホなぐらいボケッとした顔をしてしまった。
あんな変態、いや馬鹿に幼馴染ができる物なのか。
「うっ……梓か? 動いちゃダメだっていってるだろうが」
蹴り飛ばされて気絶していた、亮くんと呼ばれていた男性がムクリと体を起こした。
「だいじょうぶよ、今日は体調がいいの」
「そうやって油断してると危ないってわかってるだろ?」
「だいじょうぶだってば、そのために亮くんがいるんでしょ?」
「まぁ、そうだがよ……」
ばつが悪そうに、亮くんは白衣に付いた土ぼこりをバタバタと叩いて落とし、僕らの方を向いた。
「なんだ、まだいたのか」
「あんまりからかっちゃダメよ」
「からかったんじゃねぇよ、追い払おうとしたんだ」
梓と呼ばれた女性に怒られたのが気に食わないのか、不貞腐れたような声をしていた。
「そんなのなおさらダメよ、久しぶりのお客さんじゃない」
ころころと喉を鳴らすように女性が笑うと、僕達二人に向かって手招きをした。
「こっちにこない? 飲み物ぐらい出すわ」
僕達はお互い顔を見合わせると、力の抜けた足取りで彼女達のほうへと向かうのであった。
場所は変わって、半壊校舎入ってすぐ右の保健室。
「ごめんなさいね、横になったままで」
「仕方ないだろ、おまえは体が弱いんだ。長い間起きてちゃ体に響く」
半壊した校舎だというのに、この部屋だけは綺麗に掃除されていた。
僕達は立てかけてあったぐら付くパイプ椅子を引っ張り出しベッドの横に並んで座った。
「はい、お水しかないけど」
そういって水の入ったコップを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
先ほどから隣にいる少女は亮くんとやらを警戒し、にらみ付けるようにその顔を見つめ不機嫌そうにムスッとしている。
「紹介するわね。この白衣の先生は亮助、私の幼馴染でお医者さんよ」
「い、医者!?」
「なんだそんな声を上げて、白衣を着てるんだからそうに決まってるだろ?」
いや、別にそんな決まりなんて無いと思うのだが。
というかさっきの行為は医者としての信頼が死活問題じゃないのだろうか。人間としてもだが。
「私は梓、亮くんは今私の主治医さんなの」
梓さんは先ほどからずっとやさしく微笑んだままでいる。彼女は温厚な性格をしているのだろう。
「まぁなんだ、成り行きでなったようなもんだけどな。それに主治医なんていっても今の状況じゃ治療もクソも無いしな」
「主治医って、梓さんどこか悪いんですか?」
隣に座る少女が少し遠慮気味に質問した。
「元々からだが弱かったんだけど、どうも都心に向かってるうちに何か病気を拗らせちゃったみたいなの」
「原因はわからねぇ、機材が少なすぎるし電気もねぇ。ただ風邪とかそういう簡単な病気じゃねぇって事だけはわかるんだが……」
何とも複雑な理由があるようだ。
「まぁ~心配しても仕方ないわ、とにかく今を生きることが大切よ?」
「とまぁ、本人がこんな感じだからおまえらもそんな気にしないでやってくれ」
「……」
僕達は黙ってうなずいた。
「このあたりの物って全部集めちゃったんですか?」
「あ~? そうだな、ここで立ち往生して随分たつからな。梓も俺も大人だからな、生きていくにはそれなりの物がいる」
あれから僕達は他愛の無い話で時間をつぶした、外はすっかり暗くなってしまっている。
「なんか少し分けてもらえませんかね」
「無理」
「即答ですか……」
まぁ、だと思ったけどさ。
「まぁなんだ、少しぐらいなら何とかなるかもしれんが、あてにはするなよ」
「ほんとですか、恩にきます」
僕と亮介さんの二人で学校の裏に回り火を焚いていた。
何のためかというとドラム缶風呂があるそうなので、それを入れるようにするためだ。
「それにしても、ドラム缶風呂を今の時代で拝むことになるとは思いませんでしたよ」
「俺だってドラム缶風呂を作るとは思わなかったよ」
ドラム缶風呂なんて言ってはいるが、作りはいたって簡単である。
ドラム缶の下に土台を作り火を焚くための空洞を作る、その上にドラム缶をおいて水を張って火をつけるだけ。
「こんなもんだろ、これ以上は熱くなりすぎる」
「それじゃあ戻りましょうか」
少女は久々にお風呂に入れるという事で、とてもご機嫌だった。
「ただいま」
「お帰りなさい、二人とも」
亮助さんをつれて、保健室に戻ると女性二人は畳まれたタオルなどをもって準備を済ませていた。
「それじゃあ行って来るわ、覗いたら焼くわよ」
「覗かないよ、死にたくないもん」
「それじゃあいってくるね亮くん」
「あ~さっさといって来い、なんかあったらすぐ呼べよ」
二人は保健室を出ると楽しそうに話しながら離れて行った。
「さてと……」
亮助さんは立ち上がると近くの棚を開き、中から液体の入ったビンを取り出した。
「ウイスキーだ、飲むか?」
「ウイスキーって……お酒じゃないですか!?」
「なんだ? 何を驚いてるんだ? 飲まないのか? 偶然見つけた物だがかなり良質な物だぞ」
「いや……未成年なんですけど」
「何だそんなことか、そんなどうでもいいこと言ってないで、付・き・合・え・よ!」
強引に瓶の口を押し込まれ、いくらか飲み込んでしまった。
喉を液体が流れていく感触がしたあと、カアァッと熱を帯び、鼻からウイスキー独特の香りが抜けていく。
「ちょ、ちょっとあんた医者だろ!?」
「くくっ……あっはっはっはっは」
しかもこの野郎腹抱えて笑ってやがる。
「まぁいいじゃねぇか、酒なんざ馬鹿みたいな飲み方しなきゃ体に悪くなんてねぇよ」
「くそ……無茶苦茶いいやがって」
「無茶苦茶な時代になっちまったんだ、かまいやしねぇよ」
その意見はごもっともな気がするが……
「ほら、飲めよ、ゆっくり少しずつだぞ」
言われたとおりに少しだけ飲んでみる。
先ほどとは違い口の中に香りが広がり、飲み干した時もお酒の良い香りが鼻を抜けていく。
なんだか体が熱いし、頭が少しボーっとする。
「うまいだろ、ほんとこんないい酒が手に入ったのは奇跡だよ」
「良くわかりませんけど濃いですね、でも飲みやすいです」
「ま、普通は割って飲むもんだからな、贅沢言えねぇからあきらめろ」
そんな感じで二人で酒を煽った。
場所は変わって校舎裏のドラム缶風呂。
同じ女性なのに恥ずかしくてバスタオルで体を巻いたまま梓さんの前に座り込んだ。
腰を下ろした椅子だと思われる不格好な木塊がひんやりと冷たい
「さらさら、綺麗だわ」
「そ、そんな、梓さんのほうが髪の毛も長いし綺麗じゃないですか」
「そんなこと無いわよ~、髪の毛がやせちゃってるの」
自分のウェイブしている髪の毛を持ち上げるようにして見ている。茶というよりクリーム色に近いその髪はふわふわと肩の辺りでゆれている。
「梓さん癖っ毛なんですか?」
「そうなのよ、あなたみたいなストレートな髪の毛には憧れるわ」
無いものねだりと言うもので。私としては梓さんみたいな軽く波打つ髪の毛はとても可愛いく見えて好きなのだけれど。
「お湯かけるわよ~」
「あ、はい」
湯気で軽く湿った髪の毛にお湯をゆっくりとかけてもらう。
「いい香りがしたりしないけど許してね」
そういいながら梓さんは手の中で泡立てた石鹸を髪全体に伸ばしてくれる。
「どう? 気持ち良い?」
「はい、すごく気持ちいいです」
お風呂に入ること自体が久しぶりだ。行水することはあっても、それとはわけが違う。
第一石鹸というものが見つからないのだ。
「ん~、他にかゆいところ無い? なんなら自分でゴシゴシしてもいいよ~」
「大丈夫です」
ゴシゴシと梓さんの細い指が私の頭を撫でるように洗っていく。力加減がちょうどよくマッサージされているようだ。
「亮くんとはね、幼馴染だったの」
「え?」
夢心地なだったに、梓さんは話しかけてきた。
「小さい頃からずっと一緒にいたんだけど、大学で進路が変わって会えなくなっちゃったの」
私の返事を聞くわけでもなく梓さんはしゃべり続ける。
「私の体が弱いからってお医者さんになるなんて……ずっと言ってたんだけどね、亮くん忙しくなっちゃってね」
「そうなんですか」
「なんとなく、惹かれあっていたと思うのよ。でも、結局何も言わずに別れちゃってこの歳になって再会したけど、お互いずっと近くにいたせいで今更改まって想いを伝えるのは恥ずかしいのよね」
直感的に、梓さんが私に何かを伝えようとしているのがわかった。
「なんでそんなことを私に?」
「ん~……なんとなくかなぁ? 強いて言うなら人生の先輩からのアドバイス?」
柊さんを見ると、幸せなんだか悲しいんだが良く分からない表情をしている。
「梓さんは伝えないんですか?」
「亮くんも私もわかってるのよ、お互いがお互いのことを想っているって。でもやっぱりちゃんとお付き合いしてるって言う形が欲しいのよ、乙女だからね」
梓さんは、それこそ恋する少女のように顔を緩ませ幸せを放出している。
私の視線に気がつくと、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「でも、だからこそ、私も言わないの、亮くんもきっとそうなんだと思う。だって私はもうあまり長くないと思うから、お互い近づきすぎちゃうと怪我をしちゃうの」
そういうと、気まずそうに頬を掻きながら笑った。
「だから、あなたは後悔しないようにね? 想いが通じ合っていても、形がなきゃ悲しいからね?」
「……」
こくんと、頷くだけで私は返した。
「冷えちゃったわね、今流すわ」
木をくり抜いただけの桶に入ったお湯をゆっくりと頭からかけられる。暖かいお湯が頭からお腹の方へと流れてい。
胸の辺りには暖かな何かと冷たい何かが、複雑に混ざり合って満ちているような気がした。
「ん、いいわよ。シャンプー落ちて無いとこはない?」
「はい、大丈夫です」
「うん、良い顔してるわよ」
なんだか梓さんのその言葉が恥ずかしくて、顔を背けてしまった。
目が覚めると軽い吐き気がした。
「うっ……」
あれ、寝ちゃってたのか? 何してたんだっけ? あ、そうか医者に酒を飲まされて……
「おきたの~?」
「あれ、お風呂行ってたんじゃ?」
いつの間にか少女が先ほど僕が座っていたあたりに座り込んでいる。
「とっくの昔に戻ってきたわよ、びっくりしたわ、あんたぶっ倒れてんだもん」
「……」
どうやら酒に酔いつぶれてしまったらしい。
「情け無いわね、こんな酒ごときにぶっ倒れるなんて」
そういいながら少女は手に持った瓶を口元に持っていくと、一気にラッパ飲みをした。喉が軽快な音を立て、なかの液体を飲み干していく。
「え!! それってさっきのウイスキーじゃ!?」
「おいしいわねこれ、初めて飲んだけど」
先ほどまで医者と一緒に飲んでいたウイスキーを少女はグビグビと飲んでいた。
「そんな飲んじゃダメだよ、僕みたいに倒れるよ!? というか吐くよ!?」
「うっさいわねぇ、そこの医者だっていいって言ってるんだからいいのよ」
少女の顔をよく見ると、赤みが強いし酒臭い。
「ちょっと、とめてくださいよ!!」
「がははは! いい飲みっぷりだ、もっと飲め」
「何言ってんだあんた医者だろ!?」
激しく頭をかきむしりたい衝動に駆られた。
「ふ、二人とも完全に酔ってるよ!?」
「ほら、あんたも飲みなさいよ、待ってたんだからね」
「ちょ、僕はもういい、もういいってばっ!!」
「そうだそうだ、飲め飲め~!」
抵抗むなしく僕は飲んだくれ二人ともう一度酒を煽ることになったのだった。
☆★☆
「うっ……」
なんだかデジャビュを感じさせる目覚めだ。
「うえっ、なんだかすごく頭が痛いぞ」
頭がガンガンと何かに打ち付けられているかのように痛い。ついでに言うと床に寝転がっていたので体も節々も痛い
「昨日の記憶がほとんど無いんだが」
確か梓さんと少女が一緒に風呂に行った事は覚えている、その後亮助と何かしたような、しなかったような。
それにしてももう随分と日が高いというのに誰も起きている気配がしない。
「お~い、おきろ~」
なんら気兼ねなく真後ろから聞こえる聞きなれた寝息のほうへと顔を向けると
「ぶっ!!」
思わず噴出してしまった。
「ちょ、どうしたらそうなるの!?」
良くわからないがなぜか少女が半裸でそこに横たわっていた。よく見ると着ていた服を枕にして寝ている。
とりえずマッハで自分の上着を彼女にかけておいた。幸い下着は健在だったので何とかセーフだ、何がセーフなのかは良くわからないがとにかくセーフなのだ。
「それにしても……」
何かがおかしいとは思ったが、周りをよく見ると4本ほどの酒瓶が転がっていた、どれも形も銘柄も違うお酒のようだ。
どうもミニ宴会でも開いていたらしい、記憶が無いあたり僕も飲んだのだろう。
「あら、おきたの~?」
「あ~、梓さん……一体何があったんですか」
「すごかったのよ~、あなたもそこの横になってる子も大騒ぎしちゃって。亮くんも久々に人が来たもんだからってハイテンションに飲みまくって潰れちゃうし」
どうやら思っていたよりも全然すごい状況だったらしい。
「すみません騒いじゃって、寝にくかったですよね?」
「だいじょうぶよ、久しぶりに亮くんの楽しそうな顔が見れてうれしかったわ」
心の底からそう思っているのだろう。本当にうれしそうに笑っている。
見ているだけで暖かくなるような笑みだ。
「そろそろ起こしてあげなさい? もう良い時間よ」
「はい、わかりました」
なんだか幸せな気持ちが胸にあふれたまま、となりで横になっている少女に声をかけた。
☆★☆
「なんだか色々お世話になりました」
「いえいえ、だいじょうぶよ」
すっかりお昼ごろの日差しになってしまったが、僕達は今まで通りの目的を果たすべく、出発することにした。
「そういえば、どこに向かっているの?」
少し気になったというような感じで、梓さんが小首をかしげている
「向日葵を見に道なりに進んでるんです」
少女が誇らしげに無い胸を張った。
「向日葵……そういえば、南のほうで花を見たって人が居たわ」
「ほ、本当ですか!?」
梓さんの言葉に僕と少女は、驚きの気持ちを抑えきれずに思わず叫んでしまった
「ええ、前ここの町に南からず~っと上がってきたって人が来た事があるの。その時、南のほうはこのあたりより被害が少なくて花とかまだ少しは咲いているって聞いたわ」
「そのなかに向日葵も?」
「え~っと、写真で見せてもらった時にあったような~……ごめんなさい、定かじゃないわ」
僕達はお互いの顔を見詰め合ってうれしさに飛び跳ねそうになった。
まだ花が咲いている場所があるかも知れない、今となってはとても懐かしく珍しい物、それがまだあるとは。
「亮くん遅いわねぇ」
「まだ寝てるんじゃないの? あんな飲むからいけないのよ」
どこの口が言えた事かと言ってやりたいが、二日酔いのためか少女の機嫌は激しく悪い。
「それじゃあ、僕達は行きますね」
「ええ、ありがとう、またよかったら着てね」
梓さんが少し寂しそうに小さく手を振った。
その時……
キキギィィィッ――
僕達の背後に銀色のスポーツカーが、甲高いブレーキの音をあげてとまった。
「車!?」
「よお、まだ出てなかったみたいだな」
「あ、亮くんだ」
ドアをバタンと勢いよく閉めると、颯爽と白衣を翻して両手を大きく広げ――
「この車、やるよ!」
と、まるで何吹っ切れたかのように大きな声で言い放った。
「えっ?」
「なんだ、不満か? これでも俺の愛車だぞ、よく無事で居てくれたもんだ」
自慢げに自分の車に近づくと、その銀色の光沢を放ち続けている車体を触った。
「ま、改造を施してスピードはでねぇけどな、変わりにすげぇ燃費を良くしてある」
「でも、これ大切なもんなんじゃ」
「そうだ。だが俺らはもうここから動けねぇ、だからおまえらが使ってくれ」
そういうと、亮助は梓の隣まで歩いていくと、こちらを振り返った
「荷物は全部積んである、燃料に食料と水、少ないがおまえ達が着れそうなもんも積んどいた。スピードは出ないが燃料は相当持つだろう、荷物が減ったらまたバイクなり何なりにでも乗れば良い」
「なんだかんだ言って、ほんと亮くんはお人よしね」
「うっせ」
二人はお互い小さく笑いあっていた、幸せそうに。
「それじゃあ行きますね」
「おう、さっさといきな、何かあったら戻って来い」
「またね~」
僕は二人に別れを告げ、少女は深く頭を下げるだけだった。どうも様子がおかしいが、きっと酔いが相当酷いのだろう。
車に乗り込むと、刺さりっぱなしのキーを回してエンジンをいれた。
「さあ、行こう」
「……」
「大丈夫? まだ休んでた方がいいか?」
少女は助手席に座ったまま俯いている。
「理沙」
「え?」
「私の名前、理沙。今度からちゃんと名前で呼んで」
少女は……いや、理沙は勢い良く顔を上げると、真っ赤な顔でそう言った。
「ほら、あんたの名前は移動しながら聞くわ、さっさと行くわよ!」
早口で言いきると、理沙は進行方向を指差し、叫んだ
「向日葵、見せてくれるんでしょ? ほら、全速前進よ!」
「ああ、わかった」
僕は言われるがままに車のアクセルを踏み込んだ。
今まで来た道を戻り南を目指す、まだまだ僕等の向日葵を見るための旅は続きそうだ。
さんふらわー
ちなみにヒロインの名前は当時片思いをしていた女の子の名前なんて事は一切ありません。
夢のかけらも無いね!
今見返せば当時はまだまだ下手だったなぁと思い、1年で上達するもんだなぁと思います。
もしかしたらまた手直しをして再度修正版を投稿するかもしれませんがまず無いでしょう。
ここまで読んでいただいた方。
駄文ながら楽しんでいただけたら幸いです。
また何処かでお会いしましょう。
それでは…