SS08 匠

世界最高精度の時計。その裏側。

「この時計は世界最高、一億年に一秒しか狂わない高精度の原子時計です」園田教授は特に”最高”の部分に力を込めた。
 報道陣に公開された研究室には、大きな球体に複数の金属パイプが突き刺さった時計の心臓部、発振子にあたる装置が設置され、そこから伸びたコードの先に接続された六桁のデジタル表示器が正確な秒を刻んでいる。
「真空の容器に閉じ込めた原子にレーザーを当てるんだそうですね」
「おっしゃる通りです」
 教授は球体の中心にセシュウム原子を浮かべ、そこへレーザー光線を照射する仕組みを簡単に説明した。
「原子が光を吸収する際のエネルギーレベルの変化を数えているんです」
「ところでその精度はどうやって検証しているんですか? それ以上の秤がないのに調べようがありませんよね? 理論上の数値ですか?」
「とんでもない」教授はすぐに否定した。「もちろんきちんと確認しています。匠に見て頂いて、お墨付きをもらっていますからね」
「ああ、三上師匠ですか。時間を正確に認識できる”時の匠”ですね。
 やっぱり最後は人の感覚がものを言うんですねぇ」

SS08 匠

SS08 匠

世界最高精度の時計。その裏側。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-04-09

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