677

前にアメブロで書いた小説です

死の旅路の終着点は何処だろうか?
転生なのか消滅なのか

我々日本人に、ごく自然に脳内に住み着いた思想「終わり」はこない
『終わり』など存在しないとの仏教のプロパガンダは成功し
東洋人にとって転生が正解にもっとも近い事になる
では死の旅路の始発点はどこか
それは死の瞬間に他ならない

左脇腹を押さえ苦痛に歪んだ顔を見るととても声などかけられない
それでも677は己の畏怖を取り除く為にその息も絶え絶えの老人に話しかけた
あの676さんとの声に676は精気の抜けた目を677に向けた
その眼は677を一瞬捉えすぐに下へ落とした
その後質問を幾つかぶつけてみたがそのどれにも反応することもなく
係りのものから番号を呼ばれ向こう側へ行ってしまった
死後気がつけば我々は光のないこの何もない暗闇の空間に人だけがいる
順番に番号を呼ばれ独りずつ消えてゆく
消えてゆくといっても実際に消えたかは知る術はなく
呼ばれたものが視界の届かない暗闇に吸い込まれていくだけだ
彼らにとってそこに何があるか調べたものもいなければ行けと嗾(けしか)けるものもいない
人には好奇心というものがある
それは生まれたときからデフォルトで装備されているものなのだが
それは自己が健全であって始めて発揮されるものであり
痛み苦痛に焼かれて死後ここへ釣れてこられたものにその余裕はない
健全なのは唯一677だけなのだ

上に気配がある
精気のようなものか
677の意識は上空へ向けられる
何者かがさも水中にいるかのようにゆっくりと上空から沈み込むように降りてくる

地面にたどり着いた678は過呼吸状態が続いていた。
窒息死したに違いない。と677は決めつけた。
結局そうなのである。誰とも意志の疎通がままならないので思うことでしか断定できないのだ
実際ここにきて事象として起こったことは677という番号が脳に響いた。呼ばれたと言うよりはぶっきらぼうに番号を投げつけられた。
上から次の死者が降りてきた。それだけなのだ

この事をよくよく吟味したところ、実験は成功したらしかった
うまいこと677は仮死状態のまま死者の世界へくることに成功したのだ。今のところは
実験が成功したというまでにはハードルはまだある。安心はできなかった

677とまたもや脳に響いた。いやな感覚だ。不快という類ではなく痛いという感触。痛点を刺激されているのか
気付くと体は闇に引き吊り込まれていた。
二つ目のハードルへ向かってゆく

引き吊り込まれた場所は先程までいた場所とは別のエリアなのか異次元なのかなにもつかめない
感覚神経が作用していない
さながらホワイトアウトで上下左右も重力も感じられない
ただそこに677がある。

しばらくそこにあったままだった意識に痛みが襲いかかった。目の前に少年時代の677が現在の677をぶった。「みーちゃんだめでしょ」そうしてまた手を振り上げると少年時代の677は母に頬をぶたれた。
視界はまた闇に飲み込まれ感覚器官もまたその役目を閉じる



目の前に車道がある。そこを横切るように走り出した少年時代の677を追いかける。
自分で体を動かしているわけではなく自動的に走り出して少年時代の677をかばい車にぶつかる。体は羽跳び地面を滑る。
677は思い出した。
この光景は確かに見覚えがあると。別の視点から眺めていた。なにを思ったか無数の走る車群へ飛び込んで轟音鳴り響く方を振り向けば母が息も絶え絶えに寝転がっていた。

どうやらこれは生前背負った罪の罰を受けているらしかった
これは実験の責任者である篠井教授の説明通りであり覚悟していた。が、母親の死は677の位置付けとして曖昧だった。自分では自分の罪だと認識していたが他人に指摘されると、口にこそ出さなかったがそれは運転手の罪だとの思いもあった。本当のところ、その中間を彷徨っているのだ。決して自分だけのせいではないと
だが、この死の審判者はそれを許さず677に罰を与えている。
『これでは話が違う。』
被験者の中で最も罪を持たない者と判断されたからこの実験に選ばれたのだ。無論その査定において多少の嘘もあったが
この場合、その多少の嘘が677に想定外の罰を与える可能性が出てきた。
後悔が顔を覗かせてきた時、次の痛みがおそってきた

精神は疲弊しきっていた。その最たる原因は高校時代に行ったいじめへの罰だ。いじめに参加しない人生だったはずの677の半生。唯一関わったことがあった。中立を許さない首謀者により課せられた諸行は朝と夕方の挨拶だった。おはようの代わりに死ね。さようならの代わりに死ね。
この罪の罰は恐ろしく気が遠くなるものだった
朝六時に呼びかけられる。顔を洗う。歯を磨く。学校の制服を着る。一時間満員電車に揺られる。クラスメート全員に死ねと挨拶される。殴られる。蹴られる。担任の教師と目が合う。無視される。殴られる。蹴られる。クラスメート全員に死ねと挨拶される。一時間電車に揺られる。味のしない食事をとる。お風呂に入る。寝る。寝れない。朝がくる。朝六時に呼びかけられる。この繰り返しだ。
実際睡眠は気絶に近い。常に脳内で自殺への問答が繰り返されていた。それがやんだ時には気絶しているのであろう
名前も覚えていないそいつは地獄のような人生を日々生きていた。
その日々を一年繰り返すと次の罰へ移った。それからの罰はこれに比べたら易いもので反省をすることもなく淡々とこなしていった。

昨日犯した罪
この罰を請け負えたと言うことは677の人生の清算はなされたということか
それ以降に何かしたかと自問自答しても心当たりがない事と罰と罰の間が等間隔であり
最後の罰からはその測りから見て少し時間がたっているような気がしたことが終わりを感じさせていた。

いよいよ本題である

果たして命とは
死とは

それを見る前に邪推をひとつ
677は何も差し出さずにここまできたのか?
それは「否」リスクはあった
一つの障害。
消滅という可能性だ。

人生は一度きり
この言葉は世界に蔓延している。が、宗教的観点からは逸脱。人生は繰り返される。
道徳的な観点からは「人生楽ありゃ苦もあるさ」その逆もしたり
人を蔑めば蔑まれるのが人生だと
そして障害者というものがこの思想に組み込まれた
人が本当に平等ならば生命すべてが健常なはずだ
事実は異なり腕がないもの足がないもの口が利けないものがいる
それでなくともあなた方にはどうしようもないものが存在していたはずだ
侍だったはずがある日毒味役をあてがわれたり
楽しい海外旅行の帰りバックを調べられ中から大麻が発見されたり
何の過失もなく人生を棒に振ることはままあることなのだ
そうして彼らがたどり着いた結論はこうだ

罪を犯せば罰がある・・・来世で

これがマユツバなのかは兎も角として
人生は一度きりというのは方便で
自らを奮い立たせるフレーズであり
それを口にした本人は来世があると信じている
何故なら幸福と罰とを天秤にかけて罰側にだけ傾いた被害者の人生をかわいそうだと思っているから
そう。根拠らしきものは何もない
ただ人とは救いがなければ生きていけないのだ
この思想は根拠はないが救いがある
そして人類とは楽なほうに流されることが嗜好の喜びとDNAに記載されている
彼らは煮詰まれば思考を停止し都合のいい思想に救われた

さてそれでは本当のところはという疑問
これには誰も解答できるものなどいないのであるが
篠井はそこに足を踏み入れた
がしかし何度も言うが消滅の危険性もある
が、篠井、677も人類である
そして人類とは楽なほうに流されることが嗜好の喜びとDNAに記載されている
彼らは煮詰まれば思考を停止し都合のいい思想に救われた

そして思い込んだ
消滅などないと

大罪。
それを決めるのは聴衆か、裁判官か、被害者か、容疑者か
少なくとも篠井はボタンを押せないのはその罪の意識からである
大業を成し遂げる自分と大罪を犯す自分
677を蘇生するためのボタンがここにある
だが押せない
押して手に入るのはその2つの自分だ
大業を成し遂げ拍手喝采のイメージは常にある。
大罪は宗教家達に神を冒涜する行為だとか言われるに違いないがそこに何の痛みもない
問題は死後だ

篠井には死後のイメージがる
いつごろからだろうか
実験を始めてしばらくしてから677に話した仮説とは別のイメージが出てくるようになった
論理だてた思考が篠井だったはずなのにイメージを優先するようになった
それこそ大罪というものもイメージであれば大業というものもイメージだ

イメージにおびえてスイッチを押せないとはいかがなものか
イメージの為に677の命まで犠牲にすることは出来ない
この自問自答はここ1年のもの
677の契約の書面にも際した半年後から1年だ
実質677がこの世から消えて1年半になる
周りから何を迷っているのかと叱責されたこともある
怖さなのだろう
長年連れ添った妻との他愛もない会話中意を決するのだ
明日こそスイッチを、と
勿論妻は篠井が話を聞いていないことを指摘して怒るのだが篠井は妻に不自然さを感じていた
それがなにか考察する間はない。677のことを考えなければならないからだ
そうして翌日にはスイッチを押すことをためらうのだ

今日こそは
との思いで677を見つめていた
勿論断念するわけだが

天秤に2つ載せる
ひとつは怖さ
篠井の得体の知れない、なんとなくとのイメージの怖さ
ひとつは命、死
677の命、命とは、死とは、の答え
どちらに傾いているか
篠井は何度も何度もイメージする
何度やっても命へ傾く

それでも押せないのは何故だろうか
やはり篠井のアイデンティティが変わってしまったのだろうか
これ以上モタモタしていられない。との思いもある
なぜなら研究員を減らしたくないからだ
これまで篠井の優柔不断さ故に優秀な研究員達が去っていった
スイッチを押すことで彼らが戻ってくることはないのかもしれないが
残った研究員が見切りをつけることには歯止めがかかるだろう
そうすれば次の研究で新たな成果をあげられるという目算があった
しかしこれはイメージでしかない。
実は研究前期に篠井自身が記したノートには研究を発表すれば逮捕されるだろうと直筆でかかれている
しかし今の篠井にはピンと来なかった。
イメージを逆走したもののためか響かなかった。

電子音
電話が鳴った
その音から内線電話だとわかる
篠井は嬉々として受話器を取る
スイッチを押さねばならないという圧迫感から解き放たれる瞬間である
電話は研究所の出入り口の守衛からだ
警察がきています。篠井先生に殺人容疑がどうとか

条件反射か
篠井の弱さか
それとも強さか
体が不自然な早さで動き出しスイッチを押した
これが身を守ると言うことか
677を仮死状態から蘇生させる透明な液体が点滴から体内へ流れ出した

篠井は恥じていた
迷ったあげく無様な行動を取った
正しいはずだ
やっとの思いで
不確定要素に突き動かされて

「まあいい」

再び受話器を取り上げ守衛に警察を通していいとだけ伝えて電話を切った


篠井は厚手の衣服を脱ぐ感覚を感じていた。
衣服というよりは着ぐるみか、重くどっしりとしたものに近しい感覚
背中から這い出るような
そんな脱ぎ方だ
脱皮なのか
脱げたな。
体と体が切り離されると脱ぎ捨てた体は崩れ落ちた
篠井は篠井を見ていた。

「これは俺じゃない
誰だ
あぁ篠井さんか
篠井さん?
今俺は篠井さんだったな
いつからだ
あの時か
俺は生まれ変わったのか」

魂の記憶が呼び起こされていく

篠井から抜け出した彼は床に沈み込んでいく
地球に飲み込まれていくのは現時点の記憶とすりあわせると二度目だ
これほどの矛盾と罰を彼は知らない

篠井はあの時死んだ
その抜け殻になった体に篠井を受け継いだ677が入った
些細なヒントはあった。
彼は篠井の妻に違和感を感じた
何百何千回と抱いてきたはずの女
篠井はセックスというものに特別の感情はない
得意でもなければ好きでもなかった
篠井が一度抱いた女に違和感を持つことはない
篠井という人間は経験したものに再度眼を向けることはないのだ
だから単純作業を繰り返す様にしたであろう

しかし彼は違った。
彼は女を抱けばビンゴカードの数字は開く
開いた数字が閉じることはない
がしかし彼のカードのその数字は閉じられていた
篠井の脳に刻み込まれた多くもない恋愛経験を思い起こしてみても
抱いたはずの女の数字は閉じられていた
征服者の勲章の数が減る事はないが減っていたという現実
事実、彼は妻を抱けないまま一年半を過ごした
677のことで頭がいっぱいだったからではないことは言うまでもない

押すべきではなかったと今の彼が理解する余白は残されているだろうか

妻に違和感を感じていたと言うよりも自分の感覚を信じきれなかったのだ
他人の記憶を自分のものと感じなかった
この神の創造した罠にかからなかった
答えは出なかった
嘘臭さと同居し
それを打破する考察も結論も行動もないまま
ただ闇雲に悩み続けた結果がこれだ
論理的な篠井が感覚的な彼に変化した
ここに重大なヒントが隠されていたが
辿り着けなかった
辿り着けるだけのヒントはこの二つしかなかった
彼を責める材料としても薄い
気づかずして当然
そして気づかぬからの二度目の死
これが意味するところは言うまでもなく神のシナリオが動き出す。
そのレール通りの道程をたどって

彼がそこで最後に見た光景
誰でもない新しい677と
誰でもない新しい篠井

篠井は捕まるかな
きっと俺は嘘を言うんだろう
偽者の俺が
嘘の研究結果を発表するのかな
そう思ったが考えるのをやめた

これがこの世の不完全さ
生まれ変わりでさえ平等に与えられはしない
昨日地獄にたたき落とした相手に今日生まれ変わる
これが神が創りたもうた崇高なる此の世界
これが神が創りたもうた平等なる我が世界

677

書き足しもせずにそのまま載せてしまいました
だいぶアナボコだらけの駄文です
はい、わかってはいるのです

677

死んだらどうなるのかの妄想?かな

  • 小説
  • 短編
  • ミステリー
  • SF
  • 成人向け
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2011-11-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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